第3章 [8]
王都の外門をくぐり、アカデミーの正門を抜け、今朝集合した広場まで戻ったサティアナ達残留部隊一行は、各班ごとに整列し班員の点呼を取って、全員揃っていることを確認するとその日は解散となった。
すでに日は陰り、街は濃い夕方の顔をしている。もう少しで完全に太陽は沈もうとしていた。そんななかでも乗合馬車はまだまだ働く。アカデミーから各方面へと生徒達を送り届けるのだ。
馬車に乗らないサティアナはヨルとともに家路を急いだ。
(ホセと私、明日はみんなに話すことがたくさんできちゃったなぁ。でも、みんなの方もどんな感じだったのかも聞きたいな。…あと、近いうちに父上と母上にお手紙を書かなきゃ。でもその前に、まだ整理が出来ていないからちゃんとノートにまとめておかなくちゃね。)
ここ最近書き込むことのなかったサティアナの夢ノートに、今日、新たな記述が加えられることになった。
サティアナが別邸に着くと、庭には火が灯されており、馬小屋にはダズがいた。
「お嬢様!おかえりなさいまし。皆心配しとりまして、これからお嬢様をお迎えに行くところでしたわい。ご無事で何よりでしたぁ。さあさあ、お屋敷へ!ヨルの世話はこのダズがいたしますで。」
ダズはそう言うとサティアナを屋敷の玄関へと連れて行った。
玄関前には上着を着たレックスがおり、サティアナとダズを見ると安堵の表情を浮かべた。
「サティアナ様、おかえりなさいませ。お待ちしておりました。ソフィアナ様もご心配なさっておいでですよ、さあ中へ。」
「ふたりとも、心配かけてしまいましたね。ダズ、ヨルのことお願いします。」
一階のラウンジでは妹のソフィアナがソワソワしながらお茶を用意していたが、サティアナの姿を眼にすると姉のもとへ一目散に駆け寄った。
「姉様!ご無事でしたのね、よかった。いまお茶をご用意いたしますわ。それで…魔物の討伐に向かわれたのですって?」
「ただいま、ソフィー。あなたが淹れてくれるお茶、飲みたかったの!…うん。街道に紛れ込んだ氷狼の小さな群れだったよ。殺さずになんとか上手いこと森へ追いやることが出来たの。」
「それは良うございました。お体が冷えているでしょうから、いまリリーが湯の用意をしておりますの。わたくしもご一緒いたします。ひとまずは温かいお茶と甘いお菓子でも召し上がってくださいましね?」
「ふふ、3人でお風呂なんて久々だね。」
「ええ、でも夕食前ですから長居は無用なのですけれど……それは無理な話だと言い切れますわ!」
「うんうん、無理だよねぇ。だって私たち3人だもんねぇ〜!」
暖かい部屋に暖かいお茶。そしていつもの妹との会話。
サティアナは疲労の後にやってきた何気ない幸福を噛み締めながら、頭の片隅ではラウラ・ポリッシュのことを考えていた。
「そうだ、ソフィー。私、今日、出会ってしまったよ。ラウラ・ポリッシュ様に。」
「あら!ラウラ・ポリッシュ様が同じ隊にいらしたのですか?お話はできまして?」
「ええ。そんなにたくさんは話してないけど、向こうは私がデュアルホルダーだって知ってくださっていたよ。」
「それは素晴らしいことですわ。それで、ラウラ・ポリッシュ様の印象はいかがでしたか?クールビューティだとはわたくし達の校舎でも良く噂されておりますが。」
「うん、確かにあの方と視線を交えることは、ちょっと、何ていうか、努力が要る?」
「まあ。姉様ともあろうお方であってもですか?」
「うーん、私だけなのかなぁ、分からないけど。あ、でもホセは普通にしていたから、私だけなのかな?」
「ラウラ様と姉様の相性の問題なのでしょうか?」
「あ、違うの!苦手では決してないの。むしろどうにかしてあの方と仲良くなりたいと思ったりしているわけだし。」
「あら、ではもしかして姉様には珍しく、ラウラ様を意識していらっしゃる訳ですわね?」
「そっか。意識……。うん。そうね、私あの方が気になっているのだと思う。ねえソフィー、私どうやったら仲良くなれるかな?ラウラ・ポリッシュ様と。」
「それなら姉様、わたくし達の出番ですわ!お任せくださいませ。お忙しい姉様に代わりましてラウラ・ポリッシュ様の行動範囲をわたくし達で探ってみましょう!」
「え…それはありがとう…。でもわたくし達って……誰のこと?もしかして……」
「ええ、もちろんわたくしとキャロルですわ!」
(だ、大丈夫かな?まあ、ソフィーのことだから、いい塩梅に探ってくれると思うけれど……)
やる気に満ち溢れた目の前の妹に何も言い返せないサティアナであった。




