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第1章 [23]

 



 食堂に入るとソフィーが暖かいお茶で出迎えてくれた。彼女はアカデミーに行ってからお茶の腕が上がっているのだ。とても美味しいお茶に気分が落ち着いた。




 暖炉の火が暖かい。今屋敷で一番暖かい部屋がここである。




 暖炉の隣の簡易かまどの上ではスープが温められていた。



 正月元旦はなるべく火を使わないように過ごすのが我が家の慣わしだ。なので、我々家族はひとつの部屋で皆で過ごすのだ。元旦の朝は、残った数人の使用人も同じ空間で朝食を取る。これも我が家の慣わしだ。いつもはヨハンとマリアとリリーもいるのだが、彼らは今王都のアンハードゥンド家別邸にいるのでしばらく会えていない。



 今年から私がアカデミー入学なので、この機会にソフィアナも2年間の寮生活を終わりにし別邸に引っ越すことに。

 彼女も本格的な婚約者選びが始まるので、寮を出て別邸から通学する方が何かと都合が良いのだとか。ソフィアナも両親から提案された退寮には大賛成していた。実家の別邸で休みの日にお友達をお茶会に誘ったり、王都暮らしを満喫したいそうだ。もちろん、良質のお見合いを求めてもいたけど。


 私に関して言えば、スターホルダーである私も入寮するより外部から通学する方がアカデミー側にとっては都合が良いらしい。秘匿事項があるため、大勢の中で生活するのは難しいのであろう。周りに迷惑かけちゃうといけないからね。



 王都別邸では、私達娘二人が入居することになったので使用人を数人増やすことになり、私の両親と執事長のヨハンとでじっくりと時間をかけ人手を補っていたようだ。

 リリーも、私とソフィーのお世話係として王都に移住することが決まっていた。



 そんな訳で、我々が入居するひと足先にリリー達はアンハードゥンド家の王都別邸に入っていろいろ用意してくれているのだ。リリー達に会えるのはまだもう少し先である。

 先ほど神殿で起きた出来事をリリーに話したいと思ったが彼女はここに居ないし、手紙ではきっと上手くは伝えられないから、王都での土産話にしようと思った。



 食卓の用意が整い、使用人も含めて皆が席に着いた。

 私達家族と、使用人達。同じ空間で食事は取るが、使用人達が気を使うのでテーブルは別である。

 少し遠くの使用人達のテーブルに向かって父上が乾杯の音頭をなされ、食事が始まった。

 使用人達も少数ながら和気あいあいと何か話しながら食べている。



 こちらのテーブルでは今日の予定を皆が話し、それが終わると母上が私にお聞きになった。


「サティ、神殿ではどうでしたか?守護神様にはご挨拶出来ましたか?」


 これには家族皆、興味津々の様だった。食事の手が止まり、私の方を見てくる。



「あ、はい……ええーっと、結論から言えば無事に挨拶が出来ました。他にも気になることをいくつかお話しくださいましたが、時間が無いのでまたな、と言われました。ははは…」


 なんだかまとまりの無い報告になってしまって、こめかみをポリポリと掻く。


 しかし父上が驚愕の表情をしているのに気づき、恐る恐る父上に訊ねた。


「父上?もしかして私の挨拶の仕方、まずかったのでしょうか……?」



 すると皆今度は父上の方を見た。



「あ、いや、………驚いたのだ……。守り人で無いのに守護神様がお話しになるとは。伝承にも書いて無かった事だが、いったいどういう事なのだ?サティアナは何か心当たりがあるか?」




「父上。おそらくですが……私の魂が守護神様と契約をしているからなのでしょうか。あの御方はそうおっしゃっておられました。子霊(こだま)と私をお呼びになりました。なので、姿形を変え何度生まれ変わっても、私はデュアルホルダーとして生まれるのだとか。何処かの神と契約せし魂の決まりのようなものらしいです。」



「なんと!!」


 父上はそう言ったきり、ポカンとしてしまった。



 父上の隣で真剣な表情をなさっていた母上が妹と弟に向けておっしゃった。


「ソフィー。リアム。申し訳ないけれど、今聞いたことは他言無用ですよ。どこかで話せば我々の首が飛ぶかも知れません。いいですね?……という事で、サティ。この話は後ほどいたしましょう!さて、冷めないうちに食べてしまいましょう!」


 そして母上は、率先してパクパクと笑顔で食べ始めなされた。

 隣を見ると、今度は妹と弟が驚愕の表情をしていたのだった。




 ―――――――――――――




 なんとなく気まずいまま食事が終わると、私は先ほどの神殿での出来事をノートにまとめようと家族よりひと足先に自室に戻ってきた。


 そして夢ノートを開いて、トコアマツチ様がおっしゃった言葉をなるべく思い出す。

 そして自分の推察なども交えて、ノートにまとめていた。



(また王都の神殿でな、っておっしゃっていたけど、もう一度会えるのかな?何か理由があるのかな?王都の神殿って何のことなんだろう?礼拝堂じゃなくて神殿っておっしゃっていたけど。。。)



 そして、最後におっしゃっていた言葉を思い出した。



「あ……そういえば、生きていく上で大切にしなきゃいけないことを父上に乞うて教えてもらいなさいって言われたんだっけ……今日は父上お忙しいから、明日の朝訊いてみようかな。」




 暖房していない部屋で机に向かっていたら寒くなってきたので、いつもの服装に着替えて体をあたためることにした。

 修練で体をあたためることにしたのだ。




 いつもの場所に向かっていると、リアムと出会った。



「サティ姉様!どこか行くのですか?」



「あ、リアム。うん、寒いから体を動かそうかと思ってね!」



「私もです!姉様、一緒に修練してくださいませんか?私に稽古を付けてください!」



「うーん、私が貴方に稽古をつけるわけには行かないと思うんだけど。……そうだね、それなら私と一緒に遊ぼうか?」



 そう言って、リアムの手を取って前庭へと向かった。前庭まで行きながら、今日のリアムの予定と彼の今の修練内容などを聞いて、手を繋いで。これからしばらく会えなくなる弟と、元旦の日に手を繋いで歩く。少し寂しさを感じたりしていた。


 思った通り、前庭は日が当たり始めていて少し暖かい。

 木立のそばまで歩くと落ちていた枝を拾って、トージさんの短刀で形を整えた。

 それをふたつ作って、ひとつを弟に渡す。



「さあリアム、私と遊ぼう!日頃教わっていることを思い出しながら、その枝で私に一本入れられたら美味しいお菓子をあげる!」



 美味しいお菓子屋さんの当てはなかったが、デニスさんに聞いて買って来ようと思った。デニスさんならきっと美味しいお菓子屋さんを知ってると思うから。



「よ~し!」


 リアムが身構えた。ほうほう、なるほど。あれがアンハードゥンド家男子に伝わる剣術の型なんだね。さて、お手並み拝見と、私も構える。


「おいで!」




 9才になったリアムと15才になった私。体格差は歴然だ。でも、思い切り良く飛び込んでくる弟は頼もしかった。あまり太い枝では無いので私の方で弟の太刀筋をいなし、衝撃力を逃がす。


 二人ともいい感じに体があたたかくなってきた。

 枝を交えながら、最近嬉しかったこと、悔しかったこと、疑問に思うことなどをリアムに聞いた。


 さすがは次期当主だ。私の9才の頃と比べると考え方が深い。教育の賜物なのかな。でもちゃんとあどけなさは残している。末っ子だからなのかな?


 可愛い弟である。



 だいぶ体もあたたまった頃、母上が私達を探しに来た。



「あらあら、元気なこと。ふたりで遊んでいたのですか?」




「あ、母上!いまサティ姉様と枝で勝負しているのです!私が姉様に一本入れられたら姉様が美味しいお菓子をくださるんだって!」



「あら、そうなのね~。でも、リアム。残念だけれど、もう終わりにして頂戴な?そろそろ街に行く支度をするのですからね。父上がお呼びですよ。」



「……はぁーい。」


 弟は残念そうにしていたが、さすが、聞き分けが良い。



「リアム!貴方が日頃から頑張っているのが私には分かったから、一本取られてないけど特別に後でお菓子をあげるよ。楽しみにしてて!勝負はまた今度ね!」



 私は弟にそう約束した。



 姉様ありがとうございます!と御礼を言って、リアムは母上と屋敷の中に入って行った。



 残された私は、騎士団詰所に向かった。デニスさんがもしかしたらいるかもしれない。




 騎士団詰所まで来ると、いつものガヤガヤした感じもなく、落ち着いた雰囲気だった。

 門番さんに、デニスさんが来ているか聞いたけど、あいにく非番だった。残念。騎士団は休み明けから通常通りなのか質問したところ、明日からすでに通常に戻るらしかった。騎士さんてホントに大変なお仕事だな。

 そのまま門番さんと少し世間話などして、私は食堂へ戻ることにした。






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