第2章 [19]
螺旋階段を1周半ほど下降すると長めの廊下に出た。その廊下を突き当りまで行くと先ほどとは趣の違う螺旋階段があった。
「こちらへどうぞ。」
店員の後に続きサティアナたちがその螺旋階段を1周ほど上ると短い廊下が見えた。廊下の左側には客席が設けられている。どうやら自分たちの席から厨房を挟んで反対側の建物部分へ来たようであった。
廊下の右側にはいくつも扉があり、店員の後に続いていくつかの扉の前を過ぎ去る。店員はある扉の前にたどり着くとその扉を開けながらサティアナたちに向かって告げた。
「こちらの部屋の書物は、どれもみな神々に関するものとなっております。どうぞご自由にご覧になってくださいませ。ご所望のものがあれば、私共にお申し付けくだされば新品をご用意いたします。」
部屋を見渡すと、重厚な扉付きの書棚にはこれまた重厚な格式ばった書物が収まり、普通の書棚には神話や逸話、絵本、各教会の観光案内など、幅広い種類の書物が置かれている様子だった。
「すごい。こんな部屋があるなんて!神々に関する書物が欲しいという客は多いのですか?」
サティアナが店員に質問すると、
「はい。一般的な書店ではなかなか意に添うものが見当たらないとされる上流階級のお客様からのご要望が多々あり、このような区分をご用意しました所、ご好評をいただいてございます。」
「なるほど、学者や研究者にとって最高の書店といわれる所以が分かりますわ。顧客対応も最高なのですわね。」
「お褒めいただきありがとうございます。これからも精進させていただきます。…ではどうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。」
店員の退出を確認したのち、サティアナは意気込んで書棚に向かった。
「姉様、具体的にはどの神のことをお知りになりたいのかうかがっても良いですか?」
「良いよ。私が知りたいのは、創造神・始祖神と言われている神様のことだよ。」
「わかりました。わたくしにもお手伝いさせてくださいませね。」
「ありがとう、お願いするね。」
そこから二人は別々に書物を探し始めた。
サティアナは重厚な書棚の中を、ソフィアナは絵本や観光案内などの軽めの書棚から。
重厚な書棚の扉を開けると、サティアナは背表紙の題名をひとつひとつ順に読んでいった。すると、創造神に関わりのありそうな題名を見つけたのでその書物を書棚から取り出して近くの机に座り、その書物を開いたのだった。
【世界はじまりの物語】
――――この世界がまだ混沌のものでありしとき
この世界の親たる創造神は
混沌としたままの世界に味気なさを感じ
彩りの世界を創ることにしたもうた
まずはじめに三つ柱の神を創りたもうた
陽の神
陰の神
兼ね合いの神
次いで三つ柱の神々とともに
天地を分けて創りたもうた
陽の神のちからと陰の神のちからを
兼ね合いの神のちからがうまくとりなし
混沌でありしこの世界に彩りをもたらさんとす
創造神の願いは
彩りと和によりてつくらるる
平和な世界を観て楽しむことにあり
三つ柱の神々は
創造神にお喜びいただくため
彩りの世界に必要な神をいくつも創りた
山の神々
川の神々
海の神々
火の神
水の神
風の神
それぞれの神が陰陽兼ね合いの三柱とともに
この世界に彩りをそえるため
様々なものを創りた
森や湖
砂漠や岩場
熱帯雨林
寒冷地
さまざまの植物
小さき生物
やがてそのなかに精霊が誕生したり
精霊たちはそれぞれの属性に見合うたはたらきをし
神々を手伝いてともに彩りの世界を作りた
そうして幾重もの時代を経て
人間がこの世界に誕生したのである――――
(こんな書物があったんだなあ……私は勉強不足だった……。ビッグスターの生まれに神々が関係していることはほぼ間違いない。私はもっと神々について知らなければならないのかもしれないな。)
次の章ではこの【世界はじまりの物語】に対する考察が述べられている様だった。
サティアナは少し読んだが、すべてを読むには時間がかかるな、と思った。しかしながらとても興味深い内容であるため、購入することに決めたのだった。
自分の部屋で誰にも邪魔させずにじっくり目を通すことにしたのである。
サティアナがソフィアナの方へ近づくと、妹はそれに気づき、「姉様、良いものがありましたか?」と問いかけてきたので、「そう!とても良いものが見つかったから買うことにしたよ。」と返した。
「ソフィーの方はどう?何か良さそうなものが見つかった?」
「はい、姉様にとって良いかは分からないのですが、これらなどはいかがでしょう?」
そう言って渡されたのはチゼル王国内での現在の宗教分布と教会数が分析された書物と、チゼル王国内の観光名所と教会について書かれた書物だった。
サティアナがそれらを手にとってサラッと読んでみると、それらも彼女にとって有用な書物であることが判った。
「さすがはソフィーだね!とても良さそうだよ。これらもぜひ買おうかな!」
サティアナが満足げにしていたので、ソフィアナも姉の期待に応えられたと内心安堵したのだった。
購入を決めた所で店員を呼び、それらの書物をアンハードゥンド家別邸まで配達してもらうことにした。
「さてと、私はもう用が済んだから、次はソフィーの番だよ?ソフィーが欲しい本を探そう!」
「あら姉様、嬉しいですわ。では、わたくしはチゼル王国の地理や社会に関する最新の情報を集めた書物を探したく思います。これからの見合い話に必要かと思いまして。」
「…なるほど確かに。各領地の生産物や勧めている政策なんかが分かるものだとなお良いかもね!あと観光事業なんかも良いね~?」
「その通りですわ。見合い中の話題にもなりますし。いろいろな判断材料としても頭に入れておくべきかと思いましたの。」
「そうね、ソフィーにとって今後必要な知識かもね。…私にも必要かもしれないからソフィーが読み終わったら私にも貸してね。」
「もちろんですわ!」
新しいお目当てに向けて、姉妹は今まで居た部屋を出るのだった。
少々体調を崩しまして、更新が遅くなりました。すみません!




