ツキミ④
ツキミ視点です。
長くなったので区切ります。
カルミアに言われるがまま……俺は刑務所から外へ出た。
俺の死刑は免除され……執行猶予がついた。
普通の感性の持ち主なら両手を上げて喜ぶだろうが……俺は何も感じなかった。
あと騎士団も当然、クビにされていた……。
こんな騒動を起こしたから……ってのもあるんだろうけど、死刑にされる新米野郎なんて切られて当たり前か……。
まあだからといって……俺には後悔も未練もないがな……。
”何もしたくない”
それが俺自身に残った願望だった。
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カルミアに連れ出された俺は、そのまま彼女が住んでいる屋敷に招かれた。
さすが国王クラスの権力者ということもあって……屋敷は馬鹿に広い。
軽く50人は住めるな……。
屋敷の中は高そうな骨董品を並べて、高級感が極まっているが……屋敷自体は年季が入っていて少し古臭い。
ラジオだの洗濯機だの……一般家庭にもあるような家電が全く見当たらない。
電話はあるみたいだが……かなり古いタイプだ……。
まあここに住んでいる連中はカルミアを含めて伝統を重んじている奴らばかりだからな……。
「ではさっそく騎士としての務めを果たしていただきます!……と言いたいところですが、あなたには騎士ととしての実力も経験も圧倒的に不足しています。
元騎士とはいえ……刑務所に服役していた間のブランクもあります。
なので……しばらくの間、修行する期間を設けます」
居間に通された俺は、さっそくカルミアからダルい命令を下された。
「修行って……なんで俺がそんなメンド臭いことしないといけないんだ?」
「今のあなたでは、カルミアの騎士どころか一兵卒にすら劣るからです」
「別にそんなことしなくたって……俺がダメになればまた適当に補充すればいい話だろ? 騎士なんて腐るほどいるんだからよ……」
「私はあなたをカルミアの騎士に選んだんです! あなた以外の人なんて今は考えていません。
だからこそ……あなたには死んでほしくないです!
そのためには……あなたに死なない程度の実力を身に着けてほしいんです」
「そもそもカルミアなんてそんなに危うい立場にいるのか?」
「用心に越したことはありません」
巫女というのは金銭面的に言えば、絶好のカモだ。
その辺の金持ち貴族なんて相手にならないほどの大金持ちだからな……。
だが巫女が守っている国宝は人間を死に至らしめると言われている鏡……。
鏡の周囲で悪事を働いた人間は必ず地獄に堕ちる……なんてくだらない迷信が通るくらい鏡の力を信じている人間が多い……。
事実……巫女の周辺で事件が起きたなんて話は聞いたことがない。
そんな平穏が約束されているようなカルミアの安全を守る騎士……言い換えれば、税金を貪っているだけの自堕落な政治家だな……。
搾取される側からすれば溜まったものじゃないが……搾取する側からすればこれ以上の贅沢はない。
あわよくば何もせずにダラダラ過ごせると思っていた俺だったが……口うるさいカルミアがいる以上、その希望は捨てたほうがよさそうだ。
「だぁぁぁぁ!! わかった……わかったよ!!」
やるやらないの水掛け論をこれ以上続ける気力がなくなった俺は白旗をあげた。
こんな年下のガキ相手になさけねぇこと極まりない。
そもそも俺の身柄はカルミアが預かっている……そんな俺に、選択肢なんてものはなかったのかもしれない……。
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それから俺の望んでもいない新たな生活が始まった。
俺は屋敷にある客室を自室として借り、仕事中以外はそこでくつろいでいる。
特段豪華な造りとはいかないが……かつて俺が住んでいた寮の部屋とはケタ違いに良い。
腕や足を思い切り伸ばしても壁にぶつからない……布団も何の毛かは知らないが……ふわふわで寝心地が良くなる。
3食付きだが食費と給料は別に分けられている。
服にはこだわりがないが、最低限のものが支給されている。
ここまでなら両の手を挙げて喜ぶこともできたが……。
「ほれっ! 腹筋あと3000回! それからランニングに素振り! やることは山ほどあるぞ!」
カルミアと一緒に俺の元へ来たあのひげがコーチを気取り、俺にスパルタなんて表現ではぬるいほどのトレーニングを強要してきやがった。
トレーニングと言っても、体を鍛えるばかりではなく……基礎的な学力までひげに叩き込まれる。
毎日毎日……ダルいトレーニングばかりで嫌になる……。
あとカルミアが外出するたびに、俺が付きそう派目になるのも地味につらい。
護衛なんて名ばかりで、実際はただの荷物持ちと相違ない。
そもそもカルミアに付き添っている人間は常に3人はいる。
わざわざ俺が付きそう必要性が俺には理解できない。
面倒なトレーニングにダルい護衛……。
それらに嫌気がさして何度かさぼって部屋にこもることもあったが……。
『ツキミさん!!』
口やかましいカルミアがそのたびに俺を執拗に部屋から引きずり出そうとする。
これじゃあ引きこもりの息子と息子を更生させようとする母親だな。
はっきり言って意味がわからない。
死刑を棄却させた恩を返そうとせず、ダダをこねて引き込もる騎士なんてさっさとクビにして追い出せばいい。
だけどカルミアは俺がどれだけトレーニングや仕事を嫌がっても、決して追い出そうとはしなかった。
何度も何度も……俺が折れるまで俺を説得し続けた。
なんでそこまで俺に固執するのか尋ねても……彼女は”今の俺”には言えないとしか返してくれなかった。
どれだけ仕事を放棄しようとしても……俺を見放そうとしないカルミアに折れていくうち……俺はいつの間にか
カルミアから与えられる仕事を拒まなくなった。
別にやりがいが出た訳じゃない……。
もう何を言っても無駄だから諦めただけだ……。
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カルミアに引き取られてから数年が過ぎた……。
生活には慣れたが……相変わらずトレーニングはダルいし……カルミアの付き添いもしんどい。
まあそれだけならなんとか踏ん張ることができたけど……。
「屋根の修繕!?」
「はい。 友人が孤児院を経営しているのですが……何分古い建物が古いので、雨漏りがひどいそうです」
「そんなの大工に頼めばいいだろ!」
「そうしたいのは山々ですが……この前の台風であちこちの住居に深刻な被害が出てしまって……建築関係の業者たちはみんな町の方へ出ていて……小さな孤児院にまで手が回らないそうです」
「だからって……」
「子供達のためです! 私も協力しますから!」
「……」
この時は結局……カルミアの圧に押し負け、俺は半日かけて孤児院の屋根を直してやった。
まあ直したとは言っても……板切れを片っ端から釘で打ち付けただけだがな……。
だからこれで屋根が壊れても俺は責任は取らん!
そもそも素人に屋根の修繕を頼む奴が悪い!
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ほかにも屋敷の掃除……はたまた近所の家のねずみ退治……さりとて町のゴミ拾い……。
もはや騎士というよりも便利屋のような雑用に、さすがの俺もイラ立つ気持ちを抑えられなかった。
そもそも俺が引き受けたのは巫女の護衛と日々のトレーニング……あと勉強だけだ。
こんな雑用まで引き受けた覚えはない!……そう抗議したところで……。
『騎士は人を助ける義務があります! 全ては世のため人のためです!』
なんて絵空事のような言葉で蹴られるだけ……。
俺は渋々、彼女の命令を聞くしかない我が人生を……何度嘆いたことか……。
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そしてとうとう……俺にとって最悪の面倒が降りかかってきた。
それは建国記念日……要するに国が生まれた日……。
記念日を祝おうと……上流階級の嫌味ったらしい貴族共が国王の住む城に招かれた。
無論、鏡の巫女であるカルミアも……勇者のアブーも……城に招かれていた。
カルミアの騎士である俺も言うまでもなく彼女の護衛としてついてきた。
屋敷からはすげぇ遠いし、周りはお偉いさんばかりだから礼儀も徹底しないといけないからめちゃくちゃめんどくせぇが、城にはめったに食えないご馳走や高級な酒にありつけるので、今回ばかりはそう悲観することもない……と自分に言い聞かせている。
「やっと飯にありつける……」
俺は貴族と話し込んでいるカルミアを放置し、1人でこっそりご馳走と酒が並んでいるテーブルを占領し、片っ端から口の中に放り込み始めた。
本来であれば、護衛として彼女のそばにいなくてはいけないが……女の長話なんぞに付き合ってられるほど、俺の心は広くない。
「おやおや……こんなところで何をしているんだ? 犯罪者君」
ようやくありつけることができたご馳走と酒を楽しんでいると……背後からものすごく聞き覚えのある声がした。
「……」
振り返ると……そこにいたのは想像通り、アブーだった。
その隣にはきらびやかな衣装に身を包んだナズがアブーと腕を組んでいる。
「へぇ~……死刑を免れて巫女の騎士になったって聞いたけど……随分と落ちぶれたわね」
「全くだな……お前みたいな救いようのないゴミに巫女の騎士なんて肩書きは似つかわしくねぇんだよ!
身の程をわきまえろ!」
「……」
俺の気持ちを利用し……俺をいいように利用したあげく、冤罪をふっかけた幼馴染……。
勇者の肩書きで俺を半殺しにし、挙句に死刑を求刑しやがったアブー……。
俺を不幸のどん底に沈ませやがったバカップルが目の前にいる。
大抵の人間は怒りや憎しみが湧いて、煽り文句の1つでも浴びせるかもしれないが……俺はなんの感情も湧いてこない。
強いてあげるなら……”こんな奴らいたなぁ”ってところだ。
「何か用か?」
「はぁ? 勇者が声を掛けるのに用なんてくだらねぇもんいるのかよ?」
つまりは用もなく話しかけたってことか……。
暇なんだなこいつら……。
むしゃむしゃ……。
俺はテーブルに向き直し、食事と飲酒を再開した。
「おっおい! 何してやがる!!」
「なにって……飯食って酒飲んでる」
「そんなこと聞いてねぇ!! 勇者であるこの俺に背を向けるなんて……どういう神経してやがる!!」
俺が背を向けたことに対して、アブーは人目も気にせず声を荒げる。
どうしてプライドの高い権力者って言うのは背中を見るとすぐにキレるんだ? 全く……。
ざわざわ……。
周囲は何事かと俺達に視線を向けるが……俺は構わず食事を続ける。
「朝から何も食べてねぇんだよ、こっちは! 用がねぇならわざわざ話かけて来るな」
「てってめぇ……誰に向かって口を効いてやがる!!」
「そうよ、ツキミ! 訂正して謝罪しなさい!!」
「かぁぁぁ! このワインうめぇ!」
俺はアホ共の話など全く聞く耳もたず、冷えたワインでアルコールに飢えた喉を潤す。
「ふっふざけるなぁぁぁ!!」
俺の態度にアブーはキレたようで、背後から俺に殴りかかろうとしてきた。
直接目で見なくても、あの怒声だけで何をする気かはすぐ察することができる。
かつての俺だったら恐怖で震えあがっただろうが……今はどういう訳か平常心が全く乱れない。
ヒョイ!
アブーの拳が当たる寸前……俺は左に軽くジャンプし、回避することにした。
そのまま反撃することもできたが……また前みたいに冤罪を吹っ掛けられるのもシャクなのでそれはやめておいた。
「どごぉ!!」
ガチャーン!
「あ~あ……俺の飯が……」
アブーは俺が回避した後も、その勢いを止めることができず……そのままテーブルの上に倒れた。
テーブルはひっくり返り……上に載っていたご馳走や酒が床に散乱してしまった。
飲みかけのワインだけは手で持っていたので事なき終えたが……。
それ以外は無残な姿に……。
「アブー!」
ナズは倒れたアブーに寄り添い……俺は次に食べようとしていたステーキに寄り添った。
皿がひっくり返っていて、床に落ちてしまっているが……ギリ、食えないこともないのか?
「きっ貴様ぁ……」
「きゃっ!」
飛び散った飯や酒を体中に浴びて、なんとも不格好な姿になったアブー……。
あまりの怒りに差し伸べられたナズの手を払い……腰にある剣にまで手を掛けやがった……。
「おいおい……気高き勇者様が私情で剣を抜く気か? やめとけよ」
「黙れっ! 俺にこんな恥を晒させやがって……」
「お前が1人で勝手に転んだだけだろ? つーか、目の前で飯と酒を台無しにされた俺のメンタルの方がダメージでかいんですけど?」
「うるせぇ! どこまでもふざけた野郎だ!! ぶっ殺してやる!!」
傷心している俺の態度がよほど気に入らなかったのか……アブーはとうとう剣を抜き、剣先を俺に向けてきた。
ざわざわ……。
アブーの乱心に周囲がさらにざわめくも、奴を止めようとする人間は1人もいない。
この場を守る騎士達すら口も出さない……。
まあ相手が勇者じゃ無理もないとは思うが……それでいいのか?
「死にやがれ!!」
色々考えている内にアブーが剣を振り上げる……。
このまま振り下ろされたらさすがにケガでは済まない……。
俺はまた回避行動に出ようと足に力を入れた……その時!!
「やめないか!!」
制止を呼び掛ける大きな声が会場内に響き渡った……。
その声の主……それは……。
「こっ国王陛下……」
この国の最高権力者……国王だった。
まあこの国を祝う会なんだからいない訳がないがな……。
「勇者アブー……これはなんの騒ぎだ?」
「いえこれは、その……」
さすがのアブーも国王が相手では高圧的な態度に出ることはできないらしく……すぐに剣を鞘に納め、借りてきた猫のように大人しくその場で膝をついた。
「このような祝いの場で……まして我が城で剣を抜くとは何事だ!?」
「もっ申し訳ありません! ですがこの男が勇者であるこの私に無礼を働いたんです!」
「ほう……どのような無礼だ? 勇者ともあろう人間がこれほどの騒ぎを起こしたのだ……よほどのことだろうな?」
「えっと……そう! この男が私をいきなり殴りつけてきたのです!」
アブーは冷や汗をかきながら絞り出すような声で偽証を述べた。
背を向けるという行為自体は褒められるような行為ではないかもしれない……。
だけどそれが、剣を抜くという行為に繋がるかと言えば……極めて難しいだろう。
いやむしろ……それくらいのことで剣を抜くなんて短気すぎると王から非難される可能性が高い。
「そこの騎士よ……これは事実かね?」
「いえ、違います。 勇者様が俺を殴ろうしたから俺は避けただけです。
無礼うんぬんはともかく……」
「てってめぇ、嘘つくな! 国王陛下! 奴の言っていることは全部嘘です!」
「ならば君たち……勇者の言葉は事実かね?」
国王が周りにいた貴族達にそう尋ねると……。
「いっいえ……彼は勇者様に背を向けて厚かましい言葉遣いで話をしてはいましたが……」
「はい……その態度に勇者様がお怒りになり……彼を殴ろうとしたら……彼が避けて、勇者様が転倒してしまって……」
「それでさらにお怒りが増した勇者様が剣を抜いた……というのが事実でございます」
貴族達は事のあらましを嘘偽りなく国王に証言した。
そりゃまあ……国王に偽証などすれば冗談では済まされない……。
ましてや、ここにいるのは国王に名を売るために集まった腹黒い貴族ばかり……。
国王の信頼を損ねるような真似などする訳がない。
「おっお前ら……ふざけるな!! 底辺貴族の分際で……勇者であるこの俺に歯向かうのか!?」
話を合わせようとしない貴族達にアブーが怒りを露わにした。
相手が国王でなければみんな勇者に加担しただろうが……こればかりはいくらアブーでもどうしようもない。
しかも動揺のためか……国王の前で周囲に圧を掛けやがった。
「その物言いだと……どうやら彼らの証言が事実であるようだな」
アブーが周囲に掛けた圧が……結果的に奴の偽証を証明する決定打となった。
「あの……」
「この私に偽りを述べ……さらに汚らしい言葉で周囲を威嚇するとは……。
これでは勇者ではなく……脳のない獣だな」
「うぐっ!」
ストレートな王の非難に、さすがのアブーも言葉を失ったみたいだ。
「勇者よ……何か申し開きはあるか?」
「もっ申し訳ありません……」
公衆の面前で深く頭を下げるアブー……。
プルプルと体を震わせている様子から……奴のプライドがどれだけ傷ついているかが伺える。
隣にいるナズは、アブーを庇う訳でも共に頭を下げるでもなく……ただバツが悪そうな顔で突っ立っているだけ……。
なんとも薄情な奴だ……。
まあ俺の知ったことじゃないがな……。
「今回のことは目をつぶろう……。
だが、自分が勇者であることをよく自覚するように……」
「はっはい……」
クスクス……。
王に深々と頭を下げる勇者に、周囲の貴族達は冷淡な笑みを浮かべている。
普段からやりたい放題しているアブーだからな……貴族達にも何か恨まられるようなことをしていたんだろう……。
まあ俺のもこの光景を見てざまぁと思わないと言えば嘘になる……。
だがそれよりも俺の関心は……散っていった飯と酒……。
悲しいが……ほかのテーブルへ漁りに行くとするか……。
「何をしているんですか?」
「げぇ!」
なんて思っていると……いつの間にか般若のような顔をしたカルミアに肩を掴まれた。
「こんなところで何をさぼっているんですか?」
「いや俺は……」
「ほら! これから国王様のあいさつが始まりますから、私のガードお願いします!」
「そんなのその辺の騎士に任せておけば……っておい!」
問答無用と言わんばかりに、俺はカルミアに腕を掴まれて強引に引きずられた。
次もツキミ視点です。




