第2章 [9]
食事が終わるとお茶と林檎パイがお目見えし、サティアナは再び心が弾んだのだった。
すでに八分目を過ぎた胃の中に更にそれらを入れたいと思う。別腹とはこのことだ。
「んん~この林檎パイも美味しいね〜!お茶も美味しい!」
「林檎パイに目がない姉様ならきっと気に入ってくださると思いましたわ。」
「ソフィーが言ったとおり、このお店はもう私のお気に入りだよ〜!」
サティアナは、うんうんと頷きながら林檎パイとお茶の融合を愉しむ。そして、デニスさんにも食べさせてあげたいな、と思ったのだった。
その後もお茶を飲みながらたわいない話が延々続いた。普段女の子らしくないサティアナだが、やはりそこは女子なのである。
しかしそのたわいない話の中に、国内外の情勢やアカデミー内の事情、またそれらの今後の見通しなどなど休暇中にお互いが仕入れた情報交換が入っているあたり、おしゃべりしながらも妹とその親友に感心させられるサティアナであった。
きっとこの二人は貴族と商人としてすでに優秀なのであろうと思った。
「そういえば、どうして二人は仲良くなったの?」
サティアナの質問に、二人は顔を見合わせるとクスクスと笑った。何か思い出しているらしい。キャロルが言った。
「ふふふ。この方ったら貴族令嬢なのに、悪を討つ正義の味方みたいだったのですわ。」
「ん?どうゆうこと?」
「わたくしたちの同級生にどうしょうもない貴族のお坊っちゃまがおりますの。わたくしたちはバカボンと陰で呼んでいるのですが。」
「父親が王宮で働いているのを鼻にかけて、自分より身分の低い者に対してとても高圧的な態度をとるつまらない男ですわ。それこそ姉様とは何もかもが正反対な生き物です。」
「そのバカボンがですね、ある時、我が家の商いにケチを付けたあげく、わたくしを何かと目の敵にし言いがかりを付けるようになったのですわ。」
聞けば、中等部からアカデミーに入学したソフィアナと、初等部から中等部に上ったキャロラインが同じクラスになって少し経った頃、魔法の授業中そのお坊っちゃまはキャロラインに対して喧嘩を売ってきたのだった。
キャロラインは中等部に上って初めて魔法に触れたのでまだド初心者であったのに対し、そのお坊っちゃまは中等部に上がる前から家庭教師を付け魔法の勉強をしていたので、魔法が使えないキャロラインを見下し高圧的な態度で彼女を馬鹿にしたのだった。
そしてあろうことか事故を装ってキャロラインに対し火玉を投げつけたのだった。
「わたくし火の玉など投げつけられた事がなかったので何も出来ずに固まってしまいまして、先生がそれに気がついたのですが間に合いそうもなく。そのときソフィーが助けてくれたのです。」
「わたくしずっとキャロルとバカボンが気になって見ていましたの。中等部に入学して以来、あの男の行為がずっと気に食わないでおりましたので。そしたら急にあの男が火玉を彼女に対し投げつけようとしたものですから、とっさに水壁を彼女の前に展開したのですわ。」
「それでバカボンは先生に叱られて、いい気味だったのですが……。授業のあとソフィーにお礼を言っていたら、今度はソフィーに対して言いがかりを付けて来たのですわ。田舎貴族が出しゃばりやがってと!」
「えーなにそれ!」
「だからわたくし言ってやりましたのよ!中央貴族だかなんだか知らないけれど、田舎貴族のわたくしの方がよっぽど国王陛下のお言葉に従っているではありませんかと。慈心誠心の心が貴方の行動からは見つけられないと。」
「おお、さすがソフィー。詰め方が素晴らしいね。」
「でしょう〜!他の貴族の子供たち皆が思っていたけれど言えなかった言葉をこの方は口から出したのですわ。それもぐうの音も出ない様な正当性をもって!」
「うんうん!」
「それからあの男はバツが悪くなったのか、わたくし達には言いがかりを付けて来なくなりましたのよね~、今ではずいぶん大人しくなりましたわ。」
「でもそれだけではなくて、アイツ、何に対しても貴女には勝てないと思ったからと言うのが大きな要因ですわよ。学業でも魔法でも一度も貴女には勝てないのですから。」
「ふん、あんな男に負けてたまるもんですか!……でもその話が噂になってしまいまして。少々肩身の狭い思いもいたしましたわ、フフ。」
「それも一瞬のこと!今ではこの方の人気の陰に隠れましたのでご安心を、サティ様!」
「でも姉様、わたくしは後悔などしておりませんの。だってわたくしは許せなかったのですから。あのまま黙っていたらそれこそ後悔ですわ。」
「そうだね、ソフィー。それでこそ私の自慢の妹だよ!」
「それからというもの何となくお互い話すようになって、気がつけば悪友になっていたのでございます。おしまい。」
キャロラインが絵本の締めくくりのように話をまとめ、3人で笑ったのであった。
――――――――――――――
楽しい時間はあっという間に過ぎて、そろそろお開きに良い時間になったので、サティアナはキャロラインとまたの再会を約束して店をあとにした。
店を出ると夕飯の買い出しに来た人達で通りが混雑し始めていたので、お店巡りは次回にしてその日は帰路につくことにしたのだった。
喫茶キャロルはアンハードゥンド家別邸の有る区画とは少し離れているので、ソフィアナの提案で乗り合い馬車に乗って別邸の有る区画の近くまで行くことにした。
けっこう大きな乗り合い馬車だったのでサティアナは驚いたが、それゆえ改めて王都の人口の多さを実感するのだった。
別邸の有る区画の入口の門付近で何人か降りる様子があり、サティアナとソフィアナもそれに混じって馬車を降りた。
馬車を降りた先から別邸までは徒歩で帰り、別邸に着くと姉妹専属のメイドでもあるリリーと弟のリアムが二人を迎えてくれたのだった。
その後サティアナは、昼食のとき自分に対して約束した通り、普段着に着替えるとそのまま夕食の時間が来るまで、みっちりと修練に励んだのだった。
あけましておめでとうございます
今年も宜しくお願いいたします




