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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第3章 不和と隠し事

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    テレビの報道④

 顔を上げると、集まったメンバーの顔が見えた。皆同じように、戸惑った顔をしていた。


「今日はお付き合いありがとうです。ルリはそろそろ戻りますね」


 ルリが柚たちに背中を向けて歩き出した。柚の身体が、自然とそれを追いかけようとする。身を乗り出し、ソファーに手をつく。何か硬いものが手に触れた気がした。


「ルリちゃん、待っ――」



『――――――!!』


 突然、脳を直接揺さぶるような爆音がロビーを震わせた。



 驚いて、柚は周りを慌てて見回した。皆、柚と同じように周囲に視線を巡らせていたが、ほとんどの人が、すぐに一つの同じ方向を向いた。それと同時に、柚もこの音の出所を理解した。


 この音は、テレビから出ている。


「あの」


 言葉を聞き取ることができないほど大音量の声の隙間に、誰かが発した、意味を持った単語が聞こえた気がした。きょろきょろと視線を動かすと、今まで柚の近くで静かに座っていた三ツ花が、柚のことを見ているのに気が付いた。


 三ツ花の指が、ソファーについた柚の手のあたりに伸びる。何事かと思って、その動きを目で追うと、柚は思わず「あ」と呟いた。


 そこには、テレビのリモコンと、それに触れた柚の手があった。音量のプラスボタンの上に柚の指が載っているのを見て、何が起こったかを理解する。


 これ、私のせいか。


 急いで指を離して、マイナスボタンを押そうとする。焦りで上手く場所が捉えられないでいると、スッと三ツ花の細い指が伸びてきて、柚の代わりにボタンを押した。


 何かに吸引されていくように、緩やかに音が消えていく。テレビの音声は、その言葉が意味を成すくらいの大きさに、一瞬で戻っていった。


「大丈夫ですか?」


 戻ってきたルリが、休み時間中に眠そうにしている友達に言うようなノリでそう聞いた。周囲の音の急激な変化のため、不自然にくっきりと聞こえるその声に、柚は急いで答えた。


「大丈夫! 私がリモコン押しちゃってたみたいで。驚かせてごめんなさい」


 柚は立ち上がると、その場にいる全員のことを見て、何回か「ごめんね」と繰り返して頭を下げた。


 また、やってしまった。

 皆の視線が集まっている。また迷惑をかけてしまった。顔が情けなさと恥ずかしさで熱を帯びていくのを感じる。どうして私はいつもこうなんだろう。


「本当に、迷惑かけてごめんね」

 もう一度、深く頭を下げる。すると、突然誰かが吹き出した。


「またユズかー。ホント、面白いな」

 顔を上げると、天瀬が、その言葉通り面白そうに笑っていた。

「毎回めっちゃ落ち込んだ顔してさー。もう、ユズのそういうのには慣れたし、誰も気にしてないでしょ」


「まあ、今回のことだって、どうせそんなところだろうなって思ったし」

 櫟依も呆れたようにそう言った。

「もう俺たちの中じゃ、白葉(しろば)さんと蒼柳はそういう認識だよ」


「ドジっ子属性ってやつですか」

 ルリもそう続けた。それに、皆が頷いた。


 天瀬たちの会話を、柚はぽかんとした顔で聞いていた。うざったがられたりすることも覚悟していたけれど、正直、そんなふうに言われるのは予想外だった。実際、これと同じようなことを学校でやってしまったら、白けることは確定なのに。


 そうか、私は、ここではもうそういうキャラとして認められているのか。

 嬉しいことかと聞かれたら、素直に頷けないけれど、安堵に似た気持ちが柚の心に広がった。


「……ありがとう」

 柚は笑ってそう言った。柚の言葉に、天瀬がニコッと笑った。


「ま、そういうところが可愛いんだけどね」


 うわ……。


 顔を逸らす。すると、創と目が合った。創は、なぜか困惑した表情をしていた。


「僕は、ドジっ子属性、なの?」

「……らしいね」

「そう、なんだ。えっと、……え?」


 創は、かなり戸惑った表情をしていた。大方、自分の体質はそんな可愛らしいものではないはずだ、とでも考えているのだろう。


 そういえば、と柚は冷静になった頭で思う。


 テレビの音量を大きくしてしまう前、ルリに聞こうとしていたことを思い出す。ルリを見ると、ルリは柚の視線に気が付いて「何ですか?」と首を傾げた。柚は「ううん。何でもない」と手をひらひらと振った。


 もう、聞ける雰囲気ではなかった。本当は気になるけれど、今無理に聞くことでもないだろう。また凪沙や勝元に会ったときにでも聞いてみよう、と柚は思った。


 会話がふと、途切れた。テレビのアナウンサーの声が、そこに滑り込むように流れる。



『続いてのニュースです』



 皆の視線が、自然とテレビ画面に集まる。今度もまた、殺人事件や誘拐事件といった物騒なニュースが並べられていた。しかし、先ほどと違うのは、魔法使いが絡んでいないであろう事件だというところだった。


「魔法使い絡みの事件じゃないのも、こんなに起きてるんだね」

 柚が言うと、三ツ花が「そうですね」と同意した。アナウンサーは今、D県で起こった殺人事件について読み上げている。


「D県って、昔からよく殺人事件が起きてるよね」

「そうだっけ」


 創の言葉に、柚は聞き返した。創は「うん」と頷いた。


「クラスの子が話してたのを聞いたことがあるんだ。結構定期的に事件が起きていて、それぞれの事件の関連性は特に言われてないけど、実は同一犯による連続殺人事件だとか、その土地の呪いで人が死んでいるんだとか、色々」

「何か、いかにもって感じだね」


 高校生って、案外そういうネタ好きだよな、と柚は思った。


「でも、犯人は捕まってたりするんじゃないの?」

「それが、ほとんどの事件でまだ捕まってないらしくて。そのせいで、そういう都市伝説みたいなものが作られたんだと思うけど」


 なるほど。


「D県って確か、タカシが住んでる県じゃなかったっけ」


 天瀬が櫟依の方を見た。櫟依が「ああ、うん」と答える。


「それ、天瀬に話したっけ」

「初日の自己紹介のときに聞いた」

「よく覚えてたな、そんなこと」

「まーね。俺、ちゃんと全員の覚えてるよ。天才だからね」

「怖」


 櫟依の呟きに、天瀬が楽しそうに笑った。


「連続殺人とか、呪いだって。タカシ、怖くないの?」

「……別に」


 少し天瀬から顔を背ける櫟依。その反応に、一瞬驚いた顔をした後、天瀬はニヤッと意地の悪い笑顔を浮かべた。


「あ、もしかしてそういうの苦手?」

「いや、別にそういうわけじゃ」

「えー、意外―。何それ馬鹿らしい、とか言うのかなって思ったのにー」


 もごもごと答える櫟依を、ここぞとばかりにからかう天瀬。何だかすごく既視感がある。以前は櫟依の立場が逆だったけれど。


「怖いとかそういうのじゃなくて、D県って言っても、俺の住んでるところと今まで事件が起こった場所、結構離れてることが多いから、そんなに興味がなかっただけ」


 言い訳のように、覇気のない声でそう言う櫟依。前に、中梛が血を付けて現れたことへの反応を見たときも思ったけれど、櫟依はやはり、こういう話が苦手なのだろう。


「それに、別にD県だけが治安の悪い場所ってわけじゃないから」


 ほら、と櫟依は画面を指さした。


「J県の誘拐事件。これも最近よく起こってない?」

「確かに、時々見るかも」

 創が頷いた。


「J県は、穂乃(ほの)チャンが住んでるところだよね」

 天瀬が三ツ花を見ると、三ツ花は「は、はい」と小さな声で返事をした。本当に全員の出身地を覚えているのか、と柚は純粋に驚いた。


 あと、いつの間にそんな呼び方になったんだ。今まで『三ツ花サン』だったのに。


「これは、穂乃チャンの家からは近いの?」

「はい、少し……」

「そうなんだ。気を付けてね、穂乃チャン女の子だし」

「あ、ありがとうございます……」


 戸惑いながら、首を引っ込めるようにして顎を引く三ツ花。三ツ花さんを困らせないでほしい。あと名前呼びすぎ。


「ユズ、どうしたの? 嫉妬?」


 違うわ。


「でも、穂乃は本当に気を付けた方が良いですね」

 ルリが比較的真面目な顔でそう言った。


「J県には、倫理観をどこかに捨ててきてしまった感じの魔法研究者が集まる研究所があるって噂です。素性や研究内容は分からないので何とも言えないですが、誘拐事件のいくつかがその人たちの仕業である可能性もゼロじゃないですからね」


「そう、なんですね」

 三ツ花が弱々しく呟いて、俯いた。心なしか、顔色が悪い。それを見て、柚の心が少しざわついた。


 やっぱり、不安だよね。


 柚は意を決して、スッと息を吸い込んだ。


「大丈夫!」

 柚の声に驚いて、三ツ花が顔を上げた。三ツ花と目が合って、柚はニコッと笑った。


「何かあったら、私か、誰か他の人が助けに行くよ」

「雑だな」


 櫟依にツッコまれるが、無視することにした。柚はもう一度、三ツ花に「ね」と笑いかける。


 三ツ花は、何度か目を瞬いた後、困ったような表情のままではあったけれど、それでも柚に対して「ありがとうございます」と笑ってくれた。


「さてと」


 ルリがもう一度箱を持ちあげた。


「ルリは今度こそ行くです。皆さんも、事件に遭わないよう、早く帰ってくださいね」

「うん、お疲れさま」


 小さな歩幅で歩いていくルリの後ろ姿に挨拶をして、その日は柚たちも解散した。

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