第3章 [18]
めざめの神殿での出来事から少し後。
初夏月に入り、アカデミー内はにわかに活気づいていた。
晩夏月、最後の3日間に王都で催される夏越祭。その期間中に国王陛下の御前にて開催される武術・魔法術研究披露会、学生の部。王立アカデミー内の代表者を決める予選が始まったのである。
「そこで、君にあのときの剣舞を披露してもらいたいのだが、どうだろうか?」
アカデミー内、執務室のソファにて。
サティアナの目の前にはアーサー王子殿下がいた。
王子推薦枠として、国王陛下の御前にてサティアナにあのときの剣舞を披露してくれないかと打診している最中である。
以前、悶々としていたサティアナが思考を整理するために修練場で舞っていた時、その姿を見初めてサティアナに声をかけた先輩。それがアーサー王子であった。
アーサー王子の背後には紫旗隊の隊長であったオルシュ・テンパーが立っていた。
オルシュは普段、アーサー王子と行動を共にしている様であった。
そんな彼が昼休憩時サティアナの所へやって来て、放課後執務室まで来るように伝言したのだ。
オルシュが去った後、もちろんクラスメイトに色々と詮索されたが、サティアナには全くもって思い当たる節が無かった。
しかし言われた通りに放課後執務室へ向かい、入口のドアを開けると、そこにいたのはあの剣舞の際に声をかけてきた先輩、つまり、アーサー第二王子であった。
傍らにオルシュ・テンパーを伴い、待ってましたとばかりにサティアナを迎え入れたのであった。
お互いに自己紹介を行い、促されるままにサティアナがソファに着座すると、対面に着座したアーサーはあのときのサティアナの剣舞がどれほど素晴らしかったかを熱く語り出した。
サティアナが照れながらも恐縮していると、そこへ先ほどの言葉を投げかけられたと言うわけである。
「いえいえ、滅相もございません!あれはただの型稽古の一部で、とても国王陛下にお見せ出来るようなものではありません。申し訳ございませんが、私には無理です。」
「その様なことはないさ。あの時目撃した君の剣舞は斬新で、しかしとても洗練されていて、私も習いたいとさえ思わされるほどに素晴らしく、感動したのだ。ぜひ父上にも見ていただきたい。それに、王子推薦枠として舞ってもらうゆえ剣舞前後の説明などは私が担当するし、君はあの時の剣舞を、君にとっての型稽古の一部として思う存分に表現してくれれば良いだけなのだ。なんとか頼めないだろうか。」
(どうしよう…断る理由が思い当たらない…。そうだ、父上の名前を使わせてもらおうかな。まぁ、それで駄目なら諦めよう。)
サティアナは意を決した。
「わかりました。ですがあの剣舞、と言うか型稽古は、もともと我が師が型にしていたものと、我が家の男子のみに伝わる型を混ぜ合わせて、我が師と共に作った私の為の稽古型なのです。なので、国王陛下に献上させていただくならば、我が父と我が師にも了承を貰わねばなりません。少々お時間をいただきたく思います。その結果次第ではお断りさせていただく事もあり得ますが、よろしいでしょうか?」
「そうか…そう言う事なら仕方ないか。確かに筋は通すべきだな。良い…わかった。よい返事を期待して待っているよ。しかしそれならば。サティアナ・アンハードゥンド君、私にも君のやっている型稽古を伝授してくれまいか?」
「え??」
「先ほども言ったが、君の型は素晴らしかった!…私はこの通り、あまり身体が大きくないだろう?…一般男子のための型稽古では自分の持ち味が発揮出来ないのでは無いかと常々思っていたところなのだ。だからあの稽古型は、きっと私にも良い影響を与えてくれるものだと思っているのだよ。出来れば体術の型も教えて欲しい。」
「なるほど…。しかし王子殿下、それについても一度父に相談させてください。王族の方に教えるとなると、私ひとりの判断ではいけません。申し訳ございませんが今この場では返答できかねます。」
アーサーの背後では、そこに起立していたオルシュ・テンパーが首を縦に何度も上下させながらサティアナに向かって安堵の表情を向けていた。
「そうか…軽々しく出来ないか…。」
アーサーはあからさまに肩を落としていた。
不憫に思ったのであろう、オルシュがアーサーに提案をした。
「殿下。殿下からも陛下にお働きかけなさって、辺境伯様に手紙を出されてはいかがですか?いずれにせよ、王子推薦枠の内容は事前に王城へ提出しなければなりませんし。まずは殿下から陛下にお話なされるのが良いかと存じます。」
「なるほど、そうだな。さすがオルシュだ!早速、これからその打ち合わせをしよう。アンハードゥンド君、お父上への相談、よろしく頼んだぞ。私の方でも働きかけるゆえな。」
オルシュの提案を聞き入れ、アーサーの表情も明るくなった。
サティアナは頭を抱える思いで、執務室を後にしたのだった。




