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牢獄宇宙船【地球号】

 土曜日は、一週間の中でかなり好きな曜日だ。明日は日曜日で、大学を含む学校が無いからこそ、罪悪感なく家に居座ることができるというもの。



 ただし、今日限りは、弱った身体にむちを打って、ベットから這い出て、玄関のドアをこじ開ける。「家」という一種の牢獄から這い出たゆずるが見上げるは、曇天の空模様。灰色一色で、今にも雨が降り出しそうな予感を漂わせている。



――曇り空は、あまり好きではなかった。



 なぜなら、自分が「地球」という果てしなく広大な牢獄に閉じ込められているのだと自覚させられてしまうからだ。



 あの青く、無限に高く自由な空を拝めないこと、残念に思う。



 けれど、これが最後に見る曇り空なのかもしれないと思うと、しみじみとした感傷があった。





――明日は、我が短い生涯の終点。



 ゆずるは、玄関の軒下で、スマホを開いた。夏目から、さっそくメッセージが送られていることを確認する。




――――メール――――



夏目:家出た?


夏目:わたしは最寄り駅にいる


ゆずる:え、もう最寄り駅?


夏目:家の最寄り駅ね(雛菜駅だよ)


ゆずる:焦った……


ゆずる:もう着いてるのかと思った


夏目:勘違いした?


夏目:ごめーんねw


ゆずる:今家でるとこ


夏目:駅で待ってるよ


ゆずる:先に行っててよ


夏目:せっかくだし


夏目:一緒に行くべし


夏目:二人なら道迷っても心強い


ゆずる:わかった


ゆずる:急いで向かう


夏目:ゆっくりでいい


夏目:事故ったらたいへん


ゆずる:ありがとう、ラジャー


夏目:ww


夏目:体調はどう?


ゆずる:上々


夏目:それはよかった



――――――――――――――――




 バスに揺られながらも、夏目とのメールのやり取りに夢中になっていると、駅近くのバス停で降りそびれそうになった。朝早いので、スーツを着た人たちが「グンタイアリ」のようにひしめき、闊歩していた。



 土曜日に出勤の人には、頭が上がらない。


 自分は、こんなに心安らかな日だというのに……



 スーツという「囚人服」を着て、会社という資本主義と官僚制の具現の「檻」に囚われていると考えてみると、ぞっとする。22の歳(つまり、4年制大学卒業の歳)まで生きたら、自分もこの集団に飲まれ、順応してしまうのだろう……



 さて、夏目はどこかと、ゆずるは周囲をきょろきょろとしてみる。しかし、見当たらない。分かりやすい目印である灯台を模した像の前か、それとも、購買の前か……いずれにも、夏目の姿を確認することができなかった。



 メールで『今駅に着いた、どこいる?』と聞いてみると、『西口看板の下』と、夏目からの素早い返信があった。



 言われた通り、西口の縦看板の方向に振り向くと、そこには、確かに夏目の姿があった。


「よ」


 夏目……?らしき人は、手をぴょこっと挙げた。


「な、ハルカ……?おはよう……」



 また「夏目」と苗字で呼びかけて、慌てて声を引っ込めた。そういえば、彼女とは名前で呼び合う約束を交わしていた。



 目を疑った。この人が、果たして本当に、夏目なのかと。


 「真っ黒」という印象が強い、おしゃれなファッションだった。黒髪は長く、ツインテールの形に結ばっている。黒いマスクで口元を隠していて、クマみたいな厚い黒シャドウが、瞼に描かれていた。黒基調の薄手のTシャツと灰色のミニスカート、黒のニーソックスに黒の厚底のブーツ……とにかく、暗色系の色の塊で「真っ黒」だった。



 これは、いわゆる【地雷系】ファッションなのでは。



 高校で見た夏目とは、外見の印象がかけ離れ過ぎていて、わが目、人違いを疑った。


「人違いかと思った……」

「でしょ?わたしの趣味。かわいい?」

「うん。いえす」



 低い声で言った夏目に対して、首もとを指で掻く癖が止まらなかった。少々の困惑を隠せずにいながら、「かわいい」と言って欲しそうに見てくる夏目に応えてみせた。



 夏目は、これまた黒い鞄と、それから白い袖や裾の白レースを左右にふりふり揺らしている。


「ゆずるも、いい方向に変わった。眼鏡、いらないの?」

「コンタクトだよ。十分見える」

「わたしは、今のゆずるのほうが良いな」

「ごめん、普段はおしゃれしてないし、眼鏡もかけてるよ……眼鏡のほうが、圧倒的に楽だし」

「同じく。わたしも、普段は眼鏡だよ」

「だよね」

「うむ」



 今日はお互い、普段とは違ったオシャレをするために、眼鏡を置いてきたことに、共感の共鳴をした。



 しかし、よくよく俯瞰して見たら、自分も黒衣装だなと思う、ゆずるであった。


 黒のオーバーサイズの長ズボンを履いて、その上には無地の黒のシャツ、極めつけとばかにりに黒のマスクをつけているゆずるは、また首もとを掻いた。



「さて、行こうか」と駅の構内を、右手に持ったスマホで指した夏目の背中を追うようにして、一度こくりと頷き、ゆずるも後に続く。



 過去に言うところの「憂鬱の箱舟」に揺られて、夏目とゆずるは、席に隣り合って座って、目的地である水族館の最寄り駅を目指した。




――周囲には、驚くほど同一のスーツを身に着け、そして同一の虚ろな目をした老若男女が、ひしめいていた。


 そんな人の群れに囲まれて、土曜日だというのに、少し、憂鬱な気分を誘われた。





 

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