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第3章 [5]

 



「チェルシーさん!アンハードゥンドさんも!こちらに集合してくれー!」


 本日の課題である薬草採取に夢中になっていた二人をノーズ班長が迎えに来た。昼ごはんを作る時間になったようである。


 班ごとに集まって、ひとつの鍋で食事を作る。

 だいたいどの騎士団でも食事を作るのは下っ端の仕事である。

 王立アカデミー騎士養成部に通う生徒の卒業後の進路はほとんどが騎士団関係であるから、食事を作る事にも慣れていかなければ騎士団内で浮いた存在になってしまう。

 そういった経験を生徒達にさせることも、この校外実習のひとつ大事な役目なのであった。



「料理の心得がある者は手を挙げてくれ。味付けが出来る人は?」


 班員を集めて鍋を中心に円陣を作ると、ノーズ班長が皆にそう告げた。



「あ、自分、できます。」

 ひときわ体の大きい生徒がかわいらしく胸の前で軽く手を挙げた。



「うん、じゃあ、……ハリスン・カウンター。君が味付け係だ。……じゃあ次に、火属性の魔法が得意な者はいるかな?火おこししてもらいたい。」



「ん〜、俺、火おこしなら得意だよっと。」

 ちょっと軽そうな生徒が右手をヒラヒラしながら答えた。



「コーチャン先輩、貴方はもう少しちゃんとしてください!後輩の前なんだから。」


「え〜、それは無理だってぇ。」



「…まったく。じゃあコーチャン・パピさん!貴方が火おこし係です。あの辺に枝が置いてあるから適当に使ってください!」


「ほ〜い!」




「じゃあ、次は水だ!鍋に水を出してもらう係。この辺に湧き水はないから、水を作ってもらいたいんだ。誰かお願いできるかな?」



 成り行きを見守っていたがなかなか手が挙がらないので、挙手することにしたサティアナであった。



「はい。では私が。」



「良かった!川の水は少し不安だからね!よろしく頼むよ、サティアナ・アンハードゥンド。さて…じゃあ残った人には野菜と干し肉を切ってもらおうかな。こっちへ来てくれる?」




 班長が皆を連れて去ったので、サティアナはハリスン・カウンターとともに鍋の準備を始めたのだった。

 自己紹介がてら、準備しながらサティアナはハリスンに話しかけた。


「騎士養成部一年のサティアナ・アンハードゥンドと申します、よろしくお願いいたします。……カウンター先輩は良く料理なさるんですか?」



「騎士養成部二期生ハリスン・カウンターです。よろしく。……両親共働きだったから、スープはよく家で作っていたんだよ。今はあまりしないんだけどね。」



 照れくさそうに後頭部をワシャワシャと掻きながら答えるハリスンに対してサティアナは、可愛らしい人だな、と好感を持った。



「君こそ、真水を大量に出せるなんて凄いよ。…きっとたくさん訓練したんだね。」



「訓練と言えば聞こえは良いのですが…、私にとって魔法はなんというか趣味のようなものなので、単に興味本意で出来る様になっただけなんです、ははは。……では、詠唱しますね。」



「――――吾が言の葉を贄とし 生けるみなもとを与えたまえ――――湧水(ウォーター)




 大きな鍋の上に差し出されたサティアナの両手からこんこんと水が流れ出し鍋に貯められていく。その様子にハリスンは魅入っていた。


(なんだろうな、彼女の出す水が輝いて見える…。)




 小さい方の鍋にも予備の水を貯め終わると、サティアナは一息ついた。



「この水、少し飲ませてもらっても良いかい?」



「ええ、どうぞ。美味しいかは分かりませんが…」



 ハリスンは鍋用の柄杓に掬ってその水を飲んだ。



「――美味しい!これはいくらでも飲めそうだ。」

(というか、こんなに美味しいと感じる水は初めてだ!水の精製魔法はその人の状態が反映されると聞くが…)


 一杯では足らず、もう一杯柄杓に掬ってハリスンはゴクゴクと飲み干した。



「また作れば良いので、たくさん飲んでくれて構いませんよ。ただ、味付けに支障ない程度でお願いしますね、えへえへへ。」

 サティアナは自分の精製した水を褒められ、照れ隠しのため変な笑い方になっていた。




「あ!いいな〜、俺も飲みたい〜!」


 火おこしの準備をしていたコーチャン・パピが横から口を挟んだ。



「パピ先輩もどうぞ。」



「コーチャンで良いよっ。てゆうか、パピって呼ばれるのあんまり好きじゃないんだよね。だからさ〜、ね?」



「わかりました……コーチャン先輩?」



「うんうん、いいね、いいね!じゃあ俺もお水、いただきま〜っす!」



 ゴクゴクと飲みながら目を見開き、飲み干した瞬間コーチャンは叫んだ。


「うんまっっ!何この水〜!俺こんなに美味い水初めてかもしんない。君、この水売れるぜ?俺なら買うね!冷やして飲みてぇ〜。」



 コーチャンの隣でハリスンが激しく同意していた。



 ―――――――――――――――



 その後滞りなく昼食の準備は進み、出来上がってサティアナに配膳されたスープは温かくてとても良い味付けだった。皆、美味しい美味しいと配膳された分をあっという間に平らげた。

 班内でのおかわり争奪戦に敗れたサティアナは少し物足りなく思っていたが、持参していた焼き菓子をリンダと共にコソッと胃の中へ入れ、満足したのだった。




 昼食を食べ終わり皆で後片付けをしていると、引率の教員達が何やら慌ただしくなり、円陣を組んで相談を始めた様子だった。


 サティアナは、アンハードゥンド領での経験からほんの少し嫌な予感がしたが、気にしないで後片付けをすることにした。


 片付けが終わり午後の収集作業を始める前に、使った調理器具などを荷造りしてまとめておく作業中、今度はテンパー隊長が各班の班長を招集した。


 サティアナはやはり嫌な予感がした。そしてそれは的中した様だった。なぜかと言えば集められた班長達の表情が、時間を追うごとに深刻なものに変わっていくのを見たからだった。



「なんか〜、嫌な予感。って感じ?ねえ?」



 気がつけばコーチャン先輩がサティアナの隣に来て囁いた。彼も何事かに勘付いている様子である。



「先輩もですか。」



「多分何かあったねぇ。だって去年も一昨年もこんな事なかったもん。」



「そうですか…。」



 荷造りが終わると、テンパー隊長から全員集合の号令がかかり、班ごとに整列した。


 サティアナの隣にホセ・ツイストが来て、素早く耳打ちをした。



「サティアナ、おそらくどこかで魔物が出たのだと思う。」


 やはりそうか、とサティアナは軽く頷く。

 テンパー隊長が皆の前に出た。



「みな良く聞け!ここより北の街道沿いで魔物が複数出現した!したがって、我ら紫旗隊は、これより魔物の討伐作戦を開始する!」



 隊長の言葉を受け、隊員達がザワザワと一斉に話し出す。




「静かにー!落ち着けー!」

 班長達が隊員を制するが、中々落ち着く様子は無く、更にザワザワと騒々しくなったその時。



 ―――パチン!



 テンパー隊長が自分の顔の前で掲げた指を鳴らすと、一瞬で辺りが静寂に包まれた。

 騒いでいた隊員達はみなその瞬間上の空になり、その後何事があったのかと我に還っていた。



「まだ話の途中である!静粛に!!皆、落ち着いて良く聞け!

 2期生以下の隊員は!隊列を崩さない様に、先導の先生方の後に従って、速やかに移動し、アカデミーに帰還せよ!

 3期生の隊員全員と、ビッグスタークラスの隊員は学年を問わず全員、ここへ残れ!

 以上だ!では、始め!!」




 テンパー隊長の指示に従って約3割の生徒を残し、残りの生徒達はみな緊張の面持でアカデミーへと動き出した。


 リンダが不安そうにサティアナの隣に寄ってきた。

 サティアナは、リンダとホセに対して先ほどのテンパー隊長の指鳴らしについて意見を求めた。



「あの、先ほどの隊長のアレは魔法でしょうか?」



「うむ、闇属性の魔法の類だろうか。」



「ええ、多分そうですね。テンパー様は希少な闇属性魔法の使い手だと聞いたことがあります。」



「なるほど…、そういう事ですか。」



「何がですか?」



「あの瞬間、体中になんというか、抵抗感の様なものが走ったので、何だろうと。」



「なるほど。それならば、君が闇魔法に対して耐性があると言う事であろうな。耐性のある魔法攻撃を受けるとそういった類の感覚を覚えると聞いたことがある。」



「「なるほどぉ〜。」」



 勉強になりました、とリンダが笑顔になってくれたので、サティアナも少し安堵したのだった。




「では諸君ら、こちらに集合せよ!!」




 テンパー隊長が再び号令をかけると、その場は緊張感に包まれたのだった。





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