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アブー③

アブー視点です。


「ご機嫌よう、カルミア様……いつ見てもお美しいですな」


「アブー様……ご機嫌よう。 相変わらず口がお上手ですね」


 選ばれた人間しか参加することを許されないこのパーティー会場に、ツキミのようなゴミがいることが理解できない俺はナズを連れて……カルミアにあいさつするついでに奴のことを聞くことにした。


「ところでカルミア様……先ほどまでそばにいた男は誰でしょうか?」


「男?……ツキミのことでしょうか? 彼は巫女の騎士として私を守ってくれているんです」


 巫女の騎士だと!?

それは名の通り……巫女を守る騎士のことだ。

勇者ほどではないが……名誉ある称号ではある。

その称号をあのゴミが?……なんかの冗談だろ?


「ハハハ! カルミア様のような方でもご冗談たしなまれるのですね!」


「いいえ、冗談などではありません……」


「いっいやいや……あの男に巫女の騎士など務まる訳がないでしょう!?」


 騎士団の中から鏡の巫女自身が選ぶらしいが……どういう条件なのかはわからない。

カルミアに近づこうとして、俺も巫女の騎士として名を挙げたことはある。

だが結局……俺はカルミアに選ばれることはなかった。

勇者であるこの俺が選ばれなかったんだぜ?

それなのにあのゴミが……その称号を与えられるなんて……ありえねぇだろ!?


「務まるかどうかは私が決めることです……」


「そもそもあの男は死刑囚だったはずです! それがなぜ……」


「私が裁判官に無理を言って減刑して頂いたんです……」


「なっなぜそこまでして……」


「それはあなたには関わりのないことです」


「うっ!……」


 チッ! 巫女とはいえ……勇者であるこの俺に舐めた口を効きやがって……。

表情も朗らかに見えるが……俺を見るその目にはどこか軽蔑の意思を感じる。

この俺の存在を認めようとしない唯一の女……すぐにでも力づくでこの俺に従順なペットにしてやりたい……。

そもそも女が男と同等の権力を与えられている現状がおかしい!

女は男に尽くすためだけに生きていればいいんだ。

対等に男と……まして勇者であるこの俺に尊敬の意すら示さないなんて生きている価値もない。

どうしてこんな女が巫女に選ばれたのか……この国の人選基準は全く理解できない。


「それでは失礼します……。

まだあいさつ回りの途中ですので……」


 カルミアは俺にそれだけ言うと、わき目もふらずに去っていきやがった……。

今に見てろ……いつかあの小生意気なツラをぐちゃぐちゃにしてやる!!


-------------------------------------


「……」


 ちくしょう!

あの女へのイラ立ちが収まらない……。

普段ならストレス発散にその辺のゴミをサンドバック代わりにボコってやるところだが……さすがに国王の城で問題を起こすわけにはいかない。

だが、この怒りを誰かにぶつけてやりたいという欲求は抑えられない。


「!!!」


 ストレス発散の矛先を探していた俺の目に……ツキミの姿が映った。

騎士としての使命を忘れて、飯と酒にがっついているとは……まるで卑しい野良犬だ。

まあ女を寝取られた挙句、俺にボコられた負け犬にはお似合いだけどな。

ちょうどいい……。

ストレス発散に、こいつを挑発してやるか。


「おやおや……こんなところで何をしているんだ? 犯罪者君」


「へぇ~……死刑を免れて巫女の騎士になったって聞いたけど……随分と落ちぶれたわね」


 俺の心情を察した……じゃどうかは知らないが、隣にいるナズも俺の言葉に乗って奴を挑発する。


「全くだな……お前みたいな救いようのないゴミに巫女の騎士なんて肩書きは似つかわしくねぇんだよ!

身の程をわきまえろ!」


 ハハハ!!

単純に人をボコるのもいいが、こうやって口で人をこき下ろすのも悪くねぇなぁ!

胸の内がスカッとする!

それが気に食わない相手だとなおさらだ……。


「どうした? 前みたいに俺を殴らないのかぁ?

ナズを取り返すためによぉ!」


 奴が俺を殴れば正当防衛という大義名分でまたこいつをボコることができる。

だからわざわざ頬を突き出してまで挑発してやっているのに……奴は冷めた目で俺達に視線を向けている。


「何か用か?」


「はぁ? 勇者が声を掛けるのに用なんてくだらねぇもんいるのかよ?」


 俺はドレスの隙間からナズの胸をダイレクトに揉みしだき、さらに軽くキスしてやった。

くくく……。

ナズのやつ……メスの顔してやがる。

どうだ? 自分の身を犠牲にして守ろうとした女を目の前で弄ばれる気分はよぉ!

ぜひ感想を聞かせてくれよ、ツキミ君?

なんて思っていると……。


「おっおい! 何してやがる!!」


「なにって……飯食って酒飲んでる」


 奴は俺を無視するばかりか、俺に背を見せてまた飯や酒にがっつき始めた。


「そんなこと聞いてねぇ!! 勇者であるこの俺に背を向けるなんて……どういう神経してやがる!!」


 背を向けるというのは単なるマナー違反とは違う。

”お前の存在を認めない……否定する”という侮辱に等しい意味合いだ。

背を向けられた相手が上流階級であれば……何より神にも等しい勇者であれば、それがどれだけ無礼な行為なのか……馬鹿でもわかる話だ。


「ふっふざけるなぁぁぁ!!」


 俺はブチギレて腰にある剣を抜き……背を向けるツキミに殴りかかろうと拳を引いた。

ゴミの分際で勇者をここまでコケにしたんだ……このまま勢いでぶっ殺しちまってもそれは自業自得だ。


 ヒョイ!


「どごぉ!!」


 ガチャーン!


 寸前でツキミが避けたせいで、俺はバランスを崩し……そのまま勢いよくテーブルにダイブしてしまった……。

ハデに転んだが……勇者として鍛えられた俺には大した痛みはなかった。

だが公衆の面前で無様に転んだ挙句に飯や酒を頭から被って目も当てられない姿をさらしてしまった……。

勇者であるこの俺にこんな屈辱を与えるとは……しかも当の本人は……


「あ~あ……俺の飯が……」


 自分の行いを悔いるどころか、散乱した飯が口惜しいと言わんばかりに言葉を漏らしやがった。

許せねぇ!!


「死にやがれ!!」


 俺の怒りは頂点に達し……腰に差していた剣を引き抜いた。

周囲は勇者が乱心したとかなんとかうるさく騒いでいるがどうでもいい。

今はただ……この無礼者をブチ殺してやりたい!!


「やめないか!!」


 剣を振り上げた俺に向かって、制止を呼び掛ける声が上がった。

この場で勇者であるこの俺にそんな言葉を掛ける人間は……1人しかいない。


「こっ国王陛下……」


 剣を下ろして振り返ると……そこにはこの国の最高権力者……国王が立っていた。


「このような祝いの場で……まして我が城で剣を抜くとは何事だ!?」


 鬼のような顔で怒りを露わにする国王……。

俺にとってそれほど恐ろしいものはない。


「もっ申し訳ありません! ですがこの男が勇者であるこの私に無礼を働いたんです!」


「ほう……どのような無礼だ? 勇者ともあろう人間がこれほどの騒ぎを起こしたのだ……よほどのことだろうな?」


「えっと……そう! この男が私をいきなり殴りつけてきたのです!」


 俺は咄嗟に口から偽証を述べた。

国王相手に嘘をつくなんて命知らずも良い所だが……俺の心にはそんなリスクを考える余裕もなかった。


「そこの騎士よ……これは事実かね?」


「いえ、違います。 勇者様が俺を殴ろうしたから俺は避けただけです。

無礼うんぬんはともかく……」


 このカス!!

黙って俺の話に合わせりゃいいのに……余計な事言ってんじゃねぇよ!!

ふざけやがって!!


「ならば君たち……勇者の言葉は事実かね?」


 公平さをアピールするかのように国王が、周囲で俺達の動向を目撃していた貴族共に証言を求めた。

するとあちこちから”俺がツキミを襲った”という証言が沸いてきやがった。

いつもなら全員俺の言葉に賛同するはずだが……尋ねてきた相手は国王だ。

国王の絶対的な権力を恐れ、誰1人として俺に味方する人間はいなかった。

国王だからってどいつもこいつもビビりやがって……この腰抜け共が!!


「この私に偽りを述べ……さらに汚らしい言葉で周囲を威嚇するとは……。

これでは勇者ではなく……脳のない獣だな」


「うぐっ!」


「勇者よ……何か申し開きはあるか?」


「もっ申し訳ありません……」


 俺は成すすべなく、国王に頭を下げて謝罪した……。

国王相手とはいえ……公衆の面前でこの俺が頭を下げるなんて……なんて体たらくだ!!


「まあ良い……これからは勇者としての自覚を持って行動するように……」


「はい……」


 国王に許しをもらってこの場はどうにか収まったが……俺の心には深い傷が残った。

ツキミの野郎……この屈辱は忘れねぇ……いつか必ず地獄を味合わせて殺してやる!!


-------------------------------------


「このような素晴らしい日に、我が城へ足を運んでいただき感謝する」


 それからしばらくして……国王のあいさつが始まった。

勇者である俺とカルミアと共に国王の両隣で構えていた。

舞台の上から底辺の虫けら共を見下ろすのは心地よいが……その中に場違いなツキミが混ざっているせいで、正直胸クソ悪さの方が勝っている。

奴と目が合っただけで、殺意が俺の脳を支配しそうになる。

一体どうしてやろうか……そう考えていたその時!!


 バンッ!


「ひぃ!」

 

 突然会場内に銃声が響き渡った……。

俺は驚きのあまり思わず腰を抜かしてしりもちをついてしまった……。

周囲で待機していた騎士達がすぐさま銃を撃った男を取り押さえたことでそれ以上騒ぎは起きなかったが……当然会場内はパニックに陥った。

暗殺者が1人とは限らない……。

直感的にそう思った俺はすぐ舞台裏に避難し、そこでしばらく身を隠した。

まあ結果的にそれは杞憂に終わったがな……。

そしてこんな騒ぎが起きたことで、パーティーは中止となった。

だったらこれ以上、ここに留まる必要性もない。

俺は後の処理を騎士共に任せて、ナズを連れさっさと帰った。


-------------------------------------

 後になって知ったことだが、銃をぶっ放したのは男は国王の暗殺を企てていたらしい。

王政が気に食わない連中が事件を起こした前例はあったが……こんな大胆な暗殺は前代未聞だ。


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 暗殺未遂事件のことは瞬く間に国中へと伝わっていった。

だがそれと同時に、暗殺を未然に防いだツキミの名まで広がっていき……国王を守った英雄と称されていった。

たまたま暗殺を未然に防いだだけのゴミが国民共に称賛されるなんて忌々しいことこの上ないが……それ以上に気に入らないことがある。


”暗殺事件の最中……国王の隣にいながら、勇者は腰を抜かし……犯人が捕まった後ですら何もせず、わが身可愛さに物影に隠れて震えていた”


 そんな事実無根な噂が国中に広まっていた……。

誰が腰を抜かしていただぁ?

ちょっと驚いただけだろ?

それを何も知らない素人共が……適当なこと言いやがって……。

誰がどこから漏らした話なのかはわからないから元凶を始末することもできない。

そのせいで腰抜け勇者なんて不名誉なあだ名まで一部の地域で広がっていた。


「ちくしょう!! どいつもこいつも勇者であるこの俺をバカにしやがって!!」


 ここまで相当頭にキテいる俺だったが……それから数日後、俺の元に驚愕のニュースが飛び込んできた。


”暗殺未遂事件の英雄ツキミが武闘大会に出場することが決定!”


 新聞に大きく書かれていたその記事に……俺は目を疑った。

武闘大会は年に1度開かれる、勇者を決める大会……。

騎士にとって名誉あるその大会に……あのゴミが参加する?

しかもその推薦者が国王だと?

一体なんの冗談だ?

あり得ねぇだろ!!


「いや、まああんなカスが決勝まで生き残れるとは到底思えないがな……」


 そうだ……。

あんな無能野郎が武闘大会を勝ち進める訳がねぇ。

どうせ1回戦で負けるのがオチだ。

そうなれば、推薦した国王の顔にドロを塗ることになる……。

その時、奴がどんな無様な顔をさらすか……楽しみだぜ。


 

次話はツキミ視点です。

サクッと武闘大会を書き終えて、さっさと次に進みます。

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― 新着の感想 ―
正直コイツのやらかした大罪は死刑だとしてもかなり苦しめないとダメな部類だな。
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