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第1章 [16]

 


 子供らしくひとしきり泣きじゃくった私は少し疲れて、すると今度は気まずさや気恥ずかしさが起きてきて、涙はどこかに消えてしまった。



「……母上、ありがとうございました。……もう大丈夫です。母上のお言葉が胸に沁みました。これからは今日のお言葉を座右の銘にしようと思います。忘れずに奢らずに精進するので、見ていて下さいね!」



 私はぐちゃぐちゃの笑顔を母上に向け、力強く告げた。

 告げることで心が嘘のように前向きになる。

 切り替えが早いのはやっぱり私の長所だと思う。




 そんな私を見て、母上も美しい泣き笑顔で応えてくださった。そして私のおでこにひとつ唇を落としてくれた。



「そうよ、サティ。それでこそ、わたくしの娘。自慢の可愛い可愛い娘です。あなたは人よりも濃厚な人生を歩むことになるのでしょう。辛いときは、またいつでも母を頼りなさいね。」



 二人で泣き笑顔しあっていると。



「お嬢!………と、お、奥様??……こ、これは失礼致しました!!」



 と、デニスさんが登場した。他にも若手の団員さん達が陣幕をたくさん抱えてこちらに向かって来ていた。



 足湯はおしまいね、と母上がおっしゃり、二人で立ち上がって身なりを整えた。その間デニスさんは気まずそうに直立不動で待っていてくれた。



「あなたも今夜は来てくださるのね?お待ちしていますよ。」



 と、デニスさんに告げたあと、母上は私の頭をポンポンと軽く撫でて帰って行った。母上を屋敷まで護衛してくると言ってデニスさんが後を追った。



 私は、到着した陣幕をどこに設置するか、団員さん達と打ち合わせることにした。


 露天風呂一帯の広さに対して陣幕は少し足りなかった。

 林側は人も通らないので設置しなくても大丈夫だろうということになり、さっそく取り掛かってもらった。

 団員さんたちは分業作業であっという間に陣幕の基礎を組み上げ、出来上がった所からこれまたあっという間に幕を張っていく。

 凄い連携だ。さすがは我が騎士団。


 私は皆さんの仕事ぶりに感動しつつ、ただ見守っていた。

 気がついたらいつの間にかデニスさんが作業に回っていた。母上の護衛は済んだらしい。




 そうして滞りなく作業が終わり、即席露天風呂が完成したのだった。





 私は集まってきた団員さん達に向かってお礼を述べた。



「みなさん、お手伝いありがとうございました!騎士団で昨日私にお付き合いくださった隊員さんたちから順に入ってもらって、そのあとは自由にお入りくださいね!明日くらいまでは存在すると思いますので!」



 そして団員さんたちは詰所に帰って行き、私とデニスさんは叔父上の執務室に報告に向かった。



 デニスさんが歩きながら私に言った。


「さっき俺さ、奥様の前でお嬢のことをお嬢!なんて呼んじまったけど大丈夫かなあ?」



「大丈夫だよ〜。母上はそんなことに目くじらを立てたりしないですよ。ウフフって笑ってくれます。気になるなら、さっき護衛したとき母上に伺ってみたら良かったのに。」



「いやぁ、それはさすがに無理だろ!あんな美人な御人、なかなか話しかけられないよ。しかも領主婦人様なんだから、俺なんかが話しかけたりしちゃいけない御方だ。」



「あー、そうゆう感じなんですね?……私も一応ねぇ?」




「あー、まぁ、お嬢はさ、ほら。領主子女様ではあるが、大事な騎士団仲間だと俺は思ってるからっ!それにまだ、お子ちゃまだしなっ!」



「ああ〜。……わかっちゃいましたよ、デニスさん。身分の違いとかよりも、色気とか異性とか、そういった部分だったんですね?デニスさんのホントに言いたかったことって!」




 はいはい私なんかお子ちゃまですよ~だ、と言ってやると、意外にも哀愁感漂う真顔でデニスさんが返してきた。


「でもな、今はお子ちゃまのお嬢だけど、アカデミーに行く頃には大人っぽくなって、アカデミーから帰って来る頃には俺なんかが話しかけたり出来ないくらいの高嶺の花になっちまうんだろうなぁ……寂しいぜ!」




「そんなことにはなりませんよ。私は一生私のままですって!デニスさんともずっと仲良しでいたいですよ?じゃあ、まだまだ先のことだけど、アカデミーから私が無事にビッグスターとして帰ってきたら、お祝いしてくださいね!それまでデニスさんも死なないでくださいね?約束ですよ~!」




「ああ!約束だぞ!」

 二人で約束の握手をして、叔父上の部屋に急いだ。




 ―――――――――――




 コンコンと合図をして入室すると、叔父上はすでに軽装で待っていた。



「出来たのか?風呂が!」



 めちゃくちゃ期待のこもった眼差しである。久々に子供の様にキラキラした叔父上を見た。




「あはは……。はい、出来ましたよ。もういつでも入れます!叔父上、出来ればなにか籠などに着替えを持って行くと良いと思いますが。」




「おう!わかった!じゃあまずは俺が入るからな。一応俺とゼフラは交代で入る方が良いと思ってる。てことでデニス、お前は俺と入れ。サティ、風呂には一度に何人くらい入れそうだ?」




「そうですね……。叔父上3人とデニスさん3人くらいならゆったり入れます。叔父上5人とデニスさん5人だとゆったりとは出来ないかな?という具合ですかね。

 お風呂は二つあって、片方は少し温度が低めです。

 水場で汗を流してから露天風呂に入っていただきたいかなと思います。」




「了解した。サティ、一人で大変だったろう?ありがたく頂くとしよう!デニス、あと二人くらい昨日の面子を連れて来い。あと、ゼフラに今から風呂に行くと連絡を入れてから来てくれ。頃合いを見計らってアイツが来たら俺が出ることになってる。」



 少しでも長く風呂に浸かりたいから、俺はひと足先に行くからな!と言って、叔父上は我々よりも先に執務室を出て行ってしまった。



 まったく総隊長ともあろう方が、あんなにはしゃいで!

 ってデニスさんが笑っていた。




 ともあれ、私の仕事は終わった。



「じゃあなお嬢、また夕食の時間にな。露天風呂堪能させてもらうぜ!」


「はい、けっこういい感じに出来たとは思うのですが、食事会のときに感想聞かせてくださいね。昨日はありがとうございました。また後ほど!」




 と、執務室の前でお別れして、私は屋敷に戻ったのだった。












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