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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第4章 理不尽と責任

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第3話 桜草樹家の長女①

ここから一華の過去編が始まります。

作者の愛が強くてとんでもないボリュームになりました。しばらく続きますのでお付き合いよろしくお願いします。

 大きな洋風の門を通り、手入れされた広い庭を通り抜けた車が、さらに大きく存在感を放つ洋館の前に止められる。先に車を降りた運転手が、ゆっくりと車の扉を開けた。桜草樹一華は、「ありがとう」と言うと、優雅な動作で地面に足を降ろした。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

 玄関の扉を開け、その前で待機している使用人たちが、恭しく頭を下げる。一華は「ただいま」と微笑んで答えた。


「お荷物は、先に一華さまの部屋までお持ちいたしますね」

「ええ、お願い」

 執事の申し出に、一華は頷いた。そして、広間へ続く扉を開けた。


 扉を開けるとすぐに、母と使用人の会話が聞こえてきた。


「あの子、また勝手に遊びに行ったの? 今日はピアノのレッスンがあるのに、また来ないつもりかしら」

 盛大な溜息とともに、母はそう嘆いた。それに、母と同じくらいの歳の使用人が、「まあまあ」となだめるように言った。


二葉(ふたば)さまは本当に伸び伸びと過ごしていらっしゃいます。ご学友との仲もよろしい様子で、安心ではないですか」


「それはそうかもしれないけれど、あの子ももう小学生よ。初等部に上がればもう少し落ち着くと思ったのに、いつまで経っても落ち着きがないのは、ちょっと心配よ」

 母は、頬に手を当てて、もう一度大きく溜息を吐いた。


「昨日だって、廊下の壁に絵を描き始めるし、本当に困ったものだわ」


「でも、最近は絵の方も目を見張るほど上達していらっしゃいますし、あの絵も二葉さまの素晴らしい作品の一つですよ。将来、二葉さまが絵で名を馳せたときに、より価値のあるものになっているかもしれませんね」


「そうね。私も、あの子の絵は将来有名になるとは思っているわ」

 誇らしそうに微笑んで、母は言った。


「けれど、やっぱり少しは落ち着いた振る舞いもしてほしいわ。歳が一つ違うだけの一華はあんなにしっかりしているのに――あら」

 ふと、母の目が一華の方を向いた。ちょうど自分の名前が出たタイミングだったため、一華はドキリとする。


「おかえりなさい。帰っていたのね」

「ただいま帰りました」

 一華は、今来たばかりだという装いで答えた。幸い、母も使用人も、一華が二人の会話を聞いていたかどうかは気にしていない様子だった。


「学校はどうだったの?」

「いつもと変わりなく、楽しく過ごしています」

「そう。一華はしっかりしているから安心だわ」

 母は、優しく微笑んで言った。


「一華はこの後すぐピアノのレッスンよね」

「はい」

 頷くと、一華はわざとらしくならないよう気を付けて尋ねた。

「二葉は?」

「あの子、また勝手にお友達と遊んでいるみたいで、まだ帰ってきてないの」

 母は眉をひそめると、今度は小さく溜息を吐いた。


「今週も一人でレッスンを受けることになって申し訳ないけど、先生をお待たせするのも悪いし、一華はすぐに行ってくれる?」

「はい」

 一華は微笑んで頷いた。それを確認した母の目が、一華から逸らされる。そして「まったく、どうしようかしら」と再び使用人に愚痴をこぼし始めた。その背中を眺めて、一華は少しだけ笑顔を解いた。


 今日の算数の授業で、難しくて完全に理解できていないところがあった。明日からの授業についていけなくなると怖いから、今日のうちに復習しておきたかった。それに、今日はいつもより宿題も多いから、それも今からやってしまいたかった。ピアノのレッスンも大事だけど、本当はそっちをやりたかった。


 でも、仕方がないよね。


 宿題や復習は、寝る前の時間に頑張ればきっと終わらせられるし、母の言う通り、一華たちのために来てくれるピアノの先生に迷惑はかけられない。


 一華は母たちに背を向けると、入ってきた扉から静かに部屋を出た。

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