第2章 [26]
――――次の休み。
「では姉様、どうかお気をつけて。良き馬が見つかることを期待していますわ!」
ソフィアナとリリーに見送られ、サティアナはジンの馬に合い乗り出発した。傍らには執事のレックス。
「お嬢様に懐いてくれる良い馬が見つかると良いですねぃ。」
「今日はふたりともよろしくお願いします。」
「お任せください。天気が穏やかな日で本当に良かったです。」
「はいー。町に着くまでは道中警戒して行きまっしょう。それでお嬢様、何かあれば自分は馬を降りますので、お嬢様はそのままレックスと町へ走ってくだせぇ。」
「有事の際の打ち合わせは済んでおりますので。」
「わかりました。可能な限り、二人に従います。」
「何も無ければ結構なんですがぁねぇー。」
「そうね。それで…この弓はジンの物なの?何やら良さそうな素材で出来ていますね?」
「はいー。自分は昔っから刀だけでなくって弓も使っているんですぁー。狩りをする時に使ったりするんで。」
「サティアナ様、こんな具合に少しおっとりしていますがジンは冒険者としてけっこう名の売れた奴だったんですよ。弓の腕前などは王都でも目立っていたほどです。」
「へぇ~、それは後で見せて欲しいな。…ねえ!もしかして我が家で出される肉って、ジンが狩ってきているのですか?」
「へえ、全部が全部ってわけにはいきませんが、師匠と一緒に狩るんですぁ。」
「ダズと!すごいね!」
「ふたりは狩りだけでなく肉や革などの処理までやってくれるので経済的にも助かっております。」
「旦那様には自分らぁ一緒に拾っていっただきましたっから、少しでもお役に立てる様にしたくって。それに以前からぁもともとやっていた事ですからねぃ。」
「ふたりとも冒険者をしていたのですか?」
「はいー、冒険者と言っても魔物相手ではなくって人や動物を相手に生計を立ってていたんですがねぃ。いわゆる便利屋ってやつですぁ。自分は孤児だったのを師匠に拾われてぇいろいろ仕込んでもらったんで。いまの自分が在るのはホントに師匠のおかげですぁ。師匠がいなかったら自分なんてきっとどっかで野っ垂れ死んじまってたですぁ。」
「だからダズには頭があがらないもんな、ジンは。初めて会ったときは親子かと思ったほど、君達の間にはただの師弟以上の絆のようなものを感じるよ。」
「……俺ぁ親ってもんを知らないが、師匠を親父だと思っとる節があるのは間違いないなぁ。」
「そういう思いが有るのも君らが揃って上級冒険者で居られた所以なのだろうな。」
「そんなぁやめろぃレックス、小っ恥ずかしいや。それに上級ったって、上の下だよ〜。」
上の下とはどういう事なのかな、とジンとレックスの話を聞きながら想像していたサティアナであったが、その様子に気づいたレックスが説明してくれた。
冒険者は上級・中級・初級と階級分けされ、それぞれ上の上(極上)、上の中、上の下、中の上、中の下、初の上、初の下に分けられる。冒険者登録直後は誰もが皆、初級(下)と書かれた登録証を支給される。
登録証は鉄製で表面には階級、裏面には名前が刻印されており、冒険者はみなお守り代わりにそれを胸元へ忍ばせる。
貴族も庶民も関係なく冒険者登録は可能であるが、冒険者として相対する場合貴族も庶民もなく皆々平等に扱われるので、貴族が冒険者としてやっていく場合そのあたりの注意が必要である。
「まあ、そうは申しましても、貴族の方々は皆様領地の運営でお忙しくされていますので、なかなか冒険者で在り続けるのは至難の業でございましょう。」
「忙しいと冒険者ではいられない理由があるの?」
「はいぃー、初級冒険者であるうちは、月に一度は必ず依頼をこなさないといっけないんですぁ。中級になると三月に一度、上級になると半年ってな具合に依頼をこなす事で冒険者の資格が更新されるんですぁ。」
「なるほど…。確かに領地経営に携わっている人間には難しそうですねぇ。」
「ええ。我らが旦那様も普段は月に一度ゆっくり休める日があるかどうかでございますれば、他の領主様方も似たような感じでしょう。ですが、貴族の分家筋の三男坊様や、早くに家督をお譲りされたご隠居様など、冒険者をお続けになっている方はいらっしゃいますよ。」
「そうなのですね。ということは、登録が出来て更に月に一度の依頼を達成し続けられるなら、私も冒険者に成れるということですか?」
「はいー、成れますねぇ。んでも、成人したての女の人にはとっても危険なことでっすからぁ、お一人では決ぇっして行かないでくださいね!」
「あー、…ジンはまだ冒険者なのですか?」
「残念ながら、自分はもう引退しっちまいました。いまはお嬢様のお屋敷の御用一本でやらさせていっただいてますぁ。」
「そうかー、残念。……まあ、機会があれば一度冒険者組合に行ってみたいとは思います。あ、もちろん独りでは行きませんよ!」
「「そこはよろしくお願いします。」」
従者ふたりに釘を差されるサティアナであった。
馬を休ませるために途中川辺で小休止を取り、仕切り直して一刻ほど行くと目的の村に到着したのであった。




