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第1章 [5]

 


 母上は、私の髪を撫でながら

「それで?どうしてひとりで駄々をこねていたのですか?」

と優しいお顔でおっしゃった。


 私は短刀を拾い上げ、母上に見せた。

「この昨日の短刀です。結局私にはまだまだ上手く使えそうにないのがどうにも悔しかったのです。私にはまだ重いし、柄も、しっかり握るには私の手には太すぎるのですぅー。」


「当たり前です、サティ。貴女はまだ12才の女の子なのですよ。これは元は初代辺境伯様の持ち物。今の貴女は大人には程遠く、初代辺境伯様は立派な殿方だったのですから。」


「それはそうなのですが。。。」


「お父様がいつも携帯するようおっしゃられたのは、貴女が自分の宿命を忘れずに、運命を自分の手で引き寄せるためですよ。今はまだ使えなくても構わないのです。この短刀はあなたの夢ノートの代わりに、いつも携帯するのだと思っておきなさい。」


 ああ、そういうことか。

 母上のお言葉が刺さり、ストンと腑に落ちた。



「旦那様がいらっしゃいました。」

 母上が私の肩に手を添えそのまま私を安心させるように撫でてくれていた。すると、ヨハンが呼びに来た。



――――――――――



「さて。サティ。昨日に引き続き、お前の話をしよう。」


「私の話とは?」


「お前も12才になった。お前はスターホルダーだからな、ゆくゆくは王国軍に所属しなければならん。結婚してもそれは変わらぬ。となれば、お前をそろそろ魔物狩りに参加させようと思うのだ。ゼフラからもそれについては合格が出ている。」


「え!良いのですか?…あ、でも私、武器が。」

と、短刀を腰から外して目の前に出した。


「分かっている。その短刀では今のお前には重かろう。魔物狩りのことを考え始めたあたりから、お前にはそろそろ武器を作ってやろうと思っていたのだ。」


「嬉しいです!私にはどのような武器が良いのでしょう?」


「お前の戦闘様式に合うような武器は、細身の剣が良いのではないか?両刃の小型長剣だ。切ることも突き刺すこともできる物だ。尖端に強度を付けるのだ。急所を突き刺すことで致命傷を与える。ゼフラとも話してこの案で落ち着いた。」


「良さそうですね。さすが父上とお師匠様です!異論ありません。」


「では、近々私と一緒に工房へ行こう。お前がいれば匠たちも取り掛かりやすいだろう。それで、短刀の腰差しは良いのが有ったのか?仕立て屋に来てもらうか?」


「あ、良いものがありました!見て下さい。」

と、皮の腰巻を外して父上に見せた。


「これで大丈夫なのか?外れたりしないか?」


「はい!昼前からこれを腰に付けて歩いたり馬にも乗りましたが大丈夫でした。仕立て屋さんには頼まなくても良さそうです。」


「そうか。まぁ後で仕立て屋を使いたくなったらいつでも言いなさい。」


 私は父上にありがとうございますとお礼を言って、椅子に腰掛けお茶を飲んだ。


「もうひとつ、話がある。先ほどお前ももう12才になったと言ったな?」


「はい。」


「お前にも、そろそろ婚約者を選ぶ準備をしなければならぬ。それについては、前々からルイーズとも話していたのだ。しかし、昨日お前が我がアンハードゥンド家初代辺境伯爵の魂を受け継ぐ者だと判明した。つまり、アンハードゥンド家を継承している当主としてはだな、サティ。私にとってもお前の宿命は叶えるべきものなのだ。だから、私はいま悩んでいる。早めに良き婚約者を選んでやりたいと思っていたが、それは間違いなのではないかと。ルイーズも同じ思いではないか?」


「ええ、わたくしも貴方様と同じです。スターホルダーといえど、わたくし達の大事な娘。早めに良きお相手を選んであげたいと思っていました。けれど昨日、サティの夢ノートを拝見しました後で、初代様の手記を読ませていただきましたら、あの御方の魂の懇願が聞こえたようで。。。サティには、ぜひとも己の選んだ御方と添い遂げて欲しいと思うに至りました。……貴女はどう思うのかしらね、サティアナ?」


「あー、……私も、実はつい先刻、お師匠様と食事しながら思ったのです。いつか婚約者についてのお話が父上母上からあったら、断らせてもらいたいと。私には、あの人の生まれ変わりを探して添い遂げるという宿命があります。この世界のどこにいるのか分かりませんが、会えばきっと分かります。ですから、誰かに選んでもらった婚約者では難しいと。。ですが、こんなに折よく話が来るとは思っても見ませんでした。御先祖様のお知らせでしょうかね?」

と笑って、私は少し重苦しい空気を軽くしてみようとした。


 すると母上が、

「あら、キーウェイ殿とそのようなお話をしたのですか?」

と、多分、乗ってくれたのだろう。


「いえ、それについては、私が思っただけの事なのですが。お師匠様はあのような場所も慣れておいでだったので、どんな女性を連れて来るのだろうと思いまして。そういえばお師匠様の婚約者の話は誰からも聞いたことないなぁと思っていたら、そのうち自分の婚約者の事を想像し始めてしまったのです。」


「そういうことですか。そういえばキーウェイ殿は婚約者を置いていないのでしたね?結婚するつもりがないのでしょうか?」と母上が父上に話しかけた。


「うむ。そのうちすると言ってはいるが。だが、婚約者を作ると、しがらみが増えるから作らないらしいぞ。本人は本能で決めるとか何とか言っておったわ。」


 キーウェイ殿らしいわねと母上がおっしゃり、父上もまったくだなと、二人で笑った。私も一緒になって笑った。



「ではサティアナの婚約者については、今後どこぞから婚約の話が来ても断らせてもらうと。それで良いな?」

と父上がおっしゃり、母上は頷き了解した。


「お手数おかけいたします。」と私は頭を下げた。


 お師匠様の話で場の雰囲気も和み、その後は、両親が私の妹と弟の話をしているのを私も聞きながらお茶を楽しんだ。




 お茶会の最後に私は、お師匠様に夢の話と短刀の話をしたことを父上に話し、父上も了解した。


「明日からの剣術の稽古は今までより厳しくなるそうです。」


「わかった。工房へはなるべく早めに行くとしよう。時間を作るから、それまでは間に合わせの剣になるが、精進しなさい。」


「はい。父上、母上、今日はお茶にお招きいただき、ありがとうございました。」


「うむ。また招こう。」

「貴女から誘ってくれても良いのですよ。」


「何かあれば、お誘いさせていただきたく思います。しばらくは、魔物狩りの準備のため自分磨きに励みます。」


「サティ、このあとはどうするのだ?」


「裏手の森で魔法で遊ぼうかと思っています。いまは、違う魔法を同時に操作する訓練をしているので。この間は、土と風で彫刻を作ったりしました。今日は、どうしようかな?」


「暗くなる前に戻りなさいね。」


「サティアナ様、護衛を付けますか?」

とヨハンが聞いてきたので、不要です。と答え、両親に一礼して自分の部屋に向かった。




―――――――――



 その日の夜、明日からの剣術修練のことを考えていた。

 お師匠様は、一段階上の稽古と言っていたけど、どういうことなんだろうか。真剣を使うとか?魔法込みにするとか?


 ……うん。考えてもわからないから、寝ようっと。こういう時は、早めに寝ちゃうに限るよね!

 今夜は何か夢をみるかなぁ、と思いながら、私はすぐに睡魔に襲われたのだった。





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