参加者と従業員②
「これは、何の料理……?」
柚は、食堂の机に並べられた皿を見て言った。
ルリに言われた通り、柚たちは十分後に食堂に集まった。食堂は、入って左側にカウンター式のキッチンがあり、右側には、食事をとるスペースとして、長机が四つほどくっつけられた島がいくつか並んでいた。
その机に並べられた料理を囲んで、楽しくパーティー気分――のはずだったけれど。
「何って、カレーですよ。若い子ならみんな大好きなカレーです」
何を当たり前のことを、と言いたそうな顔でルリは答えた。
「カ、カレー……」
柚は目の前の皿を見つめた。そこには、毒々しい紫色の、粘度の高そうな液体が溢れそうなほど盛り付けられていた。
「こんなの漫画とかアニメでしか見たことないんだけど……」
勝元が引きつった顔で言った。それに、その場にいた全員が大きく頷いた。
本当に魔女が住んでたよ。
「何ですか、その顔は。美味しいですよ、多分」
頬を不機嫌そうに膨らませたルリは、スプーンを手に取ると近くの皿から液体をすくい、一番ルリの近くにいた柚に差し出した。
「え、ちょっと遠慮します……」
「ダメです。ほら、あーん」
目の前に紫色が迫る。嗅いだことのない臭いが鼻を刺す。救いを求めて凪沙を見ると、笑顔で応援された。
ルリを見ると、とても真剣な顔をしていた。それを見たら、もう後に引けなくなった。
しょうがない。
生唾を飲み込むと、柚は決死の覚悟でスプーンを口に入れた。
「……」
ぎこちなく、咀嚼する。うん、これはなかなか。
柚は、感想を待っているルリに微笑んだ。フッと身体から力が抜ける。
「柚!?」
倒れかかる柚を、慌てて勝元と凪沙が支えた。
「今、小学生時代の二人が見えた」
「ヤバいやつだよ、それ」
「こうなると思った」
おい、ならどうして止めなかったんだよ、凪沙ちゃん。
「これ、ルリちゃんが作ったの?」
柚の様子を近くで見ていた天瀬が聞くと、何故か満足気のルリがうんうん、と頷いた。
「正確には、ルリが作ったロボットが作ったものです」
「ロボット?」
「ほら、あれです」
ルリが奥のキッチンを指さした。そこには、大きな腕の付いた、微妙に人型っぽいロボットが、小刻みに揺れながら立っていた。危険な匂いしかしない。
「皆さんの生活に備えて、料理専用ロボットとして作っておいたものです。結構優秀だと思うのですが……」
ルリは問題のロボットに近寄っていくと、その不自然な動きに首を傾げた。
もし『家』に住んだら、毎日この料理を食べることになるのだろうか。
柚たちは、乱雑にロボットを叩くルリの背中を見て、心の中で嘆いた。
「まさか、ここまでとは」
あきれ果てた顔でそう言うと、景山はスマホを取り出した。画面を操作して、誰かと通話を始める。
「もしもし、景山です。少し頼みたいことがありまして。『家』の食事についてなんですけれど。もしよければ今から――はい、よろしくお願いします」
ピ、と電話を切る音がした。
「今、代わりの人を呼びました。私の知り合いですが、料理の腕は確かですよ」
「いいんですか。この『家』の存在は、なるべく他の人に知らせないようにということでしたけれど」
「問題ないですよ」
心配そうな桜草樹に対し、景山は答えた。
「今呼んだのは、私の友人であり、社長の奥さんです。まあ、社長夫人、という感じでしょうか」
え、社長夫人?
柚たちは顔を見合わせた。