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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第2章 日常と変化

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    魔法研究者④

「あ、そうだ。これ、せっかくだから食べて」


 凪沙が、机の上に忘れられたように置かれたお菓子をすすめた。柚は詳しくないから分からないけれど、包装紙で包まれた、少し高そうな雰囲気のお菓子だ。柚たちはそれぞれ「いただきます」とそれを手に取った。


「そういえば、凪沙は湊さん相手だから良いとしても、創と柚は、五科工業のプロジェクトのこと、家族にどうやって説明してる?」


 勝元が柚たちの方を見て尋ねた。


「説明、っていうより言い訳って感じか。ここから会社行くの、普通だったら結構時間かかるだろ。毎日軽々行ってたら、さすがに怪しまれるんじゃないかと思うんだけど」


「あー、うん。うちの場合、百合は本当に電車で毎日行ってると思ってるみたいだよ。柊人は、多分怪しんでると思うけど……」


 柚は苦笑いをした。大体、あんな長距離を柚が毎日無事に帰ってくること自体、おかしいことなのだ。その時点で怪しまれてしまうのは避けられない。


「でも、まだ特に何も聞かれてないから、今は何とかなってる」

「なるほどな」


 勝元も苦笑いをした。そして、視線を創に移した。


「創は?」

「僕は、研究に参加するってことは話したけど、会社でのアルバイトに参加してることは話してないよ。話せばきっといろいろ心配かけると思うし。会社にいる時間は、学校で自習してることにしてる」


「あ、悪い子だ」

 凪沙が言うと、創は「しょうがないよ」と少し眉を下げて笑った。


「『道』のことを聞いたら、絶対に反対されると思うから、まだ誰にも話してない」

「朔也さんにも?」

「うん」


 勝元の問いに、創は頷いた。


 以前、蓮人と相談したときにも名前が出されたが、創には、上に一人、蒼柳朔也(あおやぎさくや)という兄がいる。年齢は蓮人の一つ上で、現在は病院を継ぐべく、T市から離れた大学の医学部で勉強している。


 蒼柳家は、彼と創、新の三人兄弟。ちなみに、この兄弟は三人とも、同じ有名な中高一貫の私立進学校に進学した、出来の良いエリートたちだ。加えて朔也は高校時代、主席だったし、創は現在進行形でそれだった。恐ろしい。


「意外だな。『道』のことも含めて、いろいろ相談してると思ってた」

「迷ったけど、こういうのに一番反対するの、兄さんだと思うからやめておいた。兄さんにはプロジェクトの存在自体話してないよ」

「それは……」


 朔也の顔を思い浮かべながら、柚は言った。


「バレたら結構しっかり怒られそうだね」

「うん……」


 創は力なく答えた。


「そうなる前に、一度ちゃんと話しておいた方がいいよね」

「うん、それが良いと思う」


 答えながら、柚はふと疑問に思った。



 創は、『道』のことだけでなく、プロジェクトの存在自体を朔也に話していないと言った。つまりそれは、参加するかどうかを決める段階でも、彼に何も相談しなかったということだ。理由は、反対されるから、ということらしいけれど。


 病院での研究を手伝っていることもあり、朔也の魔法関連の知識は、前に相談した蓮人よりもずっと多い。だから、相談相手としてはこれ以上にないというのに、どうして創は相談しないことを選んだのだろうか。どうして参加を反対されることを、それほどまでに心配しているのだろうか。


 以前、招待状を受け取ったとき何を言われたのか、と凪沙が尋ねたときの創の態度も気にかかる。もしかしたら創は、朔也に関することで脅されたのかもしれない。だから、心配をかけたくないからと、話さないことを選択したのだろうか。



 そんなことを考えている間に、今度は創が勝元に尋ねた。


「勝元くんは、お父さんとお母さんにどうやって説明してるの?」

「俺も創と同じように、研究に協力してるってことだけ話したよ。書類は見せたから、アルバイトの存在は知られてるけど、参加はしてないことにしてる。だから、『道』のことは話してないし、会社にいる時間は、俺の場合は別のところで働いてることになってるよ」


「上手く誤魔化せてるの?」

 凪沙が聞くと、勝元は「ああ」と頷いた。


「働いてる場所とかも特に聞いてこないし、俺が何してようが気にしないって感じなんだよな、あの二人」

 勝元自身、特に気にしていないような気楽な口調でそう言った。


 勝元の両親は、二人とも大らかな人柄で、柚たちにも気さくな態度で接してくれた。そして、一人息子である勝元のことを本当に大切にしているという印象だった。彼の行動についてとやかく言わないのも、きっとその意思を尊重して、信頼しているからなのだろう。


「でも、多分バレたらまずいだろうな、とは思ってる。魔法絡みのことに関わってるって知ったら、本気で怒られる。そういうのだけは特に厳しいんだよな」

「まあ、それは当然だよね」


 凪沙は冷静に言った。


「話さないって決めてるなら、とにかく『道』を使うところを見られないようにすることが大切だね。どういう仕組みかは分からないけど、『道』は私たち自身が近づいたときにだけ現れるから、バレるとしたらそのときだと思う」

「そうだね」


 柚は、自分が使っている『道』について思い返してみた。柚の『道』は、家の裏庭に通じていて、森の木々の間に、目立たないように存在している。近くに他の家もないし、他のメンバーと比べて、誰かに見つかる危険は少ないだろう。


 そう思うと、勝元の家のような、住宅街にある普通の家だったら、目立たないところに設置する、というのにも限界がある。彼の『道』がどこに設置されているのかは分からないけれど、使うときにはかなり注意が必要そうだ。


 他のメンバーの『道』は、『家』からどこに繋がっているのだろう、とふと思ったとき、廊下から二人分の軽い足音が聞こえてきた。気が付いて扉の方を向くと、ちょうど柊人と新がリビングに足を踏み入れるところだった。

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