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アブー②

アブー視点です。

 勇者となり完璧な人生を歩んでいる俺には……ナズという女がいる。

ただのナンパで知り合った良い女で……恋人同士という形で俺の豪邸で同居している。

本人は付き合っているつもりだが……俺には愛情なんてものは欠片もない。

勇者という立場上……女を侍らせていないと恰好がつかないから付き合っているように装っているだけだ。

本人はマジで付き合っているつもりなようだが……めでたい女だ。


「おい、ナズ! お前、俺以外の男と飯食いに行ってやがったな!?」


「友達と食事に行っていただけよ。 それに女の子もいたし……」


「口答えしてんじゃねぇよ!!」


 地下室で飼っているコレクション女共とは違い……ナズは放し飼い状態なため、男との接点を断つことはできない。

愛情なんてものがないとはいえ、俺という最高の男と付き合っている女が俺以外の男と仲良くするなんてありえねぇ……。

死刑にすら値する重罪だ。

だがナズの体は俺とかなり相性がいいため、殺すには惜しい。

なので、俺を裏切るという行為がいかに愚かであるかと徹底的に体に叩き込んでやることにした……。


「いたっ! やめてっ! やめて!」


「うるせぇ!! お前みたいな恩知らずな女はこれくらいやらねぇとわかんねぇんだよ!!」


 俺はナズにわからせようと軽くボコってやった。

これはDVなんて物騒な行為じゃない。

言ってみれば……調教だ。

バカを教育するには体に教え込むのが一番……。

力でねじ伏せればどんなバカでも反抗しない。

それは時に、鎖で繋いで家から出られないようにする徹底ぶり……。

俺ってマメだろう?

ところがだ……。


-------------------------------------


「ナズの野郎……逃げやがったな!」


 この俺のありがたい調教を受けたにも関わらず……ナズは俺が仕事と称して女漁りに行っていた間に、俺の豪邸から姿を消しやがった……。

恩を仇で返すとはまさにこのことだ……。

だが俺の勇者としての権力を用いれば人を雇って女1人を探すなんて訳もない。

案の定……失踪発覚からわずか3日でナズの居所を掴むことができた。

あの女は幼馴染だった学友を良いように言いくるめ、騎士団の宿舎に身を潜めているらしい……。

勇者の女を匿うなんてまともな神経している人間ならしないはずだが……ナズに惚れているらしいその男は、自分の命よりも女を優先するおめでたい野郎ってことか……。


「このままではすまねぇぞ……」


-------------------------------------


 行動を起こした俺が真っ先に向かったのは……ナズの実家だった。

なぜそんな貧乏臭いゴミ屋敷に足を運んだのかというと……。


「お前らの娘が俺を裏切ってほかの男の元へ行っちまったぞ? どう落とし前つけてくれるんだ?」


「そっそんな馬鹿なことが……」


「そうです。 あの子が浮気なんて……」


 俺はナズの両親に娘の裏切りをバラしてやった。

親バカなこいつらは最初こそ信じなかったが……事前に入手したナズが幼馴染の部屋に匿われている写真を見せてやった。

しかも好都合なことに……ナズが幼馴染とヤッている写真まで撮ることに成功した。

ゴミに体を許したナズの価値は大幅に下がったが……それでも利用価値がないこともない。


「マジでどう責任とってくれるんだ? 勇者を裏切って浮気とか……死刑判決を下されたって文句言えねぇんだぞ?」


 俺とナズは夫婦でも婚約者でもない……関係上、浮気されたら泣き寝入りするしかない。

だが、それはあくまで底辺な人間の場合だ……。

俺は神に近しい存在……勇者だ。

俺が訴えを起こせば、慰謝料請求どころか死刑判決だってあり得る。


「そっそれだけはどうか……お許しください」


「おっお願いします……」

 

 ナズの両親は俺に許しを請うと土下座するが……当然そんなもんで許しを与えるような俺じゃない。


「頭を下げるだけで許してもらおうってのか? 俺も随分舐められたもんだな」


「でっでは慰謝料を……」


「貧乏人からの慰謝料なんてもらってもゴミになるだけだっての!」


「でっではどうすれば……」


「そうだなぁ……じゃあ慰謝料代わりにてめぇの嫁とヤラせろよ」


 俺は許しを与えてやる条件として、貧乏野郎ことナズの父親の嫁を要求した。

これこそ、俺がここへきた理由だ。

ナズと付き合い始めた頃……俺は彼氏として1度、ナズの実家を訪れたことがある。

その時、俺はナズの母親の美貌に驚愕した。

こんなでかいガキがいるなんて思えないほど、若々しく美しい女だ。

はっきり言ってナズよりも良い……。

俺は何度か金や権力……自身の容姿の良さを餌に何度かナズの母親を手中に収めようとした。

だが……。


『私には愛する夫がいます。 彼を裏切るくらいなら、舌を噛んで死んだ方がマシです!』


 そう言って俺のモノになることを拒否し続けた。

今まで声を掛けてきた女の中には、こいつのように俺の誘いを断る女もいた。

だがちょっと脅し感覚で圧力を掛けてやれば、大抵は体を明け渡した。

それでも断固として俺に抱かれない女は、お茶に誘って睡眠薬を飲ませて犯すという強姦まがいなこともたまにした。

だが、ナズの母親は俺と2人でお茶をすることすら……拒否した。

挙句に裏切るくらいなら死を選ぶとか……頭が狂ってるのか?

どうしてそこまでしてあんな貧乏旦那を裏切れないのか全く理解できない。

何もかも俺の方が圧倒的だ。

不倫関係は国がもみ消してくれるし、払う義理はないものの……慰謝料なんてものも俺の財力があれば何の罰にもならない。

俺のコレクションに入れば、一生働かなくて済むんだぜ?

それなのに貧乏旦那と一緒にいてなんのメリットがあるんだ?

まさか旦那を愛してるから……なんてマジで言ってるのか?

そんな金にもならないもんのために命まで捨てられるって?

頭がお花畑というか……やばいくらいに病んでるんじゃねぇか?

強引に拉致することもできたが……あの目だとマジで俺に抱かれる前に自殺しそうだ。

そんなわけで俺はナズの母親に手を出すことができなかった。

だが手に入らないとなれば余計にモノにしたくなる。

俺は勇者アブーだぜ?

この世にいる女は全て俺のモノだ……この世に俺の抱けない女が存在する訳がない!!

どうすれば俺のモノにできるか?

そう考えていた矢先に起きたナズの失踪と浮気……。

愛する娘の命を盾にすれば……娘を溺愛している親共は俺の要求を飲むはず……。


「そっそんなことできません!!!」


「ほぅ……嫁をやるくらいなら娘の命なんてどうだっていいってことか?

冷たい父親だねぇ……」


「そっそれは……お願いします! 妻も娘も私にとって大切な家族なんです!

慰謝料はいくらでも払います! 私の命でも捧げます! だからどうか……」


 貧乏旦那は無様にも地面に頭をこすりつけて必死に媚びてきた。

何度も言うが貧乏人の慰謝料なんてどうでもいいし、貧乏人の命なんてさらにどうでもいい。


「ガタガタうるせぇんだよ、貧乏人が……。

嫁を差し出すか……娘の命を差し出すか……さっさと選べ!」


 俺は貧乏旦那の頭を踏みつけ、選択を迫ってやった。


「やめてください! 勇者ともあろう方が一般人相手にこのような脅しをかけるなんて……あんまりです!」


 涙ながらに貧乏旦那を踏みつける俺の足にすがるナズの母親……。

これだけ俺と旦那の力の差を見せつけてもなお、旦那を守ろうと必死になるその姿勢がますます俺の癪に障る。

こいつの頭の中は一体どうなってるんだ?


「はぁ? お前らの娘がそもそもの原因だろうが! 逆ギレしてんじゃねぇよ!!」


「だからと言って……こんな横暴が許されるのですか!? それが勇者なんですか!?


 チッ! こいつらの心が折れるまで待ってやろうかと思ったが……もうメンドくせぇな。


「3秒やる……それまでに答えを出さなければナズを訴える。

そうしたら間違いなく死刑だろうなぁ!」


「「!!!」」


「1……2……」


 無論、俺の言ったことは全て本気だ。

こいつらがナズを見捨てたら、速攻でナズを死刑台に送ってやる!


「待ってください!」


 3秒経つ直前、ナズの母親が俺にストップをかけてきた。


「わっわかりました……あなたの言う通りにしますから……ナズの命だけは……」


 ナズの母親がようやく折れた。

最初からそう言えばいいいんだよ! 


「なっ何を言っているんだ? 馬鹿なことを……」


「わかってる! だけど……こうでもしないとナズの命が……」


「……」


 貧乏旦那は納得いっていないって顔しているが……嫁の決断を否定することはできず、押し黙った。

ざまぁねぇな。


「じゃあさっそくここで俺に奉仕してもらおうか……」


「そっそんな……」


「そうそう……旦那もこの場にいろよ? 嫁が自分以外の男とヤるところなんて、なかなか見られないぜ?」


「ふっふざけたことを言うな!!」


「あぁ? 貧乏人の分際でなんだ? その口の利き方は……。

気に入らねぇなら、ナズを死刑に処してやろうか?

いや、終身刑と称して囚人共のおもちゃにするのも悪くねぇなぁ」


「ぐっ!」


 ハハハ!!

いいねぇ……その悔しそうな顔……。

俺をぶっ殺してやりたくて仕方ないのに、それができない現実に歯を食いしばるその無様な負け顔……最高だな!


「文句ねぇならさっさとおっぱじめようぜ? 奥さん?」


「くっ!」


※※※


 それから数時間もの間……俺はその場で貧乏旦那の目の前で奴の嫁に大量の種を仕込んでやった。

何度も避妊してくれと訴えてきたが……俺は当然断った。

そんなことしたら快楽が半減してしまうじゃねぇか……。

そもそも勇者の種だぜ?

優秀な種をタダでくれてやるんだ……普通は泣いて感謝すべきだろ?


※※※


「……」


「……」


 溜まっていた性欲を出し切った俺の視界に映ったのは、目の前で嫁を寝取られたショックで無様に気を失った貧乏旦那と俺の種を体中に浴びたまま泣き崩れた美人嫁……。

なんとなく思い付きでやってみたが……新たな快楽を覚えたって感じだ。

寝取るというのは男として自分が勝っているこ証明だ。

それは単に女を抱く以上の快感を味わえる最高のスパイスだ。

娘の浮気という後ろめたさと死刑への恐怖心から俺に逆らうことができないこのシチュエーションに、俺の中の支配欲まで満たされる。

金や権力で尻尾を振る女を寝取るのは簡単すぎて正直飽きていたんだよな……。

だからこの女のように俺に全くなびこうとしない女を屈服させて堂々と男の前でヤルというのは、同じ寝取りでもまた違った快感だ。

力づくで女を犯す面倒も省けるしな。


「ごちそうさーん! また一緒に楽しもうぜ、お2人さん」


 俺はそれだけ言い残して、さっさとその場を立ち去った。


-------------------------------------


 「ナズ……俺だ、開けてくれ」


 翌日……俺はナズを迎えに行ってやった。

俺は誇り高き勇者様だからなぁ……約束は守る、当然だろう?


「ナズ……戻ってきてくれよ。

お前がいない人生なんて俺には考えられねぇんだ。

帰ってこい……ナズ」


 我ながら臭いセリフでドア越しに声を掛けてやった……。

あいつは俺の金で生活水準が王族レベルにまで上がっている。

そんな女が底辺騎士との同棲なんて拷問みたいな生活に耐えられる訳がない。

しかもあいつの体はこの俺が徹底的に使い込んでやっている。

女っ気のない童貞野郎との行為で満足できるわけがない。

だから……。


「アブー……アブーぅぅぅ……」


 ナズ自ら俺の胸に飛び込んでくるこの光景は……必然としか言えねぇ。

俺はそのまま流れでナズを抱いてやった。

相変わらず抱き心地は良いし、ナズに惚れてるとか言う底辺騎士の部屋でナズを抱くというのも一興だった。


※※※


「お前……ナズに何をしているんだ!!」


 ひとしきりナズの体を堪能した直後、その底辺騎士が帰ってきやがった。


「ふざけるなっ!! お前がナズにDVしていたのは知っているんだぞ!!

今すぐ、彼女から離れろ!!」


 奴は俺がナズを脅して無理やり関係を迫ったと思っているらしいが……この状況見て理解できねぇとかどんだけ頭が悪いんだ?

それ以前に口の利き方が気にいらねぇ……俺は勇者様だぞ?

勇者様にため口とか舐めてんのか?


「わかんねぇかなぁ……お前は捨てられたんだよ、ナズに」


 俺の癇癪に触ったおめでたい野郎を俺は軽く煽ってやった……。


「ナズを……離せぇぇぇ!!」


 すると奴はあろうことか……勇者であるこの俺を殴りやがった……。

この国で神に近い存在である……この俺を……。


「てめぇ……何しやがる!!」


 無論、底辺騎士に殴られてくらいでどうこうなる俺じゃない。

だがさすがに俺はブチ切れ、ナズを寝取られたこの負け犬を殴りつけてやった。

俺はそのまま倒れた負け犬野郎の上に馬乗りになり、意識を失うまでタコ殴りにしてやった。

剣で串刺しにしてもよかったが……こんなゴミの汚ねぇ血を俺の剣に吸わせたくねぇ……。


「死ねや!」


 血まみれで虫の息になった負け犬野郎にトドメをさそうとしたその時……。


「ねぇアブー……その辺でいいんじゃない?」


 ナズの奴が俺を止めやがった。


「なんだと? お前……こいつを庇う気か?」


「そんな訳ないでしょう?

ツキミは勇者であるあなたを殴ったのだから……当然の報いよ。

でもわざわざあなたが手を下すまでもないわ……。

罪人は罪人らしく……法の下に裁きを受ければいいんだわ」


 そうだな……。

よく考えれば……勇者に対する最低限のマナーも持っていないこんなゴミに、この俺様の手を汚す価値などない。

この国で偉大な勇者への暴行は死刑か終身刑と相場は決まっている。

法の下で国から犯罪者のレッテルを張られ、暗く汚い獄中でひっそりと死刑に処されるという筋書きも悪くねぇな。


「ひひひ……そうだな」


 俺はナズの提案を受け入れ、俺の通報で駆けつけてきた騎士団共に血まみれの負け犬を引き取らせてやった。


-------------------------------------


 後日……俺を殴った無礼者……ツキミの裁判が始まった。

罪状が勇者への暴行ということもあり、当然奴に弁護士なんてものはつかず……裁判は俺の言うがままに進んでいった。

俺はこの流れを利用し……。


”被告人が一方的な好意でナズに付きまとい……強引に拉致して監禁した挙句に強姦した”


 なんて罪状を負け犬に掛けてやり……俺がこの手でナズを救い出してやったと証言してやった。

そう言えば俺は”恋人をキチガイなストーカーから救ってやった英雄”となる。

証拠?……そんなもん必要ねぇ。

勇者の言葉は絶対だ……。

この俺があいつが犯罪者だと言えばそれが事実になる。

案の定……。


『恋人を救うために単身乗り込むなんて素敵!』


『さすがは勇者様だ……』


 傍聴席からは俺への称賛の声が上がった。

中には新聞記者もちらほらいるようだから、この話が世間に広まるのも時間の問題だろう……。


『最低……身勝手な片思いで女の子をあんなひどい目に合わせて……挙句逆ギレして勇者様を殴るとか……』


 反対にツキミの方は救いようのないクズだと傍聴人達から罵声を浴びせられていた。

ククク……こういうシチュエーションも悪くねぇな。


※※※


「被告人に死刑を言い渡す……」


 裁判の結果……言うまでもなく、ツキミに死刑判決が下った。


「ハハハ!! ざまぁ!!」


 俺にできないことは何もない……。

この俺こそが神なんだ!


-------------------------------------


 そして裁判から時が流れたある日……。

俺は勇者として共に国王陛下から直々に城へと招かれた。

さすがに女っ気がないと示しが付かないので、ナズも連れてきている。

この日は建国記念日ということで、数々の上流貴族が城へ足を運んできている。

国王は唯一この国で勇者よりも強い権力があるからな……。

この方の機嫌を損ねるような真似だけはしてはいけない。

だが所詮はくたばりぞこないのじじぃだ。

いずれこの俺が国王の座を奪い、この国そのものを奪い取ってやるよ。


『おぉ! 鏡の巫女様だ』


『いつ見ても美しいわ……』


 パーティー会場内でひときわ目立つ女がいた。

その名はカルミア。

彼女は鏡の巫女と呼ばれ……勇者であるこの俺と同等の権力を持つ唯一の女。

見た目もかなり上玉で、できるものなら俺のコレクションに加えてやりたい。

金や権力ではなびかないだろうし……ほかの女共のように強引な手段を使おうものなら……さすがになんらかのペナルティを喰らうことになる。

それでも何度かアプローチを掛けたことがあるが……相手にされない。

上に立つ人間だけあって……男に求める条件も馬鹿高いんだろうな……。

ところがだ……。


「なっなんであの野郎が……」


 カルミアの隣で歩く騎士らしき男……その顔は死刑に処されたはずのツキミだった。


次話もアブー視点です。

何でもありな立ち位置のせいか、今までのキチガイキャラに比べると結構小物に見えてしまいます。

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このストレス視点まだ続くのか…やば過ぎて辛いw
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