第1章 [15]
露天風呂が完成したので、あとは最後に水場を仕上げる。
水を引き込み排水路を作る。温度調節の必要が無いのでお風呂に比べたら楽ちんだった。
水場が完成したことで、予定していた露天風呂に関わる全ての作業が終了した。あとは陣幕を待つだけ。
引脈の地魔法を解除して、ひと休み。
せっかくなので、靴を脱ぎ、膝まで履物をまくり上げ、お風呂の縁に座り膝下をお湯に浸ける。作成者による試し湯だ。
「きもちいいーーー!」
思わず叫んでしまった。
しばらく足湯しながら私は昨日のことを思い出していた。
お師匠様は風の斬撃の他にも何かの斬撃が放てるのだろうか。デニスさんが思いのほかカッコ良かったな。
同時魔法を実戦で初めて使えたな。でも、あれじゃまだまだ修練が足りないな。
父上に魔法石のお礼を言わなくちゃ。あのときはもうダメかと思ったもん。いつか父上の生の魔法をこの目で見たいな。
それから…やっぱり叔父上のあのお力…。凄かった…。
凄いどころかむしろ怖かったな。あんな力を制御しなければならないのか私は。
まあ私の異能力と叔父上の異能力は違うものになるのだろうけれど、種類が違うだけで根底にあるものはきっと同じだ。
この掌にどんな力が宿っているのかはわからないが、私は不安な気持ちになって両掌を見つめていた。
「あら〜、もうおしまいなのかしら?」
するとそこに背後から声がかかった。
母上がやってきたのだ。なんと母上も庭仕事の格好をしていた。見学じゃなくて手伝う気満々だったわけか。
「はい、ほんの今さっき終わったところでした。お手伝いしていただけなくて、すみません。」
「それは残念だわ。でも、素敵な露天風呂が出来たみたいですね、サティ?」
「はい、満足のいくモノが出来ました~。宜しければ母上も足湯なさいませんか?気持ち良いですよ?」
「ええ、そうね。入っちゃおうかしら。サティの隣で!」
「どうぞどうぞ〜、今しか入れませんよ?母上も、今のうちにくつろいで帰りましょう!」
母上も、靴を脱ぎ履物を膝までまくり上げると、私の隣に腰を下ろした。
「あ〜、とても良い湯加減!気持ちが良いわね。」
母上も喜んでくださった。裏庭にお風呂作ったら、母上も入りたいかな、と思い聞いてみる。
「母上も露天風呂、お入りになりますか?でしたら後日、裏庭に作ろうかと思いますよ?」
「あら、嬉しいわ!でも、そうねぇ。裏庭に作ってくれるなら、どうせ入れるならもう少し寒くなったら作って欲しいわねぇ~。紅葉など楽しみながら入れるなら最高ですわね?どうかしら?」
「なるほど、それは良いですね。でしたらそうしましょう。女性の騎士さん達のお風呂が今回は無いので、その時にでも招待したいです。良いですか?」
「ええ、良いのではなくて?それならわたくしが騎士さん達の着替えるお部屋を準備しましょう。いつも頑張ってくれてるのだから、たまには尽くして差し上げましょう!今から楽しみが増えたわ~。」
そんな話をしながら、足湯しながら母上と二人きりでお話をした。
ソフィーのダンスが上達したことや、この露天風呂の作り方、今夜の宴会に出す食材の内容なども話してくれた。
母上とは二人きりでいるといつも少し恥ずかしい。私は大人しくなってしまう。緊張とは違うのだ。照れ?なのかな?
母上はとてもとても美しく、優しく、優しい顔をしながら厳しいことも言ってくる人だ。だけど家族の真ん中にいつもいて、みんなを繋いでくれる存在。つまり、私はとても母上が大好きなのだ。
そして母上は、私が不安なとき、必ずその手を差し出してくださるのだ。今がそうであるように。
この先、私はどうなるのだろうという漠然とした不安な気持ちを、昨日の夜、生まれて初めてこの胸に抱いた。
このビッグスターの重みに、初めて恐れをなしたのだ。
この気持ちを、母上に告げても良いだろうか。
「………母上。」
「なあに?遠慮せずに母に話してみなさい。」
「……私は、昨日叔父上のお異能力を初めて見ました。……正直、怖かったです。あのような異能力を、私は制御出来るのでしょうか……。」
「……そうね、サティ。あなたの中には大きな大きな力が宿っているのでしょう。その不安をわたくしも経験していたら何か教えてあげられたのでしょうけど、ごめんなさい、サティ。
でもね、サティ。こういう言葉があるわ。[天の試練は乗り越えられる人にだけやって来る]。
あなたは天から授かり物をした稀有な存在なの。あなたのその星は天からの贈り物であり、試練なのでしょう。試練はとても辛いものかも知れない。でも、あなたなら出来るわ。あなたにはそれだけの能力があるの。だから神様に選ばれたのよ。
だから、自分を信じなさい。前を向いて、強い気持ちを持ちなさい。
わたくしはもちろん、あなたを信じていますよ。
それでも泣きたくなったらいつでも母の胸を貸しましょう。思いきり抱きしめてあげるわ!」
そう言って母上はその柔らかい胸に私の頭を抱え込んで、ギュッと抱きしめて頭を撫でてくださった。
私は目を閉じ母上に全て委ね、ギュッと抱きついた。感情が溢れて、涙が止まらなかった。泣きじゃくる私を、大丈夫、大丈夫よ、と何度も何度も言いながら母上は抱きしめて背中をさすってくださった。
母上も、泣いていた。
12才の夏、思えば初めてこの時私は、感情のままに母上にすがり、子供らしいことをしたのだった。




