第2章 [22]
胸元に重みを感じ、サティアナは目を覚ました。見慣れない部屋である。自分がなぜここにいるのか思い出しながらゆっくりと起き上がった。
「目が覚めたかい。よかった。」
サティアナに向けられた声にびっくりして振り返ると、その声の主はサティアナが会いたくてたまらなかった人だった。
「ノア先生?!どうして……ここはどこですか?」
「ははは。驚きますよねぇ。…ここは救護室ですよ。僕がちょうど空いていたのであなたが目覚めるのを待っていました。サティちゃん、いやサティアナ嬢と言うべきかな?お久しぶりですねぇ。大きくなられて。」
「…そうだったのですか!ありがとうございます、先生。…私、ノア先生にずっと会いたかったのですよ?王都で会おうねって言ってくださったので、頑張りました。」
「ええ、そのようですね。僕も楽しみにしていましたよ。まさか自分がアカデミーの教師になって貴女と出会うとは思ってもみませんでしたけどねぇ。」
「ふふふ、入学式で先生をお見かけして私も驚きました!それ以上に嬉しかったですけれど。入学式の先生、とても素敵でしたよ?」
「おや、それは嬉しいな。あの時は頑張っておめかししたのですよ。」
ふたりは時間にしておよそ半刻ほど、会えなかった間のお互いのことを話したのだった。
コンコンとドアをノックする音が響き、ノア先生が「どうぞ」と返答すると、アニール先生が入ってきた。
「トレランス先生、ありがとうございました。助かりました。あとは私が。」
「わかりました。僕の方こそ、この子とお話が出来たことに感謝いたしますよ。」
アニール先生がノア先生に一礼すると、ノア先生はサティアナの方を向き、「ではね、今日の所はお暇しよう。また会いましょう。」と挨拶をし、救護室をあとにした。
まだ話足りない気持ちでノア先生を見送るサティアナに向かってアニール先生が声をかけた。
「良かった、目が覚めましたね、サティアナ。さて、貴女は霊力を使いすぎたので今ここに居るわけですが、めざめの神殿での事を思い出せますか?」
「はい、なんとか霊気を引き出すことまで出来たので、もう一度最初から仕切り直そうとしておそらく気絶したのではないかと。」
「わかっているなら結構ですね。その通りだと思います。それでいまの気分はどうですか?立ち上がれそうですか?」
「めまいとかは有りませんがどうですかね?やってみましょう。」
サティアナはゆっくりと寝台から出て立ち上がる。なんとか自分で歩くことが出来た。
それを確認するとアニール先生は救護室の外へ出て行ったのだった。
しばらくするとドアをノックする音に続き、アニール先生と一緒に「失礼いたします」とアンハードゥンド家別邸を預かる執事のレックスが現れた。
「レックス!わざわざ迎えに来てくれたのですか?忙しいのに、ごめんなさい。」
「いいえサティアナ様、これも私の仕事です。サティアナ様のお体の調子がそれほど悪く無さそうで安心いたしました。さあ、表に馬車を用意してありますから屋敷に帰りましょう。」
「サティアナ、明日も体調を診て登校してくださいね。無理はしないように。」
アニール先生がサティアナの鞄を差し出しながらそう告げたのだった。
馬車の近くまで行くと中からソフィアナが出て来て心配そうにサティアナのもとへ駆け寄って来た。
「姉様!!大事ないのですか?!」
「ソフィー!…大丈夫だよ、ちょっと霊気を使いすぎてしまっただけ。まだ修行を始めたばかりだから、自分の限界が掴めなくて…。心配かけてごめんね。」
「いいえ、そんなことは。姉様に大事なくて良かったですわ。それより日も暮れてきましたので帰りましょう。」
「はい〜、では参りましょう!さあお乗りくださいませ!」
そう声をかけてきたのは御者のダズである。
「ダズもありがとう。」
「もったいないお言葉ですわい。さあ、乗ってくだされ!」
そうして馬車は別邸に向かって動き出したのだった。
道中、サティアナが父母に宛てた手紙の返信が来たことと、馬の用意を別邸側でする様にと指示が来たことをレックスから報告されたのであった。
「サティアナ様、次の休みに馬を探しに参りましょう。もうあまり時間もありませんので。」
「そうだよね。レックスが一緒に行ってくれるのかな?」
「王都を出ますので、私とジンが供で参ります。」
「どちらまで参りますの?」
ソフィアナが質問した。
「王都の隣町に知り合いの馬商がおりますのでそちらへ参ります。サティアナ様のお気に召した馬があれば購入して帰って来ますので、今回は馬車ではなく騎乗で参りたいと思います。」
「あらそれは残念ですわ。馬車ならばぜひご一緒したかったのですが。」
「申し訳ありません、ソフィアナ様。」
「良いのです。姉様に良い馬が見つかる事を期待いたしますわ!」
「良い馬が見つかったらあとで乗せてあげるから何処か行こうね、それで埋め合わせってことで良いかな?ソフィー?」
サティアナの提案に少し照れくさそうに頷くソフィアナであった。




