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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第4章 理不尽と責任

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    才能⑦

『――昨日に続き、本日も魔法使いによる傷害・誘拐未遂事件が起こりました』


 テレビから聞こえるアナウンサーの声。前日も前々日も聞いた、同じ文言。


 爆破された建物の映像。日々増えていく、被害にあった人の数。鳴りやまないSNSやニュースアプリの通知。テレビでも、ネットでも、学校でも、膨れ上がる不安の言葉が飛び交う。


「最近、どうしたのかしら」

 ニュースを見て、不安げに二葉が言う。

「今まで魔法使いがこんなふうにニュースになることなんてなかったのに」


「ちょっと怖いよね。俺が出る予定だった地方のコンサートも、危険だから中止にしようって話が出てるみたいだし」

 光も困った様子で言った。

「今までこんなことなかったのに、急にどうしたんだろう」


 皆が口にする言葉。突然何が起こったのか。


 一華のせいだ、と直感的に分かった。


 本には、『扉の番人』は、二世界の間の結界を管理する役割があると書いてあった。それを一華が果たしていないから、今こんな騒ぎになっている。関係がないという方が無理があるくらい、タイミングが完璧に合っている。


 私のせいだ。

 私がちゃんと調べられないせいで。


「ねえ、二葉、光」

 思わず、呼びかける。振り返る二人に、突拍子がないことを自覚しながら、一華は尋ねた。


「二人は、魔法使いについて、どう思う?」

 キョトンとした顔で、二人は顔を見合わせた。そして、二人揃って難しそうな顔をした。


「どうって言われても……」

 戸惑いつつも、光は一華のことを見て真面目に答えた。

「歴史で習ったくらいしか知らないし、最近のニュースに関しても正直実感湧かないかな。でも、関わらなくていいなら、これから先も関わりたくないかも」


「そうよね。みんなが事件に巻き込まれて傷つくことがなければ、それが一番良いって思うわ」

 二葉も、少し沈んだ顔で答えた。


「でも、突然どうしたの? そんなこと聞いて」

「……ううん、何でもないわ。少し気になっただけ」

 一華は力なく微笑んだ。その様子を見て、二葉と光は、心配そうに顔を見合わせた。


「……ねえ、お姉さま」

 心配を前面に押し出した声で、二葉は一華に呼びかけた。

「最近よくないことが続いているけれど、あんまり気にしすぎちゃだめよ」

「おばあさまのことも、まだいろいろ大変なんだから、あんまり抱え込まないほうがいいよ」

 光も、二葉と似た表情で言った。


 二人の優しさに、思わず心からの笑みがこぼれる。

「ありがとう、二人とも。私は大丈夫」


 巻き込めない、と思った。二人を一華の問題に関わらせるわけにはいかない。祖母がしたように、一華もまた、一人でこの力に向き合わないといけない。


 一刻も早く、結界の管理の仕方の情報を見つけないと。見つけて、この二人がこんな顔をしなくてもいいように、これ以上事件が起こらないようにしないと。


 そうして一華は、これまで以上に情報集めに奔走した。けれど、どこをどれだけ探しても、目的の情報は見つからない。そうしているうちに、事件の件数と被害者の数が、一華のことを嘲笑うかのように日に日に増えていく。一華の焦りと比例して、被害の範囲と、世の中の不安が広がっていく。


 どこをどう探していいのか分からないまま、闇雲に走り回る。成果がないまま、時間が過ぎていく。空振りばかりで、自分が何をしているのか見失っていく。



 ――そんな中、彼は現れた。



『桜草樹一華さん、ですか』


 人気のない中等部の校舎裏。セキュリティが厳しく、関係者以外は簡単に入ることのできないこの学校の敷地に、あの人は平然と立っていた。


 いかにも無害そうな締まりのない顔と、いかにも怪しそうな空気を身に着けたスーツ姿の男は、招待状だと言って、一華に封筒を差し出した。


『この招待に応じていただければ、あなたが知りたい情報を得ることができるかもしれませんよ』


 罠だと思った。一華に現れた力を利用しようとしているかもしれない、と。


 それでも、一華は応じるしかなかった。男の言葉を信じるわけじゃないけれど、一華にこんな話を持ち掛けてくる以上、向こうが何かしらの情報を持っている可能性は高い。事件の件数は増え続けている。一華のせいでひどくなっているこの現状を何とかするためには、どんな些細な情報も手に入れたかった。


 親との話もつけて、指定された四月一日に五科工業の本社ビルに向かう。何か危険な実験に巻き込まれるかもしれない。誘拐されて、最悪殺されるかもしれない。でも、一華の力のことを知っている人がいるに違いない。うまく見極めて、聞き出さないと、と一華は意気込んでいた。


 けれど正直、そこでのことは期待外れだった。


 あんなふうに呼び出したにも関わらず、『扉の番人』の力について会社側から何か言い出すわけでもなかったし、力を利用しようと目論んでいる様子も今の段階ではなさそうだった。魔法関係で唯一気になるのは『道』の利用くらいで、プロジェクトへ参加する上で、それ以上の危険なことはなく、それ以上の情報を得られることもなさそうだった。


 集められた他の参加者たちも、会社側と組んでいるという様子もなく、皆同じように、プロジェクトの内容に驚きを示し、読めない目的に対して不信感をあらわにしていた。魔法についての知識を持っているわけでもなさそうで、彼らから情報を得ることはできないだろうと、少し落胆した。何より、彼らは皆、今までの一華の生活にはいなかったタイプの人達ばかりで、正直どう接していいのか分からなかった。


 当てが外れた焦りもあり、一華はさらに、外での情報収集の方に力を入れた。しかし、やはり何の情報も手に入らず、とうとう一華が行ける範囲の場所には全て行き尽くしてしまった。


 これからどうしようかと迷う中、ふと『家』に足を運んだとき、まるで一華を待っていたかのように『特殊能力』の話題が出された。


 その存在のことは、『破壊の司者』と同様、昔から何となく耳にしていた。『扉の番人』について調べている中でも、その記述を何度か見かけた。


 ようやく現れた、魔法に関連する力の話。関係がありそうなのは、白葉柚と蒼柳創の二人だった。


 百年前に起きた『大災厄』の被災地であり、今でも魔力に汚染されていると言われているT市から、偶然揃って連れてこられた幼馴染の四人。プロジェクト初日から疑わしいと思っていた人達だった。


 わざわざ仲の良い四人が参加しているということは、彼らも何かしらの力を持っているのか、力に関する情報を持っているに違いない。調べる手段がもう他にないのもあり、一華は彼らから話を聞くことに決めた。


 必死だった。彼らは一華にとって最後の望みだった。


 一華の質問に答えることを渋り、拒絶する彼らに苛立ちながら、何度も会話を試みた。知っている情報を話してくれるだけでいいのに、それに世界の平和がかかっているのに、どうして協力してくれないのだ、と恨めしくも思った。


 目の前に手がかりがあるのに、どうしようもできないことへの焦り。ニュースの見出しが、その焦りを煽る。周りの目なんて気にしていられなかった。一華は縋る思いで『家』に足を運んだ。


 そんな中だった。


『今朝、R県T市で、女の子の遺体が発見されました。発見された遺体は、今月初めにT市で魔法使いに誘拐された女児であることが判明しました』


 淡々と告げる声。それを聞いたとき、一華の中にある感情が、一華の中に入っている何かとともに破裂して、身体中をびっしりと蝕んでいった。


 どうして。

 どうして、こんなことに。


『一華。あなたには、あの二人と違って才能がありません』


 あの日の言葉。ああ、そうだ。


 全部、私のせいだ。

桜草樹一華編、これで終わりです。

長々とお付き合いありがとうございました。

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