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第1章 [19]

 


「ありがとう弟よ。お前のお陰で私の可愛いサティに笑顔が戻ったようだ。」

 何とも言えないお顔のまま叔父上に感謝の言葉を述べられた父上に対して、


「いやいや、なあに、昔兄上が私にくださったお言葉を今度は私がサティに贈っただけですよ。サティに笑顔が戻って兄上もお喜びの様で、私も嬉しく思います。」


 叔父上は、悪戯な目線で父上にお返事なさっていた。



「ハハハ、私が昔お前に何を言ったかはサティから聞くとしよう。さあ、サティ、それではカーティスが飲み食いしにくかろう。私の膝においで。」


 父上が手招きしながら私におっしゃった。



「なになに、私はちっとも苦ではありませんよ?むしろ大喜びです!このような可愛らしい姪を膝に乗せられるのも今のうち、そのうち出来なくなるかと思うと、飲み食いなど後でも良いですな!」



 叔父上も、父上に負けじと私の肩に手を添えられた。



 悔しそうな父上!

 私は困ってアワアワしてしまい、苦肉の策で叔父上の膝から飛び降りると大人達に向かって


「お、お花を摘んでまいります!!」


 とペコリとお辞儀をして部屋を出た。大広間では何やら笑いが起きていた。何にせよ、落ち着くところに落ち着いたらしく、私は安堵したのだった。まったく、父上と叔父上ったら二人して私を困らせるんだから!



 そのまま台所まで気分転換しに行くことにした。台所に近づくととても甘い香りがして、なんだろうと、ワクワクしながらこっそり覗き見してみた。


 入口近くで配膳の準備をしているリリーと目が合って、



「あら、サティ様いかがしたのですか?」



 と言われたので、先ほどの顛末をリリーに話しながら配膳の様子を見ていた。


 準備しながらリリーが苦笑いで話を聞いてくれたことで私はスッキリして、



「この甘い香りはなあに?」


 とリリーに訊ねると、


「サティ様の大好物!林檎パイですよ!」


 と教えてくれた。


 そろそろ大広間に戻るようリリーにお願いされたので、林檎パイのことを考えながら軽い足取りで戻ると、入口でヨハンが私を待っていた。


「ああ、お戻りになられましたね。奥様がサティアナ様をお探し遊ばされようとしてらしたので、代わりに私めがお待ち申し上げておりました。」



「ああ、すみませんでした。ちょっと台所まで行ってリリーに愚痴ってました。ははは。」



「あら、じゃあこのあとのお茶請けはもう判ってしまったのね?」



 母上がヒョイと大広間からお姿をお見せになり、おっしゃった。



「はい、私の大好物でした!……もしかして、ナイショでしたか?」



「ナイショと言う程でもないのですが、それでニコニコとしていたのね?……それはそれでわたくしは嬉しくてよ〜。さぁさぁ、お父様とカーティス様にはわたくしがチクリとしておきましたから、中に参りましょうね。」



 母上に促されて、大広間に入る。父上に手招きされたので父上の側に向かうと



「さっきは二人して大人げなく済まなかったな、サティ。娘を困らせるものではないとルイーズに叱られたわ。ワッハッハ!」

 と、父上は言いながら私を抱き上げ膝に乗せた。



「そういえば父上、お聞きしたいことがありました。私の剣に付与してくださったあの風魔法はどの階級ですか?」



 気になっていた事を父上に訊ねた。



「ん?あれは、複合魔法だからな、第一級魔法だよ。」



「やっぱり!凄い魔法だったのですね?私がもうダメだと思った瞬間にあの魔法が発動したので、私は毒双蛇に咬まれずに済んだのです。それどころか、あの風の障壁は毒双蛇の牙を粉々にしたそうです。やっぱり父上の風魔法は凄いのですね!もっと色々な父上の魔法を拝見したいです!」



 私に御自分の魔法を大絶賛された父上は、とてもご満悦な御様子で、とてつもなくデレっとした笑顔でお酒を口に運ばれていた。確実に酔っていらしたよね。

 でも、周りの皆さんも大きく頷いていたから、やっぱり父上の魔法は素晴らしいのだと思う。



 すると、私の大好物がテーブルに運ばれて来たのだ。

 思わず顔が明るくなり、わぁ〜!と叫んだ。


 母上に、そろそろ自分の席にお戻りなさいと助け舟を出され自分の席に戻った私の別腹は、林檎パイを目の前にして俄然やる気を出していた。



 林檎パイとともにいただくのは、スッキリとした味わいのお気に入りの紅茶だ。

 私はこの紅茶も大好きで、この高級な紅茶だけは贅沢だと言われても常備してもらいたいと両親にお願いしている。

 もちろん王都にも持ち込むつもりでいる。



 幸せな気持ちのまま、最後のひとかけらのパイを口に運ぶ。

 ああ、終わっちゃうなぁ。。。もぐもぐ。



 私の隣でも私と同じくらい恍惚の表情で林檎パイを食べる人がいた。


「ははは。デニス、サティアナ様と同じ顔をしているぞ。そんなにこの林檎パイを気に入ったのか?」



 お師匠様が私とデニスさんを交互に見ながら言った。

 どうやらデニスさんもこのパイが大好物になったらしい。



「ゼフラ隊長、だって、この、パイ、(グビグビ、ごっくん)、すんげー美味しいっスよ??俺こんな美味い林檎パイ初めて食べたっス。どなたがお作りになったので?」



 私が「これは母上御手製の林檎パイなんですよ!」と言うと、目をまん丸に開いてデニスさんは驚いていた。



 母上はとっても嬉しそうにコロコロと笑っていた。少し照れていたのかも知れない。あまり見たことのない仕草だった。ひと言で言うと、可愛らしかった。



「母上の林檎パイ美味しいですよね〜」

「ああ、何個でもいけそう〜」

 と私とデニスさんはここでも意気投合。二人はやっぱり気が合うんだなとお師匠様に言われ、



「ゼフラ隊長、俺とお嬢様じゃ身分が違いすぎるんだから、気が合うだなんて言わないでくださいよ…」


 とデニスさんは困っていたけれど、父上からは



「良いではないか。今は騎士団の仲間内での会話であろう?サティだってデニスを気に入っているようだしな?」



 と言っていただいたので、


「そうなんです、父上。私達、気が合うんですよ。デニスさんは私が騎士団にお邪魔している時も何かと私のことを気にかけてくれて、私とっても感謝しているんです。昨日だって、デニスさんに守ってもらっている間、私とっても戦いやすかったんですよ!でも、もちろん、デニスさんだけじゃなくて、皆さんにも感謝していますよ!こんな超初心者の相手をしてくださったんですから!本当に皆さん有り難うございました!」



 と、私はデニスさんのことを話すのと一緒に、ここに集っている皆さんに向かって笑顔でお礼を言わせてもらった。



 私のこの、まとめの挨拶の様なお礼の言葉をもって、なんとなく宴もたけなわになり、最後に父上からお言葉があり、食事会はお開きとなった。



 皆さんを屋敷の前でお見送りするときに思い出し、露天風呂のことを聞いてみると、皆さん口を揃えて素晴らしかったと褒めてくれた。

 女性の隊員さんたちから羨ましがられたとのことで、もう少し季節が過ぎたら今度は女性専用の露天風呂を作る予定があることを伝えてもらうことにした。



 そうして食事会の夜は終わりを告げたのだった。






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