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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第2章 日常と変化

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    『特殊能力』と体質⑥

1話分の文字数配分ミスりました。とても短いです。すみません。

「はー、終わったー」


 終了時刻を差した時計を見上げて、仕事を終えた達成感と共に息を吐き出すと、柚は大きく伸びをした。


「柚、お疲れさま」

 創が言った。新しくできた傷を覆って、少し血が滲んだ頬の絆創膏が痛々しい。やんちゃ坊主みたいになった創の姿に申し訳なさを感じながら、柚も「お疲れさま」と返す。


「創、昼休みのときはありがとね」

「昼休み?」

「ほら、私の分、食べてくれたでしょ。創が食べてくれなかったら、きっと終わらなかった」

「ああ」


 創は、特に気にしてない様子で、柚に対してにこりと笑った。


「いいよ、そんなこと。まだお腹すいてるなって思ってたし」

「……そっか」


 創はいつだって優しい。相手に気を使わせないような言葉を、すぐに選び取ることができる。柚は、創の目をしっかりと見て、もう一度「ありがとう」とお礼を言った。


「あ、それに」


 柚は顔の向きを変えて、近くに立っていた三ツ花を見た。彼女は、少し驚いた顔をして、柚を見つめ返した。


「三ツ花さんも、ありがとう。おかげで何とか間に合ったよ」

「あ、いえ、私は何も……」


 三ツ花は謙遜するように首を振った。


 三ツ花が先導してくれた近道は、目立たない細い脇道を通るルートだった。その距離は直線距離に近いみたいで、今まで柚たちが使っていた、少しだけ遠回りになる道で行くよりもずっと早く会社まで戻ることができた。途中少し走って、案の定一人転んだけれど、何とか一分前くらいに着くことができ、景山に遅刻を詫びることはなかった。


 柚のせいで他の四人も叱られてしまったらと、気が気でなかったけれど、三ツ花のおかげでそれを避けることができて、本当にほっとした。感謝しかない。


「それにしても、三ツ花さん、よくあんな道見つけたな」

 勝元が三ツ花に近づいて言った。

「まだここに来て三日しか経ってないし、一緒に移動するときはいつも使ってる道しか通ってなかったのに」


「あ、その」

 三ツ花は、困ったように微笑んだ。


「前に、忘れ物をして、一人で取りに戻ったことがあって。そのときに、偶然見つけて」

「そうなんだ。すごいな」

 勝元は感心して言った。

「おかげで助かったよ。ありがとう」


 その言葉に、三ツ花は、困ったような顔を保ったまま頷いた。褒められ慣れていないのかもしれない。


 それにしても、三ツ花さんが近道を知っているなんて意外だな。


 三ツ花の顔を見つめながら、柚は思う。三ツ花は、どちらかというと近道なんて探さずに、初めに紹介された慣れた道を使うタイプかと思っていた。柚は、三ツ花に対する認識を密かに改めた。


「本当にありがとう、三ツ花さん」

 柚は三ツ花に、もう一度しっかりとお礼を言った。



 皆がそれぞれ更衣室に移動していく。柚もそれにならって着替えに行こうとしたところで、ふと、言わなければならなかったことを思い出す。柚は、特に急ぐ必要もないけれど、慌てて周りを見回した。凪沙を見つけて、「凪沙ちゃん」と声をかける。


「今日はこの後バイトないから、時間あるよ」

「うん」


 凪沙は軽く顎を引いた。


「じゃあ、この後すぐ、私の家に行こう。創と勝元にも後で言っておく。二人とも、多分行けると思う」

「うん。お願いします」


 柚は軽く頭を下げると、凪沙と共に更衣室に向かった。

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