第2章 [12]
深呼吸をすると、サティアナは両掌に意識を集中し始めた。
しかし両掌を交互に見てしまいなかなか集中出来ないので、いっそのこと瞼を閉じ視界を遮ることにした。
先ほどまでの残像と、両掌の感覚を頼りに意識を集める。
サティアナはまず自分の全身を巡る魔力の流れを感じることにした。
(―――そうそう、これは私の魔力だ。これとは違うチカラ……どこかな……魂から湧き出すってことは、もっと深い意識のところなのかな…精神的なところ?)
サティアナは意識を自分の掌からより自分の内部へと向かわせる。全身の感覚を研ぎ澄ませながら。
自身の肉体というよりも精神深くを駆け巡るチカラを少しでも感じ取ろうとして、手は自然と合掌する様な形に、足は胡座をかく様な形に変化していた。
息をゆっくりと吐きながら自分の鼓動のその先に意識を集めることを何度か繰り返す。
(なんか…もうちょっとなんだと思うんだけどな…。もう少しで何か掴めそうなんだけどな……)
そう思いながらもう一度、息をゆっくり吐きながら意識を集中させた。己の魂から湧き出すモノを探しに―――
(―――ん?なんか、光…?)
先ほどよりも更に深い場所を目指すと、不意に意識の先の方に何か光の様なモノを感じ取り、追いつこうと試みた。近づくほどに光源がぼんやりと姿を現す。
そしてサティアナの意識がその光に触れたとき。
―――――――上出来じゃなぁ。さすが我の子霊よ。
今お主が触れておるモノ、それが霊気であるぞ。
(?!…守護神様!?)
――――うむ。なかなか早く再会したのう。もう少し先かと思うておったが、お主は実に筋が良いな。それならば一度霊気の感覚を知れば、あとは慣れじゃ。幾度も訓練することで、霊気を呼び出すのは容易になろう。
今お主が触れている光の湧き出とる場所、そこを〈霊穴〉という。霊穴は開閉することが出来る。霊気を呼び出すときには開き、そうでなければ閉じられる。まあ、閉じると言うても完全に閉じるわけではないから、今もそうして霊気が湧き出ておるわけであるがな。他にも小さな湧点は多く有るが、お主らが異能力を使う時には多くの霊気を使うでなぁ、霊穴を開く必要があるのじゃ。
(左様ですか……つまり、霊気を感じ取れるようになったら次は霊穴を開閉させる訓練になる、ということですか。)
―――――まあおそらくはそうなるじゃろ。それが出来て初めて、霊気ではなく霊力を扱うということになるはずであるな。つまり、異能力を開放出来るようになるということじゃ。
お主はその一歩を始めたのじゃよ。なに、先ほども言うたがお主は筋が良い。初っ端から霊気を探り当てるなぞなかなか出来る事ではないのだからな。それにここへ来れば我が居るしな。手とり足とり大事に教えてやるでのぅ。ふふふ……
(守護神様……なにやら不穏です……)
―――――少しくらい良いではないか、待ちわびた子霊との逢瀬なのじゃからぁ。お主らの時間は、我らの時間よりもずっとずっと短いのじゃ。少しは我に構え。
(は、はい。守護神様……。もったいないお言葉でございますぅ。)
―――――よいよい、我に任せおけ。立派な〈ビッグスター〉とやらに仕立ててやるでのう。されば我もあの御方に顔向け出来るしの。まぁ、しばらくは霊穴を探り当てる訓練じゃな!一度肉体に意識を戻し、再度精神の中に潜るという訓練を幾度もするのじゃ。迅速かつ的確に霊穴を探り当てる訓練であるぞ。
(わかりました、これからもどうぞよろしくお願いいたします!)
―――――うむ。それとなぁ、子霊よ。お主が昨日から行動を共にしておるあの娘……あの娘はおそらく稀な異能力であるぞ。
あの御方の御印が感じられるでのぅ。
(シャルロッテ殿下の事でございますか?………守護神様、あの御方、とおっしゃるのは、どなた様の事なのか聞いてもよろしいですか?)
―――――あの娘は王女か。なるほどなぁ。……王女の魂に御印か。これは、我も本腰を入れなければな……。よいか子霊よ。あの娘はお主ら人間が創造神あるいは始祖神と呼んでおる御方に御印を付けられておる。あの御方の御印は特別なものじゃ。
(創造神……。始まりの神。守護神様のご様子から最高神であられる事は間違いないのだろうな。後で書物で調べてみよう。)
――――ひとつ。あの御方は我とお主のように契約を交わす魂を持っておられぬ。持たぬという約束を他の神々と交わしておられるからな。魂との契約をしないと言う事は神官を持たぬということ。神官を持たぬ代わりに御自身が創り出したもうた神々に神官の代役をさせておられる。我もその役目のひとつじゃ。
その御方が人間の魂に御印をお見せなされる時というのはな、我ら役目を預かる神々に対する知らせなのじゃよ。
(……これは私が知っても良い内容なのだろうか……)
――――そしてもうひとつ。子霊よ、よく聞け。御印をお見せなされた先というのが意味を持つのである。今回でいえば、王女の魂であるな。我々役目を預かる神々はそれを思案するのじゃ。
……子霊よ、お主にひとつ役目を与える。よいか、お主は常々出来る限りあの王女を護るのじゃ。
あの娘は鍵となる存在である。何としても護らねばならぬ。そのためにお主はもっと励み強くなれよ。我も手伝うでな。
それから、この事を国王に伝わるようにせよ。契約主である神の言い付けで王女を護ることになったと、王家の耳に入ればそれで良い。
(は、はい。了解いたしました……話す内容を整理しないとだな。)
―――――では今日はここまでじゃ。またな、子霊よ。励むのじゃぞぅ―――――
守護神様の気配が消えると、己の意識も肉体に戻ったようだった。
もうあの光はどこにもなく、真っ暗な中に耳元でシャルロッテをはじめレイズ先生とアニール先生がサティアナの名前を呼んでいるのが聞こえた。
サティアナが目を覚ますと、目の前にはレイズ先生がいた。
「良かった、目を覚ましたか。……サティアナ・アンハードゥンド、君か?」
「……はい、私はサティアナ・アンハードゥンドですが……?」
「そうか。それならば良い、今まで君は意識を失っていた。それはわかっているかい?」
「あぁ……肉体から魂へと意識を集中させていたので、気を失っていた様な感じになったのでしょうか?ええと……私が意識を失くしている間に何か有りましたか?」
「あ、ああ。少し奇妙な事があってね。その後生徒たちの様子を見て回ったら君が意識を失くしていたから。」
そう言ってレイズ先生が話し始めた、その〈奇妙な事〉の内容はこうだった。
訓練開始の合図の後、教師二人は、それぞれ生徒を観察しながら見廻りしていた。
しばらくすると、一瞬背筋にゾクっと来るような異様な気配を感じ取り、教師二人は身構えた。
すると、修行場中央部の壇上にゆっくりと一筋の光が射し込み、程なくしてその光が消えると異様な気配も共に消えた。
構えを解いた教師二人が生徒の安全を確認してまわったところ、サティアナの意識が失われていたので名前を呼び続けた。
何度目かの呼びかけで、サティアナは目覚めたということであった。
「君に何があったか、話してくれるかな?」
「はい。ですが……今から申し上げることは全員口外無用でお願いします。」
「もちろんだ。」
教師とクラスメイトが全員頷くのを確認し、サティアナは自分と守護神様との契約のことを話し始めた。
「――――――というわけで、おそらくその壇上に降りた一筋の光は我が主ではないかと思います。先ほど主とお話させていただきましたので。」
話し終えたサティアナが目にしたのは、信じられないとばかりに困惑の表情をした先生と生徒たち。
隣同士で目配せしては首を横に振るのだった。
(まあそうなるよねー…ははは。)
苦笑いしているサティアナにレイズ先生が話しかけた。
「驚きが隠せないが、今の話についてはとりあえずなんとか呑み込むとしよう。ところで、君は霊気を探し当てることが出来た様だな。君の掌には僅かながら霊気を感じられる。アニール先生も確認出来てるか?」
「はい。私の方でも感じ取れますね。」
レイズ先生とアニール先生の会話についていち早く反応したのはエイデン・クエンチだった。
「ホントかよ、まだ初日だぜ?!…サティアナ・アンハードゥンド!お前どうやって見つけたんだ?俺達にも教えてくれ!!」
というわけで、先ほどのサティアナのやり方を全員で真似てみることにしたのだった。




