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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第3章 不和と隠し事

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    テレビの報道③

『本日のニュースをお伝えします。昨日夕方、R県T市で、今月二回目となる魔法使いによる誘拐未遂事件、及び傷害事件が起こりました』


 流れてくる綺麗な音声。液晶画面に、見覚えのある場所の映像が映し出される。


「おー、うまい具合にできたですねー」


 その様子を確認して満足気にそう言うと、ルリは「ね、柚」と柚を振り返った。ソファーに座ってそれを眺めていた柚は、ルリに対して「そうだね」と微笑んだ。



 平日の夕方。その日のバイトを終え、『家』に戻って来たところをルリに呼び止められた柚たちは、その『家』のロビーに置かれたソファーで、少しの間くつろいでいた。


 ルリは、どこかにしまわれていた古いテレビを見つけて修理したらしく、その設置と動作の確認を手伝ってほしいということだった。といっても、柚は何もしておらず、天瀬と藍代の二人がテレビをロビーまで運んだ後は、ルリが何か作業をしているのを皆でただ見守るだけだったけれど。


「いやー、上手く修理できて良かったですよ。何かここに良い感じのテレビ欲しいなーって思ってたですから」


 ルリはふー、と大きく息を吐くと、手の甲で額を拭う動作をした。とても可愛らしい。


「烈、昴琉(すばる)、運んでくれてありがとうです。ルリ一人じゃ運べなかったです」


 ルリは二人に、花のような眩しい笑顔を向けた。それに、天瀬は「どーいたしまして」とルリの頭を撫で、藍代は微かに顎を引いた。あんな笑顔を向けられたら、自分だったら可愛すぎて挙動不審になってしまうのに、と柚は思った。


「重かったですか?」

 ルリが、頭を撫でる天瀬を見上げた。天瀬は「そんなに」と答えた。

「でも、ムラサキか勝元センパイがいたら、運ぶの頼めたんだけどなー。あの二人なら、これくらい一人で運べそう」


 天瀬の言う通り、今日は中梛(あつな)も勝元も、そして凪沙もいなかった。でも、中梛なら一人で軽々運べたかもしれないけれど、勝元が一人でテレビを運べたかというと、さすがにそこまで力持ちではないから多分無理だったと思う。


「それにしても、どうして急にテレビを置こうと思ったの?」

 天瀬が尋ねると、ルリはすぐに「何となくですよ」と答えた。


「でも、強いて言うなら、柚の家のテレビが壊れてて、ずっと見られない状態が続いているって聞いたので、こっちでは見られるようにしたいなーって思ったからですよ。スマホを持っていない柚にとっては、テレビは大事な大事な情報源ですからね」


「え、ユズ、家にちゃんとしたテレビ無いの?」

 天瀬が目を丸くした。柚は素直に「うん」と答える。


「一年くらい前までは使えたんだけど、急に壊れちゃって。買い替えるお金もないし、あったところでそこまでゆっくりテレビを見る時間もないだろうし、っていうことで、そのままになってるんだ」


 もしかしたら、湊に頼んだら直してくれるかもしれないけれど、柊人(しゅうと)が直々に頼むことをしない限りは引き受けてくれないだろうし、引き受けてくれたとしても変な条件をつけられそうな気がする。それに、家に彼が来たときに蓮人と鉢合わせたりしたら、何が起こるか分からない。


「じゃあ、ずっとテレビ見てないの?」

「うん」

「へー。何か不便そうだね」


 天瀬が他人事みたいにそう言った。実際、他人事なんだけれど。


「じゃあ、ルリが柚の家のテレビ、修理しに行ってあげましょうか?」

 てけてけと小さい歩幅で柚に近づくと、ルリはそう言った。それに、柚は「うーん」と唸った。


「そうしてもらえると嬉しいけど……」


 柚は、ルリの服装に目を遣った。


「ルリちゃんは、その、作業するときも、メイド服なの?」

「はい」

 柚の問いに、ルリは元気いっぱいに答えた。


「ルリはいつでもどこでも、どんな状況でも、常にメイド服ですよ。なんて言ったって、ルリはメイドですからね。メイドがメイド服を着ないなんて、カレーにカレールウを入れないのと同じです。作業のときだって例外ではないです」

「そっか……」


 とすると、ルリは白葉家に来るときも、メイド姿ということになる。事情を知っている蓮人や柊人ならまだしも、百合(ゆり)に見つかった場合、メイド服を着た見知らぬ女の子を家に連れ込んでテレビの修理をさせているという状況を、どう説明すればいいのか分からない。


「まあ、また今度、いつか、頼むかもしれないから、そのときはお願いするね」

 柚がそう言うと、ルリは少し不思議そうな顔をしながらも、「はい。いつでも頼ってくださいね」と答えた。


 そして、ルリちゃんって本当にメイドだったっけ、という疑問は、今は飲み込んでおいた。柚の認識では、メイドと言うのは口だけで、メイドのコスプレをした機械いじりの得意な女の子なのだけれど。



「それにしてもさー」


 と、天瀬がおもむろにテレビの画面を見た。険しい顔でニュースを読み上げるアナウンサー。その横には、魔法使いが起こした事件についての項目が、いくつも並んでいた。


「最近、こういうニュース多いよね」

「そうだな」


 先程からテレビを眺めていた櫟依が、それに答えた。


「ニュース聞いてたけど、今まではT市ばっかりだったのに、最近はこの会社の近くでも起きてるし、その件数も増えてる。死者も何人か出てるみたいだし」


「危ないねー。この魔法使いたちは何考えてこんな事件起こしてるんだろうねー」

 先ほど柚に対して言ったのと同様に、他人事のように天瀬はそう言った。


 櫟依の言った通り、最近、魔法使いによる傷害、殺人未遂事件や誘拐が目に見えて増えている。それは、柚の住むT市だけでなく、他の地域にまで広がってきている。警察が犯人の魔法使いたちを捕まえようと動いているが、今までと同様、犯人の特定もできておらず、まだ誰一人として捕まえられていない状況だった。


「ここまでいろんな地域で事件が起きてるってことは、犯人は同じ人たちじゃなくて、違う人がそれぞれ別に行動してるって感じなのかな」


 柚の隣にいた創が、画面を見つめながらそう言った。流れているニュース番組では、魔法使いによる事件が、特集として一つのパネルにまとめられていた。創の言葉に、ルリが「そうですね」と答えた。


「とても大きな魔法使い集団が動いている可能性もありますし、T市の事件に便乗して別の人が動いている可能性もあると思うですよ。転移魔法を使える魔法使いも、もちろんいますので、同じ人があちこちに移動することだって可能ですし、実は人間が魔法使いを装って事件を起こしているのかもしれません」


 画面の向こうの、深刻な顔で事件や魔法使いについて解説するアナウンサーをぼんやりと眺めながら、ルリは淡々と述べた。


「でも、普通の人たちにとっては魔法使いなんてみんな悪いやつだっていう認識ですから、どの場合でも、誰が事件を起こしていても、『悪いのは魔法使いだ』って一括りにされて終わりだと思います」


「ひどい……」

 呟いて、創はハッと口を噤んだ。思わず出てしまった言葉を誤魔化すように「あ、えっと」と慌てて言葉を続ける。


「早く、犯人が捕まるといいね」

「ですね」

 ルリは、創の発言を気にも留めない様子で頷いた。


 魔法使いを擁護するような発言をしてはいけない、というのが世の中の不文律だ。そういった発言をすると、大抵は特に問題にならずに流されるけれど、気にする人がいた場合、言った当人が周囲から疎まれてしまい、魔法使いだと疑われてしまうことすらもある。極端に言えば、反逆者とみなされてしまう。


 創の呟きは、人によってはそのように取られてしまう言葉の一つだった。しかし、さすがに魔法研究者というだけあって、ルリは気にしていないようだった。


 周りをそっと見回してみると、集まっているメンバーも、何となく気にしてはいるものの、特に嫌悪感も蔑みもない表情をしていた。柚は内心、ため息を吐いた。


「犯人、見つかるのかなあ」

 天瀬が頭の後ろで腕を組んだ。

「魔法使いってさ、人がいないところとかに隠れて生きてる人もいるけど、大体はフツーの人間と同じように生活してるんでしょ? 見つかんなくない?」


「そうですねー。人間界に残った魔法使いは、百年前から今までずっと、自分が魔法使いだと周りに知られないようにうまく隠して、普通の人間のように生活してきたわけですし、見た目じゃ見分けられないですから、見つけるのは難しいかもしれないですね」


 ルリは、テレビの設置に使った道具を片付けながらそう言った。


「このまま被害が拡大したときには、世間の魔法使いに対する反感も大きくなると思いますし、警察も躍起になって、普通に人間に紛れて暮らしている魔法使いやその関係者を片っ端から見つけ出すとか、そういう荒々しい捜査を始めるかもしれないですね」


「へえー」


 気の抜けた相槌を打つ天瀬。その様子に、ルリは天瀬を振り返り、ぷくーっと頬を膨らませた。


「何気楽そうな顔をしてるですか。そうなった場合、ここにいるみんながその危険に晒されることになるかもしれないんですよ。ルリは魔法研究者だから、見つかれば確実に捕まってしまうです。その場合、烈たちだってタダじゃ済まないですから、割と深刻な問題なんですよ」


「あ、運命共同体で、共犯者、ってやつ?」

「……まあ、そうです」


 覚えてたんですね、とルリが小さく呟いた。


 運命共同体で、共犯者。確かそれは、初めて『道』を見たときに、ルリが言っていたことだった。あのときのゾッとした感覚が蘇ってくる。


「最近は、ネットとかで魔法使いっぽい人たちの情報を晒したりする人たちも出てきてるみたいだし、警察とかよりも先に、世間の人たちがそういう動きをし始めそうな気もするけど」


 櫟依が大きくため息を吐いた。


「さすがにそれに巻き込まれるのは嫌だなー」


 櫟依の嘆くような言葉に、皆、苦い顔で俯いた。


 今もどこかから監視されているんじゃないかという恐怖と不安が、柚の胸を圧迫する。もしも本当にそうなった場合、柚は、柚たちは、どうやって生きていけばいいのだろう。


 皆が口を閉ざした中、ルリがふーっと大きく息を吐いて、道具をまとめた箱を重そうに持ちあげた。


「まあ、それもこれも、事件を起こしている魔法使いたちを捕まえるか、『扉の番人』がちゃんと役割を果たせばいい話なんですよ。事件を起こしているのなんて、ほとんどが新しく人間界に入ってきた魔法使いたちだろうって、社長も言ってたですし」


 その言葉に、柚は耳を疑った。



 新しく人間界に入ってきた、って、どういうこと?



 柚は、いつもの風景の中にある、空に浮かんだ『扉』を頭の中で思い描く。

 二つの世界間の移動ができなくなった後も、名残のように、何もない空にぽつんと取り残された『扉』。あれが少しでも開くところを、柚は一度だって見たことがない。



 人間界と魔法界を繋ぐ『扉』は、あの『大災厄』の後、もう完全に閉ざされたのではなかったのか。



 顔を上げると、集まったメンバーの顔が見えた。皆同じように、戸惑った顔をしていた。

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