第2章 [28]
騎乗用の装備を付け、馬舎で見たときよりも数段凛々しくなって登場したその馬にサティアナは近付き、彼の首元を撫でながら話しかけた。
「私もアナタを連れて帰りたい。だから、あの二人に私たちの相性が良いって見せつけてあげよう!」
馬はサティアナに顔を擦り寄せるとブルンと返事をした。その返事を聞いてひとつ頷くとサティアナは足をかけ馬に跨がった。
馬上でサティアナが落ち着くと馬は静かに歩き出した。柵の内側をサティアナを乗せて優雅に歩く。
頃合いを見計らってサティアナが馬の腹をトンと軽く蹴ると、馬は軽く駆け出した。サティアナとの息もピッタリである。
「コイツぁ良〜い馬ですねぇ〜。お嬢様に良く合わせてらぁ。」
「はい。馬自身も、今まで乗せたどのお客さんよりも良い感触なんじゃないでしょうか。走ってて楽しそうですねぇ。」
「なんだか一体感がありますよね。」
「がんばれ〜お馬さん!」
(すごいこのコ!こんなに違和感なく馬を走らせてるのは初めてだ!)
サティアナが感じた様に、柵の外側で見守る人達にもサティアナと馬の呼吸が良く合っていることを確認してもらうことが出来たことに、彼女はとても満足したのだった。
「やったね!…じゃあおしまいにしようか。アナタを連れて帰れそうだよ。ローさんにアナタの名前を聞かなきゃ!」
馬の首元を優しく叩きながらサティアナはそう語りかけた。
馬から下りるとサティアナは従者二人に駆け寄り、見ていてどうだったか感想を訊ねた。
二人とも満点を示し、晴れてその馬を買うことになったのであった。
「では、事務所の方で契約をいたしましょう。」
事務所に向かう途中サティアナはローに馬の名前を訊ねた。
「ローさん、あの馬の名前はなんて言うのですか?」
「名前は、今のところ特にありませんねぇ。なのでどうかお嬢様が名付けて差し上げてくださいませ。」
「そうですか……。う〜ん……では…、そうだね、ヨルとしましょう。黒い馬なので!」
「はい、良い名をありがとうございます。ぴったりですね。あいつも喜びます。」
「ええ、とても良い名前でございます。新しい名が早く馴染むよう屋敷の皆で呼びかけることにいたしましょうか。」
レックスが契約書にサインしながら言った。
「そうね、屋敷に帰ったら皆にヨルを紹介してあげましょう!」
契約完了後、馬の準備が出来るまでサティアナは室内でルーちゃんと遊ぶことにした。
帯鞄の中にいつも入れてある紙束と鉛筆を取り出しふたりでお絵かきをした。
最後にサティアナは自分の名前とルーちゃんの名前を書いてその紙束と鉛筆を彼女に贈った。
「ルーちゃん、またヨルと一緒に遊びに来るからね!」
「きっとよ!きっと来て!」
町の門でハン親子に見送られ、サティアナたちは帰宅の途についたのだった。
――――――――
帰りの道中では王都まで向かう商家の一行と出くわして道連れになり、途中の休憩時間には美味しいお茶をご馳走になり、後で屋敷に営業に来てもらう事になったりした。
「―――それではお嬢様、皆様、ご一緒させていただき大変光栄でございました。また後ほど伺わせていただきたく存じます。」
「ええ、こちらこそ、大変美味しいお茶をごちそうさまでした。たのしみに待っておりますよ。」
では御機嫌ようと、王都の大門で別れるとそれぞれの向かうべき方向へと動き出した。
「ただいま、ソフィー。」
「おかえりなさいませ、姉様。良き馬が見つかった様ですね?」
「そうなの!素晴らしい馬でね、名前はヨルだよ。後でみんなにも紹介してあげるね!」
「ええ、ぜひ。」
「それとね、帰り道で一緒になった商人さんが休憩時間にお茶をごちそうしてくれたのだけど、とっても良い香りのお茶だったんだよ。でね、売ってる物かと聞いたら後でこの屋敷に営業に来てくださる事になったの!お茶だけじゃなくて食器なんかも持ってきてくれるみたいだからソフィーも一緒に見ようね。」
「なんとおっしゃる商人でしたの?」
「ええと、セトラーさんだっけ?」
通りすがりのレックスにサティアナが助け舟を求めた。
「ええ、あの方はセトラー商会の会頭様でございます。」
「姉様、さすがですわ!セトラー商会といえば王都でも指折りの豪商ですわ。そんな方とお知り合いになるだなんて!」
「そうだったの?でもとても気さくで良い人だったよね?レックス?」
「ええ、私もあの方がセトラー会頭様であると知ったときはとても驚きました。とても腰の低い、穏やかな御仁でございますね。」
「セトラー商会は〈潔の商会〉として名高いのですってキャロルが言っていましたわ。庶民向けの物から貴族向けの物まで幅広く商売を行なっていて、簡潔丁寧を合言葉に従業員への教育などもしているのですって。悪い噂は聞かないそうですわ。」
「なるほど〜。あの方が会頭ならそれも頷けるね!」
「後ほど、いつ頃訪問になるか先方より連絡が来る手筈になっておりますゆえ。」
「了解。」
「わかりました、どなたかお友達を呼んでもよろしいかしら?」
「ええ、問題ないと思いますが、一応こちらから先方へ打診してみましょう。」
「お願いしますわ!」
ソフィアナのワクワクが止まらない様子を見て、サティアナは微笑んだ。一か八かと訪問販売を願い出てみて良かったと心の中で大いにガッツポーズをしたのであった。
今年もよろしくお願いします。




