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第1章 [1]

 第1章


 また、あの夢で目を覚ました。

 小さい頃から何度も見てきた夢。


 ベッドから起き出てカーテンを少し開けると、朝の光が眩しかった。


 私の名前はサティアナ・アンハードゥンド。

 アンハードゥンド辺境伯爵家の現当主長女。

 今年で15歳になった私は、この春から王立アカデミー・騎士養成部・ビッグスター養成修養クラスに入学する。

 卒業検定試験は5年後だ。

 この春から5年間は、王都での生活になる予定。




 ―――――――



 幼い頃の私は、いつも同じ夢を見ることが不思議だった。

 それが前世の記憶だとは知らなかった。


 ある日の朝、あの夢を見たのは何度目のことだったか、私は涙を流していたらしく、私の朝の支度をしに来てくれた従者が泣いている私を見て、メイド長であるマリアに報告し、マリアが私に理由を訊ねると、私は夢の内容を話し出したのだと言う。

 そしてマリアから執事のヨハンを経て、私の両親に話が伝えられた。


 おやつの時間に、いつもいない父上が一緒におやつの時間をしていたので嬉しかったのだが、おやつを食べ終わると、父は私に夢の話を訪ねてきたのだった。


 私がいつも見る夢の話を勢い良く話したあと、父と母はお互いの顔を見合って、そのあと、前世の記憶の話をしてくださったのだ。


 この世界では誰しもが多かれ少なかれ前世の記憶を持って生まれてくる。それは一生忘れない記憶として、今世で果たすべき自分の宿命と向き合うための材料となるのだと。

 お前にはまだ難しいだろうが、お前にとってその夢はとっても大事なものなのだよ、夢の中の出来事や、景色や、見えたもの聞こえたことを、なるべく覚えておきなさい。と。


 その頃の私は読み書きの練習を始めたばかりで、いろいろな文字を書くことが楽しく、夢の中の出来事を拙い文字にしたためたりした。

 そうやって何年かかけて出来上がった<夢ノート>。

 あの夢の流れや、登場人物や、おそらくの相関図、疑問点などがノートにまとめられている。 

 ノートはその都度更新され、新たな疑問が出来れば書き込み、過去の疑問が解決したらそれも書き込んだ。


 ビッグスター。それは掌に刻まれた五線星。ビッグスターを掌に持って生まれてきた子は、<英雄の卵>と言われ魔法とは違う固有の超技や異能力を扱うことができる。


 剣術や体術を習い始めた頃、私の両手にビッグスターが刻まれていることを知った師匠が、

「両手にビッグスターとはまた珍しい。」と仰っていたので、夕食の際に両親にそれを報告したところ、


「確かに、お前は稀有な存在だな。しかし、お師匠殿が良いと言うまでは、両手のビッグスターのことは他人には伏せなさい。ビッグスターを持っていることは今のお前には危険でしかないのだからな。」

 と父上に言われ、


「あなたが剣術や体術をある程度習得するまでは、わたくしも心配で街などにあなたを連れて行けませんよ、サティ。」

 と母上に追い打ちをかけられて意気消沈。

 翌日からの修練に燃えたのは言うまでもない。


「はやく街に行きたかったのが、いい起爆剤になるとは。」と、お師匠様はニヤニヤ笑いながら顎髭を撫で、私の剣を人差し指で避けていた。


 私の師匠、私はお師匠様と呼んでいるのだが、お師匠様は元有名な近衛騎士で、とってもかっこいい。今でも私の憧れだ。

 立っている姿からしてかっこいい。獅子のたてがみのような濃紺の髪、瞳は黒土色。隻眼に無精髭。身長は高く、首も太い。

 年上の御婦人方に言わせると、男の色気が凄まじいのだとか。

 正直、私にはまだわからない。ただ、お師匠様が一番かっこいいのは、やはり剣を握っている時だというのは分かる。速さと力強さを兼ね備え、頭もいい。

 私も早くあの人に追いつきたい。いつか追いつけるのだろうか。


 剣術を習い始めて1年が過ぎた頃、私の相手をするときのお師匠様の右手は、人差し指から馬鞭に変わった。

 避けるだけだったお師匠様は、避けながら私の尻を軽く叩くようになった。

 叩かれまいと、隙を見せまいと、私は身体の使い方が上手くなり、そこから上達が早くなったと思う。

 身体の使い方は体術にも影響し、もともとしなやかだった私の体術は一気に花開いた。

 そして体術が開花したことで剣術にも影響し、さらに剣術が上達する、といった具合に、メキメキと上手くなった。

 私の剣術は、体術を織り交ぜ、相手の懐に入るスタイルだ。小回りがきくのは身体のしなやかさがあってこそ。相手の力を上手く使って自分の力にする。

 そうやって、大の男を投げ飛ばすことが出来るまでに3年ほどかかった。


 お待ちかねの街へは、私の体術が開花した少し後くらいにお師匠様から母上に、そろそろ良さそうですよ、と報告があり、馬車で連れて行ってもらった。

 初めて観る街の景色、ワクワクしたなぁ。

 主に美味しそうな食べ物にワクワクしてたんだけど。


 そして、大の男(護衛騎士さん)を投げ飛ばせるようになって、次の段階に移った私の修練は、魔法の練習が追加されることになった。私が9才の時だ。


 我がアンハードゥンド家の英才教育には決まりがある。


 3〜4才で読み書き・計算・飲食のマナーを習い始め、飲食のマナーが板につくと大人(父上母上)と一緒に食事をとることが出来る。

 5〜6才で男子・女子ともに剣術・体術を習い始める。なぜ男子も女子も習得するかというと、ここが辺境伯領地だから。

 我がアンハードゥンド家の領地は、北は深い森、東は山脈、西は大きな湖とその向こうには帝国が広がる、三方を防衛しなければならない土地なのだ。

 まあ、帝国とは今のところ穏やかな国交を結べているし、東の山脈はとても高い山々が連なっているから、実質的には北の深い森に対して防衛していればいいのだけど。でも、その森がとても、危険なのですよね。

 魔物の森。

 私達はそう呼んでいる。


 そして、10才くらいになると剣術・体術もある程度できる様になり、体力も付いてきて、それとともに魔力も上がってきている。

 その頃から、魔法と、騎馬術の修練が始まる。

 私の場合、魔法は9才、騎馬術は11才だった。


 座学と実技。魔法はその仕組みを最初に習う。魔法とは、自分の魔力を魔法式に変換し、変換した魔法式を魔法というカタチにする。簡単にはこういうことだ。魔法には階級があり、一番上が特級、その下に第一級から第三級まであり、いわゆる初級が第三級だ。

 第三級、第二級魔法は、各々の適性と魔力量によっては詠唱しなくても使うことができる。ひとそれぞれ。

 第一級、特級については各々の適性と魔力量によっては使えない。

 特級魔法を使える人はほんの一握りだ。

 ちなみに私の父上は風属性の特級魔法を使える数少ない内の一人。素晴らしい。父上かっこいい。まだ見たことはないけど。


 魔法とは、仕組みをきちんと理解しなければ初級魔法さえ使えない。感覚ももちろん大事だけれど、それだけでは魔法は使えないのだ。

 魔法の詠唱を覚えることができなければ詠唱に魔力を込めることが出来ず、それを魔法式に変換することも出来ない。詠唱の意味もきちんと理解しなければ魔法は完成しない。

 魔法を扱うには、冷静な心構え、自制心が必要になる。それ故、自立心や自制心が出来てくる10才あたりを目安に、魔法の授業が始まるのだそうだ。


 自制心さえ出来てくれば、好奇心旺盛な私には、魔法の修練、特に座学は向いていた。今でも一番好きな科目だ。

 私はまず、詠唱による魔法式を解析するのに夢中になった。

 そのあとは、解析した魔法式をもとに、詠唱せずに一番効率的に魔法に変換していく方法を編み出す作業に夢中になった。それが私にとってはパズルゲームのようでとても楽しく、魔法発動までの時間をいかに短縮できるか考え、それが成功したときの達成感は、とても気持ち良かった。

 しかしながらこのやり方は、魔法の王道ではない。だから、あまり人には言わなかった。叱られるから。でも、お師匠様は、このことを叱らなかった。なぜならお師匠様も使っている手法だから。ちなみに父上に言ったら、父上にも叱られなかった。

 戦場に出て前線で戦ったことのある人は、使っている手法らしい。

「やっぱり強くなるために考えることは皆一緒なのね」と言ったら、

「戦場に出る前からやってたのは、お前ぐらいなものだろうな」と父上には言われたけど、私の場合は遊びの延長って感じだったし、私せっかちだから面倒なことは省きたいんだよねー。


 まあ、そのおかげで、今では他の人に比べて魔法の発動はだいぶ速いと思う。

 森で魔物狩りをすると皆に驚かれるくらいには。



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