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第1章 [7]

 

 剣術稽古のため騎士団詰所に通う様になってから、私が入った組の団員さん達と少しずつ打ち解け、お師匠様が隣にいなくても大丈夫になるまでひと月ほどかかった。そして、皆と打ち解けた頃には組内の総当り戦は終わって、組替えになってしまった。


 次の組替えは実力の拮抗する者でまとめられた組になると以前に叔父上から伺っていた。

 私が総当りで勝てなかった人は、アンハードゥンド騎士団の先行部隊であるゼフラ隊の隊員2名と、他の隊長さん2名の計4名。あとの10人ほどには勝った。引き分けはなし。




 ここまでの自分の試合内容を分析すると、槍使いで力も速さも持っている相手は天敵だと思った。あと私は速さはまぁまぁだけどやっぱり力が無いから、同じスピードタイプには結局力で負けてしまう。体術を織り交ぜても、それは決定打にはできなかった。

 パワータイプで力はあっても速さが足りない人には、体術を織り交ぜて死角をついたりして勝つことができた。


 今の私に足りないのは、まずは力強さだ。でも体が小さいからこの問題は時間が必要だと思う。そのため、速さももっと上げておきたい。あと、やっぱり実戦で使うことを考えて投剣などの飛び道具は必要かもしれない。


 父上に工房へ連れて行ってもらう時に、飛び道具の武器もお願いしたいな。致命傷に出来なくて良いから、動きを止めるくらいの。あとそれを収納しておく腰巻も。トージさんの短刀と一緒に収納しておけたら良いのだけど無理かな?腰巻じゃなくても、足に取り付けても良いかも。


 お師匠様に新しい稽古場所に連れてきてもらって、騎士団の皆さんと試合してみて本当に良かった。新たな視点から今の自分に足りないものを学習することが出来るのだから。


 私が入った組は他の組より早く全試合が終わってしまったので、全組の試合が終わるまで少し暇をもて余すことになった。こういった場合は、まだ試合が残っている人と終わった人で各門番や街の警護番を代わるそうだ。

 あとは自主練をしても良いし、残りの試合を観戦しても良いみたい。


 私は赤髪の大男、デニスさんから非公式の再試合を申し込まれて、お師匠様に審判をしてもらうことになった。


「この間は油断したからな、今回は用心するさ。お嬢様よろしく頼むぜ。」


「…お手柔らかにお願いします!」


「―――――では、始め!」


 棍棒から槍に持ち替えたデニスさんは、今度は動いてこない。ジリジリと少しずつ間合いを詰めようとしている。私が左に飛ぶと、デニスさんも間合いを取りながら左にずれて対面する。

 もう少しで私の間合いに入る。アレをやってみようか。ちょっと準備のつもりでピョンピョンその場で飛び跳ねた。


 デニスさんも何かしらの準備をしたようだ。


 よし!では!参ります!

 私は左足で右前方へ飛び出した。デニスさんが反応する。

 そして私はすぐさま右足で左前方へ。デニスさんも槍で反応するが、私はさらに切り返しジグザクに飛んで最後は隙の出来たデニスさんの左脇腹に肘鉄砲をお見舞いした。

 グハッと唸り膝を付きながら、デニスさんが左手裏拳を出してきた。私はそれを後ろに避け、剣を右手から左手に持ち替えデニスさんの顔面を右掌で一撃した。

 殴られた勢いで仰向けに倒れたデニスさんの首根っこに剣を突き立てると、まいった、と小さい声が聞こえた。



 一礼して円外に出ると、デニスさんが近寄ってきて、

「完敗だ。ありがとな。」

と握手を求めてきた。彼なりに油断していた試合への決着がついたのだろう。


「今度、魔の森に行くんだろう?その時は俺を連れて行ってくれないか?今日は完敗したが、盾を持った俺は役に立てるはずだ。役に立ってお嬢様に俺を見直してもらいたいんだ!」

とデニスさんは言った。


「そうだな。デニスは本来盾の使い手だから、森では役に立つだろうな。だからといって、デニス。もう少し剣の腕も磨かないと減点だぞ?お前は。」

とお師匠様に注意されて、ガーン、と聞こえてきそうな顔をしていたデニスさんを見て、おかしくて笑ってしまった。


「なんだお嬢?デニスのこと気に入ったみたいだな?」


「デニスさんて、なんだか憎めない感じありますよねぇ?」

 お師匠様と二人で笑い合っていたら。



「お嬢様。……俺も、お嬢って呼んでもいいか?公の場ではちゃんとするから!」

と、デニスさんにお願いされたので、快諾した。



―――――――――



 私が入った新しい組は、おおよその実力順で上から二番目の組だった。

 一番上の組には、叔父上、お師匠様、各隊の隊長さんと、あとは私が負けた団員さんたちがいた。上の組の他の団員さんも同じくらい強いということか。


 私の組には、前の組で戦ったことのある人が私を含め4人いた。その人たちに挨拶をして、試合場の円外で準備運動をしていた。

 すると、誰かに声をかけられた。見上げると、女性騎士の方だった。

「サティアナ様、お初にお目にかかります。私はアンナと申します。同じ組ですので、よろしくお願いいたします。」


 握手を求められて私は右手を出し、アンナさんの顔をよく見た。

 凛とした印象の金髪碧眼の美女。髪は綺麗に結ばれている。背がすらりとしていて、手足が長い。女神様みたい。見たことないけど。

 美しい人に見惚れていると、お嬢様?と、顔を覗き込まれてしまい、至近距離の美女に焦って、


「アンナさんは、とてもお綺麗ですね。お綺麗過ぎて私が恥ずかしくなってしまうくらいですぅ。」

と俯いて赤面していると、


「まあ!なんて可愛らしい御方!!」

と抱きしめられて、ドキドキで心臓爆発するかと思った。思考と体が固まってしまい、真っ白になった私だけれど、ひとつだけ覚えていることがある。

<アンナさんは、すっっごい良い匂いがした>

ということだ。



 そんなアンナさんは、槍使いだった。

 速さのある突撃は、私にはかわすのが精一杯だった。男性よりも小回りが効くので、こちらの攻撃を防ぐのも上手だった。しかも私の方が力が弱い。

 怒涛の突撃に場外ギリギリまで追い詰められて、逃げようとしたところを槍柄で足払いされてしまった。

 結果、私はアンナさんに負けた。試合後のアンナさんは涼しい顔をしていて、私は完敗だった。

 私は彼女に負けたのがとても悔しくて、同時にとても彼女に憧れた。

 それからアンナさんを見かけると、目で追わずにはいられなくなり、彼女から少しでも何か技術を奪えないかと話しかけていた。


 ある時、準備運動中にデニスさんがアンナさんと話しているのを見て、デニスさんにアンナさんと仲が良いのか聞いてみた。


「別に仲良くはないさ。次の当番がアンナとだから、どっちが道具小屋の鍵を開けるか決めていたんだ。お嬢こそ、アンナとよく話してるじゃないか?」



「はい。私この間アンナさんに負けてしまって、すっごく悔しくて、アンナさんから何かしら技を盗めないものかと考えているんですよね。でもなかなか盗めないんですよねぇ。」


「そりゃそうだ。アンナだってそんな簡単に教えるわけないさ。しかも相手がお嬢じゃ尚更だな。」


「え、なんでですか?なんで私じゃダメなの?」


「うーん。あのな、お嬢。お嬢にはまだ早いかもしれねえが、アンナはゼフラ隊長一筋なんだ。そんなの団員みんな知ってる。惚れた男の虎の子にわざわざ自分の技をくれてやる女がどこにいる?」



「えー!アンナさんてお師匠様のことが好きなの?…え、二人はその、こ、恋人なんですか?」


「あぁ?いや、多分違うだろうな。ゼフラ隊長が女を連れてるって話はあまり聞かねえし、二人でいる所を見たって奴も聞かねえ。多分、ゼフラ隊長にその気が無いんだろうよ。」


「あんなに美人でお姿も完璧なのに!」


「まあなぁ、アンナを狙ってる奴はたくさんいるな。ただ、ゼフラ隊長には通用しないんだなぁ、勿体ないが。」


「そうですよねぇ。…デニスさんは?アンナさんのこと狙ってないの?」


「俺は別にアンナは嫌いじゃないが、涼しい女は好みじゃないんだ。明るい女性が好きなの、俺は!」


「へぇ~、…誰かお目当てがいるんですか?デニスさん。」


「そりゃあ、いるに決まってるだろうがっ!だけど!お、お子様お嬢様にはまだ内緒だ!お嬢に好きな奴ができたら、俺も教えてやるっ!」

と、デニスさんは私の肩をバシバシ叩いてプイッと去ってしまった。私がニヤニヤしていたから気分を害しただろうか?


 しかし、お師匠様ってやっぱりモテるのだなぁと、ひとり残された私は溜め息を吐いたのだった。






最後のデニスさんのセリフを一部変更しました。お嬢としたつもりがお前になっていました。流石にお前はダメだろという事で。よろしくお願いします~

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