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第1章 [8]

 


 私が騎士団詰所に通い始めてふた月目も中ほどという頃、父上が私をアンハードゥンド家御用達の工房に連れて行ってくださった。

 工房までの馬車の中で、父上にしばらく聞きそびれていたことを聞いた。


「父上、初代辺境伯様はどうしてお名前がふたつあるのでしょうか?」


「ああ、サティは知らなかったのだな。

我がアンハードゥンド家は、初代様が厄災級の魔物を倒したことで当時の国王陛下より辺境伯爵の位を戴いたことは知っているな?その時に初代様は国王陛下から新しい御名も賜ったのだよ。

我が家は、辺境伯爵位を賜る以前から代々、我々が守護神様とお呼びさせていただいている神様と、その配下の神様方を祀り、そのお世話をさせていただいていたのだ。それは今も変わらず、アンハードゥンド家当主が代々神殿の守り人も継承している。

しかし神様の御用をさせていただいているとしても、言ってみれば一般人だった訳だ。当時の国王陛下は、初代様が周りの貴族達から蔑まれることを憂慮なされ、国王の名において初代様にアルフォンスという御名を下賜してくださったのだ。周りの貴族への牽制という意味も込めてな。」


「なるほど。そういう事だったのですね。父上、もうひとつ、お伺いしたいことがあります。守護神様のお名前を、お伺いしてもよろしいのでしょうか?」


「うむ。それについては、お前が15才になるまでは、まだ教えてやれないのだ、すまないな。」


「大人になるまでは、ということですか?」


「そうだ。15才を迎えた朝、お前を神殿にもう一度連れて行く。守護神様についてはその時に教えるから、いまはまだ早いと思いなさい。」


「分かりました。ありがとうございます。」

 頭を下げたその時ちょうど到着したらしく、頭を下げたのと馬車が停まった重力で私は父上のお腹めがけて体勢を崩してしまった。


 父上は私を抱き止め、笑いながら私の頭をポンポンと撫でてくださった。楽しい道中だった。


 工房には10人ほどの匠が作業していて、親方が私たちを出迎えてくれた。

 作業している人達の横を通り抜けて奥の部屋に入ると、そこは様々な武器のサンプル小屋だった。

 小屋と言っても綺麗に整理されており、事前にこちら側から連絡していたのだろう、私に合いそうなサンプルが作業台の上に並べられていた。


 私はひとつひとつ手に取り、構えたり素振りしてみたりして、感触を確かめてみた。その中でひとつ、見た目は質素だが重厚感があり、しかし他に比べてすごく軽い剣があった。片手でも素振りできるほどだった。

 私はそれが気に入ったのだったが、多分すごく値が張る物なんだろうと思われた。武器は値段が高い物はものすごく高いと聞いたことがある。私にとっては初めての武器で、扱いが良くないかもしれない。初心者向けの武器の方が良いのかな…などと躊躇していた。


 そんな私の思いを見透かす様に、

「値段のことなら気にしなくて良いから、気に入った物を取ってみなさい。お前が使わなくなっても、お前の妹弟が使うだろう。それも使えなくなったらどこかに寄付すれば良いのだから。」と言ってくださった。


 さすがは父上だ。仰ることが頼もしく、とても素敵な考え方。


「ありがとうございます。では、これを!」

と、先ほどの剣を手に取った。


「なるほど、これは。良い剣だな、親方?」


「はい、旦那様。こちらは我々の自慢の一振りとなっています。珍しいものを添加して鍛錬してあるので、軽くて強度も強うございます。お嬢様には最適かと。」


「うん。良いな。ではサティ、これと同じものを作ってもらおうか?装飾などはどうする?魔法石なども付けておいた方が良いな。石は私が用意しよう。風の守護魔法を付与してあげよう。私からのささやかな贈り物だ。」


「ありがとうございます、父上。装飾等は特に必要ありません。匠さんたちが手入れしやすい形にしてください。」


「そうか。お前は優しい子だな。では、鞘に少しばかり装飾を付けよう。私が決めても良いかな?」


「はい。私も、父上に決めていただければ嬉しいです!」


「わかった。他に何か希望があるか?」


「あ、では……。なにか飛び道具が欲しいのですが。」


「弓矢とか投剣、手裏剣という事か?」


「はい。槍などの長物の使い手を相手にしたときなどに欲しいなと思いまして。相手の動きを少しの間止めるくらいの物で良いのです。出来ればこの短刀と一緒に収納出来たら良いなと思うのですが、無理そうなら足に取り付けても良いかなと。」


「そういうことか。親方、なにかあるか?」


「はい、ございますよ、えーっと、はい!こちらに!」


 ちょっと待ってくださいねーと、親方は、ゴソゴソとひと抱えの木箱を持って来てくれた。

 木箱の中身を違う作業台の上に並べていく。

 小さな刀や、小さな剣、あとは投げる矢じり?みたいな物もある。

 いろいろ触っていると、親方が、大きめの的が外にあるから試してみたらどうですかと提案してくれた。

 そこで父上と3人で屋外の的まで行き、試してみることにした。


 私が的に向かっていろいろ試し始めたところ、父上が少し離れた砂利道まで行き、いくつか小石を拾ってきた。

 父上は一体何をなさってるんだろう、と懐疑的な目線を送ると、父上はにんまりと悪戯な笑みを浮かべた。


「サティ、ちょっと見ていなさい。いいものを見せてあげよう。私にも的を使わせておくれ。」

とおっしゃったのでその場を下がり譲ると、父上は的の前方に立ち、握り拳の親指の上にさっき拾った小石を乗せて、親指で小石を弾いた。


 瞬間。親指から放たれた小石がもの凄い勢いで的にめり込んだ。

「え!!すごっ!!父上どうやったのですか?」


「サティ、お前も体術の修練の時に習って、いまは試合などでも実践しているだろう?魔力を使って脚力や腕力を大幅に増幅する方法を。」


「はい。……あ!」


「そうだ、わかったか?それを指先に応用して小石を弾けば良いのだ。少し発想を変えてやると良いのだよ。微細な魔力の調整というコツが必要だけどな。」


「私もやりたいです!それ!それが出来れば飛び道具などは必要ないかもしれませんね!」


「いや、これの練習は後にして、今は飛び道具を選んでおこう。何かと便利だからな。」


「父上、約束ですよ!あとで教えてくださいね、絶対!」


 わかったわかったと父上が私をなだめ、引き続き飛び道具を選んだ。

 いろいろ試したが、矢じりの様な形の尻部分が輪っかになっていて指先に引っ掛けても使える手裏剣を選ぶことにした。それとそれを収納しておく小さな皮帯を作ってもらうことにした。足に付けておく物だ。


 その日のうちに、屋敷に帰ってから父上に指で石を飛ばす方法 <石指> をざっと教えてもらったのは言うまでもなく、そしてそれからしばらくの間、私は小石に夢中になったのだった。




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