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ナズ⑤

ナズ視点です。

これで彼女の視点は終わりにしたいと思います。


「つまらねぇギャグを披露したいなら、他を当たってくれ」


 興味がないと言わんばかりに私に背を向けるツキミに、私は慌てて言葉を続ける。


「ちょっちょっと待ってよ! さっきから何よギャグって!!

私とようやく再会できたって言うのに……なんなのその態度!?」


「うるせぇなぁ……俺は早く帰って寝たいんだよ。

こんなところでお前と話す気はねぇ。 ふわぁぁぁ……」


 こっこいつ……何をわざとらしくあくびなんてして……。


「何よそれ!? それが愛しい女に向かって言う言葉!?」


「愛しい女……誰の事だ?」


「私に決まっているでしょう!? あんた……私に告白してくれたじゃない!! 私のことが好きだから付き合ってって!!」


「告白って……何年前の話してんだよ。 っていうか……お前アブーと付き合っているからって断っただろ?」


「そっそれでも女を愛し続けるのが男でしょう!?

ツキミなら……ずっと私を愛してくれるって……信じていたのに……」


「あのさ……結局お前は何が言いたいんだ? こっちは眠くてたまらないんだ……さっさと用件を言えよ、回りくどい」


 一瞬振り返ってくれたのは嬉しかったけど……その目は少し吊り上がっていた。

わかりやすいくらいイラついているわね……。

私よりも家のベッドの方が恋しい訳?……ふざけんなっ!と言いたいところだけど、このままだと本当に行ってしまう……。


「わっわかった……じゃあ単刀直入に言うわ。

ツキミ……私と結婚しましょう?」


「……」


「さっき言ったでしょう?

本当の愛を思い出したって……。

私……ずっとアブーに騙されていたの。

あんな奴、ツキミとは比べ物にならないゴミだって……そう気づいたの。

私が愛すべき人は……ツキミあなただって、やっとわかったの!

だからお願い……巫女様とは離婚して、私と新しい人生を歩きましょう?」


 フフフ……この私がここまで言ってあげたんだもの……。

ツキミならこの気持ちを受け取って……。


「はぁぁぁ……」


 なっ何?

ツキミの奴……やっと振り向きなおしたかと思ったらか深い溜息なんてついて……。


「アブーといい……お前といい……いつまでも過去にしがみつきやがって……いい加減、こっちが病みそうになる」


「は? 何を言って……」


「未練なんて残されたくねぇから、はっきり言うが……俺はお前には微塵も興味はねぇし、結婚する気も一切ねぇ」


「なっ何を言ってるの!? あんた私が好きなんでしょう?

あの日の夜だって、アブーから私を取り返そうとしてたじゃない!!」


「もうその話は飽きた……」


 あっ飽きたって……何よそれ。

私達の大切な思い出を……。


「そもそも俺は結婚なんぞに興味はねぇ」


「はぁ!? 興味ないって……現に巫女様と結婚してるじゃない!!」


「あれはなんというか……ノリと勢いっていうか……まあそんなロマンのあるものじゃない」


 何がロマンよ……。

どうせ若い女を妻にしたいっていう……男の浅ましい下心でしょう?

汚らわしい!!

たしか……カルミア様はまだ20歳かそこらだったはず……。

いくらツキミが若く見えるからって……38歳が20歳の子と結婚するなんて……完璧に犯罪じゃない!!

勇者だからって……なんでこんな結婚を世間は祝福してる訳!?

どいつもこいつも……頭がイカれてんじゃないの!?


「じゃっじゃあ巫女様と離婚しなくてもいいから……せめて私を第二婦人にしてよ!!」


 キモいロリコン親父に成り下がったとはいえ……ツキミが勇者であることに違いはない。

勇者は一般人と違って重婚が認められている。

正妻が無理そうなら……せめて第二婦人になれれば……それなりの人生は保証されるはず!!


「悪いがそういうの募集してねぇんだよ……嫁なんて1人でたくさんだ」


「何よそれ……そっそんなの不公平じゃない!! 巫女様は良くて……私はダメなの!?

大切な初恋の女よりも……若いだけが取り柄の女の方が魅力的って訳?

信じられないわ……このケダモノ!!」


「なんとでも言え。 とにかく俺はお前と結婚はしない……」


「じゃあせめて私にお金を寄こしなさいよ! 勇者なんだから金なんて腐るほどあるでしょう!?」


「悪いがお前に渡す金はねぇ……話は終わりだ」


 はぁ?

何勝手に話を終わらせようとしてるのよ……。

私が絶望の淵に立たされているというのに……ヘラヘラして私と目を合わせようともしない……。

ツキミのあまりの身勝手さに……私は怒りを抑えることができず、公衆の面前であることも忘れて声を荒げた。


「っざけんなよ! このクズ勇者! 何が終わりだだよ!!

一体誰のせいで……私がこんな惨めな人生送ってると思ってんの!?」


「誰のって……誰のせいだ?」


 こっこの男……悪びれる様子も見せずにとぼけた!?


「何言ってんの……あんたのせいでしょ!?

私はねぇ……あんたに幸せだった人生をブチ壊されたのよ!!」


「俺もお前の偽証で、死刑喰らって人生詰みかけたんだけどな」


「はぁ? あんた、あんな下らないこと根に持ってるの!? 女々しいにもほどがあるわよ!」


「……」


「あんたが武闘大会でアブーに勝ったりしなかれば……私は何も知らずにただ幸せに暮らすことができた!

あんたがあの夜、私を奪い返してくれていれば……私の気持ちはアブーにブレたりしなかった!

あんたが私を満足させられる男だったら……もっと早く勇者になってくれていれば……こんなことになってなかった!!

何もかも……あんたのせいよ!!」


「……」


「私の人生を台無しにしておいて……女を人生のどん底に沈めておいて……なんでそんな平然とした顔をしてられるの?

あんたには罪悪感ってものは感じないの!?……”人間らしい心”ってものがないの!?」


「お前にそんなことを言われるとは……俺も随分落ちぶれたもんだな」


 私がこれだけ必死に訴えかけても……ツキミは皮肉めいた言葉で私を嘲笑うだけ……。


「っざけんじゃないわよ!!

誰があんたのみすぼらしい童貞をもらってあげたと思ってるの!?

この私の体を堪能させてあげたんだから……恩くらい返しなさいよ!!」


「俺だってアブーからお前の身を守るために頑張ったんだがな……」


「男が女を守るなんて当たり前でしょうが!! 恩着せがましいこと言ってないで、私を助けなさいよ!!」


 物乞いのようにツキミの胸倉を掴んで声を荒げる自分がひどく惨めに思えた……。

でもそれ以上に……こんな可哀想な私に優しさや同情の欠片も見せないツキミの態度がこの上なく腹立たしく思えた。


「何を言われようと俺にはどうすることもできねぇよ。

こんなところで喚き散らす暇があるなら、次の寄生先でも探しに行けよ」


 よくもそんな……自分が愛した女に向かって……そんなことを……。


「それと悪いことは言わねぇから、そろそろ手を放した方がいい」


「はぁ? 何言って……」


「貴様っ! 勇者様に何をしている!?」


 突然後ろから声がしたかと思った途端……私は屈強な体の騎士に羽交い絞めにされてツキミから強制的に引きはがされた。


「はっ放せ!!」


 振りほどこうともがき続けるが……鍛錬を積んだ騎士に力で敵う訳がない……。

 私は成すすべなく、そのまま騎士に連行されるしかなかった。


「……」


 無理やり連行されていく私を見ても顔色1つ変えないツキミを見て……私はようやく理解した。

そうか……こいつもアブーと同じ……女を虫けらのようにしか思っていない救いようのないクズなのね。

だからこんなに頼んでも助けてくれないんだ……だから簡単に女を裏切れるんだ……。

全く……ツキミといいアブーといい……どうしてこんなロクでなし共が勇者を名乗れるのよ。

こんなのおかしい……絶対におかしい!!


-------------------------------------


 私は勇者への暴行という罪状で騎士団の本部に連行されてしまったが……不起訴処分ということですぐに釈放された。


「勇者ツキミ様の寛大なお心に感謝しろ!」


 釈放された際、騎士に吐き捨てられたその言葉にイラっとした。

何が寛大な心よ……。

私の人生をめちゃくちゃにした挙句、助けてもくれない下衆のくせに……。

いや……今はそんな悪態をついている場合じゃない。

ツキミが私を裏切った以上……もうあいつに取り繕っても無駄。

だからと言って……今更汗水流して働くなんて惨めなことはしたくない。

となれば……私を幸せにしてくれる新たな男を探すしかない……。

絶対に私の人生を終わらせるもんか!!


「大丈夫……私にはこの美貌があるもの。

ちょっと色目を使えば男なんて簡単に堕ちるわ」


 自分自身の美を信じ……私は再び歩き出した。


-------------------------------------


 4年の月日が流れた……。

金が尽きた私は街はずれの汚らしい娼館で、金と引き換えに男達の性を絞る毎日を送るハメになった。

こんなゴミの掃きだめみたいな所で働きたくはないけれど……働いたことのない私が金を得るにはこれしかなかった……。

せめて貴族達が集まる高級店に勤めたかったけれど……私を一目見ただけで門前払いされ、相手にされなかった。

私の美貌を理解できないなんて……目が腐っているとしか思えない。

あちこち回っていく内に今の店に落ち着いたが……この店もロクな店じゃない。


『ちょっと年齢があれだけど……まぁウチも人手不足だし、仕方ないか……』


 面接の際にオーナーの口から漏れ出た妥協としか取れない言葉……。

かつての私なら秒でブチギレていただろうけど……私にはもうそんな余裕すら残っていなかった。


「ナズちゃ~ん。 今日も来たよ~」


 店に来る男はどいつもこいつも貧乏な底辺男ばかりで……おまけにブサイク。

アブーの隣にいた頃なら口も効かなかっただろう類の男達に体を差し出すのは本当に屈辱だった……。


 ”死んだ方がマシ”


 そんな言葉が何度も頭を過ぎった。

でもね?……私だって何も考えていなかった訳じゃない。

店で稼いだお金で金持ち男が集まるパーティーに参加し、養ってくれる男を探し続ける努力は怠らなかった。

だけど……。


『すみませんが……他の方とお話したいので……』


 声を掛けるたび……男達はありきたりな定型文で私との会話を拒否し続け、吸い寄せられるように私よりも若い小娘達の元へと駆け寄っていく……。

私の方がはるかに美しいのに……ただ若いだけの女がそんなに良いの?

どうして男という生き物はこんなに馬鹿ばかりなの?

男そのものに絶望はしていたが……だからと言って諦めたら……私は一生こんな惨めな生活を送ることになる。

それだけは絶対に嫌!

私は絶対に……返り咲いてやる!!

そんな強い思いだけを糧に……私は私を幸せにしてくれる男を探し続けた……。


-------------------------------------


「少し……よろしいですか?」


 諦めずにパーティーに参加し続けた結果……ようやく1人の金持ちが私に声を掛けてきた。

男は父と同じくらいの爺さんで、しかもデブでブサイクという最悪な容姿……。

それでも服装や身に着けているアクセサリーから金は持っていることだけは伺える。


「はっはい! 喜んで!」


 でもせっかく引き当てたカモだ……。

絶対に逃がすまいと、私は猫を被って極力彼のご機嫌を取った。

嫌々は勤めている娼館で身につけたスキルがこんなに役立つなんて……皮肉な物ね。

男は思った通りかなりの金持ちみたいだけど……既婚者で小さな孫までいるらしい……。

まあそんなことはどうでもいい……。

別にこんな男と添い遂げたいなんて思っていないし……金さえあればなんでもいいわ。


-------------------------------------


「ナズ……君は僕が出会った中で最高の女性だ」


「フフフ……当然よ」


 努力の甲斐あって……私と男の仲は深まっていき、今では屋敷に招かれるまでに発展した。

アブーの屋敷に比べたら物置きレベルだけど……まあ良いわ。

お小遣いもくれるしね……。


「妻よりも先に君と出会いたかったよ……」


「私も……もっと早くあなたに会いたかったわ」


 私は爺さんとソファで寄り添い、これでもかと体を触らせてやった。

年寄りのくせに……獣のように私の体を貪るあの光景は、思い出すだけで吐きそうになる。


「そろそろ君の体を味わいたいな……」


「えぇ……いいわよ? たっぷり満足させてあげるわ」


 こんな爺さんの相手なんて正直嫌だけど……この地獄から抜け出せるのならいくらでも相手してあげるわ。


「じゃあ私……先にシャワーを浴びて来るわね」


「そろそろ一緒に浴びる気はないかな?」


「フフフ……そのうちね」


 なんて軽く受け流しているが……こんな爺さんとベッドの上どころかシャワーまで一緒なんて冗談じゃない!

これから苦行に耐えてあげるんだから……これくらいのひと時は許されるべきよ。


-------------------------------------


「出たわよ……」


「誰っ!? あなたは!?」


 気分よくシャワーを浴びて寝室に戻った私の視界に映ったのは……ヒステリックそうな婆さんの姿……。


「だっ誰?」


「あなたこそ誰なの!? まさか……あなた! この女と浮気してたの!?」


 荒々しい声で婆さんが問い掛けたのは、私のカモである爺さん……。

わずか数秒のこの流れで……私は理解した。

この婆さん……爺さんの嫁のようね。

この鉢合わせは完全に誤算だったけど……別に良いわ。

爺さんは私の体にすっかり骨抜きになっている……。

このまま離婚という形になっても……慰謝料は爺さんが支払ってくれるはず。

つまり……私にはなんのダメージもないということ……。

いえむしろ……妻の座を私が奪えるチャンス!!

どうせもう長くない爺さんなんだから……遺産とかももらえたりして……。

現場での修羅場とは裏腹に……私はそんな可能性をあれこれと考えていた……が。


「ちっ違う!! こんな女は知らない!!

僕が愛しているのは君だけだ!!

浮気なんてする訳がないだろう!?」


「はっ?」


 ちょっと待って……この爺さん、何を言っているの?


「なっ何を言っているの? 私達……愛し合った仲でしょう? 

どうしてそんな……」


「黙れっ! 僕には愛する家族がいるんだ!

家族を裏切るような真似はしない!

そっそうか……わかったぞ!

お前は泥棒だな!?」


「はぁ!? 何を訳の分からないことを……」


「うるさいっ! そこを動くな、泥棒め!」


 私から庇うように婆さんを背中に隠し、爺さんはそばにあった引き出しから銃を取り出して、私に銃口を向けてきた。


「こいつは僕が見張っているから……君は騎士団に連絡してくれ!」


「あなた……本当にあの女とは関係ないの?」


「当たり前じゃないか……長年連れ添った妻を裏切るわけがないだろう?

僕が信用できないのかい?」


「……わかったわ。 あなたを信じる」


 婆さんはそう言って寝室を飛び出していった……。

きっと騎士団に通報する気だ。


「あんた……どういうつもりなの!?」


「仕方ないだろう? 僕は家族を誰よりも愛する清廉潔白な当主で通っているんだ……その僕が年甲斐もなく女を屋敷に招き入れて不貞を犯したなんて、知られる訳にはいかないんだよ」


「なっ何よそれ……私と何度も寝たのは事実でしょう!?」


「そんな証拠がどこにある? 僕達が不倫関係だったと……証明できるのかい?」


「そっそれは……」


 結論から言うと……証拠なんてない。

爺さんと会うのは決まってホテルか屋敷だったし……2人で撮った写真とかもない。

贈り物なんてお金以外にない……。


「僕との関係を証明できず、僕が君の存在を否定した以上……君は不法侵入者でしかないんだよ」


「ふっふざけんなっ!! なんで私が……」


「君は僕を愛しているんだろう? ベッドの上で何度も僕に愛を囁いてくれたじゃないか……」


 それがなんだよ!?


「だったら愛する僕の名誉を守ってくるよね? 犠牲になってくれるよね?」


「はぁ!?  あんたのことなんてただの金づるとしか思っていないわよ!!

いい年して愛とか寒い事言わないでくれる!? 気持ち悪い!!」


「おやおや……僕は君の愛を信じていたのに……ひどいなぁ……」


 ひどいって……どの口が言ってんのよ!!

自分の立場を守るために人に濡れ衣着せようとしているあんたが一番最低じゃない!!

今すぐにでも爺を殺してこの場を去りたいけれど……銃を向けらている以上……私には自由がない。


「人に冤罪をふっかけて……罪悪感とかないの!?」


「そうだねぇ……君を失うのはつらいが……まあ金に釣られる女は星の数ほどいる。

またゆっくりと新しい女を探させてもらうさ」


「ひっ卑怯者!」


「心外だねぇ……これまでたくさんお小遣いをあげて、良い思いをしてきたんだろう?

そんな恩人を卑怯者呼ばわりするなんて……君こそ心は痛まないのかな?」


「こっこの爺!! とっととくたばれ!!」


「おぉ……怖い怖い。 まあ何を言っても……君はこのまま騎士団に逮捕されるしかない。

世間だって……立場のある僕の言葉に耳を傾けてくれるだろうしね」


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 成すすべないこの状況で私ができることは……空しく叫ぶことだけだった……。


-------------------------------------


 その後……私は不法侵入の現行犯で騎士団に逮捕され、後日裁判が開かれた。

被害者面した爺の証言はどれもこれもデタラメばかり……。

人に平然と無実の罪を着せるなんて……同じ人間とは思えないわ。

私は必死に事実を訴えたけど……誰1人といて私の言葉を信じてくれなかった……。

不貞の証拠がないというのもあるけれど……。


『あの女ってたしか……アブーの元カノだろ?』


『アブーって、あのクズ勇者の?』


『あぁ……アブーの女だけあって、あいつも色々アブーから甘い汁を吸っていたらしいぜ?』


『聞いた聞いた……違法薬物とか裏カジノとか……結構ヤバいことに手を出してたって……』


『その挙句に泥棒か……つくづく救えねぇな』


 アブーと付き合っていたと言うだけで……世間では私に関するいわれのない噂が飛び交っていた……。

もちろん私はアブーのように犯罪に手を染めてなんていない……今回同様、全部言いがかりだ。

なのにみんな……私を悪女だと罵る。

どうして……どうして誰も信じてくれないの?

私がこんなにつらい目に合っているというのに……父もツキミも傍聴にすら来ない

どいつもこいつも……どこまで心が腐っているの?


※※※


「主文……被告人を有罪とする」


『やったぁぁぁ!!』


『ざまぁぁぁ!!』


「……」


 裁判長から言い渡された判決に、傍聴席では歓喜の声が轟き……私は言葉を失った。

どうして……あり得ない……私は犯罪なんて一切犯していないのに……こんな不当な判決……認められない……認められて……たまるかぁ!!


-------------------------------------


 有罪判決を受けた私は数年もの間、刑務所に入ることになった。

刑期を終えて外に出たとしても……じじいに慰謝料を支払わないといけない。

あれから何度も無実を訴え続けたけど……私の有罪判決は覆ることはなかった。

しかも……不幸はそれだけに留まらない。


「うぷっ!」


 服役してから間もなく、私は……新たな命を身ごもってしまっていた。時期を考えて、客の誰かという可能性も捨てきれないけど……おそらくあのじじいの子供だろう。

じじいだから妊娠することはないとたかを括って、非妊を適当なのが裏目に出たのかもしれない...…。

さっさと堕ろしたいけれど……刑務官にバレてしまって、出産するしかなくなった。

今が服役中ということ……金銭面のこと……何より育てる気が微塵もないことから……出産後は子供は施設に預けられた。

まあ子供なんてどうでもいい。


「なんで……なんで私がこんな目に合わないといけないの?」


 牢屋の中でもう何度自分自身に問い掛けたことか……。


「私が一体……何をしたって言うの?」


 その答えも浮かんでこない。

当然よ……私は私が幸せになろうと頑張っていただけで、何1つ悪くないんだから……。

悪いのはあいつらよ……。

私を力と権力で束縛したクズ勇者アブー……貧乏で惨めな人生を強いたくせに私を助けようともしなかった父とすら呼ぶのもおぞましい男……下さない名誉のために私に冤罪をふっかけたクソじじい……。

そして……そして……私を裏切って見捨てたツキミ!

どうして男という生き物はどいつこいつも身勝手で最低なの?

男がそんなだから……いつの時代も女が泣くハメになるのよ!


「許さない……」


 アブーは多くの罪を犯したくせに脱獄して行方知れず……クソじじいは家族団らんなんて適当な嘘ついてまた女を騙し続ける……ツキミは若い巫女と幸せな結婚生活を過ごす……。


 私を不幸にした男達……そのほとんどがのうのうと生きている。

こんな理不尽なことがあって良いの!?

いや……良いわけがない!!

冷たい牢獄に入れられるべきなのは……罰を受けるべきなのは……あいつらだ!!

私じゃない!!

勧善懲悪こそ……この世の理でしょう!?


「地獄に堕ちろ……地獄に堕ちろ……」


 獄中で私は窓から見える空に向かって……祈りを捧げるようになっていた。

いつか神が私を哀れんで……あいつらに神罰を下すと信じて……。


「みんなみんな……地獄に……堕ちろぉぉぉ!!」

次話はアブー視点です。

もうすでに詰んでいるので、さっさと終わらせたいと思います。

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