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第1章 [27]



 ―――――――――――


 湯浴み着の上に外着を羽織って外に出る。

 雪景色の中に松明の火と、お風呂の湯気。

 向こうの森と、満天の星空。


 私の吐息が白く曇る。

 そこはいつもの裏庭ではなかった。

 夕暮れの頃よりも更に、別世界。



 先に着いていた母上とソフィーが仲良くお風呂に浸かっていた。


「湯加減はどうですか?」



 母上が、最高よ!と答えてくださった。

 その横でソフィーが、何もかも最高ですわ!と言ってくれた。



 私はソフィーの隣に腰を下ろし、空を見上げつぶやいた。



「素晴らしい夜空ですねえ……来年までしっかり焼き付けておきましょう。」



「あら?姉様は年末しか帰省されないのですか?」とソフィーが返した。



「うん。叔父上に聞いたのだけど、ビッグスター養成クラスは夏季休暇は色々忙しくて帰って来れないらしいよ。」



「あらそうですの……でしたらわたくしも今年の夏季休暇は王都で過ごすことにいたします。お母様、よろしいでしょうか?」



「ええ、それも良いのではないかしら?帰省で魔物に襲われる心配もなくなるし、王都の夏を満喫なさいな〜。大きなお祭りもあるものね!」



「そうなんです!わたくし、一度はあのお祭りに行ってみたかったのです!」



「良いわね〜!羨ましいわ!」



 そんな話をしていたところ、叔母上が登場した。

 叔母上はレオンを抱き上げながらお風呂までひたひたと慎重に歩きながら、眼前の景色の素晴らしさに口を開けていた。



「素晴らしいですね、サティちゃん。こんな景色を見せていただき、ありがとうね。」



「喜んでいただけたなら、私も嬉しいことです。さぁ寒いのでどうぞ中にお入りください。入る前に手のひらでお湯をすくって体の汚れを軽く流してくださいね。さあ、レオンも。」


 と言って、私は叔母上からレオンを預かり、レオンの体に優しくお湯をかけてあげた後、そのまま一緒にお湯に浸かった。



 私がレオンとお湯で遊んでいると、私の隣にソフィーがやってきてレオンを預かり、今度はソフィーがレオンと遊んだ。

 余談だが、レオンは将来男女問わずのモテモテ君になりそうな予感がする。さすがは叔父上の息子である。




 そうしている間、母上と叔母上はそれを眺めながらゆったりと気持ち良さそうになさっており、ときおりふたりで楽しそうにひそひそとお話されていた。それを見た私はとても穏やかで幸せな気分になった。



 まったりしたり、はしゃいだり。

 のぼせる寸前まで露天風呂を満喫し、私達はお風呂をあとにした。


 お風呂の効果か、その晩は夢も見ずにぐっすりと眠った。






 ――――――――――――




 翌日の朝食後、少し休んでから、私は夢ノートを持参して父上の執務室に向かった。



 正月二日目からアンハードゥンド騎士団は一応仕事始めになるので、父上の年始挨拶が終わってから執務室に来るようにとの指示だった。前日の神殿での出来事を細やかに父上に報告しなければならなかった。



 部屋の扉を叩いて入室を促され中に入ると、母上と叔父上もいらっしゃった。



「サティアナ、待たせたな。」



「いいえ、おかげで私も昨日のことを思い出す時間が出来ましたので、お気になさらず。」



「そうか、では、座って話そうか。皆も近う寄れ。」



 そして全員が部屋の中心部の合い向かいに置かれた応接椅子に腰を下ろした。



「では聞こう。昨日神殿で何があったのか。私が見たところ、お前は平伏し柏手を鳴らした後、少しの間気を失っていたようだ。そして少し経つと気がついたのか再び平伏し柏手を鳴らし立ち上がった。その間にお前に何があったのだ?」




「……はい。父上に教わったとおり、私は柏手を打ち守護神様にご挨拶申し上げておりましたところ、待っていたぞ、と頭の中で声がしまして、おそらくその時に気を失ったのだと思います。そして次に目が覚めましたところ、また声がしまして。お前が我に会いに来るのを待っていた、と。

 それでそのお声が守護神様の御言葉であったのだと理解しましたが、何が何やら分からず焦り気が動転していると、お前の魂を少しばかり拝借したのだと仰られまして、すぐ元に戻してやるから、落ち着けと。落ち着いて我の言葉を聞けと。」




 と、一気に話し始めたが、向かいで母上が私の話を書き付けているのに気づき、いったん口を休め、母上がなるべく安心して書き付けられるように話す速度を弛くしたのだった。




「私が少し落ち着くと、守護神様は再びお話しになりました。私のことは 子霊(こだま) とお呼びになられました。彼の方いわく、私の魂は彼の方と契約しているらしいです。だから、何度生まれ変わっても私にはビッグスターが出現すると。そしてデュアルスターホルダーというものは、何処かの神様との契約者なのらしいです。ちなみに彼の方の契約者は私ひとりなのだとか。」




「なんということだ!……こんな話はどこからも聞いたことがないぞ。……この子が守護神様の契約者だったとは。そうか……」

 父上は叔父上と顔を見合わせ首を横に振っておられた。



「スターホルダーの管理を国が始めてからだいぶ経つが、そもそもデュアル自体がほとんど生まれないからな。情報が無いのも仕方ない。しかし、これで星一つと二つの違いが視えてきたわけだ。」

 叔父上は感慨深げに頷いていらした。



 母上の手が止まったのを確認して、私は続きを話し出す。



「ここまでお話をされて、時間が差し迫ったということで、また王都の神殿でな、と仰られました。私と守護神様はいつでも繋がっていることを忘れるなと。あと、これから生きていく上で大事なことを父上に乞うてみよと仰っておられました。そして父上から戴いた御言葉を己の信条にせよと。


 ……それで、私はそのまま意識を失い、平伏したまま意識を取り戻しました。以上です。


 それで……私からもお聞きしたいのですが、王都の神殿とは何のことかお判りになりますか?」



 私の問いかけに叔父上がお答えになる。



「ああ、それはな……ビッグスター養成クラスでは、ビッグスターに覚醒するための修行を王立アカデミー敷地内の地下にある神殿にて行うのだよ。覚醒に至るには、何かしら神の力が働かなくてはならないと伝承されているのだ。俺も覚醒の際にはまばゆい光に包まれ、一瞬だけ内なる声を聴いた。でも、先ほどのサティの話を聞くに、あれは確かな伝承なのだと俺は納得出来た。星一つでもおそらく神の御加護が働いているのだろうな。俺が聴いた内なる声は、神からの祝福だったのかも知れないな。。」



「なるほど……。叔父上、ありがとうございました。それから父上、アカデミー入学までに私に人生の信条となる御言葉をくださいませんか?今すぐでなくて構いません。出来れば、改めてお時間をお取りいただけると。」



「うむ、わかった。私も良き言葉をお前に送ってやりたいからな。しばし待っていてくれ。ルイーズ、それを清書したのち、漏れや間違いが無いかサティに確認をしてくれ。」



「わかりました、ではこのあとすぐに清書いたしますわ。」



「うむ、頼んだぞ。…よし、では……カーティス、終わらせても良いな?」



「うん、大丈夫だ、兄上。」



「ではサティアナ、下がって良いぞ。後でルイーズを手伝ってやってくれ。」



「はい、父上。では私はお先に失礼いたします。何かあればまたお申し付けください。」



 私は一礼して退出し、自室へ向かいながら守護神様との会話を思い出し、彼の御人について少し思いを馳せた。


 そんな中であの御方の、圧倒的な存在感の中に見え隠れする、どことなくくだけた感じのお人柄に親しみを覚えた。


 そしてそんなふうに感じるのはこの魂に刻まれた記憶なのではなかろうかと思ったりした。だって私は守護神様にまだ一度しかお会い出来ていないのだし、あの御方に対してそんな感情を抱くのはとてもとても畏れ多いことだ。


 つまり、そんなふうに感じるのは私ではなく、私の中に眠るトージさんの記憶なのではないか、と推測したのだ。


 そして、そうであったとしても、いつでも繋がっているとおっしゃってくださった守護神様に早くもう一度お会いしたいと私自身が願い、心待ちにするのだった。







 ―――――――――――――――――――




 そんなふうに我が守護神様へのご挨拶を経て。

 ついに私は王立アカデミーの生徒になる。

 不安はないとは言えないが、自分に出来ることは全てやってきた。


 あとは、


「いつでも守護神様が見ていてくださると思って、自分が正しいと思うことを、良いと思うことを、自分らしくやり通す。

 明るく、楽しく、前を向く。」



 これは父上からいただいた、私の信条である。

 これから何かがあっても、私はこの信条を胸に掲げて前を向く。


 ビッグスターになる。

 そして約束のあの人を見つけるのだ。










次から第2章になります。

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