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第3章 [9]

 

 翌日。

 いつもの様に起き、いつもの様に着替え、いつもの様に朝食をとり、いつもの様にアカデミーの近くまで馬車で送ってもらうサティアナ。そんな姉の向かいに座った妹ソフィアナは、いつもとは違う姉の様子を心配しながらも微笑ましく観察していた。



(姉様…ウトウトとなさって珍しいわね…お疲れなのでしょうね……。でも…フフ…そんな御姿も愛らしいですわ!)



 前日、いろいろな事があったサティアナは、その晩から明け方まで何本もの夢を観ていた。

 氷狼の群れの討伐をお師匠様たちアンハードゥンド騎士団の面々としてみたり、妹ソフィアナと魔物達の住まう森の中で優雅にお茶会をしてみたり、ラウラ・ポリッシュと二人、どこか海が見える素敵なテラスでおしゃべりをしてみたり。

 その締め括り、久々に観たのは前世の夢だった。


 トージがシンに出会って彼ら兄妹を自分の庇護下に置いて間もなくの頃。自分たちも何か武器を扱える様になりたいと言う兄妹に、トージは弓と魔法の使い方を教えた。

 しばらくすると兄のシンよりも妹のリンの方が弓の扱いが上手くなっていった。体力強化の魔法を使えるようになると大人顔負けの弓使いになった。城の兵士と共に狩りに出かけて獲物を持って帰って来ることもあった。

 リンが年頃になると、同じ年代の周りの女子たちは、やれどの兵士が顔が良くてかっこいいだの、やれどの兵士が逞しいだの優しくて素敵だのと噂し合ったが、リンはそんなことよりも魔法と弓の腕を上げることに時間を費やしていた。

「私はこの弓で、トージ様と兄さんの役に立ちたいんです。」

 トージから風魔法を使った弓の射り方を特訓してもらいながら、リンはトージにそう告げたのだった。

 そうやって日々の研鑽を重ねていったリンは、トージが爵位を賜る頃には、彼の精強な部下達の中にあって一二を争う弓の名手になっていたのであった。




(久々にみたのがリンの夢だったなぁ。どういう事なんだろう……ラウラ様は、…リンなのか?)



 そんなことをぼーっと考えながら馬車に揺られているとなんだか眠たくなってウトウトしていたサティアナであったが、指定の場所に馬車が到着すると気持ちを切り替えいつもの様に背筋を伸ばし、後から馬車を降りた妹と共に歩き出した。

 朝はまだ肌寒く、ふうっと吐き出した息は少し白い。その白い息はサティアナの眠気を奪い去りどこかへと運んでいったのだった。



 ソフィアナは、姉の始業時刻に合わせて一緒に登校しているため、一般学部の他の生徒よりも登校時刻が早い。それゆえ、食堂や温室、教室などで始業まで時間を潰すのが常であった。



「ソフィー、今日はどこへ行くの?」

 サティアナが妹にたずねる。すると妹は瞳を輝かせて答えた。



「なんと今日は偶然、食堂でキャロルと待ち合わせしているのです!姉様、昨晩お話したこと、わたくし達にお任せくだいませね!」



 そう言うと軽くステップを踏みながら食堂の方角へと消えて行くソフィアナであった…。



「ソフィー……。」



 新たな課題を自らに与え、浮足立った妹の後ろ姿を見送る姉であった。




 ――――――――――――――



 サティアナが教室に入るとシャルロッテ王女以外、皆すでに登校しており、昨日の校外実習の話でその場は持ちきりだった。


「おはようございます皆さん。…おはよう、ホセ。昨日はお世話になりました。」

 サティアナは昨日の同志であるホセ・ツイストの隣に移動した。



「…特に世話をした覚えはないが、おはよう。」

 自分が涙を見せた事などすでに無かったことにしてくれる優しいホセに対して、サティアナは感謝した。



「サティアナ達の隊は、魔物討伐が発生したんだって?」

 ナギア・レンジが話しかけた。



「討伐と言うほどの事にもならなかったけれど、街道に出て来ていた氷狼の小さな群れを森へ退けたの。」

 サティアナがそう話す横でホセが何度か頷く。



「でも、学生にとっては今後を見据えた良い経験になったでしょうね?」

 エミリー・スパイラルが意見を述べた。



「ああ。一緒になった魔法師の先輩もそうおっしゃっていたな。」

 ホセがそう相づち答えた時、サティアナは思い出したとばかりにエミリーに相談を持ちかけた。



「そうそう!その先輩の頼みで放課後魔法の訓練に付き合うことになったのだけれどね、エミリー。」


「ん?」


「私と一緒に魔法訓練場でリンダ先輩の訓練に付き合ってくれないかな?私には教えられない事も、あなたなら教えてあげられるかも知れないと思うの。どうかな?」



「なるほど、そういう事であれば確かにエミリーは適任だと思う。」

 オリバー・カットの言葉にその場の全員がウンウンと頷いた。エミリー・スパイラルという人間がどれだけ魔法に通じているか皆よく分かっているのである。



 少し考えているエミリーの姿を見てエイデン・クエンチが言った。

「それなら、俺達も行ってみないか?訓練場に入る良いきっかけになる。」



 それに呼応するクラスメイトたち。

「確かに、なかなか訓練場って行くきっかけ無いよな。」

「そうだね。」

「私も行ったことない。」



 そんな事をあれこれと話す内に、結局その場の全員がサティアナとともに休み明けの放課後、訓練場に行くことにしたのだった。



「おはようございます、皆様。」


「「「「「「「おはようございます、殿下。」」」」」」」




 最後にシャルロッテ王女が護衛のガイ・プーリーを伴って教室に来ると、その後間もなく二人の担任の教師も現れ、朝の朝礼が始まったのだった。



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