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ツキミ⑥

ツキミ視点です。

武闘大会の話は1話で終わらせたかったのですが、ちょっと長引きそうなので区切ります。



「ほれほれ! こんなことでは武闘大会で勝ち進むことはできぬぞ!! もっと腕を動かして走らんかい!!」 


 武闘大会への参加が決まってからというもの、定期的に受けさせられているひげのトレーニングはさらにつらくなった。

もともと鬼のようなトレーニング内容だったが……今では殺意すら感じるレベルだ……。

正直、こんなしんどいだけのトレーニングなんぞバックれてやりたいが……。


「ツキミ! あと少しです! 頑張ってください!」


 鬼よりも質の悪いカルミアが応援と称して常に俺を見張っているせいでそれもできない……。

カルミアが俺を拾った訳を知るためとはいえ……早くも大会参加への決意が揺らみ始めていた……。


 ※※※


「ほれっ! もう1本!!」


「うぐぅ……」


 訓練なんてクソだるいが……最もしんどいのは剣術……。

武闘大会では木製の剣のみ使用が許されている。

剣は勇者の象徴だからな……。

だが俺が普段使用する武器は弓矢……剣なんて触ったことすらほとんどない。

なぜ弓矢なのかというと……シンプルに動かなくていいから。

剣はいちいち相手に近づいて振り回さないといけないが、弓矢は遠くから相手を射抜くことができるから楽だ……。

最近は飛び道具に銃火器を使用する連中も増えてきているが……俺はあの手の機械とは相性が悪い。

それでも俺なり頑張ってはみたものの……やはり剣はどうも趣味に合わない。

どんなに訓練を重ねても……俺の剣はチンピラの振り回す鉄パイプと相違ない。

護身用にと独学で学んだ格闘術を組み合わせることでどうにか様になったと思うが……これでどこまで通用することやら……。


-------------------------------------


 そんなこんなで不安が残るまま……武闘大会当日が訪れた。

俺はカルミアと共に大会が開かれるコロシアムへと向かった。


「ツキミ……とうとうこの日が来ましたね……」


「まあな……」


「まあなって……なんですか? その覇気のない返事は……。

もっとシャキッとしてください!」


「わかったわかった……。

結果はどうあれ、精一杯やってやる」


「それならいいです。 では私は観客席で応援していますから……。

頑張って下さい」


「へいへい……」


-------------------------------------


 カルミアと別れた俺は運営委員会に控え室へ案内された。

そこには屈強な男達が試合前のウォーミングアップに励んでいている……。

あまりのむさ苦しさにすげぇ息が詰まりそうだ……。


「ふわぁぁぁ……よくやるよ……」


 俺はウォーミングアップなんてしんどいことはせず、出番が来るまでベンチに横たわってひと眠りすることにした。


『なんだ? あの野郎……試合前に居眠りなんてしやがって……』


『随分余裕かましてるじゃねぇか……武闘大会を舐めてんのか?』


 俺の態度が気に入らないのか……周囲の騎士から批判の声が上がっていた。

試合前に何をしようが自由なはずだってのに……理不尽だな……。


-------------------------------------


「騎士ツキミ……そろそろ準備をお願いします」


 そしてしばらく時間が経った後……運営が控室に俺を呼びに来た。

しんどいがやるしかない……。


-------------------------------------


『おぉぉぉぉ!!』


 石造りのリングに足を踏み入れた瞬間……観客席から耳を塞ぎたくなるほどの声が轟いた。

試合前に審判がルールについて説明してくれたが……。

要は気絶するか降参すれば負け……。

2勝したら決勝に進め、決勝に勝てば勇者と試合する権利が与えられる。

説明文だけなら、シンプルで簡単そうに聞こえるかもしれないが……対戦相手は訓練を積んだ猛者ばかり……。

とにかく優勝するのは簡単じゃねぇってことだ……。


「試合開始!!」


 騒々しい中で試合開始の合図が出た。

対戦相手は真面目そうな若い兄ちゃん……。

繰り出す剣術は教科書にでも出てくるような見本的な動作が目立つ。


「よっと!」


「がはっ!!」


 動作がきれいな分……動きも読みやすい。

俺は回避行動を維持しつつ、相手の背後に回って後頭部を剣でどついてやった。

兄ちゃんはそのまま意識を失って倒れちまった……。


「勝者……ツキミ!!」


「……」


 思ったよりもあっけない勝利だった。

まあ楽できるからいいけど……。


-------------------------------------


 それから2試合目……。

対戦相手は金髪のチャラ付いた男……。


「オラオラオラ!!」


 一見、乱暴に振り回しているだけに見えるが……的確に急所を狙ってくる。

まあ動きは遅いから別にどうということもない……。

だが一方で、俺の剣も紙一重で回避されるか受け止められている……。


「!!!」


「ごばっ!!」


 だが剣にばかり目がいっているせいで、俺の右ストレートは回避しきれなかったみたいだ……。

ちなみに殴ってはいけないというルールはないので、俺のこの行動は問題にはならなかった……。


「勝者……ツキミぃぃぃ!!!」

 

 どうにか2回戦も勝つことができ、なんだかんだと決勝まで進むことができた。


-------------------------------------


「くくく……軽くひねってやるよ、チビ」


 決勝戦……俺と向かい合う対戦相手は2メートルはあるデカブツ……。

筋肉隆々で持っている剣も丸太のよう太くてでかい。

もはや剣というよりこん棒だな……。


「決勝戦……開始!!」


「ぬうぉぉぉぉ!!」


 審判の合図と共に、デカブツは剣を俺に向けて振り下ろしてきた……。

初撃は回避できたが……デカブツはすかず俺目掛けて剣を振り下ろしてくる。

乱暴に振り回す所は2回戦の金髪と同じだが……こいつの場合は自分の馬鹿力にモノを言わせた完全なる当てずっぽうだ。

もちろんこんな筋肉馬鹿に真っ向から勝負するようなしんどい真似はしない……。


「ふんっ!!」


「どわっ!!」


 俺は素早くデカブツの懐に飛び込み……お留守な奴の足を蹴りで払ってやった。

巨体な分……足元がふらつけばバランスを崩しやすい。

案の定、デカブツはあおむけに転倒し……脳震とうを起こしてそのまま意識を失ってしまった……。


「勝者……ツキミ! 優勝は……ツキミぃぃぃ!!」


『おぉぉぉ!!』


 決勝で勝利を収め……俺は勇者アブーへの挑戦権を獲得した。

我ながらよくここまで来れたもんだな……しかも苦手な剣術で……。


-------------------------------------


 アブーとの試合は明日ということになり……俺はひとまず控室のシャワーで汗を流した。


「また会ったな……負け犬君?」」


 控室から出た途端……アブーの奴が待ち伏せてやがった。

ストーカーかなんかかよ、こいつ……。


「お前か……。 なんだ? おめでとうでも言いに来たのか?」


「はぁ? ふざけんな!! あんな雑魚共に勝ったくらいで調子に乗ってんじゃねぇよ!!

俺にナズを寝取られた無様な負け犬のくせによぉ!!」


 またその話か……。

挑発しているつもりだろうが……レパートリーが少なすぎるだろう……。

ナズのことなんて、もういい加減に聞き飽きた。


「いつの話をしてるんだか……」


 俺はオウム返しを繰り返すアホのことなんぞ無視して奴に背を向ける。


「てっテメェ……また俺に背を……ふざけやがって……」


 無視無視……相手にするだけ時間の無駄だ。


「言っとくがな!

武闘大会では対戦相手を死なせてしまっても、不幸な事故として処理されるんだぜ?

特にお前みたいなゴミカスなんぞ、一瞬で終わるだろうよ!!」


 要は試合に乗じて俺を殺してやるってことか……回りくどい言い方しやがって……。


「ご忠告どうも……」


 俺はそれ以上、奴と言葉を交わすことなく……さっさと立ち去ってやった。

ただでさえ試合後で疲れてるのに……意味のない言い合いなんぞに付き合ってられるか!


-------------------------------------


「だっ誰がこんなことを!」


 翌朝……控室に入ると、運営委員会のスタッフが青い顔で驚愕していた。


「どうした?」


「あっ! ツキミさん……これを見てください」


 スタッフがそう言って指したのは開きっぱなしのロッカー。

そこには試合で使用する木製の剣が数本仕舞われていたんだが……どういう訳か、剣は全て粉々に砕かれていて、残ったのは木の残骸だけだった……。


「どうしたんだ? これ……」


「わかりません……控室に入ったら、すでにこのザマで……。

ロッカーにも控室にも鍵はしっかりと掛かっていたはずなのに……」


「これ以外に予備はないのか?」


「何本か用意していたのですが……それも全て壊されていました……」


「それじゃあ、試合はお互い素手でやり合うハメになるのか?」


「いっいえ……勇者様が使用される剣だけはその……なぜか無事でした……」


「……」


 ここまでの情報だけで、誰の仕業か見当がつく。

というか……紛れもなくアブーの仕業だ。

厳重なコロシアム内でこんな真似ができる人間なんてそうはいないし……俺が丸腰になることで真っ先に得をするのはアブーだ。

実力うんぬんはともかく……武器を持った人間と丸腰の人間とでは明らかに前者の方が有利だ。

目の前のスタッフもなんとなく犯人を察しているようで……少し歯切れが悪い。

まあ本人に問いただすなんてことはさすがに無理だろうけどな……。


「ツキミさん……大変酷なことを申しますが、今回の試合は辞退された方が……」


「……」


 試合にはコロシアムで用意された剣以外の使用は認められていない。

そしてその剣が全てダメになってしまった以上……俺は丸腰で試合に挑まないといけなくなる。

無謀……とまでは言わないが、さすがにちょっときつい……。


「……?」


 どうしたものかと考えをあぐねていると……俺は剣の残骸の中に大きめのスプーンくらいの木片を見つけた。

多分、剣の柄の部分だと思う……。


「こいつでいいか……」


「……?」


 木片を拾い上げると……スタッフが不思議そうな目で首をかしげる。


「あっあの……そんなもの拾ってどうする気ですか?」


「これで試合に出る」


「なっ何を言っているんですか!? そんな木片で勇者に挑むなんて無茶です!!」


「仕方ないだろ? これしか使えるものがねぇんだから……」


「でっですが……」


「じゃあ試合があるんで……」


「あっ! 待ってください!」


 俺はスタッフの制止を無視して控室を出た。

まあこんなもんでも丸腰よりはマシだ……。

これでどうにかやり切るしかないな……。

次話もツキミ視点です。

次から勇者アブーが徐々に転落していきます。

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