第1章 [2]
9才から始めた魔法は、3年間で第二級魔法まで無詠唱で使えるようになった。あれだけ夢中になれば、当然といえば当然だよね。ちなみに私の適性属性は、水と風と地。特に地属性が得意だ。
地魔法はとても壮大だ。土だけじゃなくて、植物や鉱物、大地そのものを範囲に含む。攻撃面でも、守備面でも、生活魔法としても役に立つ。
地属性をもってて得したな〜と常々思うよね。
魔法実技の授業では、先生(私はこの方のことを先生と呼んでいた)と一緒に屋敷の裏手の森に行き、魔法で良く遊んだ。
実は先生は地属性が得意なんだと、森で先生と一緒に遊んでいるときにいろんな地魔法を教えてくれた。
先生の適性は、なんと、全属性なんだとか。すごい。先生素敵。
光と闇の属性は適性になる人がとても少なく、それだけで重用される。きっと先生も有名人なんだろう。特に女子からキャーキャー言われていた。
先生は家庭教師として、父上が招いてくださった。父上のご友人だ。
魔法の基礎を私が習得できるまで、基本をみっちり叩き込むという契約だったみたい。で、夜は先生と父上でお酒を飲みながら楽しんでたみたい。
先生は、父上よりもひと回りほど年上で、でもそんなの全然分からないほど若々しかった。むしろ父上よりも年下に見えたのだ。そしてとてもお綺麗な人だった。
薄紫色のサラサラの長髪。とても綺麗な薄緑色の瞳。なめらかな白い肌。手指がすらりとしていて、その手でいつも私の手を握って歩いてくれた。
先生は長身で、長いローブをいつも着ていた。
先生の授業はとても楽しくて、あたたかくて、大好きだった。
裏手の森で遊んでる時も、なんだか常に誰かに見守られているみたいだった。
森に入ると先生の周りにはいつも小さな光が見えた。あるとき、私がその光を目で追っていると、
「この光が見えるのかい?」
と先生に言われた。
うん、とうなずくと、
「何色の光が見えるのかな?」
と言われて、
「白と、紫と、、、黄色がいっぱい!」
と答えると、
「おお、そうかそうか。サティちゃんは将来有望だなぁ!。。。君はきっとそのうちこの光る子たちと話せるようになるよ。」
と言われた。
「どうしたらその子たちと話せるようになりますか?」
と質問すると、
「その掌のお星様が認めてくれたら話せるかな。もう少し後かもね。」
と先生は言った。
正直、そのときは先生の仰っていることが分からなかった。ただ、光る子たちと早く話したいという好奇心から、早くこのお星様に認めてもらいたいという思いだけが残った。
私の魔法の基礎ができ、第三級魔法の無詠唱を研究し始めると先生は屋敷を去っていった。旅立ちの朝、私は先生と別れたくなくて泣いていた。もっと先生の授業を受けたかった。
先生が大好きだった。
そんな私の目の前に先生はしゃがみ込み、私と目の高さを合わせて言った。
「サティちゃんはもう僕がいなくても一人で魔法の習得を進めていけるでしょう?分からないことがあれば辺境伯閣下が教えてくださるからね。僕はね、次に先生を必要としている子の所へ行くんだ。また必ず会える。キミが王立アカデミーに入学して、王都に来たら再会しよう。王都で待ってるよ。」
私は泣きながら頷いた。また会えるんだ。王都に行けばまた先生に会える。
「ほんとに?先生約束して、王都に行けば先生に会えるんですよね?私それまでにたくさん魔法出来るようになるから。」
「うん、約束だ。それまで、さようなら、サティちゃん。」
「はい、それまでさようなら、先生!」
王都。王立アカデミー。ぼんやりとしか知らされていなかった私の未来の学校。私の中で、王立アカデミーへの興味が沸いた朝の出来事だった。
それから私は、少しずつ、両親に王立アカデミーのことを伺った。ふたりとも王立アカデミー出身者なのだ。
王立アカデミーは、一般学部と騎士養成部と魔法師養成部があり、
一般が初等部・中等部・高等部、
騎士養成部が一般騎士養成クラス・幹部騎士養成修養クラス・ビッグスター養成修養クラス、
魔法師養成部は一般魔法師養成クラス・上級魔法師養成修養クラス、
で構成されている。
父上は辺境伯爵継承者だったので、辺境伯爵騎士団の団長も継承することから、騎士養成部・幹部騎士養成修養クラスに入学する必要があった。叔父上は、スターホルダーだったのでビッグスター養成修養クラスへ入学するのが最優先だった。
アンハードゥンド家は、ビッグスター輩出に長けた家柄で、大体各世代に一人はスターホルダーが生まれる。
私の兄弟では私、親の代では父上の弟である叔父上がビッグスターホルダーだ。
ビッグスターを持って生まれた子供は、スターホルダーと呼ばれる。両手にビッグスターがある子はデュアル(スター)ホルダーと呼ばれる。
ビッグスター養成修養クラスにおいて、卒業試験に合格し、国王陛下より記章を褒章されるとビッグスターとして名乗ることができる。
私の叔父上は若い頃、卒業試験に無事合格し記章を賜りビッグスターとなった。
スターホルダーは、我がチゼル王国にとって大変貴重な人材だ。ビッグスターは王国軍に所属し、その存在を管理され、有事の際には国中どこにいても王宮から招集命令が来る。
チゼル王国軍は、大きく三つに分けられる。まず近衛騎士団。王宮を守る。次に王都防衛団。王都を守る。そして、チゼル王国内諸侯の領地にて運営される諸侯騎士団。それぞれの領地を守る。
例えば我が家でいうと、アンハードゥンド騎士団。団長はアンハードゥンド辺境伯爵である我が父、マティアス・アンハードゥンド。そしてその下、現場を仕切る総隊長に我が叔父上、カーティス・アンハードゥンドがいる。その下にはいくつかの部隊に分かれ、日々アンハードゥンド領内の防衛や治安維持に勤しんでいる。
そんな感じで、他の諸侯領内でも騎士団が運営されているはずだ。実際にこの目で見てはいないので、私としては断言できないが。
こういった知識は、11才から始めた社交の授業で習った。社交の授業は、座学とダンス。
座学は、この国の社会のことや、この国の習わし、貴族としての一般常識、庶民の暮らし、諸外国のことなどを学習する。
ダンスは男性側も女性側も習う。女性であっても女性を相手にダンスすることがあるからね。特に私はスターホルダーだから、女性のお相手をすることも多いらしい。
同じく11才から始めた騎馬術は、1年もするとだいぶ上手くなり、父上からはまずまずの合格をいただいた。それからは一人で騎乗し屋敷の外へ出ることを許された。
12才になった私は、ある朝父上から夕食のあとで話があるから広間に来るようにと言われた。
午後のダンス授業のとき、執事のヨハンに父上から言われたことを話すと、
「サティアナ様、それでしたら念のため、夢ノートをご持参なされてはいかがでしょうか。」
と言われた。
「夢ノートが必要なの?」と答えると、
「念のためです。」とそれ以上は教えてくれなかった。
夕食のあとで夢ノートを持って広間に行くと、父上と母上がくつろいでいた。
「お待たせして申し訳ありません。」と、両親のところまで急いだ。
「気にするな、夫婦水入らずで語っていたのだからな。」
「そうよ、もう少しゆっくりでも良かったのよ~」
と、母上が和ませてくれた。
そして、二人は顔を見合わせてから、
「お前のその手に持っている夢ノートを、いまから私達に見せてくれないか。」と父上がおっしゃった。
23/2/8
今までの話の分の、段落構成を変えました。すみません。まだ勝手がよくわからなくて。。。
あと、1章[1]の、ビッグスターのクラス名を変えました。すみませんー。