第2章 [8]
三人とも着席すると、さっそく品書きに目を通す。
「姉様はどうなさるのですか?」
「私はねぇ、さっき入口にあった [おすすめ] にする。あと食後の林檎パイは欠かせないし、お茶と一緒にいただきたいな。ソフィーはもう決まっているの?」
品書きの [飲みもの] の辺りしか見ていなかったソフィーに対して、サティアナはそう訊いた。
「はい。わたくしはこちらに来たらいつも〈オムライス〉なのですわ!それと、食後は姉様と同じ林檎パイにいたしましょう。」
「その〈オムライス〉ってどんな物なの?」
「異国の香辛料をふんだんに使って作った焼き飯を、甘めの味付けした卵を平たく焼いたもので包んでありますの。それに溶かしバターを少し乗せていただきますのよ!これが堪らなく美味しいのですわ!」
「へぇ~、見た目も楽しそうだね!次は私もそれにしてみようかな……」
「サティアナお姉様にも是非ともこのお店を行きつけになさっていただきたいものですわ。何かご提案などあれば言っていただければ、善処させていただきますし!」
キャロラインも二人の会話に乗っかり、ちゃっかりお店の常連にと勧誘である。
「……キャロル、一応申し上げておきますけれど?サティアナお姉様とお呼びになるのは如何なものかしら?お姉様とお呼びして良いのはわたくしの特権でしてよ?」
「あー……、そうだね、ははは。ソフィーの機嫌が悪くなっちゃうのは私も困るから、お姉様は無しでお願いできるかな?その代わり私は貴女のことキャロルって呼んじゃうから、私のこともサティで良いよ!」
「もう、ソフィーったら本当に仕方ありませんね。でも、サティアナお姉様がお困りになるのはわたくしも本意ではありませんし!……では、以降はサティ様とお呼びしてもよろしいですか?サティ様にキャロルと呼んでいただけるなんて嬉しいですわ~!」
「ぐぬぬ…そんなことが……まあ、仕方ありませんわね。お許しいたしますわ。」
「……やれやれ。それで、キャロルは?なにを食べるの?」
「はい、わたくしもサティ様と同じ物にするつもりでございます。本日のおすすめですわ!」
キャロラインが店員を呼んで、全て注文してくれた。
店員さんとキャロラインの関係性も良さそうだとサティアナは思った。
この後、料理を待つ間、キャロラインとソフィアナから質問攻めを受けるサティアナである。
「サティ様、あの御方とはお話できましたのですか?」
キャロラインが口火を切った。
「ああ、シャルロッテ様にはあの後自己紹介させていただいて、入学式後は教室でもお話させてもらったよ。護衛の方にもね。近衛騎士団のガイ殿と言う方だよ。」
「それで姉様、姉様の印象では、シャルロッテ様はどの様な御方なのですか?」
「んん~、そうだねえ……。まずとても美しい方だったよ。我が母上よりも美しい方を初めて見たと思った。御髪もとても美しくて、シャルロッテ様の背の高さは私よりも少し高いかな。普段は槍を使われるそうだよ。雰囲気は凛としていて気品がすごかったなぁ。でも微笑まれると途端に春のような暖かい空気になった。」
「つまり端的に申し上げて、姉様はシャルロッテ様に魅了されてしまわれたということですわね……。お母様よりもお美しいだなんて、わたくしも是非ともお目にかからせていただきたく思います。」
「わたくしシャルロッテ様もそうですが、お二人のお母さまにもお会いしとうございますわ!そんなにお美しい方なんですか?」
「「それはもう最高に!!」」
サティアナとソフィアナは揃って返答した。
二人の勢いにキャロラインも押され気味になり、母上至上主義かよ、と心の中でこの姉妹に対して思うのであった。
引き続きシャルロッテの話に戻るとサティアナは思い出した。
「そうだソフィー、シャルロッテ様が貴女にもヨロシクとおっしゃっていたよ。私がシャルロッテ様にお声がけさせていただいた事がとても嬉しかったそうで、それなら妹のおかげですって話したら、ソフィーに感謝するって、そうおっしゃってくださったの。」
「なんと!もったいない御言葉ですわ~!美しくお強いだけでなく、とてもお優しい御方ですのね。わたくしもはや信奉者ですわ!」
「あら、お姉様から鞍替えですの?珍しいこと。」
「そんなことはありません。わたくしの中では姉様とシャルロッテ様を同じには出来ませんことよ?こう見えても、わたくし気が多いのですわ。信奉対象なら数人居りますの。でも姉様はたった一人ですわ。」
「サティ様は貴女の中でも唯一無二の特別ってことですのね?でも、もしいつまでもお姉様離れ出来ない様では、わたくし貴女の婚期が少々遅くなりそうで心配ですわ。」
「あらキャロル、見くびらないで頂戴な?わたくしはアンハードゥンドの地で、貴族の娘としてしっかり躾られましたのよ?親の決めた事に口出しなどいたしませんわ。それよりも、貴女の方こそ商いに情熱を傾け過ぎて婚期が遅れないかとわたくしは心配ですわよ。」
「ははは、キャロルそれは心配いらないよ。ソフィーはきちんとつとめを果たすし、それに我がアンハードゥンド家は意思尊重型の家訓だからね。」
「それなら心配無用ですわね。確かにソフィーの言う通りわたくしは自分の婚期が遅くなりそうな気がしていますけど!お家柄が意思尊重型ということは、自由恋愛もアリなのですか?」
「さあそれはどうなんだろうね?ソフィーは何か聞いたこと
ある?」
「お父様からは気に入っている殿方がいれば早めに言いなさいとは言われましたわ。」
「それで?その様な殿方がおりますの?ソフィー?」
「素敵だなと思う殿方は何人かおりましたが皆様年上ですので、もう既に婚約者がおります方ばかりですわ〜、残念ながら。ですから、お父様に申し上げる様な殿方はおりませんわね、今のところ。」
なぁーんだ、と前のめりだったキャロラインが脱力した所で料理が運ばれてきた。
サティアナの前に現れたのは、シチューが入っているであろう小鍋をパイが上から覆いかぶさって中を隠しているような、サティアナにとっては斬新な料理だった。それに焼きたてのパンと新鮮野菜が付け合わされた皿。
隣のソフィーの皿には先ほど彼女が説明してくれた通りの料理が乗っていた。彩りがとても良く見ただけでも愉しい。
ひとつ言えることは、どちらもとても美味しそうだと言う事だった。
「わあ〜、いいにお〜い。お腹が鳴っちゃうよ!」
ナイフでパイに亀裂を開けて食べるものだとキャロラインから教わり、いざ実食とばかりにサティアナはナイフを投入した。
中から出てくる湯気までもが美味しそうだ。
小鍋の中では溶けたチーズが躍っていた。
ふーふー、とシチューを冷まし、鍋の中に落としたパイと一緒に口の中へ。
「あつっ、ふっ、はふっ!もぐもぐ……おいし~い!!」
堅苦しくない食事の在り方は、サティアナをとても開放的にさせた。デニスさん達アンハードゥンド騎士団の皆さんと見廻りの途中野外でごはんを食べた時を思い出す。
が、隣のソフィアナを見ればオムライスを優雅な手付きで見事に食べている。
開放的な気持ちになったのもつかの間、妹を見て落ち着きを取り戻すサティアナであった。
チーズがまだとろけているうちに、付け合せのパンでシチューをすくって食べると、また違う美味しさが押し寄せる。
これで林檎パイを食べ終わったときには自分はどうなっているのだろうかとサティアナは思い、家に帰ったら剣の修練に力を入れることを誓うのであった。
食べながらも行儀悪くならない程度に三人は会話をする。
明日のアカデミーでの予定を話し合い、ソフィアナとキャロラインは休み中のお互いの近況を述べ合った。
「キャロルはお休みの間はどうしていたのかしら?」
「わたくしは、お父様と一緒に行商の旅をいたしましたわ。ポリッシュ領まで!」
「ポリッシュ領というと、とても素敵な港があるそうですわね?坂道と海と港町との融合が素敵だとか。何と言う街でしたかしら?」
「ポリッシュ領都エスペールですわね。」
キャロラインはここ王都から南東の方角へ商いの旅をしていたのだった。休暇期間に帰るべき実家は王都にあるので、いつも新年の休暇期間は行商の旅をするという名目で両親と家族旅行するのだとか。
「素晴らしい都でしたわ~。気候も穏やかで。こちらに比べると暖かかったですわね。海の幸と山の幸に舌鼓を打ちまくりましたわ!」
思い出しうっとりとするキャロラインに向かってサティアナが質問する。
「でも、海に魔物とかは出ないの?私のクラスは今日自己紹介をしたのだけど、その時に南部のアーバー領から来た子がいて、海に魔物が出るって言っていたよ。エミリー・スパイラルという名前だったかな。」
「アーバー領であれば確かに南方ではありますが、ポリッシュ領の反対側、南西部ですわね。あそこは外海ですから魔物も多いのでしょうね。ポリッシュ領は内海で、しかも聖なる海ですから魔物が出るのは珍しいのですわ。」
何気なくした質問にスラスラと回答してくるキャロラインに、サティアナは感心したのだった。
「キャロルは魔物の分布にとても詳しいんだね。感心するよ。」
「ええ。我が家は行商を営んでおりますから、それ関係の知識として魔物の勉強は必要事項なのですわ。そんなわけで、何かの時にはサティ様のお力になれることもあるかも知れませんわ。」
「何かのときには是非頼らせてもらおう。ふふふ。」
「聖なる海とは?」
今度はソフィアナがキャロラインに質問した。
「エスペールに接する内海には海神様が鎮座するといわれている神殿があって、昔から聖なる海といわれ内海では魔物の力が弱まるのですわ。」
またもやキャロラインはスラスラと答えてくれた。
「なんだかアンハードゥンドの神殿みたいだね、ソフィー。」
「そうですわね、姉様。……そう言えば、ポリッシュ領から来た双子のビッグスターホルダーが確か在学中でしたわよね、キャロル?」
「ええ、ミゲル・ポリッシュ様とラウラ・ポリッシュ様ですわね。サティ様の1年先輩だったと思います。男女ともにとても見目麗しい方々ですわよ。」
「へぇ~、いつかお話出来る機会があればいいな。」
「それで、そちらはどういった休暇でしたの?」
キャロラインがソフィアナに問い、今度はソフィアナが答える。
実家への帰省中に起きたことや地元の友人との茶会のこと、王都に来てから過ごした時間で起こったことなど。
今回はそのほとんどにサティアナも同伴していたので、それぞれの視点から話を盛り上げたのだった。
今年は、生まれて初めて、頭の中の物語を文章にしてみるという事にトライしてみた年でした。
拙い文章ですが、読んで下さる方がいるというのが嬉しいです。
また来年も宜しくお願いします。
では良いお年を。




