第2章 [21]
その日、いつもより感覚が鋭くなっているという自覚がサティアナにはあった。
午前中の剣術修練でもクラスで一番の動きを見せていた。相手の動きが細部まで良く見えていたし、自分の身体を思い通りに動かすことができた。それは少し不思議な感覚だった。
午後になり、その日の予定通りめざめの神殿に向かった。
神殿に入ると皆、思い思いの場所で覚醒に向けた修行に入った。サティアナは中央部の御社(サティアナはそう呼んでいる)近くに陣取ることにした。その日はなんだかその場所が気になったのである。
御社に向かって胡座を組み、そこから両手の平、両足の裏を合わせて座る。この姿勢はいまの彼女が一番霊気を感じ取れるものであった。
深呼吸しながら意識を両掌から自分の中に向かわせる。魔力とは違う己の中の奔流を探すべく、深く深く意識を集中させる。と、いつもより浅い場所でその奔流を探し当てることが出来た。それを自分のそばに手繰り寄せる感覚を得ると、さらに霊穴と言われる光源に触れる感覚を得ることに成功したのであった。
(やった!いつもの半分くらいの時間で触れた気がする!)
サティアナは一度現実に意識を戻し、再度霊穴への接触を試みる。
2回目、3回目ともに1回目と同じくらいの早さで霊穴を探り当てることに成功したのであった。
連続で霊気に触れたので少し疲れ、サティアナは休憩を挟むことにした。
(あんなに短い時間でも何度か霊気に触れるだけでこんなに疲れるとは、初めての感覚だな。)
自分の両掌を眺めながらしばし考えていると、アニール先生がサティアナの隣に来た。
「サティアナ、今日は調子が良さそうですね。連続して霊気を扱うと疲れるでしょう?」
「はい、とても。初めての経験です。これで技を展開しようなんて、まだまだまだ、先が思いやられますね。」
「ええ。私もそうでしたよ。ビッグスターは皆、そう思いながらもやってのけるものですよ。大丈夫、出来ます。そのために今まで厳しい修練をしてきたのですから。」
「そうですね。…はい、ありがとうございます先生。もう一度頑張ります!」
アニール先生に珍しく頭を撫でられて、サティアナは勇気をもらった気分になり、再度霊穴を目指す。
再び霊穴を探し当てると、不意に声が聞こえた。
―――――うむ。おぬし、ようやく掴んだ様だのう。ご苦労じゃった。
(あ、守護神さま!はい、今日ようやく連続して霊穴に触れることが出来るようになりました。ここまで遅くなり申し訳もございません。)
―――――良い良い。なに、ようやくと言うたはおぬしの心情を汲んだのじゃ。上出来じゃ、褒めてつかわす、良うやった。霊穴までの工程は己の感覚ひとつ。我にも手助けは叶わんからな。
(守護神さま、もったいないお言葉。ありがとうございます!)
―――――さすれば子霊よ、その霊穴を拡げてみるとしようぞ。その穴に手を突っ込み少し拡げて中の霊気を引き出すのじゃ。少しずつ慣らしていくのであるぞ。
やってみよ。
(はい!やってみます!)
サティアナは主から助言された通り、意識の中で恐る恐る霊穴を拡げて穴の中のモノを引き出す様にやってみた。
すると己の意識の周りを渦巻く様に、キラキラとした霊気が一本の糸の様に細々と流れ出てきて、それが段々と太い縄の様になりサティアナを包んだ。
―――――うむ。おぬし本当に筋が良いな。今おぬしは霊気を編んだのじゃ。編み上げて己に纏うたのじゃ。我の手助けが入っておるとしても、まこと上出来上出来。今の感覚を忘れるでないぞ?
(はい!ありがとうございます守護神さま!精進させていただきます!)
―――――さて子霊、少しおぬしの話を聞かせよ。あの王女とは良くやれておるか?周りで変わったことはないか?
(はい、シャルロッテ殿下とは仲良く出来ております。今度お茶会に招かれ、その際王妃様にもお目通りさせていただく予定です。我が身辺での異変は今のところ特にありません。)
―――――そうか。では王宮に入る時は注意するのだぞ。人間とはおぬしの様な善き者ばかりではないからな。そして、おぬしが見聞きし感じ取った王宮の様子を後で我にも報告せよ。愉しみにしておるぞ。ではまたな。励めよ。
そう言い残すと主の気配は消失した。
サティアナはひとつ深呼吸すると、改めて己の編んだ霊気を感じとり、そして今度はゆっくりと編んだ霊気を霊穴の中に戻した。霊気が全て戻ると霊穴は自然と小さくなり、最初の光源に様変わりした。光源に戻ったのを確かめた後で、サティアナは意識を現実に戻したのだった。
「おゎぁうぅ〜……」
現実に戻った途端サティアナはものすごい疲労感に包まれた。目の前がクラクラとして少し気持ち悪くなり、身体の力が抜けその場でコテンと横になってしまった。
「サティアナ!」
アニール先生が駆け寄ってくる。その姿を視界に収めながらサティアナは意識を失うのであった。




