第3章 [17]
めざめの神殿での午後の修行。
午前中ミッシェル先生から褒められていたサティアナに、クラスメイトが霊気を維持するための教えを請う場面があった。そこで少しサティアナが言い淀んでいたところ、アレックス先生が助け舟を出し、そこからは普段請われた時以外あまり助言をしない教師二人も混じって、修行場の真ん中でクラス全員で丸く陣を作り、霊気談議が繰り広げられていた。
「先生。いつか聞こうと思っていたのですが、わたくし達はどの段階でもってめざめたと言えるのでしょうか?」
エミリーがアレックス先生に向けて質問した。
「私が思うに、霊力を扱える様になったら、かな。霊気はそれ自体では己の中に在るものだし、触れることが出来ればそれだけで良い。その霊気を練ってそれを維持出来て初めて霊力と言える。そしてそれは簡単な事ではない。めざめたと言えるだろう。」
なるほど〜、と生徒全員が小さく頷く。
「先生、わたくしはまだ練ることさえままならないのですが、これは遅いのでしょうか?正直申し上げますと、とても不安です。」
今まで何においても優等生であったシャルロッテが、ままならない己の心の内を思い切って吐露した瞬間であった。その様なシャルロッテを初めて知り、そこにいた全員が少なからず驚いたのであった。
「…そうか、そうだよな。よしみんな、じゃあここで一度自分を振り返って、自分の現在地をみんなに知ってもらおうか。いまのシャルロッテ様のように、自分の状況を言葉に出してみよう。」
いい機会だからな、とアレックス先生が提案してくれた。
生徒ひとりひとりが順番に霊気に関する己の現況を説明し、自分の気持ちを打ち明けた。皆それぞれ少なからず現況に対して不安や焦りがあるようであった。
「なるほどな…。まあ、霊力に関しては自分なりのやり方でコツを掴んでいくしか無い。近道は無いんだ。それに、競争でもない。他人のやり方を真似て出来たとしても、いざという時に不安が残り、その不安は必ず影響を及ぼす。君たちの修行は始まったばかりだが、しかし今が一番重要な時でもあるんだ。焦っても良いことは無いが、かと言って簡単に考えてはいけない。とにかく己と正面から対峙し、精神世界にどっぷり浸かることだ。霊気はその人の魂が持つチカラだ。自分の魂と正面からぶつかりなさい。…ちなみに、俺が霊力を扱える様になったのは一年後だったよ。いま君たちには偉そうに言ったが、当時割と簡単に考えていた俺は次第に焦りまくって、結局一年かけてしまった。そこから巻き返すのには本当に苦労したよ。だから今の話は俺の体験談なんだ。今の話を聞いた君たちは、俺と違って真剣にやるんだぞ。ハハハ!」
アレックス先生が自分なりの言葉で生徒を激励した。
「ミッシェル先生は、どうだったのですか…?」
シャルロッテが申し訳なさそうに、しかしお願いする様にミッシェル先生にたずねた。
「私は、半年ほどかかりました。その辺りがだいたい平均値の様ですね。ですから焦る必要はありません。アレックス先生の言うように、まずはご自分の魂としっかり向き合ってください。前世の記憶をも含めて、魂と向き合うのです。そうすれば自ずと道は開かれますよ。」
ミッシェル先生の言葉は、シャルロッテだけでなく生徒ひとりひとりに向かって届けられ、じんわりと浸透していく。
この日を境にサティアナ達ビッグスタークラス一学年の生徒達は、修行場で過ごす際の意識に変化が現れ、また顔つきも変わっていくのであった。それぞれ己が魂との濃密な時間を過ごすこととなり、それはやがて目覚めに向かっていく。
この日より、クラスの生徒全員が霊力を扱える様になるまでの半年間、修行場での無駄なおしゃべりはほとんど無くなったが、神殿内での雰囲気はむしろ良くなったと言えるのであった。




