第2章 [5]
シャルロッテとサティアナは、お互いに遠慮がちながら楽しく話をしていた。
本来の身分は違えどここでは同級生なのである。そんな二人の姿に、側に控える護衛もどことなく柔らかい表情をしていた。彼もシャルロッテのこんな楽しそうな表情を久しぶりに見たのであった。
基本的に、王立アカデミー在学中の身分の違いは無いものとされている。
それ故、貴族の子女たる者はアカデミー入学前からしっかりと教育され、庶民の子女に対して入学してからも遅れを取らないようにと調整されているのである。これは貴族としての意地以外の何ものでもない。実状として、庶民と貴族との間に優劣の差がそれ程ないことを貴族はちゃんと知っているのである。
王族なら尚更のことであろう。
そんな生活をしてきた二人が、今だけは何にも囚われずにただ、これから同級生になる二人として、スターホルダーとして緊張感に包まれていた気持ちを共感し合っていた。
シャルロッテにとってはサティアナが、サティアナにとってはシャルロッテが、かけがえのない級友となった瞬間であった。
しばらくすると騎士養成部の新入生に対して集合の合図が出された。
一般騎士養成クラス、幹部騎士養成修養クラス、ビッグスター養成修養クラスの順に並び、各クラス順に入場する様である。
シャルロッテは新入生代表挨拶があるので最後尾に護衛と共に並ぶことになっているのだと本人から告げられた。
その直後サティアナは自分の名前を呼ばれたので、シャルロッテに軽く一礼して手を振りクラスの列に加わった。
程なくして、ビッグスター養成修養クラスの入場となった。
前の生徒に続いてサティアナも緊張しながら会場に入り奥へ進むと、保護者、在校生が大きな拍手で迎えてくれた。
サティアナの前方には他部の新入生らしき生徒たちが着席していた。新入生も皆こちらを見ている。
指定された場所へ一列に並びクラス全員揃った所で着席となり、新入生の最後尾であるビッグスタークラス着席をもって式次第は次に移った。
「続いて、新入生、挨拶。―――新入生代表、騎士養成部、シャルロッテ・コア・チゼル。」
シャルロッテの名前が呼ばれると会場のあちこちでどよめきが起きたが、彼女が席を立ち護衛を連れ颯爽と歩き出すとそのどよめきも収まり、代わりに彼女の姿に惚れ惚れする感嘆の声があちこちで囁かれた。
「この度王立アカデミーの一員に加わる事となりました新入生を代表してご挨拶申し上げます。今日この良き日に――――」
シャルロッテが新入生代表として当たり障りのない短め定型文の挨拶を終えて席に戻ると、次は新任教員の紹介をするらしく、名前を呼ばれた新任教員がその場で席を立ち一礼し始めた。
「――――――魔法師養成部、ノア・トレランス氏――――」
「!!」
新任教員の紹介の中で、唐突に自分の知った名前でありずっと心待ちにしていた名前を聞き付け、サティアナは紹介されている教員達のいる方向へ首を向け、目を凝らした。
ひときわ目立つ長身と綺麗な長髪。その人を見つけるとサティアナは思わず込み上げるものがあったが、それをグッとこらえ、自分のかつての師の姿を、込み上げる気持ちのまま遠くから観察した。
(ノア先生!ノア先生だ〜!!ずっと会いたかった先生があんなところにいるなんて!うれしい!!……それにしても先生、変わらないな。入学式なのにいつもと同じ格好。フフフ。でも、あのローブ新しそうだな、新調したのかしら?先生にとても良く似合ってる。……ああ、もっと先生の近くに行きたい!)
それから、サティアナはずっとノア先生を見続けた。もちろん、式次第への対応もちゃんとこなしながら。
しかし、来賓挨拶として国王陛下から御言葉をいただく時ばかりは、ノア先生ではなく壇上の国で最も高貴な御方へと意識を集中した。
「――――――そなた等、我がアカデミーの生徒として心にしかと刻んでもらいたき言葉がある。 〈慈心をもって弱きを守り、誠心をもって正しきを成せ〉 ……この言葉はそなた等各々の解釈になるであろうが、そなた等なりにこの言葉を追い求めて欲しい。そしてこの場所を卒業する頃、そなた等が何者に成っているのか、それを余も愉しみにしておくことにしようぞ。是非とも励め、若者たちよ!」
国王陛下の御言葉の中のこの部分は、サティアナの胸にガツンと突き刺さった。
(私が卒業する頃、私が何者に成っているか……頑張らなくちゃ。)
国王陛下としても、毎年同じ様な話になってしまうはずであるが、この言葉は新入生だけでなく、在校生や保護者、指導者全員の胸に届いたのだった。
そして国王陛下の来賓挨拶が終わると、ひときわ大きな拍手と喝采が止まなかったのである。
式典が滞りなく終わり、国王陛下が大きな拍手に送られながら退出されると、次はサティアナたち新入生が入場した時の様に順番に退場した。
受付で対応してくれた女性がビッグスタークラスの生徒をとある教室の前まで引率した。
「こちらが今日からあなた達の教室になりますので良く覚えておくように。それと教室の後方に各々指定の物置棚が用意してありますので使ってください。手洗いはこの先に有ります。いまから八半刻ほど休憩を取りますので、時間になる頃この教室に集合しておくこと。教室内の席は自由です。では、解散とします!」
女性の口調が受付時のものと変わっていたことに少し疑問を持ったが、サティアナはその思案を横に流すことにして、とりあえず手洗いに行くまえに荷物を物置棚に預けることにした。
棚をもらえるとは、ソフィアナの言う通りであったなと、早速教材などを置いておこうと計画することにしたのだった。
早めに手洗いを済ませ教室に戻ると、教室の前の方の空いた席に着席した。
鞄の中身を取り出し、一通り確認しているとシャルロッテが声をかけてきた。
「お隣、失礼しますわね?」
「あ、はい、もちろんどうぞ!……あっ、と。……殿下、よろしければ私の席と交換しませんか?」
シャルロッテの背後に護衛が控えたのだが、それだと後方の生徒の視界を遮るので、窓際のサティアナが気を利かせてシャルロッテとの席の交換を提案したのだった。
「お心遣い感謝する。」
護衛さんはシャルロッテの背後ではなく側面の窓際に控えることができ、少しばかり安心したらしい。
「護衛の方は殿下の専属なのですか?」
サティアナは、シャルロッテに顔を向けながら、護衛さんにも視線を向けた。
年齢は、ちょうどサティアナのお師匠様、ゼフラと同じくらいだろうか?長身であるがゼフラよりも身体の線が少し細い気がする。騎士かどうかは身なりからは推察出来ない。
「ええ。1年前からお世話になってます。彼の名前はガイ・プーリーよ。近衛騎士団所属です。」
よろしくお願いいたしますと、サティアナとガイはお互いに一礼をした。
「よーし時間だー、みんな席に着けー!」
教室に先ほどの引率してくれた女性と、初めて見る男性が入ってきた。
男性はそのまま教卓の前に立ち、外にいた生徒数名が教室に入って来て着席するのを見守った。
「えーと、8人!皆揃っているな。よしよし。」
教卓の前の男性が名簿を見ながら頷いた。そして軽い挨拶と、この後の予定について話し始めた。
「えー私は、今日からこのクラスの主担任になったアレックス・レイズと言います。こちらは副担任のミッシェル・アニールさんです。どうぞよろしく。ちなみに我々は二人ともビッグスターとして登録されている騎士だ。ビッグスターなりの苦労なんかも分かってやれる部分があると思うから、何かあれば相談してくれて構わないぞ。
えーとそれで、今日このあとはクラスの生徒全員で、自己紹介の時間にしたいと思います。一人ずつココに出て来て自己紹介してくれ。
そうだなぁ……。名前と出身地、適正属性、ふだん使う武器までは必ず紹介してください。そのへんの情報は特に俺達担任には必要なものだからな。
あとは得意な魔法とか、魔法や剣術を誰に師事したか等を話しても面白いかも知れないな。あと、愛称とかなんて呼ばれていたかとか?……まあ、自己紹介だから必要事項以外は自由に紹介してくれて良いぞ。
それでは始めよう!先ずは俺達担任からだな。」
そう言って始まった自己紹介の時間。
まず、主担任の名前はアレックス・レイズ先生。男性。出身地は王都。適正属性は火・土。武器は剣。ビッグスターとしての所属は王都防衛団であるとのこと。どことなく自分の叔父を思い出させる人だなとサティアナは思った。
副担任はミッシェル・アニール先生。女性。出身地は西部のバイトル領。属性は風・水・氷。所属は近衛騎士団であるらしい。真面目そうな人だなとサティアナは思った。
「では、次は君たちだ。前の席から始めようかな。―――では、シャルロッテ殿下。あなたからでよろしいでしょうか?」
レイズ先生が一番手として指定したのはシャルロッテだった。




