第2章 [27]
王都から馬に乗り小休止を挟んで約二刻、パース町の入口に到着した。門番に対して知り合いの馬商の所へ向かうのだとレックスが説明すると、門番は承知していた様子で馬商までの最短の道を教えてくれた。
王都の隣町とあってけっこう賑わっているな、というのがサティアナの感想だった。
「けっこう人が多いですね。」
「はいー、ここは王都に入る前の旅人がいろいろ補充したり、要らないものを処分したりと何かと便利なんですぁ。王都は物価が高っかいし、持ち込む物が多いと余っ計に金を取られっちまいますからぁねぃ。」
「なるほどー。」
「それに、わざわざ王都入りする必要の無い人達がこの町で王都についての情報を交換したり商売したりする様ですね。」
「ああー、そういう側面もあるんですね。」
「馬商は町の外れの方にあるので、町の様子を見ながら向かいましょうか。」
レックスの提案で3人は馬から降りて馬を引きながら歩く事にした。飯屋、宿屋、雑貨屋、武器屋、酒屋、肉屋が軒を並べ、広場では青空市が開かれており野菜や果物、様々な小物や書物などが売られていた。
「活気ある町ですね!なんとなく地元を思い出します。」
サティアナはそう言いながら故郷の城下町を思い出していた。騎士団の皆は元気だろうか。こちらも寒いが、あちらの山から下りてくる冷たい風は今の時期さぞかし辛かろう。皆、春が待ち遠しいと思っているに違いない。
「お二人はアンハードゥンド領に行ったことはあるんですか?」
「私は、申し訳ない事だと思うのですが、ありません。お恥ずかしながら、王都から出たことがあまり無いのです。」
「自分は一度だけ、ありますぁ。行商護衛の仕事でアンハードゥンド領の町まで行っきました。領都では無ぇんですけっど。」
「そうだったんですか。アンハードゥンド領はやっぱりここからは遠いですよね~。それとレックス、別に恥じることは無いのではないですか?王都はとっても大きな都で何だって有るし、何だって出来ます。私だって王都で生まれ育ったらおそらく王都から出ることはほとんど無いでしょう。ただ、ふと思った事を聞いただけなのです。気を使わせてしまいましたね。」
「いいえ、めっそうもない!申し訳ありません!サティアナ様。……でも色々な町や場所を訪れてみたいという憧れは私にもあるのですよ。キレイな湖や、大きな海や、険しい山々の雄大な景色や遺跡などなど…」
「冒険者になれば良かったじゃねっか?レックスよ。」
「俺みたいな体力ない奴が成れるわけないだろ〜!」
「…まあ、それはそうっだなぁ。」
「おい!そこは否定するとこだろ〜!」
と、3人でひと笑いし、湿っぽい雰囲気も無くなった所で少し腹が減ったとジンが申告してきたため、昼食を取ることにした。
馬を預かってもらえる飯屋を事前にレックスが探してくれていたのでそこへ向かう。
飯屋に着き馬を預けるとそのまま3人は個室に通された。すべてレックスが段取りを済ませていた様であった。
「さすがぁ出来る執事は違いまっすねぃ。」
「やめんか。」
暖かい部屋に入るとすぐにお茶の用意がされ、お茶を堪能していると間もなく肉とパンとスープの組み合わせが三人分用意された。
「ん〜良い匂い!お腹が鳴ってしまいそうです!」
「自分はもうお腹ペコペコですぁ!」
「いただきましょう。サティアナ様、ご挨拶を。」
「はい。では守護神様の御守護に感謝して、いただきます。」
「「いただきます!」」
3人とも美味しくてあっという間に平らげてしまったのだった。ジンにいたっては肉とパンとスープを一人前追加で注文したのであった。
暖かい部屋に温かくて美味しいごはん、幸せを噛み締めたひとときであった。
食後のお茶は遠慮して、胃を休めるため少しだけ部屋でくつろぐと3人は飯屋を後にしたのだった。
そのまま馬を引き、腹ごなしに町を散策しながら馬商へ向かった。先ほどの昼食の素晴らしい点を語り合いなから。
町外れに差し掛かると牧場が見えて来た。肉体美の綺麗な馬、どっしりと大きな馬、小ぶりな馬、様々な馬が柵の内側で放牧されているのがサティアナには確認できた。
「わぁー、たくさんいますね!」
「ええ、本当に。」
「良い馬がいるといいねぇ。」
すると馬小屋の方から小さな女の子を肩車しながらこちらに向かって歩いてくる、体力に自慢ありそうな男性の姿が見えた。
「こんにちは〜!アンハードゥンド様ですか〜?」
親子なのかふたりして手を振りながら、男性が大声で訊ねてきた。
「はい!アンハードゥンド家から来た者です!今日はよろしくお願いします!」
レックスが馬の手綱をジンに預けると、その男性に向かって小走りで近寄って行った。
ジンから手綱を一つ奪うと、サティアナは馬を引き歩き出した。後から焦ったようにジンが追いかける。
サティアナとジンがレックスに近付くと、男性は娘らしき女児を肩から自身の膝の前に降ろしてお辞儀させ、自分も深々と頭を下げた。
「ようこそお越し下さいました、私はロー・ハンと申します。こちらは娘のルー・ハンです。お嬢様の馬をお探しなのですね。それで、おすすめの馬がいるのですが、ご覧になりますか?」
「サティアナ・アンハードゥンドと申します。今日はよろしくお願いします。おすすめであれば、ぜひ見させてください。」
ルー・ハンと紹介された女児がトコトコとサティアナのそばに歩いてきてサティアナの手を取った。
「あ、こら!ルー!!」
「大丈夫ですよ。ルーちゃんってお名前なのかな?案内してくれるの?」
うん、と頷き見上げてくるルーにサティアナも思わず笑顔になる。
「ルーちゃん!かわいいっ。じゃあ私を案内してね。行こうか!」
その姿を見て恐縮するロー・ハンにレックスが、「お嬢様はお子様方から大層人気なのでこれが通常です、気にしなくて大丈夫なのですよ」と説明した。
それを聞いてほっとするローであった。
サティアナはルーに手を引かれ馬小屋の方へ歩いて行った。
「こっちだよ〜」と、ルーはいくつかある馬小屋の中の一つ、比較的新しい建屋の前までサティアナを連れて行くと、父親が自分のそばに来るのを待つ。
ローがそばに来てルーを抱き上げた。
「親バカで本当にすみませんが、こいつはまだ小さくてひとりでは危ないので、抱き上げさせてくださいませ。」
「ええ、遠慮しないでください。ルーちゃんに何かあったら大変です。」
ローを先頭に馬舎の中に入ると、じっとサティアナの方を見つめてくる一頭の馬にサティアナの方でも気付き、しばらくその馬を見ていたが次第に何だか目が離せなくなっていた。
そんなサティアナの視線を拾いローがサティアナに話しかけた。
「おすすめはこっちの馬なんですが、お嬢様はその馬がお気に召されたのですか?」
「あ、いえ、気に入ると言うよりは気になって…この建屋に入ったときからこの子にずっと見られているのです。」
「そういうことなら、どうやらこいつはお嬢様に気があるみたいですね。ちょいと確かめてみましょうか。」
従者二人に対してサティアナから少し離れる様にと話し、ルーをジンに預けるとローはサティアナに付き添うことにして、サティアナの数歩前に出てその馬房の柵を外した。
するとその馬はゆっくりとサティアナに近付きサティアナの前に来ると頭を垂れ頭を軽く振り振りと動かした。
「驚いた……これは馬の服従の合図ですよ。気があるどころではありませんね。これは魂の縁ってやつかもしれません。お嬢様、こいつは大人しいがとても優秀な馬です、必ずや貴女様のお役に立てるでしょう!」
とにかく一度騎乗してみようということになり、サティアナたちは舎外に出て馬を待った。
ルーがサティアナに告げた。
「おねえちゃんに会えてあの子はとっても幸せそうだったのよ。だから連れて行ってあげてほしいの。」
「ルーちゃんはお馬さんの気持ちがわかるの?すごいねぇ。私もあのお馬さんが気に入ったよ。でもちゃんと乗れるか確かめてみないとダメなんだ。」
「じゃあお馬さんをおーえんするわ、ちゃんとおねえちゃんを乗せられるように。」
「ありがとう、そうね、私もよくあの子に話しかけてから乗ってみるよ!」
しばらくすると、鞍をつけた先ほどの馬がローに引かれてやって来たのだった。
メリークリスマス!
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今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします!




