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第2章 [16]

 

 サティアナが図鑑を購入した後、まだ降りてこない妹を階段のそばで待っていると少し経ってからソフィアナが階段を下ってきた。


「あ、きたきた。ソフィー。」


 片手を挙げて合図をすると、ソフィアナも姉の下へ。


「ごめんなさい、姉様。遅くなってしまって。」


「ううん、大丈夫だけど、なんかあったの?」


「はあ、少し…。周りの若者に捕まっておりましたの。」


 同じ年代に対して〈若者〉という言葉を使ったソフィアナは、少し背のびしたいお年頃なのであろう。嬉しいような困ったような笑顔であった。



 気を取り直して、ふたりは次の店に行くことにした。ソフィアナおすすめの書店である。近場だということで街道を歩いて店に向かう。


「さっきのお店よりも品揃え豊富なのかな?」


「それはもう。あらゆる種類の書物を取り扱っておりますの!見てまわればきっと丸一日では終わりませんわ!」


「それは大変だ…けど、見応えありそうだね!」


「ええ。ですから、店内で休憩しながら探しものが出来る様になっておりますの。」


「んー!それはとても良い趣の店だね。」


「ええ、とは言え。実はわたくしもまだ一度しか入店したことはありませんのよ。超高級書店ですので。」


「えっ!?超、高級店なの…?私そんなに持ってきてないんだけど…」


「ああ、そのことならば大丈夫で…あ、姉様見えてきましたわ。あの建物がそうですわ!」


「おお~……おっきいね~……。確かに一日では終わらなそうだな、これは。」




 サティアナは店の前に立つとその第一印象を述べた。


「なんだか劇場みたいだね。」


 するとその言葉を受けたソフィアナが返答した。


「ご明察、ここはもともと劇場だったようです。中を改築して本と食事を提供する店になったようですわ。」


「ん?お茶とお菓子だけじゃなくて、ごはんも食べられるの?」

 予想外の言葉にサティアナは驚いた。


「そうですのよ姉様、今日はこちらを予約済みですので、ゆっくりと本を探しつつ食事も楽しみましょうね!」


「予約までしてくれてたんだね、ありがとうソフィー!」


「いえいえ、もとよりこちらの店は完全予約制なのでレックスにお願いしていたのですわ。それから先ほどおっしゃっていた支払いなのですが、本日のこれはお母様から姉様に対しての入学祝いという事だそうですよ?わたくしも今日は姉様の入学祝いのご相伴に預かることが出来て本当に夢のようですわ!ありがとうございます。」


「母上から?…あの方はそんなこと一言も言わないで帰っちゃうんだから。後で手紙でも書かなきゃね。」


「ええ、そうしてあげてくださいな。きっとそれこそがお母様のご期待なさっている事なのですわ、姉様!」


 ウキウキとしながら、ソフィアナが先に店内に入った。入り口に待機している執事風の店員に予約名を告げると、その店員は片手に持っていた手帳を開き告げられた名を確認した。


「はい、ご予約承っております、ルイーズ・アンハードゥンド様でございますね。この度はご来店まことにありがとうございます。それではお席までご案内いたしますが、何かお探しの書物などはございましょうか?」



「そうですわねぇ…姉様は何かお探しのものがありますか?」



「んー、今日はいろいろな図鑑が見たいなと思っているのと、あと、あまり無いかもしれないけれど神々の伝承や、人々の信仰などについて記されているものを見つけられたらいいなって。」



「なるほど……かしこまりました。では、こちらへどうぞ。お足元ご注意くださいませ。」



 姉妹に対し一礼すると、その店員は先導し歩き出す。

 そうして通された先は〈教養〉と記された階の席であった。

 席に着くと、劇場だった名残りで階下が見渡せる様になっていた。その階下中央部は厨房になっており、料理人たちが忙しなく動き回っている様子がよくわかった。こちらの舞台の主役は役者から料理人に変わったということだな、とサティアナは嬉しい気分になったのだった。

 通された席の近くに書棚はあれど、席自体は半個室の作りになっておりその席に誰が座っているのかは確認出来ない様になっていた。階下の厨房を挟んでサティアナ達がいる反対側の壁沿いにも元は観覧席であっただろう半個室が広がっているが、目隠しのための布が下げられている席もあり、壁の反対側からも誰が座っているのかは確認出来ない様になっていた。これなら密会などでも重宝されるのであろうと、この店が超高級書店である理由の一端も垣間見えるのであった。



「目隠しの布は下ろされますか?」

 執事風の店員が尋ねた。



「いいえ、特に下ろさずとも結構ですわよね、姉様?」


「うん、このまま料理人さんの動きが見える様にして欲しいな。それにしても素晴らしい発想のお店ですね。料理人を主演にしてしまうだなんて。」



「お褒めいただき恐悦至極にございます。本日はごゆるりとお愉しみくださいますよう、何かございますればお近くの店員にお告げくださいませ、アンハードゥンド様。」



「わかりました、ありがとう。」


 ソフィアナが店員に礼を言うとお茶の準備をしに店員が下がり、姿が見えなくなるとソフィアナが目を輝かせて話し出した。



「あの店員の方、素敵な雰囲気の殿方ですわね!」


「ん?まあそうだね。でもそういう事なら、私は前の店で図鑑まで案内をしてくれた男性の方が好みだったかな?」


「文房堂の店員ですか?……どの様な殿方でしたの?」



「外見は…サラサラの髪を後ろで結わえていたね。肌と瞳がキレイだった。中肉中背だけど姿勢は良かった!身のこなしが颯爽としていて、笑顔が人懐っこい爽やか青年だったよ。」



「なるほど…?意外ですわ。姉様がゼフラ様以外の殿方を好みだと言うなんて。しかもゼブラ様とは雰囲気も全然異なりますし!」



「え?ああ、お師匠様は、単純に私にとっての憧れの存在だからね~。好みって事で言えば多分、凛々しい男性よりも可愛げのある男性の方が私は好きなのだと思うよ。そういうソフィーはどうなの?あの店員さんみたいなのが好みなの?けっこう細身だったけど。」



「わたくしはやはり、頼りになる大人の殿方が好みですわ。先ほどの方は特に外見が好みでしたわ!細身でも良いのです。体格が良ければ頼りになると言うことでもありませんもの。」



「そう言えばそうだね。どんなに体格が良くても必要な時そばにいてくれなきゃね。大事にされてるって思えないもんね?」



「ええ。わたくしを大事にしてくださる方…。それをひとつ目処にお見合いしていくのも良いですわね。姉様、ご助言ありがとうございます。」


「助言したつもりは無かったんだけどね、ふふ。」



 一息ついたところで、そろそろ本でも探しに行こうかなとサティアナは席を立ったのだった。




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