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第1章 [4]


 武器屋を離れ、馬に乗ってお師匠様と大通りを行く。次は食事処に行くらしいけど、それがどこかは知らないので、お師匠様の少し後ろを行く。馬に乗っていると、やはりお師匠様は目立つのであちらこちらで黄色い声が飛んでいた。


 どこか曲がるのかと思ったけれど、着いたのは大通りをそのまま真っすぐ行って左手に見えた大きめの食事処。宿屋も兼ねているらしく、むしろ宿屋に併設された食事処といった風情だった。

 入口に着くと、店主と女将がお出迎えに来ていた。おそらく、武器屋の店主が連絡しておいてくれたのだろう。馬から降りると、従業員が馬を引いて行ってくれた。相変わらず少し距離があるが、辺りは人混みで混雑していた。


「ようこそお越しくださいました!」と、店主と女将が深々と礼をした。


「急に済まないな。個室が空いているか?」


「はい、ご用意させていただいておりますので、こちらへどうぞ。」と、店主と女将が私達を導いて行く。 




 部屋に入ると従業員が待機しており、椅子を引いてくれた。私達が座ると、店主と女将が改めて挨拶をした。


「この度は当店にお越し下さいまして、この上ない喜びにございます。なにか御所望がございますれば、ありきたりな店ではございますが、精一杯のおもてなしをさせていただきたく存じますので、何卒よろしくお願い致します。」


「ああ、こちらこそ宜しく頼む。お嬢様の好き嫌いは特に無いので、女性に人気のコースで頼む。俺は葡萄酒とそれに合う肉が良い。なにか肴になる物も良いな。それから、テーブルに従業員は付けなくて良い。」

と、お師匠様が注文した。



 お師匠様はこういう所に来るのきっととても慣れているのね、と関心しつつ、どんな女性を連れて来るのだろう?と考えてしまった。モテるから選び放題なのかな。でも、前世の私もきっとモテたはずだけど、シンさん一筋だったから、お師匠様もそうなのかな?とか。

 そういえばお師匠様って婚約者を作らないけど、なんでなんだろう?とか。このあと聞ける機会があれば、聞いてみよう。でもまずは、この短刀の話と私の前世の話をしなくちゃ。お師匠様には、話しておきたい。あと、いつか会えたとき、先生にも話したい。と、お師匠様が店主とやり取りしている間にそんなことを考えていた。


 店主と女将が部屋を下がり、従業員は部屋の外で待機するようだった。



―――――――


 テーブルの準備も終わり、落ち着いたところで

「さて。まずはその短刀の話を聞かせてくれ。」とお師匠様が切り出した。


「話せば長くなりますが、聞いてくれますか?」と私が返すと、お師匠様はニヤリと笑って頷いた。


 自分が幼い頃から見てきた夢の話、昨日の神殿での出来事をお師匠様に話した。途中、料理が運ばれて中断したけど、話したいことは話せたと思う。


 葡萄酒を飲みながらお師匠様はいつになく真剣に聞いてくれた。私の話が終わったあと、少し何か考えていた。


 そして、「なるほどな。」と一言。

 続けて、「お嬢。アンタの身体能力は、俺から見ても抜群だ。俺だって負けるつもりは無いが、アンタはこれからもっと強くなるだろう。だが、今の話を聞いて納得したよ。アンタがあの <北の英雄> の魂の生まれ変わりだったとはな。」

と言いながら、残りのお酒を飲み干した。


 従業員が次のお酒を持ってきてグラスに注いだ。その直後に、メイン料理が運ばれてきた。


 美味しそう。牛っぽい肉をレアで焼いて薄切りにしたものが扇状に広げられ、色とりどりの生野菜が添えられている。上からなんだか赤いソースがかけられている。甘い爽やかな香りがするから、柑橘系のソースかな?見た目も華やかで女性ウケしそうな一皿だ。


 お師匠様のは、ガッツリと肉だ。肉汁がしたたっていて、何種類かのスパイスが降りかかっていて、お酒に合うんだろうなというのが一目瞭然。


 食べながら会話を続ける。


「北の英雄と言われていたんですか?うちの初代は。」


「ああ、なんでも当時北の森に厄災級の魔物とその取り巻きの魔物が大勢出て、王国の軍も出たそうだが結局その方が独りでその厄災級の魔物を退治したそうだ。それで、北の英雄と言われていたそうだ。北の英雄殿はデュアルスターでもの凄い術を使ったそうだが、剣もものすごく強かったらしい。厄災級魔物退治の功績を讃えて、当時の国王陛下が北の英雄殿に辺境伯爵の位を与えた、と聞いたよ。」


「そうだったんですか。そんなことが。。」


「そんな御方の生まれ変わりだって?お嬢。アンタが。―――良し、俺は決めたぞ。明日からはもう一段階上の稽古を付けてやる。俺も真面目にやるから、覚悟しろ。そして、俺を負かせてみせてくれ。」


 お師匠様の瞳が見たことないくらい生き生きしていた。そんなお師匠様を見て、明日が怖いなと私の笑顔も引きつっていたと思う。 


 食事をしながら、お師匠様は上機嫌だった。今聞いた話がお師匠様にはとても嬉しかったらしい。そういえばお師匠様はどうして近衛騎士を辞めてこちらに来たのだろう?素朴な疑問で聞いてみた。


「こんな事言っちゃいかんのだが、正直、王宮の警護がつまらなくてな。給金は良いのだが、腕が鈍っちまう気がしたのさ。で、いっそのこと冒険者になって魔物相手に銭を稼ごうかと思っていたのを、どっかから聞きつけたアンタの叔父上殿に誘われたって訳だ。辺境伯騎士団に来れば、騎士団に所属しながら休みの日には北の森で冒険者も出来るぞってな。」


「それでこちらに来たわけですか。」


「あとは辺境伯騎士団に入ればアンタの叔父上殿と手合わせ出来るかもって願望もあったからな。カーティス総隊長はお強いからな。」


 今お師匠様は、ついでみたいに言ったけどこっちが本心だよね。きっと強い者と戦いたいんだ。

 だから、私を育てたいんだなって、解った。期待されているのだと思うと、とても誇らしかった。


「そうですか、分かりました。明日からジャンジャン鍛えてください、お師匠様に一本取れるように精進しますので!」


「ん?何が分かったのか分からんが、おう。ビシバシいくとしよう。乾杯だ。」


 そして二人で再度乾杯した。




――――――――



 食事を終えると、店主と女将が部屋に挨拶に来た。


 そして店の入口まで私達の前を行き混雑を避けてくれた。店の入口には馬が出されていて、従業員が馬に水を飲ませてくれていた。

 馬のことに対して女将に礼を言うと、当然の事だと言われた。店主はお師匠様にお酒の瓶を渡していた。お土産らしい。


 そして、店主、女将、従業員何名かが深々と礼をして私達を送り出してくれた。


 まだ両親との約束のお茶の時間には間に合うが、いい頃合いだった。「少し急ぐか。」と、お師匠様が馬を小走りさせてくれたので、私もお師匠に続いて馬を少し速く走らせた。


 街から外れると、さらに馬を走らせた。

 今日は晴れて風も無いので、庭でお茶にするのだろうなと思った。

 騎乗しながら心地よい風を感じていた。前を行くお師匠様も楽しそうだった。酔っ払ってはいない、よね?お師匠様がお酒を注文したことは、父上には内緒にしておこうと思った。


 屋敷に着くとお師匠様は私達の馬を繋いでから、じゃあまた明日な、と言って背を向けたので、私が付き合ってもらったお礼を言うと、おう、と言って手をヒラヒラさせながら騎士団の詰所に向かって去って行った。


 明日から頑張らなくちゃね、とお師匠様の後ろ姿を見送りながら独り言を言って、気合を入れ直し、そのまま庭に向かって歩く。少し早いけど、ちょっと庭でまったりお日様を浴びようかな。短刀を明るいお日様のもとでじっくり観察してみたいと思った。

 庭に入るとヨハンがお茶の準備をしていて、急がせては申し訳ないから、私は向こうの木陰で短刀を観察しますよと伝えておいた。


 いつものお気に入りの木陰に着くと、いつもの椅子にスッと腰を下ろした。

 私は女子だけどスターホルダーだから、ゆくゆくは王国軍に所属するため、剣術体術の修練を始めた頃から基本的には騎士風の服装をしている。だから本当は芝生の上に寝転がりたかった。でも、このあと両親とお茶をいただくので、服はなるべく小綺麗にしておかないとね、と思い椅子に腰掛けた。


 短刀を収めている皮の腰巻きを外して、短刀を手に取りじっくり眺めてみる。

 今朝も思ったけど、やはりまだ私には少し重く感じた。これは短刀といえど、前世でトージさんが使っていたものだから、私にはまだ使えないのかもしれない。

 明日お師匠様にそのあたりのことを相談してみようと思った。

 短刀の柄の部分は、とても持ちやすい。が、やはりまだ私の手には余る太さだ。しっかり握るには私の手がもっと大きくなるか、柄の部分の巻物を変えるか。これも明日お師匠様に聞いてみよう。結局、この短刀に相応しくなるには、私にはまだ時間が足りないというわけだ。


「なぁーんだっ!つまんないのー!」


 結局、椅子から下りて芝生に寝転がった。そんな私の頭上に、


「ふふふ、何を喚いているのです?あらあら、髪の毛が汚れますよ?騎士服を着ていても貴女は女の子なのですからね。」

と、母上の楽しそうな声が降ってきた。


「母上!こんな姿を見つかってしまうとは思っていませんでした。気をつけます。」と言いながら芝生に立ち上がった。


「父上に見つからなかっただけ良しとしなさいな〜。」

と母上は私の髪を整えてくださった。と言っても、動きやすい様に私の髪はいつもひとつに結びそれを巻き上げつむじあたりで固定しているので、母上は髪についた汚れを払ってくださったのだ。


 母上に髪を触ってもらったのは久しぶりだったので、私の機嫌はすぐに治ってしまったのだった。



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