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第3章 [1]

 


「では、行ってきます。」


「姉様の無事なお帰りをお祈り申し上げますわ。」


 早朝まだ暗い中、屋敷に住まう全員でサティアナの出発を見送る。アカデミーの正門近くまではジンが護衛に付いてくれた。


「ジン、ありがとう。帰り気をつけてね。」


「自分も、お嬢様のご無事を祈っておりますでぇ行ってらっしゃいまっし。」


 ジンと別れ、ひとり正門を通過する。


 数日前のホームルームで前もって担任より指定されていた広場へとサティアナは向かった。

 校外実習は王立アカデミー騎士養成部と魔法師養成部合同で行う大きな行事である。年間2回行われ、1回目は一日行軍、2回目は三日行軍である。


(今日は大事な顔合わせだ。どんな人達と同じ班になるんだろう。緊張するなぁー。みんないい人だったらいいな!)


 サティアナを背に乗せたヨルも、サティアナの雰囲気を感じ取り少し緊張している様子だったが、今朝もふたりの相性はバッチリだ。


「ヨル、大丈夫。上手だよ。いいこいいこ。不安にさせちゃってごめんね。」

 サティアナはヨルの首筋を撫でながら呼びかけた。

 ヨルが耳をピクピクとさせた。


 指定の広場が近付くにつれザワザワとした雰囲気にサティアナの緊張も高まった。

 広場の入口には大きな紫色の旗が掲げられていた。


(よし、ここだな。)


 サティアナがヨルの背上から広場中をサッと見渡すと、馬を連れた生徒は自ずと広場の端の方で待機し、徒歩の生徒は真ん中辺りに集まっているのが確認できた。

 じゃあ自分はどのあたりで待機しようかと立ち止まっていたところ、見知った顔を見つけたのだった。


(あ、ホセだ!よかった〜!)



 広場の真ん中に集まっていた一般騎士養成クラスの生徒達がサティアナの姿を見つけてガヤガヤし始めたが、アカデミー内でのそういった扱いに慣れて来たサティアナは特に反応もせず一直線に級友ホセ・ツイストのもとへ向かった。


「ホセ!!おはようございます。あなたを見つけられて良かった。」


「おはよう。やはり君だったか。」


「ん?…あぁ。これはもう仕方ない、慣れですね。」


「そうか。……良い馬が見つかったようだな。」


「そう!とても相性の良い子にめぐりあえたのですよ!本当に良い子。」



 ヨルの背から降りたサティアナとホセがふたりで会話していると、先ほどよりも大きなどよめきがサティアナの背後で発生した。

 どよめきにつられサティアナも皆が向ける視線の先を見たのだった。


 サティアナの視線がとらえたのは、自分と同じ制服で身を包み、膝までのロングブーツを履いた一人の女性だった。騎乗していることから幹部騎士養成修養クラスもしくはビッグスター養成修養クラスの生徒と推察できた。


(有名人か?誰だろう?すごく綺麗なひと……)


 どこか冷めた雰囲気を醸し出し、無表情にサティアナ達の前を通り過ぎるその人が一瞬、サティアナの方に視線をよこした。

 その人と視線を交わしたその瞬間、ドクン!とサティアナの心臓は大きく脈を打ち、ゾワゾワっと全身に震えが起き、サティアナの視界はみるみる歪み始めた。


「―――え?なんで…」


 サティアナは、不意に溢れ出ようとする涙を拭うために焦ってハンカチを取り出しその場にしゃがんで顔を隠した。

 サティアナの行動に戸惑ったのは隣にいたホセである。


「お、おい、大丈夫か?!どうしたんだ?体調が悪かったのか?」


「ううん、大丈夫、なんです。体調も、全然悪くない、から、少しこのままで、お願い。」


「わ、わかったが、もしおかしくなったらこっちを見ろ!いいな?」


 ホセの言葉に、ウンウンとサティアナはその場で頷くばかりであった。



(もう、どうしたの私!!落ち着け!落ち着け〜!)


 サティアナは自分の顔を隠しながら不意な涙を自制しようと頑張る。

 何度か深呼吸し、なんとか高揚した感情を抑え込もうとした。


(とりあえず涙が止まるくらいまででいいから、どうか鎮まって〜!)


 幸い少しの時間で涙はおさまり、サティアナは立ち上がることが出来た。

 ホセが心配そうにしている。


「はぁ……見苦しいところを晒してしまって、ごめんなさい。」


「…もう大丈夫なのか?」


「うん。…ホセ、このことは皆には内緒にしといて欲しい。ごめんね。」


「ああ。幸い他にも気づかれていない様だしそれは構わんのだが、君は本当に大丈夫なのだな?」


「心配かけてごめんなさい。でももう大丈夫だから!」


 サティアナは少し大げさに両腕でガッツポーズを決めて笑顔を見せた。


「わかった。無理はするな。」


「ありがとう、ペアになったのが貴方で良かったよ!」


 同じクラスの中でもこの硬派で寡黙な男子と同じ隊になったことは今のサティアナにとって幸いであった。サティアナが繊細かつ見苦しい所を晒した後も適度な距離を保とうとしてくれている。


(ありがたいな、ほんとに。……それにしても。)


 あの不思議な感情は、おそらく我が魂がさせた事であろう。あの美人と視線を交わした途端にあの様な事になったのであるから、あの方はきっと前世と関わりがあるのだろう。

 そう考えながら先ほどの美人を視線で探した。

 彼女はちょうど友人を見つけて馬から降りるところであった。

 その横顔を見るとすぐまた涙が出そうになり、サティアナは慌てて視線を逸らした。


(うわ、危なかった!あの人を見るだけで涙が出ちゃうみたいだなぁ。こんなに乞われてるってことは、トージさん、……あの人がシンさんだって言うの?)


 気になりつつも、彼女を見ないようにしようと思うサティアナなのであった。











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