第2章 [18]
その後もふたりは雑談をして過ごす。
「姉様、校外実習は来月あたりからですか?」
「うん、王都周辺の雪解けが始まりの合図らしいよ。騎士養成部と魔法師養成部の全学年を通していくつかの隊に分けて行う合同実習みたいだね。各隊で卒業した生徒の抜けた穴に、隊同士の実力がなるべく均一になるように新入生を補填するんだって。それには生徒の実力を測らなければならないし、隊の編成って先生たちにとっては大変な作業だよね。」
「そうですわね。姉様の配属される隊にはどの様な方々がいらっしゃるのでしょうね、姉様のことながらわたくしも楽しみですわ。」
「うん、ホントだね。……あ、そうだ。後で父上に手紙を書かなきゃいけないんだよね。校外学習の時にビッグスタークラスの生徒は自分の馬を用意出来るようなら用意しなさいってアカデミーからの通達があってね。母上に今日のお礼の手紙を出す時に父上にも一緒に出しておこうかな?」
「そうですわね。でしたらレックスにもそれとなく言っておいた方が良いかも知れませんね。こちらで用意することでしょうから。」
「そうだね、そうしよう〜。それで校外実習はね、最初は東の森に行くらしい。薬草の知識を深めたり魔物討伐のための経験を積む?みたいな。」
「ああ、…王都周辺には東西に森があるのですが、東の森の方が魔物の脅威レベルが低いらしいですわ。精霊の力が強いからと聞いたことがあります。だから初めは東の森なのでしょうね。」
「あー、そうゆうことか。」
「そのうち泊りがけで東の森にて野営の練習もすると聞いたことがありますわよ。」
「うんうん。騎士団で魔物討伐と言えば普通は遠征になるのだから、在学中での野営の経験は積むべきだよね。それも楽しみだな。」
「姉様は野営の経験はないのでしたわね?」
「うん。クロムの街から北の森は比較的近いから野営することはなかったんだよね。森の奥まで行くのなら野営は必要なのだけど、奥まで行くことはないからね。」
「わざわざ魔物の領域に踏み込むべからず、ですわね。」
「そうそう。だからこそあの地では均衡が保たれ、共存とも言える状態でいられるのだしね。……まあ、私たちの地元とこちらでは状況が全く違うから。」
「ええ。こちらは人間の方が数的に圧倒していますから、完全に人間の領分なのですが、東の森は精霊の力もありますし規模も小さいので小さな魔物が多いのですわね。西の森は規模もそうですが、そのまま北西の国境まで繋がる深い森ですから強い魔物が北の方から流れて来るのですわね。」
「うん、私もそう習ったよ。だから学生のうちは東の森で経験を積むんだということだね。西の森の魔物討伐は騎士団や冒険者、大人の仕事ってことだね。」
「いずれにせよ、外壁外へ行くときはお気を付けて下さいね。」
「うん、ありがとう。気を付けるよ。」
コンコンと、外の仕切をノックする音と共に店員が料理を運んできた。
まずは前菜として二人ともサラダは選ばず、代わりに温かい根菜のスープを選んだ。
「野菜がほどよくとろけていて、美味しい!からだが温まるね!」
「ええ、野菜の旨味が効いていて美味しいですわね。」
「そう言えばお昼ごはんを食べに大校舎の食堂に行ってみたのだけど、それほど混んでいなかったよ?ソフィー達もいつもあそこにいるんでしょう?見当たらなかった。」
「姉様達の部に比べて、わたくし達の部の方がお昼休憩が長いのですわ。休憩の入り時間が早いのです。それなので、姉様達が食堂に入ったのが一番混雑する時間帯を過ぎていたのでしょう。みな食事が終わると自分の教室に戻ったり屋外に行ったりするのですわ。姉様が来ると判っていれば食堂で過ごしましたのに!姉様、次に食堂にいらっしゃる時は私にお声をおかけくださいね?」
「う、うん。」
「色々なメニューが有りましたでしょう?」
「うん、たくさんあって目移りしちゃって、結局北の領地で良く食べていたものを頼んでしまったよ。」
「鹿肉の香草焼きですか?」
「そうそう!味付けは少し違うものだったけれど美味しかったよ。また食べたいな。ソフィーはどのメニューがお気に入りなの?」
「わたくしも、鹿肉の香草焼きですわ!あとは南部の料理で木の実と鶏肉と野菜を甘辛く炒めたものがあるのですが、それも好きですわ。」
「じゃあ今度はそれを頼んでみようかな。」
またコンコン、とノックの音が響いて主菜が運ばれて来た。
サティアナが注文したのは、臭みを消すために香の物で煮込んだ後オーブンで表面をこんがり焼いた赤牛の肉焼き。香辛料をふんだんに使っているものだ。付け合せはパンと葉野菜、それと檸檬水。
ソフィアナが注文したのは、チーズの入った雑炊飯の上に白身魚の香草焼きが乗ったものである。途中で味を変えられるように魚介の出汁が付け合わせてあり、どちらの主菜も香りが抜群であった。
「おいしそうだね〜!!」
「はい!!」
ナイフで切って口の中に入れると、香草と肉汁の香りが鼻から抜け、噛む毎に肉の旨味が口の中に拡がる。
「美味しい!!しあわせ〜〜!」
はしたなくならない様に小声で歓喜の声をあげるサティアナを見て、ソフィアナも満足感に浸るのであった。
お互いに食感や味付けの感想などを述べ合いながら主菜を食べ進め、後で屋敷料理人のジンに同じ様な物を作ってもらう事で合意したのだった。
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「ふう。お腹いっぱいだよ〜。」
「少し休んだら、歩きますか?お茶はその後にしましょうか?」
「うん、そうしましょうかね。」
その旨を店員に告げ、少しおしゃべりしてから頃合いを見て手洗いに行き、その後二人は席を外すことにした。
「さて姉様、何を見ますか?」
「図鑑はとりあえず置いといて、神話とか神様とかについて書かれている本があればいいのだけれど。」
「なぜ神話を?……もしやそれは、ビッグスターに関する事なのですか?」
「うーん。関すると言えば関するし、興味があるだけだと言えばそれまでなんだけど。どのみち深くまでは話せないんだ、ごめんね。」
「承知しております。わたくしの為でもあるのですわね?」
「そうだね。大事な妹を危険に晒したくはないかな。」
「ありがとうございます。では神話などについて書かれた書物の場所をどなたか店員に尋ねてみましょうか。」
そう言ってソフィアナは店員を見つけると、サティアナの所まで連れてきたのだった。
「おまたせいたしましたお客様、ご所望がお有りとのことですが?」
「ええはい。神話かもしくは神々について書かれている書物を探しているのですが。」
少々お待ち下さい、と店員は上着の内側から手帳を出すとそれを確認し始め、確認し終えるとサティアナに告げた。
「ではご案内いたします。お足元ご注意ください。」
店員の後に続き、サティアナとソフィアナは螺旋状の階段を下り始めた。




