第2章 [4]
さながら諜報員の気分で新入生の受付場所へ進入していくキャロラインは、「ビッグスター養成修養クラス受付」の看板を見つけるとその場で立ち止まり、辺りを見回した。
少し離れた所からあくまでも自然な感じで、それとなく観察するのである。
ビッグスタークラスに入る生徒はみなロングブーツ着用なので一目瞭然だ。
「―――――あ、前方奥の花壇の縁に座っておられる御方。あの方ではないかしら?お付きの方がいかにもな護衛だわ。」
いち早く目星をつけたキャロラインが発言した。
「ホントだ。確かにいかにもな護衛が付いているね。」
「それに桜金色の御髪と、遠くからでも分かる気品。あの御方の可能性は高いですわね。」
王女殿下の髪と瞳の色は珍しい桜金色なのだと、サティアナはここへ来る途中にソフィアナから教えてもらった。
「では、このままサティアナ様の受付の近くまで参りましょう。その間私はお二人の陰であの御方を確認しますので、お二人はいつもの様になさってくださいな?」
「はいはい。では姉様、先に行きましょう〜。」
ソフィアナは絡めた腕を少し引っ張るようにサティアナを促し、気持ちゆっくり目に歩く。
サティアナも同じ速度で合わせた。
「ソフィー達はこの後戻って受付するので間に合うの?」
「ええ。問題ありませんわ。早く行っても遅く行っても同じですから。それなら姉様とご一緒している方が幸せですもの。」
「そっか。ありがと、ソフィー!…そういえば、受付って何するのかなあ?」
「名前と身なりを名簿で確認するのですわ。あと、鞄ですわね。」
「鞄?」
「ええ。授業で使う教材などをあらかじめ完備してある学生鞄を、新入生は受付で受け取るのですわ。」
「……受付の時に渡してしまえば色々な手間が省けるわけだ。なるほど、妙案だね。」
「ですが重いので、皆さん御自分の棚に不要な教材はしまって、必要な教材だけ鞄に入れておくものですわ。姉様もおそらく専用の棚を用意されるでしょうから、それが宜しいかと。」
「そっか。うん、そうさせてもらうよ。」
ビッグスタークラスの受付の前に到着し、3人で向かい合ってキャロラインからの報告を受けた。
「おそらく、あの方で間違いありません。桜金色の御髪と瞳、溢れ出る気品とその美貌。加えてあの護衛。周りにいる者が誰も近寄らないのもあの方が王女殿下なればこそ、かと。」
「きっとそうですわね!……でもなんだか少し寂しそうになさっていますわね。あの御方も学校なんて初めてのことでしょうに。心中お察しいたしますわ。」
「うん。そうだね、私も思った。少し寂しそうだなって……。私、受付終わったら話しかけてみるよ!同じクラスになる方だと思うから。」
「え!だ、大丈夫なんですか?話しかけたりして!?」
キャロラインが驚き焦る。
「え、なんで?王女殿下といえど同級生でしょ?初対面って大事だし、それに邪険にされたらされたで、なるべくお側に寄らなければ良いって分かるし。こういうのは直感を大事にしているんだよ私。だからたぶん大丈夫。」
「キャロライン、心配御無用ですわ。姉様はこういうお方なので。それに姉様のことは皆さん好きになってしまいますから〜。姉様、あとでどうなったか教えてくださいませね?」
「うん、ありがとう二人共。助かったよ!…そうだソフィー、終わったらどこで待ち合わせる?」
「そうですわね。姉様はまだココに詳しくありませんから、先ほど馬車で入った正門の辺りでいかがでしょう?」
「了解。じゃあまた後ほどってことで、そろそろ行くね!」
二人にお礼を言ってサティアナは受付へと向かった。
ソフィアナとキャロラインはそれを見送ると、二人並んで踵を返し自分達の受付へと少し足早に歩き出した。時間もあまり無かったが、それより二人とも興奮していたため何だか走り出したい気分を抑えるのが大変だった様である。
――――――――――――
「こんにちは。お名前をお伺いいたします。」
サティアナが受付に行くと、受付の女性が告げた。騎士養成部の職員だろうか。女性が着用している制服はサティアナのものと似ていた。
「サティアナ・アンハードゥンドと申します。よろしくお願いいたします。」
「確認しますのでお待ち下さい。――――お名前の確認ができました。では次に掌の星印を確認させていただきますが……貴女は両手ですね。星印の確認は受付時の規則ですのでご了承くださいますようお願いします。」
「あ、はい、わかりました。では。」
サティアナは両手の手袋を脱ぎ、受付の女性に掌をみせた。
失礼します、と女性はサティアナの手を取り掌を確認した。
「―――――確認いたしました。ご協力感謝します。ではこちらの学生鞄をお持ちになって、お時間が参りましたら合図に従ってあちらから講堂へお入り下さい。以上で終了ですが、何かご質問はありますか?」
「いえ、特にありません。ありがとうございました。」
鞄を受け取りサティアナは受付に背を向け、王女殿下らしきお方に向かって歩き出した。
サティアナが王女殿下らしきお方に近づくと、護衛が間に立ちふさがったが、サティアナは怯まず護衛に話しかけた。
「失礼ですが、そちらのお方はシャルロッテ王女殿下であらせられますか?私もビッグスタークラスに入るので、王女殿下に自己紹介させていただきたいのです。」
サティアナ側に敵意がないと察した護衛は、王女殿下らしきお方に目配せした。すると王女殿下らしきお方は頷き、それを確認した護衛は身を引いた。
護衛が身を引いたので、サティアナは少し前に出てその場でひざまずき自己紹介をした。
「シャルロッテ王女殿下、お会い出来て光栄です。私はサティアナ・アンハードゥンドと申します。北の辺境を預からせていただいております、マティアス・アンハードゥンドの娘でございます。おそれながら殿下とは同級生にならせていただくのではと思わせていただきますので、ご挨拶申し上げさせていただきました。」
「お声掛けありがとうございます。シャルロッテです。お顔を上げてお隣に座って下さいまし?」
サティアナが顔を上げると、シャルロッテ王女が目の前で微笑んでいた。そのあまりの神々しき美しさに、しばらくサティアナは動けなかった。今までお会いしたどの御婦人よりも美しかった。
「いかがしましたか?」
「あ、……その、すみません。殿下があまりにお美しかったもので、恥ずかしながら思考が停止してしまいました。……では、お言葉に甘えて隣に失礼いたします。」
サティアナは立ち上がり、シャルロッテ殿下の隣に腰をおろした。
「ふふふ、女性の方に面と向かってその様に容姿を褒められたのは久方ぶりで少し照れますわね。」
「あ!?申しわけございません。。つい本音が出てしまいました。。美しいと言われるのはお嫌いでしたか?」
「いえ、特に嫌いではなくてよ。ただ、その様な言葉は言われ慣れてしまいましたの。でも、貴女のように真っ直ぐに言われたのがとても久しぶりでしたから。
それに貴女が声をかけてくださって、わたくしとても嬉しかったわ。王女のわたくしに声をかけてくれる方なんていないと思っていましたから。ねえ、どうしてわたくしに声をかけてくれたのです?」
「あ、それは、その……殿下が少し寂しそうになさっていた様に思われましたので……。
私も、学校というものが生まれて初めてですので不安な部分が少なからず有りましたが、ここへ来るまでは在校生の妹が一緒に来てくれたので、彼女から少し勇気がもらえまして。それで私も殿下のお側に参って何かお話でも出来れば、と思い切って殿下にお声がけさせてもらったのです。唐突に申し訳ありませんでした。」
「そうだったのですね。では、貴女の妹君にも感謝しなくてはね!妹君によろしくお伝えくださいね。」
妹に対しても優しさをお示しくだされたシャルロッテ王女に、サティアナは心からの感謝を伝えた。
そしてソフィアナの予想通り、シャルロッテは初めて出来たこの同級生に対し、すぐに気を許したのだった。
聞けば、シャルロッテは数日前からずっと入学式が、というか、学校というものが不安だったらしい。
授業について行けるだろうか。学校生活においてクラスで孤立したりしないだろうか。友人はできるだろうか。
ひとり王宮で悶々としていたらしい。
サティアナもシャルロッテと同じ境遇だったため、お互いに胸中を晒し、二人はおおいに共感し合ったのであった。




