第2章 [10]
登校二日目。
この日は各施設の見学である。
この施設見学は新入生が一斉に行う行事であり、また、見学をしながらクラスの親睦を深める目的もあるらしい。
各部ごとにいくつかのクラスがぞろぞろと列を成して大行進するのである。
騎士養成部の先頭を行くのは一般騎士養成クラスである。騎士養成部は一般騎士養成クラスの生徒数が最も多く、入学式時の生徒数は100人ほど。しかし修練や授業について行けず途中退学する者も一定数いるため卒業できる生徒は入学時に比べて減少するのが常なのだと、サティアナは前日キャロラインから教えてもらったのだった。
そんな一般騎士養成クラスに続くのは幹部騎士養成修養クラス。幹部騎士養成修養クラスは将来的にいずれかの騎士団の幹部になるであろう貴族の本家や分家筋の子女で構成されている。人数的には一般騎士養成クラスの1割ほどであり、多くはない。一般騎士養成クラスが3年間であるのに対して、幹部騎士養成修養クラスは5年間の通学になる。
そして最後にビッグスター養成修養クラスの面々が歩き出した。
今年のビッグスター養成修養クラスの新入生は全部で8人。男子4人、女子4人である。ビッグスター養成修養クラスは、その稀有さから新入生が不在の年もある。
そういった傾向を慮ると、きっと今年は稀に見る豊作なのだろうなとサティアナは思った。
サティアナは昨日仲良くなったシャルロッテ王女殿下と並んで行列の後方を歩いていた。
列の前方には同じクラスの男子が固まって歩いている。一般騎士養成クラスの様に騒がしくはないが決して静かとも言えない。男子は男子で少人数なりにうまくやろうとしている様である。輪の中心にいるのは昨日先生方にも臆せず上手に渡り歩いていたエイデン・クエンチ。彼は知り合って間もないメンバーを上手く繋いでいる様であった。
対して女子はというと。
サティアナとシャルロッテ、その二人の前にはエミリー・スパイラル、そして二人の後ろを歩くのがナギア・レンジ。
エミリーとナギアに対して施設見学している間に声をかけたいけれど、なかなかきっかけを掴めずに様子をうかがうサティアナなのであった。
屋外施設を見学中、最後尾で生徒たちを見守るアニール先生に質問があると言ってシャルロッテと護衛のガイがサティアナから離れた。
独りになったサティアナは何となく前方のエミリーに近づいてみた。するとエミリーと視線が合ったので微笑み、目の前の施設に対して素直な感想を述べてみる。
「素晴らしい修練場だね。よく造られているなぁ。」
するとエミリーも指差しながら同じ様に感想を述べてくれた。
「何やら結界も施されているようですね。あの辺りとか。」
「ええー?―――――本当だ。良〜く視てみないと判らなかったよ、私。すごいねエミリーさん!」
「少しばかり見慣れているだけですよ。それより、私のことはエミリーと呼んでくださいな。私もサティアナとお呼びしますので。」
「うん、ありがとう。えっと…エミリー!私のことはサティアナでもサティでもどっちでも良いよ。それにその敬語もできたらやめて欲しいけどな?」
ふたりで話を始めたところ、ナギアが少し近づいてきた。きっと彼女もきっかけを探しているのだろう。サティアナはそう思ってナギアにも声をかけてみた。
「ナギアさんもこっちにおいでよ!一緒にまわろう?」
サティアナが呼びかけるとナギアはピョンっと駆け寄り、元気な笑顔で言った。
「私のこともナギアって呼んで欲しい〜!ね、サティアナ!エミリー!」
やっと二人に声をかけることができ内心ウキウキしているサティアナに、気恥ずかしそうに少したどたどしくエミリーが問いかけた。
「ねえ、…サティアナ…って、シャルロッテ殿下とお知り合いだったの…?」
「あ、それ私も思った〜。サティアナ、初日からシャルロッテ殿下と一緒にいたから。」
たどたどしげなエミリーとは対照的に、いきなりフレンドリーになったナギアが被せてくる。
サティアナは入学式の受付時の出来事を二人に説明した。
「―――――というわけで、以前からの知り合いじゃないよ。昨日初めてお会いしたの。でも私がお声がけさせてもらったのを殿下がとても喜んでくださったから、勇気を出してみて良かったと思ってる。殿下はきっとふたりともお話なさりたいと思ってくださっているよ。」
「私も殿下と仲良くさせてもらいたいわ。」
「私も〜!」
じゃあ積極的に殿下とお話させてもらうことにしようねと3人で意識を共有しているところに、シャルロッテが戻ってきた。
「楽しそうね。わたくしも混ぜてくださいな?」
そう言いながらシャルロッテが春のような抜群の笑顔を見せると、笑顔を向けられたエミリーとナギアは昨日のサティアナの様に一瞬で魅了され思考停止するのだった。
それを見たサティアナが思わず吹き出す。
「―――ププッ!…ふたりとも昨日の私と同じことになってるよ!あはは!……シャルロッテ殿下。ふたりとも殿下の笑顔に心を奪われているのですよ。まさに昨日の私の様に。ふふふ!昨日の私も端から見るとこんな感じだったのですね!お恥ずかしい。あはは。」
「あら、ではわたくしも昨日の様に照れてみたほうが良いかしら?」
そう言ってシャルロッテは頬に人差し指を寄せいたずらに微笑む。
シャルロッテに微笑み返しながら、殿下のその笑顔は反則だ、とサティアナは思うのだった。
サティアナの笑い声で我に返ったふたりは赤面し、その後顔を見合わせて笑った。
「ガイ殿、あんなに楽しそうな殿下を拝見出来るのは良いものですね。私も何となく救われるような思いです。」
「ああ、アカデミーに御入学されたことは必ず殿下の良き糧となるだろうな。ご学友が出来たことは殿下にとって必ず良い傾向となるだろう。私も嬉しいよ。」
すっかり打ち解けた様子の女子生徒たちを見守りながら、以前からシャルロッテを見知っていたアニール先生と護衛のガイはお互いに笑顔で安堵の表情を見せるのだった。
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午後になり、残す施設見学もあとひとつ。
ビッグスター養成修養クラスの生徒と教師のみが立ち入ることを許された場所へと一同は向かう。
レイズ先生が先頭で、サティアナたち女子生徒の前方を男子たちが歩く。順番は午前中と変わらないが、午前中よりも少し静かな行進である。クラスの皆が何となく緊張している感じがサティアナにも伝わってきたのだった。
そして、王立アカデミーの広大な敷地内の一角、木漏れ日の森の中にそれはあった。半分埋もれた遺跡の様な建物の入口の前まで来るとレイズ先生が皆に説明した。
「えー、ここが君たちの最大の修練場となる、『めざめの神殿』だ。別名『神々の神殿』とも言われている。ここは、その名の通りビッグスターホルダーである君たちがビッグスターに覚醒するために篭もる修行場であり、覚醒した後はその技を磨くための修練場である。修行場がなぜ神殿と言われているのかは、元々ここが神殿だったとか、修練中に神々が降臨なさるからとか諸説あるが詳しくは不明だ。……えー、ではこれから中に入ります!」
レイズ先生は話し終わると神殿の扉(祠の入口の様な扉でそれほど大きくない)に片手をかざした。
するとレイズ先生の掌が発光し、その光は扉の表面に溶け出していった。スルスルと扉の模様に沿って光が流れ出し扉いっぱいに広がり、模様の全てが光で満たされた瞬間、扉が開いた。
その不思議な光景に、おお〜!っと一同どよめいた。
「さあ、入るぞ!」
レイズ先生に続いて生徒が入っていく。
最後尾でアニール先生が護衛のガイに会釈し、ガイを残して残りの面々は扉の内側へと消えたのであった。




