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ツキミ⑤

ツキミ視点です。

 カルミアに引きずられた俺は会場内に設置された舞台の裏に連れてこられた。


「これから国王陛下がここでご挨拶されます……。

私も巫女として舞台上に立たなければいけないので、ツキミは舞台周辺の警戒をお願いします」


「わかったわかった……」


「くれぐれもサボらないようにお願いします。

もし昼寝でもしようものならお説教です」


「ぐっ! わかってるよ……」

 

 カルミアの説教という言葉に思わず冷や汗を流してしまった。

ガキの説教に何をビビってるんだ?と思うだろうが……こいつの説教は怖いというよりもしんどい。

くどくどと長ったらしい説教を正座で3時間も聞かされるんだぜ?

そりゃ、冷や汗も流したくなるだろ?

しかも途中で居眠りをしたり、姿勢を崩そうものなら……説教時間が延長される。

普段のトレーニングや勉学のつらさなんて比較にもならない。

そしていつからか……俺はカルミアの説教を本能的に恐れるようになってしまっていた。

なんとも情けない話だ……。


「それじゃあ行きましょうか……」


「はい、お姉さま……」


 俺に釘を刺した後、カルミアは妹と一緒に舞台へと上がっていった。

えっ? カルミアに妹なんていたのかって?

そういえば言ってなかったな……。

実はカルミアには3つほど歳が離れた妹がいる。

巫女としてはまだ未熟らしく……屋敷から離れた所で親から厳しい修行を受けているとか……。

カルミアの元に来てそれなりに立つが……俺自身、顔を何度か合わせただけで会話すらしたことがない。

まあ、妹のことはどうでもいいか……。

俺は嫌々ながらも、愛用している弓矢を装備して周辺の警戒を始めた……。

まあ警戒と言っても、あちこち歩きまわるわけじゃなく……舞台のすぐそばでただ突っ立っているだけ……。

何もせずただ立つだけなんて……ただの拷問だ。


-------------------------------------


「このような素晴らしい日に、我が城へ足を運んでいただき感謝する」


 舞台の上で国王の長ったらしいあいさつが始まった。

国王の横には巫女であるカルミアと妹……そして勇者であるアブーが立っている。

アブーはさっきのことをまだ根に持っているのか……時折、横目で俺を睨んでくる。

あいつも舞台上でずっと突っ立っているのに……よく睨める余裕があるな……さすが勇者。

少し離れた所であいさつを聞いているナズもなんか言いたげに俺をチラチラ見てくる。

だがさすがに国王のあいさつ中だからか……俺に直接突っかかってくるようなことは2人もしなかった。

最低限の常識はあったんだな……意外だ。

貴族達も黙ったまま直立不動で国王のあいさつを聞いている……あんなの聞いて何が楽しいんだか……。


-------------------------------------


 国王のあいさつが始まって10分……。


「ふわぁぁぁ……」


 俺はすでに限界を迎え始めていた……。

まぶたが重い……あぁ、ダメだ、眠いしダルい。

こっそりここを抜け出して、昼寝するか……。

周りには騎士が大勢いるし……性格はあれだが、勇者であるアブーもいる。

そもそも国王がいる城で何かをやらかすバカはいないだろう……。

俺1人抜けるくらい……どうなることでもないだろう……。

俺がいる場所はカルミアが立っている場所からは死角になっている。

黙っていればバレやしない……。


「よし……そうと決まれば……?」


 その場から離れようとしたその時……貴族の人込みの中にいる異様な男が俺の視界に映った。

一見すると、高級そうな衣装に身を包んだ上品な貴族のように見えるが……1つだけ気になることがあった。

その貴族は右手をズボンのポケットに突っ込んでいたんだ。

一般的に言えば、ちょっとしたマナー違反だが……幼少期から徹底的にマナーを叩きこまれた貴族がそんなことするか?

マシて今は、国王のあいさつ中……あんなのもし国王が見たら、怒られるどころか下手をすれば家が没落してしまう。

どういうつもりだ?


 サッ!


 気になってしばらく様子を見ていると、不意に男がポケットから手を出した。

その手には……手に収まるほど小さな拳銃が握られている。

見た目は可愛らしいほど小さいが……人1人を殺すには十分な威力を秘めている。

その銃口は国王へと向けられ、その目には明らかな殺意が宿っている。

このまま引き金を引かれたら……国王が撃たれる。

それに銃を握っている手がブルブルと震えている所を見るに、暗殺に長けた野郎ではなさそうだ。

でもあれじゃあ、国王の隣にいるカルミナに当たる可能性だってある。

周囲にいる騎士は職務怠慢って奴か……国王が銃を向けられているということに気付いていない。

また……舞台上にいる国王自身やカルミナ達も気付いていない。

人混みに紛れているとはいえ……誰か1人くらい気付け!


「!!!」


 男の指が引き金を引こうとしたその瞬間!!


ザシュ!!


「がぁぁぁ!!」


 俺は本能的に弓で奴の右手を射抜いた。

まさか日頃のダルいトレーニングで積んだ経験がこんな場面で役立つとは……。


 バンッ!


 男が国王に放とうとした弾丸は射抜いた時の衝撃で銃口が上を向いたことで天井にブチ込まれた。


「なっなんだ!?」


「銃声!?」


 会場内に響き渡る銃声によって周囲はざわめき……。


「貴様! 何をしている!?」


「ちくしょう!!」


 暗殺者の存在にようやく気付き、騎士団達が男を取り囲む。

暗殺者は逃げようと奮闘するが……ケガを負っていることもあって思ったよりあっけなく捕まり、連行されていった。

まあなんにしても前代未聞な国王暗殺事件は未遂に終わったみたいだ……。


-------------------------------------


「よって……ここに感謝の意を込め、表彰する」


 後日……俺は城に呼ばれ、表彰式と題して国王に礼を言われた。


「はぁ……どうも……」


 俺は軽く頭を下げ、学校の卒業式の要領で賞状を受け取った。


 パチパチ……。


 周囲からはお偉いさん方から拍手喝采の嵐……。

悪い気はしないが……城まで来た労力に見合っているかと言われるとそうでもない。

騎士からすれば、国王から感謝されるなんて光栄なことではあるが……俺からすれば、うまい飯や酒をおごってくれる方が嬉しいというのが本音だ。

まあこんなこと言えば、カルミアからまた説教を喰らうことになるから黙っていることにした……。


-------------------------------------


 ……と、ここで終われば良いものを……俺にさらなる厄介ごとが舞い込んできた。


「はぁ!? 武闘大会!?」


「そうです……」


 暗殺未遂事件からしばらく経ったある日……カルミアから俺が勇者を決める大会……武闘大会に出場することを言い渡された。

武闘大会はその名の通り……武を競う大会で、年に1度開かれる神聖な大会。

誰でも参加できる訳じゃなく……国王のような上に立つ人間が認めた騎士でないと参加することすらできない。

優勝した者は勇者と戦う権利を得られ、勇者に勝利した者は次なる勇者となる。

アブーの奴は4年もの間……勇者の座を誰にも明け渡していない。

性格は最悪だが……シンプルな強さはあるってことだ……。


「なんで俺が!?」


「国王様から直々に推薦状が届いたんです。

国王暗殺なんて前代未聞な事件を防いだあなたを見込んでのことで……」


「冗談じゃねぇ! なんで俺がそんなメンドくせぇ大会に出ないといけないんだ!!」


 かつてはナズを守るために目指していた勇者の称号ではあるが……何もなくなった今の俺にはどうでもいいもの……。


「何を言っておる! 大会に参加すること自体……騎士にとっては大変名誉なことなんだぞ!

まして国王陛下自らの推薦を……面倒とは何事だ!?」


 カルミアの隣でひげが何か騒いでいるが無視だ無視。


「俺はトレーニングも勉学も欠かさずやっているし、お前から言われた雑用もこなしてやっているだろう?

その上、こんな武闘大会に出ろだなんて……さすがにいい加減にしろよ!」


 今までカルミアから無理難題を押し付けられ……そのたびに嫌々ながらも黙って従っていた……。

望んだ訳ではないが……死刑を撤回させてくれた恩もあるからな……。

だがさすがの俺でも限度というものがある……。


「俺は大会になんて出る気はない! 優勝にも勇者の称号にも興味はない!」


 今まで溜まっていた不満と共に、俺はカルミアに全力で拒否した。

無論、説教も覚悟の上だ……。

これ以上、このガキのわがままに付き合ってやれるか!!


「……出て頂けませんか?」


「断る……」


「貴様……カルミア様に向かって……」


 ひげは無視……。


「どうしても……出て頂けませんか?」


「どうしてもだ……」


「どうすれば……出てくださいますか?」


「……」


 妙だな……。

いつもならすぐ説教に入るのに……今日はなんというか……しめやかな感じだ。

やけにしつこく……よほど俺を大会に参加させてたいように見える。


「なんでそこまで俺を参加させたいんだ?」


「……」


 俺の問いかけに、少し考えこんだ後……カルミアは口を開いた。


「あなたに……勇者になってほしいんです」


「はぁ?」


 カルミアの意外な回答に俺は思わず口をあんぐりしてしまう。


「なんで俺に……」


「勇者アブーの素行の悪さは……ご存じですよね?」


「まあ……」


 素行が悪い……なんて可愛いものじゃないがな。

アブーの野郎に泣かされた連中は俺を含めてごまんといる。

勇者の称号にビビって誰1人、声を上げたりはしないがな……。

まあ声を上げたところで国がもみ消すだけだが……。


「彼は勇者の称号を盾にして……これまで多くの犯罪を犯してきました。

強姦……殺人……傷害……彼によって多くの被害者が何もできずに泣き寝入りしてきました……。

私の……友人も……」


「友人だと?」


「はい……彼女はここの使用人でしたが……私にとってたった1人の親友でした……。

ですが3年前……結婚間近に彼女は……アブーに強姦され、殺されました。

彼女の婚約者とその友人達が犯行現場を目撃したのですが……うやむやにされて無罪になりました……」


「だろうな……」


「私も何度かアブーを問い詰めたのですが……結局無駄に終わりました。

その上……彼は勇者の肩書きにあぐらをかいて今もなお犯罪行為を犯している……。

彼が勇者である限り……裁くことも咎めることもできないんです」


「だから俺に勇者になって奴を引きずりおろせってのか?

簡単に言ってくれるぜ……」


「簡単じゃないことはわかっています……だけど、あなたならアブーを倒せると信じられます」


「信じられても困る……!

もしかして……俺の死刑を撤回したのもアブーを引きずり下ろすためか?」


 カルミアが見ず知らずの俺を救い上げた理由がずっと引っかかっていた。

その理由が知りたいというのも、俺が嫌々ながらこのガキに仕えてやっている理由の1つだ。


「否定はできません……だけど、それだけが理由ではありません」


「じゃあなんだよ?」


「……」


 だんまりか……。

何度か理由を尋ねたことはあるが……そのたびにこれだよ。

じゃあいっそ……。


「わかった……大会に参加してやってもいい。

だけどその代わり……その理由とやらと教えろ。

それが条件だ……」


「……わかりました」


 特に期待はしていなかったが……カルミアは俺の条件を飲んだ。


「そうか……なら参加してやる。

だがあまり期待するなよ?

優勝どころか、1回戦負け……なんてことになっても文句は言うなよ?」


「はい……ですが、全力を尽くしてください」


「へいへい……」


 こうして俺は武闘大会への参加を決意するのであった。

次話はアブー視点です。

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