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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第1章 始動

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    招待状⑥

配分間違えてこの話だけおかしいくらいに長いです。すみません。

登場人物紹介回となりますのでよろしくお願いします。

 扉が閉まる音が消えると、部屋の中の音も消えて、沈黙が訪れた。


 シンとした空気の中に、この部屋にいる皆の息遣いを感じる。それぞれが、他の参加者の様子を窺っているようだった。


 顔をざわざわと撫でる雰囲気に、身体が固まる。顔を上げると他の人と目が合ってしまうような気がして、もう何度も見たページを何度も読み返す、振りをする。


 早く最後の一人が来てほしい、と切実に願う。息苦しい。



 そのとき、前の席で、イスを動かす音がした。その音にハッとなって、柚は文字から目を上げた。


「えーっと。まだ時間もあるみたいだし、せっかくだから自己紹介でもしませんか? これから少なからず関わっていくわけだし」


 立ち上がった勝元が、朗らかな声で皆に呼び掛けた。沈黙を破ることにも、初対面の人たちの注目を浴びることにも、全く臆していないようだった。聞きなれたいつも通りの声に、身体の緊張がほどける。


 皆が頷いたのを確認して、勝元は話し始めた。


「じゃあ、まずは俺から。俺、赤羽勝元(あかばかつもと)っていいます。R県から来た高校三年生です。これからよろしくお願いします」


 そして、彼は爽やかな笑顔を浮かべた。自己紹介というからには、趣味がどうとか、何部に入っているだとか、そういうことまで話さないといけないんじゃないかと不安に思っていた柚は、あっさりとした勝元の自己紹介に密かに息を吐き出した。


「順番は……俺から時計回りでいいかな?」


 勝元は、自分が示した次の人の方を向いた。



 次の人は、小柄で大人しそうな女の子だった。二つに分けた髪を低い位置で結んでいて、太めのフレームの黒縁メガネをかけている。彼女はコクコクと二回頷くと「あ、えっと」と少し目を伏せた。


「み、三ツ花穂乃(みつはなほの)です。J県出身の高校一年生です。よろしく、お願いします」


 ペコっと頭を下げる。まだ新しいブレザーの、胸元の赤いリボンがその動きに合わせて揺れた。



 次の子の方を見る。向けた視線は、まずその頬に吸い寄せられた。


 右頬に貼られた、テープのような白い大きな絆創膏。それが、彼の小さな顔でかなりの面積を占めていた。端正な顔立ちをしているけれど、長い前髪の間からこちらを見る目つきは鋭い。長めの後ろ髪を無造作に一つに束ねていて、学ランが妙に似合っている。少し、近づきにくい雰囲気だった。


中梛紫(あつなむらさき)。B県出身の高校二年生。よろしく」


 ぶっきらぼうな口調でそう言うと、彼はふいっと視線をそらしてしまった。周りの人にはあまり興味がないのかもしれない。



 次は、社長に対していくつも質問をしていた、あの女の子だった。彼女はキュッと唇を結んだ後、しっかりと私たちを見回して言った。


桜草樹(おうかやな)一華(いちか)です」


 誰かが息をのむ気配がした。そのうちの一人は、柚だった。


 彼女の苗字、おうかやな。

 桜草樹財閥。


 日本で一番の財力を持ち、いくつもの企業を持っている、有名な一家。桜草樹は、その苗字だった。


 柚は、つい先程、初めて彼女を見たときに抱いた印象を思い出した。堂々とした態度も、姿勢も、受け答えも、彼女がそのような家柄であるからだったのだ。


 あの財閥の人を見ている今の状況は、何だか奇妙な感じがした。今自分は、違う世界の人を見ている。ひたすらに驚きだった。


 そんな柚たちの反応を見て、彼女は短く息を吐いた。


「はい。皆さんもご存知だと思います。私はあの桜草樹家の長女です」


 その言葉は、これまでに聞いた彼女の度の言葉よりも、堂々としているように感じた。自分がその立場であることへの誇りが、聞いている人を圧倒させるほどに溢れていた。


「U県出身の高校一年生です。よろしくお願いします」


 桜草樹は深々とお辞儀をした。そして、まだ驚きの熱を残した空気には目もくれずに、隣に座っている子の方に視線を向けた。



 目を向けられたその子は、これと言った特徴は無いような、普通の男の子だった。彼は、桜草樹の視線に気がつくと、さして慌てる様子もなく口を開いた。


櫟依崇史(いちいたかし)、D県から来た高校二年生です。よろしくお願いします」


 ぼそぼそとした、どことなく気だるげな声だった。櫟依は軽く頭を下げると、流れの通りに次の人を見た。



 次の人は、一言で言うとチャラそうな雰囲気の男の子だった。少し着崩したブレザーの制服が、彼の性格を表しているようだった。彼は、絶対にモテるだろうな、という顔に人懐っこい笑顔を浮かべた。


天瀬烈(あませれつ)でっす。U県に住んでる高校二年生。よろしくー」


 軽い調子で自己紹介をすると、天瀬は隣に座る男の子を見て、ニコリと笑った。



 皆の意識が、これ以上にないくらいその男の子に向けられるのが分かった。興奮で部屋の温度がぐっと上がったようだった。多分皆、はじめからずっと気にしていた。気になっていた。隅の方にひっそりと座っている彼の存在に。


 気にしない方がおかしいほどの、有名人。

 流行に疎い柚でも知っている、彼の名前。


藍代昴琉(あいしろすばる)です。U県出身の、高校二年生です」


 彼は――一か月ほど前に突然引退を発表し、姿を消した、国民的人気アイドルの藍代昴琉は――目を伏せたまま、それでもよく通る声でそう名乗った。



 藍代昴琉。子役として芸能界デビューし、その後モデルや俳優として活躍。中学一年からはアイドルとしてさらに人気を高めた。

 

 綺麗な顔と透き通るような声、優しい雰囲気に、多くの女性が魅了された。なかなか裕福な家庭らしく、育ちの良さもその雰囲気を感じさせる一つの理由のようだった。


 しかし、高校生となり人気絶頂だった彼は、先月突然引退を発表した。理由は体調不良という曖昧なもので、はっきりとは語られなかった。そして本人は、短い引退の会見をした後一切姿を見せなくなった。


 その出来事が社会現象となり、ひと月経った今でもまだ、世の中のファンたちの混乱は収まっていない。そんな状況下で、彼はここに現れた。



 テレビで見る藍代は、いつも笑っていて、人当たりが良くて、気遣いができて、周りの人からの評価も高くて、非の打ち所がない格好いいアイドルだった。昔テレビの前で「きゃー、かっこいいーっ」と悲鳴に近い歓声を上げていた百合の声もしっかりと覚えている。


 それなのに。


 目を伏せている目の前の藍代昴琉。彼には、そんないつもの完璧なアイドルの姿は見受けられなかった。


「よろしく、お願いします」

 注がれる皆の視線に気圧されたように、彼は囁くようにそう言った。


 誰もがどう反応していいのか分からずに戸惑っているようだった。気まずい空気が部屋に満ちる。そんな中、柚は一人、慌てていた。



 時計回り。向こうの壁側の一番後ろに座る藍代。こちらの壁側の一番後ろに座る自分。


 え、待って。次、私だ。



 周りを見ると、注意はまだ藍代の方に集まっていた。見てはいけないものを盗み見ているような、そんな感じで。この中で自己紹介をしなければならないのだと思うと気が重い。そのまま床にめり込んでしまいそうだ。


 どうしよう。声が出ない。



「柚」

 不意に、勝元から呼び掛けられた。皆が我に返ったように彼を見る。


「次、柚だぞ」


 勝元が柚に笑いかけた。それに後押しされるように、「うん」と声が出る。


 柚は、さっきまで藍代を見ていた皆の目を見回した。



白葉柚(しろばゆず)です。高校二年生で、R県から来ました。よろしくお願いします」


 視線から逃げるように頭を下げる。そして、最後の自己紹介をする凪沙の方を見た。



入月凪沙(いりつきなぎさ)。R県から来た高校三年生。よろしくね」


 凪沙は淡々とそう言った。いつも通り、ありえない落ち着き具合だ。



「じゃ、これで全員だな」

 勝元がふうっと息を吐き出した。彼も緊張はしていたみたいだ。



「えーと、さっきから思ってたんすけど、三人って知り合いなんですか?」


 天瀬が無邪気に聞いてきた。それに勝元が「ああ」と苦笑した。


「小学生のときからの付き合いで、所謂幼馴染ってやつだよ。まさかその三人が集まるなんて思いもしなかったけど」


「じゃあ、そのメンバー全員がここに集まったってこと?」

「いや、いつもはもう一人いる。そいつを入れて四人がグループって感じ」

「へえ、どんな人なんですか。もう一人って」

「どんな人、か」


 勝元は少し考えて言った。


「……周りからは、天使って呼ばれてる」

「……天使?」


 思いもよらない答えだったのだろう。天瀬は戸惑った表情で首をかしげた。


「女の子?」

「いや、男」

「……」


 変なこと聞いちゃったかなー、みたいな顔の天瀬。他の人たちも微妙な表情。

 いや、まあ、そうなるよね……。


「勝元。言いたいことはわかるけど、変態みたいな発言になってるよ」


 凪沙が呆れたように言う。それに勝元も「だよなー」と笑う。


「まあ、会えばわかるよ。機会があるかどうかはわからないけど」



「それよりさ」

 頬杖をついている凪沙が口を開いた。


「天瀬くん、藍代くんに対する反応が他の人と違ったけど、二人も知り合いだったりするの?」

「んー、まあ、そうっすよ」


 天瀬が軽く笑った。


「小学生の頃かなー。ちょっと不思議な知り合い方をして」


 天瀬も藍代も、お互いに目を合わせることがなかった。もしかしたら、そのことには触れられたくないのかもしれない。


 凪沙は「そ」と小さく答えて口を閉じた。



「あの」


 静かになったところで、桜草樹が皆に呼び掛けた。注目が一斉にその方に向く。一瞬たじろいだ後、彼女は意を決したように切り出した。


「皆さんは、この『特別プロジェクト』に参加しますか」


 場の空気が、サッと引き締まった。


 桜草樹は、今までの会話に続くには不釣り合いなほどに真剣な顔をしていた。


「この『特別プロジェクト』の対象は、厳正な抽選で行われる、と書いてありました。それなのに、今の話を聞くと、メンバーのうち三人と二人がそれぞれお互いを知っているということになります。全国の高校生から選んだわりには、偏りが、あるような気が」


「つまり、何か裏があるんじゃないか、と?」


 勝元が、同じように真剣な顔で聞いた。それに、桜草樹は「はい」と頷いた。


「研究のためのデータとして、機械を付けるだけでこれほどの報酬が出るというのも、少しいかがわしいような気がします。しかもその研究も、会社の中で大々的に行っているものではなく、社長自らが直接管理するものです。もしかしたら、危険なことに巻き込まれてしまうのかもしれません。先ほどの社長の話を聞いて、少し、それが確信に近づいたような気がします」


 柚は拳にぐっと力を入れて握った。それは、きっと柚がずっと危惧していたこと。社長に感じた冷たい恐怖が蘇ってくる。


 桜草樹は「その、つまり」と言いにくそうに言葉を濁している。誰もが後に続く言葉を知っていた。けれど、口に出せないでいる。それが肌にピリピリと伝わってきた。


 桜草樹は、少し迷ってから、自然を装った口調で言った。



「……特殊な力を、使っているみたいですし」


 特殊な力。

 それはつまり、魔力のこと。

 百年前、大勢の人の命を奪った、禁忌であるもの。



 桜草樹が黙ってしまう。皆の戸惑いと感情の揺れが空気を通して伝わってきた。


 魔法を応用した技術。それを管理する大企業。このプロジェクトが魔法に関わることだというのは、ほぼ確定している。



「三人は、確かR県に住んでいるとおっしゃっていましたよね」


 桜草樹が柚たち目を向けた。目力が強く、柚は思わず身体を震わせる。


「そうだよ」

 凪沙が、その強い視線を意にも介さず答えた。


「魔法使い絡みの事件が続いている、あのR県の、更にはあのT市に住んでる。私たち三人とも」


 凪沙の直接的な言葉に、桜草樹は気まずそうに少し顔を伏せて、それでもしっかりと凪沙の顔を見つめていた。


「疑ったりしても別に構わないよ。T市から三人も選ばれて、しかもそれが知り合い同士。怪しいに決まってる」


 凪沙は視線を手元の資料に移して、無造作にページをめくり始めた。


「でも、一連の事件とは関係がないことは主張しておくよ。最近急に魔法使いたちが表に出始めて、私たちも驚いてる。このプロジェクトが、T市での事件と関係があるか分からないけど、事件に巻き込まれることになるのは私たちだって避けたい。この三人が集められたことも、偶然ではないと思うけど、私たちの意思とは無関係なところで計画されたことだよ」


 凪沙が同意を求めるように柚たちを見た。柚と勝元は、それにしっかりと頷く。


「まあ、でも、事件と関係がないにしても、最近魔法使いたちの動きが激しくなってきたこととは関係してるかもしれないな」


 勝元が難しい顔をして、両手を頭の後ろで組んだ。


「魔法使いや魔法って、すごい昔みたいに捕らえられたり処刑されたりっていうのはもうないけど、普通に世間的には厳しいよな。一部の魔法研究所も、最近摘発されてるし。そんな中で、魔力を使った技術を使うっていうのは気になる」


「そうですよね」

 桜草樹はそう答えると、緊張感のある顔で黙り込んだ。


 誰も、何も言わなくなる。


 自分はやめる、と誰かが言い出したら、他の人もそれに続いてやめていくかもしれない。けれど、柚の頭には、あの日、招待状を届けに来た男の人の言葉が引っかかっていた。



 忠告。

 あの目は、きっと本気だった。



「脅されてんじゃねーの」


 急に荒々しい声が沈黙を破った。驚いた視線が、一斉にその声の元へ集まる。


 声を発したのは、学ランの似合う男子、中梛だった。


「そんなに危険だって思ってんなら、すぐやめりゃ―いいじゃん。それができねーのは、何か弱みとか、受けた後の利益とか、そういうのがあるからだろ」


 ドキリ、とする。柚は思わず顔を伏せた。

 自分の弱みと利益。家の経済的な事情。そして、何より――。


 最悪の事態を想像して、柚は自分の身体の熱が抜き取られていくのを感じた。ないとは言い切れない。ありえることだった。


「中梛くん、脅されたの?」

 凪沙がさらりと聞いた。それに、中梛はチッと舌打ちをして、「別に」と顔をそむけた。


「でも、俺は多少危険があっても参加する」

 中梛は、そう言い切った。


「あ、俺も参加するよー」

 チャラそうな男子、天瀬がひらっと手を挙げた。


「オレさ、あ、スバルもそうなんだけど、オレたち今家出状態なんだよね。住む場所もお金もなくってさ、困ってるんだー。だから、この話断ったら、マジで行くとこ無くなるんすよね。このままホームレスになって死ぬくらいだったら、犯罪に巻き込まれることになろうと、別にいいやっていう感じで」


 ねっ、と天瀬は藍代に笑いかけた。藍代は、目を伏せたまま軽く頷いた。


「それに、社長良い人そうだし。プロジェクトの内容も良さげだったから、まあ、そんなに危険もないんじゃないっすか」

「まあ、そうだよな」


 勝元が姿勢を起こして言った。


「これだけの大企業なんだ。徹底的に隠すようなこともしていないみたいだし、事件に関わるような違法なプロジェクトを進めて、会社の経営を危険にさらすようなこともないだろう。それに、この研究が本当ならすごいことだと思うし、協力したいとも思う」


 勝元は、少し考えるように目を閉じた後、目を開けて「よし」と呟いた。

「俺も参加するよ」


 その瞬間、柚の周囲の空気が温かくなったような気がした。勝元の方を見ると、それに気づいた勝元が、柚ににこりと笑いかけた。


「柚も参加する?」

「あ、うん」


 慌てて頷く。勝元がいるなら大丈夫な気がした。緊張がほどけていく。


「私も参加する」

 凪沙が続けて言った。ちらりと柚の顔を見る。


「柚、危なっかしいから心配だし」

「えへへー。お世話かけます」


 凪沙も参加する。それだけで自分は無敵になったような気がした。


「まあ、折角選ばれたんだし、俺も参加しますよ」

 気だるげな雰囲気の男子、櫟依も答えた。


「それに、参加しないと逆にヤバくないですか」

「ヤバい、というと?」


 勝元が尋ねると、櫟依は少し唇を尖らせた。


「だってこの会社、個人情報がっつりつかんでるみたいだし、しかもみんなの様子見ると、簡単に調べられない内容まで知ってるっぽいし。それに魔法の技術も持ってる。そんなの、お前らのことはどうにでもできるんだぞ、って脅してるみたいじゃないですか。断ったら何されるかわからない」


 それに、その場にいた人たちは皆頷いた。それが、簡単に招待を断れない大きな理由だのだと思う。


「わ、私も」

 大人しそうな眼鏡女子、三ツ花も緊張気味に口を開いた。


「私も、参加しようと思います」



 これで、参加する宣言は、桜草樹以外の全員分だった。



 桜草樹は、顎に綺麗な指を当てて、考え込んでいた。けれど、顔から力を抜いて、柔らかい表情になった。


「そうですか。ありがとうございます」

「参加しないの?」


 勝元が尋ねると、彼女は困ったように微笑んだ。


「まだ迷っているんです。危険があるのは分かっています。それに、もしこれが偽のプロジェクトで、本当に騙されて、利用されるようなことがあったら、桜草樹家の長女が利益目的で非公式の研究に携わったとして、桜草樹の名を失墜させることになりかねません」


 そんなことも考えなければならないなんて。名家の長女は大変だ、と柚はしみじみ思った。


 桜草樹は、「でも」と続けた。


「皆さんの意見を聞いて、決心しました。私も参加しようと思います」

「本当に大丈夫なの?」


 勝元が尋ねると、桜草樹は力強く頷いた。


「両親からは、自分で見て判断するようにと言われているので」

「そっか。よかった」


 勝元が気さくにそう言った。そういえば、彼はいつの間にか敬語を使うのをやめている。誰とでもすぐに仲良くなれる勝元の性格は、こんな状況でも変わりはないようだった。さすがだなあ、と柚は感嘆する。



 そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。皆が一斉にそちらの方を見る。


 入ってきたのは景山だった。景山は、入ってすぐのところで立ち止まった。


「残りの一人が到着したので、お連れしました。準備も整いましたので、少し時間を取った後、寮の方に向かおうと思います」


 景山が、ドアの方に視線を向けた。おそらくそこに、最後の一人が立っている。景山はその人物に軽く頷いて、部屋の中に入るように促した。


「失礼します」


 緊張した声とともに現れた人物を見て、この部屋の誰もが息を止めた。



 これは。


 目を見開く。大きく飛び跳ねた心臓で胸が痛い。


「何で」


 勝元と凪沙も、柚と同じように驚きを目いっぱい表現した顔をしている。



「え?」


 その人物の元々大きい目が、さらに大きく見開かれた。


「どうして、みんながここに……?」



 ドアの前に立っている人物、それは柚たち幼馴染の四人目、蒼柳創(あおやぎつくる)だった。

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