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第2章 [1]

第2章、アカデミー入学編です。

 


 新しい朝。

 王都にあるアンハードゥンド家別邸で目を覚ましたサティアナは、ひとつ伸びをして起き上がり内窓を開けた。朝日が目に染みる。


「んー、いい朝」



 部屋の隅に置かれた手水鉢に、彼女自身で水を出す。冷たい水が両手から湧き出し、手水鉢に貯まってゆく。その水でパシャパシャと顔を濡らした。



 サティアナが着替えを済ませて階下に降りると、すでに妹のソフィアナがラウンジでくつろいでいた。



「おはようソフィー。」



「おはようございます姉様。お茶、いかがです?」



「ありがとう、いただきます。」



 ソフィアナが慣れた手つきでお茶を淹れる。

 カップからは温かな湯気と、良い香りがしている。



 姉妹で朝のお茶をする憩いのラウンジ。サティアナはこのラウンジという形式を知らなかったが、程良くこじんまりとしていて家族で寛げる部屋である。アンハードゥンド家本館の、応接広間をすごく小さくして身内向けにした感じだ。



 隣には部屋続きでサンルームもある。サンルームは夏になれば扉を開け放つとテラスのようになるそうだが、今時期、朝晩は寒いので締め切っている。日が高くなれば、光を集めて日中とても暖かくなり、ひなたぼっこにはとても良さそうだった。



 この別邸はアンハードゥンド家の者が王都在住時に寝泊まりする家であるため、家人の王都での生活に基準を置いている。あくまで個人的な屋敷なのだ。



 接客するための部屋もあるにはあるが、密会程度の備えしかなく、今までサティアナが暮らしていた本館の屋敷とは別の物であり、貴族と庶民の間を取ったような暮らしの建物であった。



「ここは先代が購入したもので、私もルイーズも大変気に入っているのでそのまま王都用の別邸としているのだよ。」



 別邸に到着した日、当代辺境伯である父よりそう伝えられた時、私もすでにお気に入りになりそうですよ、と父に告げたくらい、ここはサティアナにとって居心地の良い新居となっているのである。



「朝食の準備が整いました。」



 リリーがサティアナに声をかけ、食堂に家族が集った。

 食卓の準備をするのは、本館執事長のヨハン・メイド長のマリア・メイドのリリーの親子3人。


 サティアナとソフィアナの転居に先駆けこの別邸で様々な準備をしてくれたこの親子には、サティアナ達家族が皆、積もる話がたくさん有り過ぎた。

 しかしそれを消化している時間はお互いになく、王都に着いたら着いたで皆忙しかったので、父母とヨハン・マリアの間では、積もる話は帰りの旅路でと言うことになった様である。



 サティアナ・ソフィアナ・リアムの3姉弟は、数日間日中お茶の時間にリリーも交えておしゃべりしたので、相互的に積もる話は解消出来つつあった。



 王都に来ると父母は人と会うので忙しく、日中ほとんど外出していた。ソフィアナも友人と会うのに外出する時があった。

 対してサティアナとリアムは王都に友人も居ないので、そんな時はふたりで修練に励んだ。旅に同行していたサティアナの剣術指南であるアンハードゥンド騎士団先行部隊長のゼフラが別邸に来るときは姉弟対ゼフラで対戦したりしたが、やはり軍配はゼフラに挙がるのだった。



 ソフィアナが友人に会わないときには、ゼフラが別邸に来るとサティアナ達3姉弟・ゼフラ・リリーの5人で街に散策に出たりもした。

 ゼフラは王都滞在中は基本的に休暇となっているのだが、日中は暇らしく、警護も兼ねてサティアナ達の相手をしたりした。


 お師匠様として、もうすぐアカデミーに入学する弟子との時間を大切にしている様であった。


 ソフィアナとゼフラは王都の街に詳しかったので、散策しながらいろいろと街やお店のことを不慣れな3人に教えた。流行りはソフィアナが、武器・小道具関係や昔からのお店はゼフラが。


 ゼフラもこの旅でソフィアナやリアムと打ち解けた様だったが、サティアナとふたりで居るとき以外は敬語を崩さなかった。リリーもそうである。

 それに気づき、自分は今まで特殊な立場でいたがアカデミーに入学したら上下関係にはしっかり線引きしなければ、と、サティアナは散策しながら思ったのだった。



 散策に出ると、皆で美味しい物を食べたりもした。

 王都の街中ではゼフラ以外面が割れていないので、サティアナは思い切り羽根を伸ばせた。

 ゼフラは一時期王都を賑わせた事があるので、気付く人は気付いた。それでなくとも目立つので、たまに黄色い声が聞こえることもあった。





 ――――――――――――――――――




 その日も、ゼフラに話しかけてくる御婦人方がいたが、彼は丁寧な言葉遣いで仕事中だと断っていた。



「はぁ〜。ゼフラ殿はモテモテだなぁ。でも、モテるのってなかなか大変なんですね。仕事中と言うのは良い口実になるようです。」



「そうは言ってもリアム、殿方はモテないよりモテる方が良いに決まっていますわ。」



「私はあまりモテない人の方が良いですけどね。モテる人と結婚したら、いろいろ心配ですし。」



「あらリリー、でもモテない殿方というのはわからずやが多くてお話していても詰まらないですわよ?男性優位意識が強くて女性に対しても優しくないし。アカデミーにいると良く分かりますわ。モテる殿方は精神的に余裕が有るのだと。多少引っ込み思案な性格の殿方であっても、精神的に余裕のある方であれば女性は放って置きませんもの。」



「確かに。お師匠様ってなんだかんだで御婦人方には優しいんだよね。男性優位もないし誰に対しても余裕が有る。下心が見え隠れする優しさじゃないから判りにくいけど、それが余計にあの色気に繋がっているのかもね。リアム、お師匠様からいろいろ学べることは多いよ。」



「なるほど。わかりましたサティ姉様。この旅の間、ゼフラ殿からいろいろ学ぼうと思います。父上からだけでなく、周りの大人の男性から学ぶことも大事ですね。」



「リアム。それなら殿方だけではなく御婦人からも学びなさいな。人を見る目というのは上に立つ者にとって必要不可欠なものですからね。」



「確かにその通りですね!御助言ありがとうございます、ソフィー姉様。」



「さすがソフィー。アカデミーに通ってるうちに、もうすっかり頼れる御婦人になっちゃったね。父上がおっしゃっていたよ、アカデミーでも人気上位なんだって?お見合い話がたくさん来てるって。すごいじゃん。貴女はホントに自慢の妹だよ。」



「そんなことおっしゃってますけど、もうすぐ一番おモテになるのはきっと姉様なのですから、しっかりご自覚なさってくださいませ!姉様はこのところ身長も伸びて見るたびに素敵になられて、私も自慢のしがいが有りますわっ!」



 ソフィアナは照れ隠しにサティアナをつっついた。

 が、サティアナにしてみれば、えぇ〜何が?という感じなのだった。

 そんな二人の横でニコニコと微笑むリアムと、苦笑いのリリー。


 ゼフラが輪に戻り、散策は再開された。



 自分達の入居に際して日々頑張ってくれている使用人たちに何かお土産でも買って帰ろう、ということで、サティアナ達は今流行りのお菓子屋さんに立ち寄ることにした。



 店内は混雑していたので、お土産に何を買うかは流行に敏感なソフィアナとお財布係のリリーに任せることにし、それ以外の3人は店の外に出て待つことにした。



 手持ち無沙汰だった3人であるが、サティアナが隣の雑貨屋さんの軒先に出ていた髪紐を物色し始めると、ゼフラとリアムも一緒に物色し始めた。




「――あ。これ……ねえリアム、これどう?似合うかな?」




「はい!姉様の髪の色にとても良く映えると思います!」




「ああ、似合う。しかもお嬢の好きな系統の色だ。」




 2人に褒められて嬉しかったので、サティアナは少々値の張るそれを買おうと手に取った。するとゼフラがその髪紐をサティアナの手の中から取り上げ、彼女に告げた。



「これは俺からの餞別だ。あんたはもっと強くなって、俺を負かせてくれると信じているからな。頑張れよ。」



 こんな所でこんなときに言われるとは思わなかったので、サティアナは少々油断していた。ゼフラはどこまでもサラリとしていて余裕があり、少しだけズルいのだ。寂しさを感じている余裕もなく、サティアナはただ頷くだけだった。



 しばらくするとゼブラが紙の包みを持って戻って来て、サティアナに手渡した。



「ありがとうございますお師匠様。大事にします。いつか貴方に追い付ける様に精進させていただきます。その時は勝負してくださいね!」



 少し寂しそうに笑うサティアナの頭を、ゼフラはポンポンと撫でた。



 気を取り直して3人はまたお菓子屋さんの入口付近に戻り、剣術体術について少し話し合っていた。

 すると、大きな包みを抱えた店員と、ソフィアナとリリーが店から出てきた。



「皆が喜びそうな物が買えましたわ!」



 ゼフラがその大きな包みを受け取り、店員に挨拶をして一行は帰路についた。



 別邸の入口まで同行した後、ゼフラはこの後用事があるからとまた街の方へと歩いて行った。



 ゼフラから受け取った荷物をサティアナが食堂まで運び、ソフィアナが包みを開けると、いま街で流行りの焼き菓子がお目見えした。

 それをリリーが使用人達に配ってくれた。



 もちろん、サティアナ達もその焼き菓子を食べながらお茶の時間にしたのだった。





 そんな感じで入学前の楽しい休み期間はあっという間に過ぎ去り、サティアナはアカデミー入学式の日を迎えるのだった。





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