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ナズ③

ナズ視点です。

ちょっと区切ります。

 ツキミに死刑判決が下されてからそれなりの年月が流れた……。

私とアブーはあれから愛を育む毎日を過ごしている。

暴力や束縛は相変わらずきついがそれは愛情表現の裏返し……。

私のことを一途に愛しているからこそ……不器用な彼なりに愛してくれているんだ。

えっ? ツキミに罪悪感はないのかって?……アハハハ! そんなの欠片もないわ!

なんたって……あいつは私のことを愛しているんだから。

彼にも言ったけど……男が愛する女のために死ぬなんてこの上ない名誉なことよ?

私からすれば、男としての死に場所を与えてあげたことに感謝してほしいくらいよ。

フフフ……美しいって罪よね~。


-------------------------------------


 ある日……私はアブーと共に城で開かれた建国記念パーティーに参加していた。

このパーティーには選ばれた人間しか参加することが許されず……周囲には名のある上流貴族達がきらびやかな服やドレスに身を包んでいる……。

まあ誰よりも美しく輝いているのは私とアブーだけどね……。

テーブルに並べられている料理はどれも一流シェフが作ったものだし、お酒も高級なものばかり……。

フフフ……これこそ私にふさわしい場というものね……。


※※※


 だけど……そんな高貴なパーティーに明らかな異物が混じっていた。


「おやおや……こんなところで何をしているんだ? 犯罪者君」


 私とアブーの目の前にいるのは……あのツキミだった。

これは数ヶ月前に偶然町で耳にしたんだけれど……ツキミは現在、巫女の騎士として鏡の巫女に仕えているらしい。

死刑囚だったツキミがどうして巫女の騎士なんて大層なものになったのかはわからない……まあ勇者と比べたらカス同然だけどね。


「……」


 久しぶりに会ったツキミは随分と様変わりしていた。

かつては真面目だけが取り柄で、服装も堅苦しいものばかりだった……。

でも今、目の前にいるツキミからは生気と言うか……活気というか……人としてのオーラを全く感じない。

パーティー会場にいるというのに……彼の服装は日常で着ているようなかなりラフなもの……。

それにコネやパイプを作ろうと、周囲が挨拶回りに勤しんでいる中……ツキミは獣のように飲み食いしているだけ……。


「へぇ~……死刑を免れて巫女の騎士になったって聞いたけど……随分と落ちぶれたわね」


 あまりの落ちぶれ気味に私は憐れみの言葉を掛けてあげた。

私を失ったことがつらいのは理解できるが……それでもこの変わりようは惨めすぎるわね。

さあ、愛する私が声を掛けてあげたのよ?

歓喜に満ち溢れて涙を流しても良いわよ?

あぁそれとも、私とアブーの仲に嫉妬して悲しむのかしら?

さあどんな反応を……。


「何か用か?」


 開口一番にツキミが発した言葉はたったこれだけだった。

は?……この私が声を掛けてやったというのに……何よそれ……。

いやそれよりも……あの”興味ない”と言わんばかりの目は何?

あんたは私が好きなんでしょう?


「はぁ? 勇者が声を掛けるのに用なんてくだらねぇもんいるのかよ?」


 アブーがそう返すと……ツキミは私達に背を向けて飲み食いを再開し始めた。

マナーも何もあったものじゃない……。

これでは騎士というよりも、腹をすかせた野良犬ね。


「ふっふざけるなぁぁぁ!!」


 その態度にブチギレたアブーが襲い掛かって行った。

当然ね……勇者に背中を向けるなんて、侮辱以外の何物でもない。

私はツキミが殺されると思った……が。


「どごぉ!!」


 ガチャーン!


 信じられないことに……アブーは軽くあしなわれてしまった……。

ツキミは背を向けたままこちらに目も向けなかったのに……アブーの動きが読めたってこと?

いえ、そんなはずはない。

偶然に決まっている!


「きっ貴様ぁ……」


 アブーは怒りのまま剣を抜いたが……国王によってすぐにいさめられた。

さすがのアブーでも国王には逆らえない。

公衆の面前で醜態をさらすハメになったアブーは顔がひどく歪んでいた……。

その顔は私も殴られる際によく見るけど、今の歪みは今まで見たこともないくらいすさまじいものだった。

普通……ここまで彼を怒らせてしまったら、相手はまず生きていられない。

だけど、ツキミのバックには鏡の巫女がいる。

勇者と同等の権力者である巫女が後ろにいれば、アブーと言えど……簡単に手を出すことはできない。

権力を盾にしていい気になって……女々しい男ね。


※※※


 結局、その場は国王の顔を立てる形で収められた。

アブーはもちろんのこと……彼の隣にいる私も大恥をかいてしまった……。

ツキミの奴……この私に恥をかかせるなんて……きっと私への逆恨みね、どこまでも救えない奴。


※※※


 それから間もなく国王の挨拶が始まったんだけど……そこで国王暗殺事件という予期せぬ出来事が起きた。

暗殺と言っても、それは未遂に終わっている。

しかも暗殺を阻止したのは、あのツキミだった。


-------------------------------------


 パーティーでの一件以降……ツキミは国王だけでなく世間からも、暗殺を未然に防いだその功績を称えられた。

あんなの偶然に決まっているのに……どいつもこいつも下らない話で盛り上がって……実に愚かね。

しかも国王はツキミを武闘大会に推薦する始末……いくらなんでも過大評価しすぎよ。

まああんな奴……1回戦で敗北するのがオチでしょうけど……。


-------------------------------------


「よし……これでばっちりね」


 パーティーから2ヶ月が過ぎたある日……私はお気に入りの洋服店に出かけるべく仕度を済ませていた。

アブーに足を運ぶことを許されている数少ない場所……久しぶりに買い物を楽しむわよ!


「ナズ……」


 意気揚々と外に出ると……家の前に両親が待ち伏せていた。

直接、顔を合わせるのはかなり久しぶりだけど……はっきり言ってなんの感情も湧かない。


「なっなんなの? いきなり……」


「話があるの……」


「今度にしてくれる? 私これから出かけるの」


 両親を横目に足を進めるも……。


「待ちなさい」


 母がいきなり私の腕を掴んできた。


「なにすんの!? 離してよ!」


「ナズ! アブーは救いようのないクズよ!」


「はぁ? いきなり何言ってんの? 私のアブーをクズ呼ばわりしないでくれる?」


「よく聞いて、アブーはあなたの命を盾にして、私達を脅迫してきたの」


「脅迫?」

 

 母が言うには……。

アブーはツキミと関係を持った私を浮気者として殺すと両親を脅し……助けたければ母に体を明け渡すように要求してきたと言う……。

2人は私の命を救うため、これまでアブーの言いなりになっていたらしい。

母は父の目の前でアブーに何度も体を心を汚され……父も犬の真似や女の子の前で下半身を露出させる等、人としての尊厳を徹底的に壊されたという。

そして挙げ句に、母はアブーの子供を身ごもったとか……。


「お前の命を守ろうとずっと耐えてきたが……もう僕も母さんも限界だ。

でもだからと言って、アブーには逆らうことはできない」


「だからナズ……お母さん達とこの国を出ましょう……。

国外なら、さすがのアブーでも簡単には見つけることはできないはずよ」


「……」


「友人のツテでアテもある……また1からのやり直しになるが……家族3人で力を合わせればきっと大丈夫だ」


「……」


「行きましょう、ナズ。 いつまでもあの男の元にいては、あなたはいずれ破滅してしまうわ」


「……はぁぁぁ」


 私は思わずため息をつきつつ、母の腕を振り払った。


「なっナズ?」


「長々と何を話すかと思ったら……そんなデタラメ話で私とアブーの仲を引き裂こうって言う訳? 浅ましい……」


「でっデタラメって……」


「デタラメじゃないって証拠でもあるの?」


「しょっ証拠はないけれど……あなたはアブーに暴力を振るわれているんでしょう?

あの男が私を犯しながら自慢げに話していたわ……。

さっき腕を掴んだ時見えたけど……うっすらとアザが見えたわよ?」


「それはアブーの愛情表現よ。 彼、少し不器用なところがあるから……」


「なっ何を言っているんだ!? 暴力は暴力だろう?」


「まあ2人には一生わからないことでしょうね……。

そもそもアブーは私のことだけを愛してくれているのよ?

そのアブーが、よりによってお母さんみたいな年増女……相手にする訳がないでしょう?

まして妊娠なんて……嘘も大概にしてくれる?」


「ナズ……」


「あぁ……そういうことね。

私を守るとか言っておいて、実は私のアブーを寝取ろうって魂胆なんでしょう?」


「なっ何を言っているの!?」」


「いくらアブーが最高の男だからって……娘の男を寝取ろうとか母親以前に人として終わってない?」


 とはいえ無理もない話とも思っている。

アブーと比べたら……横にいる貧乏人なんてカス以下。

目移りするのは必然としか言いようがない……だからと言って


「なっナズ! お母さんになんてことを言って……」


「あんたこそ……自分の妻がほかの男の物になろうとしているのに、黙って見てるとかどういう神経してる訳?

あっ! もしかして……寝取られ趣味って奴?

アハハハ!

貧乏でカスだとは思っていたけど……性癖まで腐ってるとはね!

ドン引き過ぎて逆に尊敬するわ!」


「ナズ! いい加減にしなさい!

お母さん達の言葉がそんなに信じられないの? そんなにアブーの方が大切なの?」


「わかりきったこと聞かないでくれる?

第一……いつまでも親だって偉そうにしないでくれる?」


「なっ何を言っているんだ? 僕達はナズの親だろう?」


「親?……笑わせないでよ。

私はね?

勇者アブーの妻になる女……ファーストレディよ?

この国で誰よりも高貴な女になるの……。

そんな私の親が、こんな小汚い貧乏人だなんて……私の名誉が傷つくわ」


「ナズ……本気で言っているの?」


「本気に決まっているでしょう?

はっきり言うけどね……もう私の親だなんて名乗らないでくれる?

こんなのが私の親だなんて知られたら、世間の良い笑いものよ」


「ナズ……いくらなんでもそれは言い過ぎだろ!

僕達が今までどれほどの愛情を持って育ててきたと思っているんだ!?」


「育ててきたとか……頼んでないし、恩着せがましいわよ。

大体、貧乏人からの愛とか……寒気がするからやめてくれる?」


「ナズ……あなた……」


「あぁ……はいはい……」


 チャリン……。


 私は財布から金貨を数枚取り出して地面に落としてやった。


「これまでの養育費よ。

アブーのことは諦めてもらうけど、これくらいは返してあげるわ。

これでも少し多めに出してあげたんだから、感謝してよね」


「……」


「……」


「これを持ってさっさと消えてくれる?

そして2度と私の前に現れないで。

私の人生に……あんた達のようなゴミは必要ないから」


 それだけ言うと、私はさっさと店に足を向けて歩き出した。

納得したのか……2人はあれ以上何も言わなかった。

あんなはした金で満足するなんて……貧乏人は幸せねぇ……。


「さあてと……今日はどんな服を買おうかなぁ……」


 もうあんなゴミクズ共のことなんてどうでもいいわ……。

今の私にとって……大切なのはアブーだけ……。

彼がいれば……私の人生は完璧よ。


次話は一旦ツキミ視点を挟んだ後、ナズ視点に戻ります。

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