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第2章 [3]

 



 アカデミーに向かう馬車の中で、先ほどまでの緊張が解けていることにサティアナは気付いた。


(……そっか、お師匠様が。)


 フフフ、とひとり口角を上げる。ゼフラには頭が上がらないなとサティアナは彼に感謝した。




「ここだけの話だが、今年は王女殿下が御二方お揃いでアカデミーに入学なさるそうだぞ。」




 マティアスが話し出すとソフィアナがすぐに反応した。




「本当ですか?ではシャルロッテ王女殿下がスターホルダーという噂は本当だったということでしょうか。でなければ御入学の時期に説明がつきませんものね……」




「それはそうね。ですがそれは入学式が始まればすぐに分かること。不粋はやめて外の景色でも愉しみましょう〜。」



 ルイーズにつられてサティアナも窓の外に視線を移すと、先ほどよりも街道がかなり賑わっていた。馬車が王都の中心街を抜けようとしているのだ。



「すごい賑わいですね!歩いている時の感じとはまた違って、馬車からだと全体的な賑わいが判りますねえ〜。」



 そう発言しながらサティアナも心が弾んでいた。



「ところで、二人は今日の帰りはどこか寄って帰るのかな?」



 父に尋ねられて、サティアナが答える。



「はい、ソフィーのおすすめのお店に。実はどこに行くのか私もまだ知らされていないのですよ。フフフ」



「はい、美味しいモノを食べに行くとはお伝えしましたが、何を食べるかはまだ内緒ですわ!」



 ソフィアナが自慢気に話した。

 何を食べるかは知らないが、姉様なら必ず気に入る店だと妹ソフィアナからは言われていたので、サティアナも詮索はしないことにしていた。その方がサティアナも愉しめるというものであった。



「そうかそうか。帰りは気をつけて帰ってきなさい。遠ければ馬車をひろって帰りなさい。いいね?」



「ありがとうございます、心得ましたわお父様。―――あら、もうすぐアカデミーに着きますわね!」




 いつの間にか馬車は、あの賑やかだった街道とは趣の違う品格ある感じの大きな通りを走っていた。

 通りの反対側には大きな堀があり、堀の向うには高い城壁が築かれていた。この国の王宮である。



 サティアナはそのあまりの大きさに口を開けて見入ってしまった。



「うわぁ〜、おおき〜いですねぇ〜。」



 アンハードゥンド家本館も充分大きいと思っていたが、やはり王宮は規模がまるで違う。離れた所から見たときは大きいな、くらいの感想を持ったサティアナだったが、近くで見るとそれどころではなかった。もはやひとつの街である。

 ここで働く人は迷子にならないようにするのが大変だろうなと思った。



 馬車が止まった。どうやらアカデミーの正門前で検閲待ちの行列に入ったようである。ノロノロと止まっては進みを繰り返すと、やがて検閲を終え正門を通り抜けた。



 馬車は車道の端の歩道を歩く何人もの学生を追い越しながら、停車場に到着した。

 正門を過ぎてから停車場に着くまでの時間はサティアナにとって本当にあっという間だった。

 何もかもが未知で、キョロキョロしている間に馬車は停車したのだった。



「ああ、今日はまず私が降りよう。お前たちは我々の後で良い。」



 父が最初に降り、母の降車を手助けした。

 次にサティアナが降り、ソフィアナに手を貸した。

 その様子を遠くで見守るモノ好きな生徒たち。特に人気上位であるソフィアナを見つけると、遠くで黄色い声が上がった。



「見てくれルイーズ、あの娘達を。ソフィアナは数年間でたいそう人気者になったようだな!わっはっは。」



「ほんと、素晴らしい娘になってくれましたわね~。嬉しいですわね、貴方様。」



 うんうんと、マティアスとルイーズは微笑み合った。

 一方、歓声を上げられている本人はアカデミーでの日常を家族に見られているようで、少しばかり恥ずかしそうにしていた。


「コホン。では、お父様お母様、あちらまで共に参りましょう。あちらの出口を出たら、わたくしたちは右手に、お父様たちは左手にお進み下さいね!」



 照れ隠しに少しツンツンしてしまうのが妹ソフィアナの可愛らしいところだ。

 4人はソフィアナの案内通り、とある出口に向かった。先ほどの黄色い声をあげていた生徒達とは反対側へ向かう。その生徒達はソフィアナが反対側に向かったのを確認すると、次の違う人気者を見つけた様だった。



「ははは…せわしないね~。」



「姉様、年ごろの女子は少なくともああいったモノですわよ?姉様にもきっとそのうち洗礼が来ますわよ~?」



 不穏に微笑むソフィアナを見て、少しピリッとするものを感じるサティアナであった。




 出口に到着すると、先ほどソフィアナが教えてくれた通りに父母は左手、サティアナ達は右手へと誘う看板が出ていたので、では後ほど、と両親に別れを告げ姉妹は右手の広場へ向かって歩き出した。


 ソフィアナと並んで歩いていると、先ほどの生徒達の様にあからさまではないにしても、周りの一般学部の生徒達がザワついているのにサティアナは気付いた。

 その様な生徒達はソフィアナを見つけてはコソコソ嬉しそうにするのである。



「ソフィーって、とっても人気者なんだね?すごいね!みんなソフィーを見て嬉しそうにしてる。」



「わたくしが小生意気なので皆さんコソコソなさっているだけですわ。」



「コラコラ、そんなふうに自分を貶めることはないよ?ソフィーは見た目はとっても可愛いし、細かいことにも気が利く外見も中身も素敵な自慢の妹だよ?」



 ソフィアナの瞳を見つめて真っ直ぐにそうサティアナは伝えた。見る見るソフィアナの頬が赤くなった。



「ね、姉様にそんなこと言われたら、何も言えなくなってしまいますわ!!」



 うつむいて、でもしっかりとサティアナの腕に絡みついて来るソフィアナがとても可愛らしかった。仲良し姉妹である。




「あー、いたいた!何を朝からイチャついているんです?周りを見てご覧なさいな?」




 ソフィアナに向かってそう言いながら近づいてくる生徒がいた。ソフィアナも声の主に気づいて、その場で身なりを正す。

 周りを見てみろと言われ、サティアナがぐるりと見渡すと、あちこちでこちらを見ながらキャッキャと喜んでいる生徒が目に入った。



「麗しのお姉様とよろしくやってるみたいね。ごきげんよう、ソフィアナ。」



「あら、キャロライン。ごきげんよう。姉様、紹介いたしますわ。こちら私の親友……もはや悪友と言う方が良いかしら?キャロライン・パッカーですわ。」



「ごきげんよう、はじめまして。キャロライン・パッカーと申します。お姉様のお噂はかねがねこちらの妹さんからお聞きしております。お会い出来て光栄ですわ!」



「はじめまして、キャロラインさん。サティアナ・アンハードゥンドです。いつも妹がお世話になっております。」



「本当に素敵なお姉様ね!羨ましいわ!」



 キャロラインはソフィアナに向かって素直な感想を述べた。

 ソフィアナも満足げである。



「イチャつくのも良いけれど、もう受付が始まっているわよ!お姉様を早めにご案内して差し上げた方が良いのではない?」



「そ、そうですわね。では姉様、名残惜しいですが参りましょう。」



 ソフィアナに腕を絡められて広場へ進むと、「在校生はこちらへ」という看板が目に入った。その奥に「新入生はこちらへ」の看板が見える。




「さあさあサティアナ様、私たちがサティアナ様のクラスの受付までご案内いたしますわ!」



「あら?…さてはアナタ、王女殿下をお探しに行くつもりね?いけない娘だこと!」




 そう言うソフィアナだったが、彼女の笑顔に悪巧みの色が視えていた。



「申しわけありませんが姉様、少々話を合わせてくださいませ。この悪友は止まりせんので。」



「アナタだって今、悪い顔しているわよ、ソフィアナ?…サティアナお姉様、すみません、少々お付き合いくださいませw」



「はいはい、分かったよ。でも、もし王女殿下を見つけたら私にも教えてね?王女殿下を知らなかったという粗相はしたくないからね。」



 了解しましたー!と悪友ふたりの息はピッタリだった。







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