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第2章 [6]

 



「了解しました、レイズ先生。」



 シャルロッテは護衛のガイを制し、独りで教卓まで出て生徒の方を向き自己紹介を始めた。



「皆様はじめまして、シャルロッテ・コア・チゼルと申します。

わたくしは、ビッグスターホルダーでありながら王族にも名を連ねているので立ち位置として皆様にとっては微妙な処だとは思いますが、わたくし自身初めての学校、初めての級友というものにずっと憧れておりました。

ですのでどうか皆様には級友として接していただきたく思います。

呼び名は、お好きな様に呼んでくだされば良いですが、出来ればシャルロッテとお呼びくだされば嬉しいです。

わたくしの扱う武器は槍で、師事したのはそちらにいらっしゃるアニール先生ですわ。魔法適正属性は光、水、風です。

よろしくお願いいたします。」



 シャルロッテが話し終えると皆が拍手で歓迎した。

 それを見て彼女自身もホッとしたようであった。

 拍手の間、レイズ先生がアニール先生をにこやかに茶化していたのをサティアナは目にした。




「早速言っちゃおう。ありがとう、()()()()()()()()。国王陛下からも貴女のことを一人の生徒としてビシバシ教育してくれと言われているので、先生も遠慮はしないつもりだよ。

それにしても光魔法が使えるなんて素晴らしいな。どんな感じの魔法なのか授業が始まったら皆に見せてもらうとしようか。……えーと、次はじゃあ横に行こうかな。うん、君だね、よろしく。」



 サティアナが自分を指差すとレイズ先生が頷いたので、そのまま席を立ち教卓に向かった。




(落ち着いて、ゆっくり。)

 深呼吸しながら教卓に着くと、サティアナは自己紹介を始めた。



「はじめまして、サティアナ・アンハードゥンドと申します。出身地は北部辺境アンハードゥンド領です。

ふだん扱う武器は剣で、手裏剣の類もたまに使います。剣術の師匠は、元近衛騎士団員で現在はアンハードゥンド騎士団所属のゼフラ・キーウェイ殿です。魔法は、基礎をノア・トレランス殿に師事しました。適正属性は風と水と地属性です。好きな食べ物は林檎パイです。どうぞよろしくお願いします。」





「はい、ありがとう、サティアナさん。ゼフラ殿は先生も剣を交えた事があるけど彼の剣術は素晴らしいからね、貴女にも期待していますよ。トレランス氏は先ほど新入教員として紹介されていた方だね。

さすが君はデュアルホルダーなだけあって、剣術も魔法も一流の先生に師事した様だね。アンハードゥンド家の責任感とか気概とかも感じられました。

あと私も林檎パイは大好物だから、後で美味しいお店を特別に教えてあげようかな。じゃあ次は、はい、君だね、よろしく。」


 サティアナが拍手をもらって席に着くとレイズ先生が感想を述べた。どうもこの自己紹介の時間はそういう形式で進む様であった。レイズ先生は感想の中でサティアナのことを〈デュアルホルダー〉と補足した。その時教室内の雰囲気が一瞬だけ波立ったのだが、次の生徒に順番が移るとすぐ元の雰囲気に戻ったのだった。




 サティアナの横、少し離れた席にいたその大人しそうな男子は、あきらかに緊張しているのであろう身振りで教卓にたどり着いた。



 名前は、ベンジャミン・ガンタップ。細身長身の男性。

 中央部ガンタップ領の出身。サティアナ達が上京時通って来た街道沿いにある地方だった。酪農が盛んで澄んだ空気の穏やかで良い地方だった印象がサティアナにはあった。

 彼の武器は槍、適正属性は火・風・土。そして酪農が盛んなお国柄、ベンジャミンは馬術が得意らしい。

 素朴な印象のベンジャミンは、恥ずかしそうに言葉少なく最低限の自己紹介だけして席へ戻った。





 次は前列最後、教卓を挟んでサティアナ達の反対側に座っていた女子が前に出た。



 名前はエミリー・スパイラル。小柄で可愛らしい女性。

 南部海沿いのアーバー領の出身。

 武器は剣だが、彼女自身は魔法の方が得意であるらしく剣よりも杖を持つことが常だとか。アーバー領は海沿いということもあり、海の魔物が多いので魔法師主体の魔法騎士団を運営しているらしい。やはり土地柄でずいぶん騎士団の色が変わるものだとサティアナは思った。




 順番に後列の生徒達も自己紹介をする中で、サティアナは皆の名前を書き残し、せめて名前だけでも明日までに覚えようと思っていた。



 そうしてクラス全員の自己紹介が終わると、レイズ先生が教卓に戻り、これからの学校生活のことや今後のビッグスタークラスの流れを説明し始めた。



「みんな自己紹介ありがとう。これからこのクラスで5年間、お互いに尊重し合ってやって行きたいと思っている。

けれど君たちは血気盛んな若者だ。学校生活を送る中で生徒同士ぶつかることも有るだろうが、無益な私闘は処罰対象になる。そこは充分に考えて行動するように。何か困ったことがあれば我々教員に相談するようにしてくれ。

立派な騎士になるための精神的な成長はすなわち、ビッグスターとしての覚醒を促す鍵にもなる。いつまでもお子様のままではビッグスターには成れないということも肝に命じておくように。

式典で国王陛下が仰られた、慈心誠心の心を忘れずに学校生活を楽しんで欲しいと思う。いいな?」



「「「「「「「「 はい! 」」」」」」」」




「よし、みんな良い返事だな。君らが素直で先生は嬉しいぞ。初日から跳ねっ返りが居たらどうしようかと思っていたんだが、良い子ばかりでとりあえず今日のところは安心した。」




「先生ー、もしここに跳ねっ返りが居たらどうするのですかー?」



 教室の後方、エイデン・クエンチという生徒から問う声が上がった。



「それはもちろん、放課後に個人授業だな!!」



「「「げぇ〜」」」



「ハッハッハ!」



 早速ノリの良い生徒達がレイズ先生とのやり取りをしている横で、シャルロッテの護衛ガイがシャルロッテに何やら小声で話しかけていた。

 おそらくこの後の予定を打ち合わせたのだろう。




 教室内の騒がしさが落ち着くと、レイズ先生が再び話し出した。


「えーと。それで、明日からの予定を話すとだな。明日はアカデミー内の見学を行います。各授業で使う場所や、スターホルダーのみが入る修行場などの場所を覚えてもらいます。

ああ、修行場に入るときはシャルロッテさん、申し訳ないけど護衛殿は外で待機となるのでご了承願う。」



「ガイ殿、修行場の中では我々が護衛を兼任いたしますのでご安心を。」

 アニール先生がガイ殿に告げた。



(名前呼び……そっか、所属が同じだから知ってるのかな。)



「ではその様にお願いいたします。」


 ガイが先生方に向かって一礼した。




「では、今日の予定は全て終了したけど、何か質問ある人は?」



「はーい先生。この校舎の昇降口の場所が分からないのですが?」


 先ほどのエイデン・クエンチが手を上げ質問した。彼は物怖じしない性格で、頭の回転も早い様である。



「ああスマン言い忘れてた。まず、ここは校舎の5階だ。眺めが良いだろう?

それで昇降口だが、この教室を出て右手の奥の手洗いの先にある階段を下まで下りたら目の前が昇降口になる。

校舎を出て左手に進むと馬車の乗降所が見えてくるからそこまで行けば正門につながる大きな通路だ。

まあ、分からなくなったら道行く上級生に教えてもらいなさい。シャツの襟の色が違えば皆上級生だからね。

それではこれにて解散だ。」


 先生方が揃って一礼したのでサティアナ達生徒も一礼すると、二人は騎士らしく綺麗な歩き方で教室を出ていった。



 サティアナは学生鞄の中から、今日、家に帰ってから読んでみようと思った教材以外の教材を取り出し、後ろの専用棚に入れて帰ることにした。




「その教材は置いて帰るの?」


 シャルロッテがサティアナの行動に対して質問してきた。




「はい。今日はこの後、妹と街でご飯を食べて帰るので、今日のところは目を通さなそうな教材をこちらに置いて帰ることにしたのです。妹によれば、この棚にはそういう使い方も出来るそうですから。」




「あら、それは良い事を聞きました。わたくしも追々その活用方法を使わせていただくわ。

妹君とはどこで待ち合わせを?」




「正門付近です。私がまだこの敷地内の地理に詳しくないので、今朝通った正門付近で待ち合わせにしました。」




 どうやらシャルロッテは話しながらサティアナを待っていたようであった。

 サティアナの用が終わるとガイを伴い三人は揃って教室を出た。



 レイズ先生の教えてくれた通りに昇降口を出て左手に折れ真っ直ぐ歩くと馬車の乗降所が見え、そこには王家の馬車が停車していた。



「シャルおねえさま!」


 サティアナ達が近づくと、馬車の中から小さな女の子が飛び出して来てシャルロッテに駆け寄り抱きついた。護衛のガイがすぐに前に出たが、それはシャルロッテを守るというよりもその女児とシャルロッテの両方を守ろうとしている様な動きだった。その女の子を追いかける様にして馬車の中から女性の護衛が出て来て、ガイと目配せしてお互いに軽く挨拶をした。




「クリスティーネ様、どうか馬車から飛び出さない様にお願いいたします!」


 護衛の女性が膝をついて懇願した。いつものことなのだろう。ガイも苦笑いしている。




(クリスティーネ殿下……。シャルロッテ殿下と一緒に御入学なさった妹君か。)

 サティアナはこのお転婆な姫君をとても可愛らしく思った。





「クリスったら!馬車から降りるのは護衛さんが先という約束でしょう?どうして出来ないの?貴女がそんな様では、護衛さんもちゃんと貴女を護れなくてよ?」




「ごめんなさぁい。だって、お腹すいてしまったのですもの……。」

 クリスティーネ殿下は姉君に叱られてシュンとしていた。



(腰帯鞄の中にお菓子があったはず。)

 サティアナは鞄を開けるとお菓子を取り出し、クリスティーネの側に膝をついてお菓子を差し出した。




「姫様、これは私がメイドと一緒に作った焼き菓子ですが、召し上がられますか?」



「……あなたは、どなたですか?」



「あ、これは申し訳ありません。私はサティアナ・アンハードゥンドと申します。今日、あなた様のお姉様と同級生にならせていただいた者です。」



 クリスティーネがシャルロッテを見上げお伺いを立てると、シャルロッテは妹を愛おしそうに見下ろし、「わたくしにもひとつ頂戴な」と微笑んで言った。



「はい!」

 満面の笑みでそう返事をしたクリスティーネは、サティアナの方を向き直った。



サティアナは菓子の入った包紙を開くと、

「では姫様、私が毒味をいたしますから、どれかひとつを選んで私に下さいませ。」



クリスティーネがひとつ選んでそれをサティアナが食べた。


「ん!これはなかなか良い出来でした!」

もぐもぐと美味しそうに食べるサティアナであるが、

「わたくしも早く食べたい〜!」

とせがむクリスティーネを待たせてはいけないので、急いで飲み込む。



サティアナが毒味を終えたので、クリスティーネはその菓子をサティアナから受け取り、馬車の中で食べるために護衛の女性と共に馬車の中に戻って行った。




「サティアナさん、ありがとう。貴女って本当に良い方だわ。妹の機嫌を治してしまうのだもの。」




「私もお腹がすくと駄目な方なのでいつもこの鞄にお菓子を何かしら入れてあるんです。姫様のご機嫌が治って何よりでした。」




「本当にありがとう。では、また明日。ごきげんよう。」



「はい、また明日お目にかかります。どうかお気をつけて。」



 シャルロッテを見送り、サティアナも正門に向かって歩き出した。






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